シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 収益から返還する補助金で再エネ発電事業の初期費用を支援(長野県)


© Adam Oswell / WWF

長野県「自然エネルギー地域発電推進事業」

【施策部門】 産業部門
【施策タイプ】 補助金
WWFの「ここに注目」
 
  • 自己資金が少ない事業者の地域における自然エネルギー発電事業のための初期費用を支援
  • 事業者が地元金融機関から融資を受けやすくなる
  • 発電開始後に収益から返還される補助金を新たな事業支援につなげる

施策概要

長野県では自然エネルギー活用の普及・拡大を目指しているが、自己資金が少ない中小企業は、発電事業を始めようとしても金融機関からの融資を受けるのが難しい。そこで、長野県が固定価格買取制度(FIT)を活用した発電事業を行なおうとする地域の事業者に対し補助金を交付し、発電開始後にその収益から補助金を県に返還する「収益納付型補助金」により初期費用を支援している。
対象となるのは、県内に主たる事業所がある事業者が地域金融機関と連携して取り組む発電事業のうち、ソフト事業(調査・計画作成・設計など)およびハード事業(発電設備導入など)。
本事業は平成26年度にスタートし、これまでの支援は39件、補助金は総額3億1千万円余りにのぼる。長野県は河川の多さや急峻な地形などから水力発電のポテンシャルが高いこともあり、小水力発電に対する支援が最多となっている。

予算

令和3年度当初予算:1億8,100万円
※申請件数を踏まえ予算を計上するため、年度により予算は異なる
※脱炭素社会推進のための長野県ゼロカーボン基金を活用し、収益納付スキームを実現している

削減効果

支援実績 39件
発電容量(案件創出見込み)9,081kw

その他効果

補助金を交付する事業は、学識経験者及び行政関係者で構成する選定委員会が事業計画を審査し選定する。これにより事業の信用が向上し、地域金融機関からの融資を受けやすくなり、事業者と地域金融機関の関係強化につながり、地域経済の活性化も期待できる。

施策を通して

<実施前の課題>
再エネ発電に対する収益納付型補助金事業は、当時は他の自治体ではほとんど行なわれていなかった。県の職員は金融の専門家ではないため、制度創設に当たっては事業性の確認や収益納付の方法、期間など、金融面で検討しなければならないことも多かった。しかし、金融機関との打ち合わせを何度も重ね、有識者のアドバイスを受けることにより、課題を一つひとつクリアし、制度を構築することができた。

<実施における課題や改善点>
水力発電やバイオマス発電などは自然を相手にするものであり、補助金交付まで至ったとしても、計画のようには発電開始に至ることのできない事業者も少なくない。こうした場合、継続的に状況の確認などのフォローを続けていく必要がある。

<施策のメリットとデメリット>
メリット:
・固定価格買取(FIT)制度は国民負担による賦課金により運用され、発電事業者はその賦課金を電気料金に加えた通常より高い価格で売電ができることがメリットである。この制度を補助金による促進策と組み合わせる場合には、「二重給付」とならないよう慎重な制度設計が必要となるが、収益納付型の補助金とすることによりこれを回避しつつ、事業化のネックとなる初期費用に焦点を絞った支援を行うことができるようになる。

・「補助金が返ってくる」スキームのため、財政当局との予算折衝が比較的スムーズに進められる。


デメリット:
・特にないが、後年度に補助金を納付(返還)してもらう仕組みのため、事業のフォローにも注力していくことが必要。

こんな自治体にオススメです

自然エネルギーの中でも、特に初期費用の負担が大きい水力発電に注力したいと考えている自治体にとっては有効な施策であると考えられる。

今後の方針

将来的には補助制度がなくても再エネ発電が普及することが理想だが、2050ゼロカーボンに向け、現時点ではこの事業にも力を入れて推進していきたい。

令和3年度自然エネルギー地域発電推進事業

自治体担当者からのコメント

ゼロカーボン推進室 再生可能エネルギー係 
大久保直哉さん

再生可能エネルギーの活用を飛躍的に伸ばすためには、多くの地域事業者が自立的に事業を推進できる環境づくりが重要と考えており、本制度についても、試行錯誤や内容の見直しを重ねながらここまで取り組んできました。この事業が、国の固定価格買取制度(FIT)を活用した再エネ発電の普及促進対策としてご参考になれば幸いです。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP