シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 新電力会社で再エネ普及と地域課題解決を図る(福岡県みやま市)


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福岡県みやま市「官民連携の総合エネルギーサービス事業」

【施策タイプ】新規事業
WWFの「ここに注目」
 
  • 市が出資する発電会社によって、遊休市有地にメガソーラーを設置し賃貸料を得るなど有効活用を実現。
  • 補助金制度などで住宅での太陽光発電システム導入を推進。
  • 市が出資するエネルギー会社(新電力)が、小売電気事業を核に地域課題への対応に向けたサービスも展開。

施策概要

市が地元の民間企業等とともに平成27(2015)年に設立した地域新電力「みやまスマートエネルギー㈱」(以下、SE)において、家庭等の低圧電力売買(電力小売り・太陽光余剰電力買取り)を通し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)普及やエネルギーの地産地消による経済活性化、雇用創出等をはかる取り組み。
前段階として市が地元の商工事業者とともに平成25年に発電会社「みやまエネルギー開発機構㈱」を設立し、それまで約16年間未活用だった市有地(10ha)にメガソーラー(5MW)を設置。一方では、太陽光発電システム設置についての補助金制度によって住宅等での導入も進めた。これまでに太陽光発電の導入住宅1491件(普及率約15%)、新電力の市内低圧契約数は1595件(普及率約10%)まで上げ、市外や事業所等も含めた供給先は計4254件(2021年12月現在)。
令和元年からは「地産地消型屋根貸し事業」を㈱NTTスマイルエナジーと展開。市の公共施設(12カ所)に同社が太陽光発電設備を設置し、その電力(約650kW、一般家庭80世帯分)をSEなどに売電する予定。災害発生時などは非常用電源として活用。

予算

《費用》
・「みやまエネルギー開発機構㈱」設立:出資金2000万円(20%未満)
※ただしメガソーラー設置の市有地賃料は年約2000万円+10%配当
・太陽光発電導入の補助金制度:初年度(平成22年度)840万円、令和3年度までの12年間で計約9744万円
・「みやまスマートエネルギー㈱」設立:出資金1100万円(55%)

《利用した国・県などの補助金制度》
・特になし

削減効果

FIT制度を活用した太陽光発電導入分:25.6t-CO2年(令和2年度)

その他効果

SEで約40人を雇用創出したほか、事業拠点で市民向けのコミュニティスペース「さくらテラス」を運営、地域活性化の場を提供しながら温暖化対策に向けた情報発信や活動を通し、市民意識の向上につなげている。

施策を通して

<実施前の課題>
再エネ導入については平成22年度から太陽光発電システム設置促進の補助金制度(1件あたり限度額12万円)を開始し、令和3年度までに計627件が利用。令和元年度からは蓄電池(同15万円)・パワコン(同5万円)の更新補助を追加。
SE設立に先立ち、平成26年度から経産省の大規模HEMS情報基盤整備事業(※1)に参加。市内約2000世帯のモニターを募集するために市内15小学校区で各2回、合併前の旧町エリアで各1回の計33回の市民説明会を実施し、市が電力事業に関わる意義等について説明。こうした事前準備により、スムーズなSE立ち上げと顧客獲得につながった。

<実施における課題や改善点>
新電力事業においては、市内の低圧契約数は約1600件で伸び悩んでいる。背景には、オール電化の家庭の増加があり、一般電気事業者など夜間電力を大幅値下げしたプランとの競合がある。また夜間でも一定の安価な電力を供給できる水力や風力などの電源の確保が現状は難しい状況にあり、地産地消エネルギーの構造的な課題と考えられている。ただし将来的には、太陽光発電等の更なる普及に伴い、事情が変わる可能性はある。
温暖化対策事業については、住民や事業者の行動変容を促すための最新の知識や情報を共有できる環境が十分ではなかった。そこでリアルタイムで温室効果ガスの推定排出量がわかるGoogleの「EIE」(※2)において当市のデータを公開したほか、太陽光発電シミュレーションサイト「Suncle」(※3)も、市の補助金制度の説明画面にリンクで貼ることで、市民や事業者に情報を提供し、行動変容を促している。

<施策のメリットとデメリット>
メリット:令和元年のSEの売上約25億円は、以前は市外に流出していた電気料金にあたり、地域経済循環に留めるため一定の寄与をしている。市民アンケートでも、施策そのものへの好評価を得ており、新電力会社を軸に「市民がエネルギーの地産地消を選択できる仕組み」をつくったメリットは大きいととらえられている。

デメリット:国のエネルギー政策や仕入価格の変動が激しいため、発電・小売り事業に影響を及ぼすリスクがある。SEも、令和元年度までは3期連続の黒字だったが、翌年度は歴史的な電力市場高騰により再び債務超過となった。これは多くの新電力と同様、電源調達の大半を市場に頼っているため逆ザヤが生じた結果であり、公的性格も持つ三セクが、予想困難な変動リスクを受けやすいことに対する課題と考えられる。

こんな自治体にオススメです

以前の状況と違い、市場も含めて先の読めない部分はあるものの、脱炭素に向けて再エネの活用を推進するという目的が明確であれば、地域内の経済循環に結びつける枠組みを用意するメリットは大きいと思われる。

今後の方針

令和3年8月には「ゼロカーボンシティ」 を表明しており、温暖化施策を進めていく。
市の行政職員だけでは人手やノウハウ不足(エネルギー政策課は3人)のため、今後は社員40人のマンパワーを持つSEと連携しながら、ノウハウを地域内に蓄積し、省エネ・再エネの普及・導入をはかっていく予定。

自治体担当者からのコメント

福岡県みやま市エネルギー政策課
江崎幸太郎さん

東日本大震災の時、エネルギー問題は地方の存続に関わる問題だと気付かされました。その後、全国に分散型電源が普及しましたが、その恩恵の多くは域外に流出し、地域の持続性に必ずしも寄与していません。まさに蕪れなんとする地方にとっては、脱炭素化に伴い、再び再エネの導入が加速化しつつある今が分岐点のように感じています。再エネが地方再生の鍵となるか否か、それはこの時代に地方公務員である我々に問われているのかもしれません。課題は山積みですが、地方が持続可能な脱炭素社会を目指したいと考えています。

(※1)直接的には株式会社エプコが事業主体となり、市は共同申請者という立場。市内約2000世帯にHEMS端末を配布し、電気の見える化から省エネやピーク対策への貢献が目的。
(※2)Google の地図データ等を活用し、建物や交通に由来する温室効果ガス推定排出量、屋上太陽光発電を導入した場合の削減予測量などを可視化。自治体はGoogleに掲載依頼を出すだけで使用は無料。
(※3)住所を入力するだけで、地域の日照データをもとに、自宅の屋根の形状や障害物等を分析し、太陽光発電設備を設置した場合の発電量や設置費用、発電収支予想などを無料でシミュレーションするというもの。https://suncle.jp/

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