GX-ETS制度案のパブコメが実施中
2026/02/05
- この記事のポイント
- 2026年度から排出量取引制度であるGX-ETSの運用が始まります。日本の気候変動対策を後押しする効果が期待され、長年の議論を経て導入に至ったことは前進です。しかし、その効果を十分に発揮するには改善も必要です。2026年2月14日まで、制度詳細を定める「実施指針」などのパブリックコメントが実施されています。意見を提出する際に注目するべき論点について解説します。
1.GX-ETSの概要
カーボンプライシングの仕組み
地球温暖化の防止のためには、原因となる温室効果ガスの排出量を削減する必要があります。それを促す政策の1つが、温室効果ガスの排出量に応じて企業に金銭的負担を求める「カーボンプライシング」です。
この制度には、「炭素税」と「排出量取引制度」の2種類の方法があります。前者は温室効果ガス排出量と比例する形で税金を課すものであり、後者は企業に自社排出量と同じだけの排出枠の購入を求めるものです。
どちらの制度でも、企業はカーボンプライシングによって支払わなければならないお金(炭素価格)と、自社の排出削減対策に要する費用を比較します。自社の対策費用が相対的に「おトク」になることで、企業に対策の実施を促すことになるのです。

炭素税および排出量取引制度(ETS)の大まかな仕組み
2026年度から始まるGX-ETS
2026年度から政府は、上記の排出量取引制度に該当する「GX-ETS」を実施します。また、2028年度からは、炭素税に相当する「化石燃料賦課金」が導入される予定です。
日本では長く2000年代から導入の是非の議論が続いていました。今回、温室効果ガスを排出する企業に制度への参加を義務づける形で、GX-ETSが導入されるに至ったこと自体は、大きな一歩です。日本での気候変動対策の進展が期待されます。
政府はGX-ETSの開始に向けて、その詳細を定めた「実施指針」などの案について、一般市民からの意見を募集するパブリックコメントを実施中です。そこで提出された意見を基に最終調整が行われ、2026年4月より運用が始まります。
2.残された課題と改善策
企業に温室効果ガスの排出削減を促すことが期待されるGX-ETSですが、政府から示された「実施指針」案等には、依然として課題が残されています。GX-ETSが削減効果を十分に発揮するには、これら課題の改善が必要です。
改善点1:排出枠の総割当量をモニタリングするべき
政府案では、企業の届出をベースに政府が決定した割当量に応じて排出枠が割り当てられます。こうしたボトムアップの方法では、対象企業全体に割り当てられる排出枠が過剰になってしまうおそれがあります。
また、制度の対象となる企業の負担が過大にならないための配慮から、多くの補正・調整措置が設けられています。これらも制度導入時には緩和措置として一定程度はやむをえませんが、過剰な配慮が継続されると排出枠の割当量がさらに膨張し、制度の効果を減ずることになります。
たとえば、基準年に100の排出があったとき、制度全体としてはその排出量を90に減らしたいのに、補正・調整措置が積み重なった結果、割当量が過剰になり、95になってしまう、というような懸念です。現状では、この「95になってしまいそうか」を確認する仕組みが明示的にはありません。
GX-ETSは、排出削減を進めて脱炭素型の経済構造に移行するための制度です。その趣旨に照らせば、対象となる企業からの温室効果ガス排出量の総量は、日本の排出削減目標(NDC)、あるいはパリ協定の掲げる1.5度目標と整合するペースで削減されることが必要です。
排出枠の割当量全体が上記の各目標に整合した水準になっているか、しっかりとモニタリングしたうえで、その結果を公表することが求められます。
さらに制度開始後のなるべく早い段階で、割り当てる排出枠の総量に上限(キャップ)を導入するべきです。排出削減のペースの確実性をさらに向上させることが期待されます。
現状の「実施指針」案では、こうしたモニタリングについて特に定めておらず、新たに盛り込まれる必要があります。

1.5度目標に整合した排出削減は、生き物たちの暮らしを守ることにもつながります。
改善点2:炭素価格の上限を国際水準まで引き上げるべき
GX-ETSでは企業間で市場を通じて排出枠が取引されます。その際の市場価格が変動し過ぎると、企業の負担が大きくなったり、対策実施のインセンティブが薄くなったりするため、一定の上限・下限価格が設定されます。
政府の「告示」案によれば、まずは2026年度に上限(参考上限取引価格)をCO2排出量1トンあたり4,300円、下限(調整基準取引価格)を1,700円 / tで始め、2030年に向けて物価上昇率なども加味して毎年度引き上げる予定です。
しかし、上限価格が低く、十分に脱炭素投資を促せないことが懸念されます。仮に毎年の物価上昇率を3%とした場合でも、2030年時点で5,500円 / t弱に留まるのです。
一方、国際的には、より高い炭素価格が求められます。例えば、IEA(国際エネルギー機関)の分析では、2050年までにエネルギー分野でネットゼロを達成するシナリオにおいて、2030年の先進国経済の炭素価格は140ドル(約21,700円)と想定されています(*1)。また、EUの排出量取引制度では近年10,000円程度で推移しています (*2)。
こうした価格と遜色ない水準で炭素価格が実現できるように、少なくとも2030年に向けて上限価格を十分高くしていくべきです。EUで輸入時に炭素価格の差額を徴収する「CBAM(炭素国境調整措置)」への備えとなりうるほか、企業に予見性を与えることで脱炭素投資に踏み切る後押しとなることが期待できます。
(*1) IEA (2023), Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach, IEA, Paris, p. 61, Table 2.2
(*2) ICAP Allowance Price Explorer

十分な水準での炭素価格が実現すれば、再生可能エネルギーの導入や省エネの深掘り、電化などもいっそう進むことが期待できます。
改善点3:カーボンクレジットの使用制限を強化するべき
GX-ETSのもとで対象企業は自社の排出量に相当する排出枠を保有する必要があります。その排出量のうち10%までは、制度外で購入する「カーボンクレジット」で代替することが可能です。
カーボンクレジットの使用に制限が加えられたのは評価されますが、当該制限はさらに強化していく必要があります。そして使用できる量を現状の10%から、順次減らしていく道筋を示すべきです。
EUの排出量取引制度ではすでにカーボンクレジットの使用が認められないほか、短中期の排出削減目標の達成にカーボンクレジットを使用しないとするのが国際的な動向です。GX-ETSもそうした動きに合わせていく必要があります。
また、使用が認められるカーボンクレジットの要件として、一定以上の質が担保されていることを求めるべきです。例えば、クレジットを作り出す際の削減量の算定では適切な仮定が設定されているか、排出削減が将来にわたって永続するか、といった点が確認される必要があります。

排出削減の実態が確保されていることのほか、生物多様性の保全に貢献していることも、高品質なカーボンクレジットの条件の1つです。
3.パブリックコメントの提出方法
前述のとおり、政府はGX-ETSの詳細を定める「実施指針」案などをパブリックコメントにかけています。広く一般の方から意見を募集しており、誰でも提出することが可能です。以下を参考にぜひチャレンジしてみてください。
パブリックコメントを出す方法
以下の政府ウェブサイト「e-gov.」から意見を提出することができます。
脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律施行規則及び脱炭素成長型経済構造移行推進機構の財務及び会計に関する省令の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募|締切:2026年2月14日23時59分
意見の提出時には、以下の操作に注意が必要です。
- 上記ページに掲載されている「意見募集要領」および「命令などの案」に掲載されたファイルを全て、閲覧またはダウンロードしてください。
- 「「意見募集要領(提出先を含む)」及び「命令などの案」の全部を確認しました。」の欄のチェックボックスにチェックを入れたのち、「意見入力へ」を押してください。
- フォームには字数制限があります。それを超えて入力する場合には、初回の意見を送信後に表示された受付番号の続きであることを記載した上で、再度、意見提出を行なってください。
パブリックコメントの記載ポイント
提出時には、該当箇所、意見の概要、意見と理由、の入力が必要です。該当箇所は一例として以下のものが挙げられます。
◇「03_実施指針」
- 排出枠の割当量の算定方法:4条
- 割当時の補正・調整措置:6条、7条、別表第一
- 使用できるカーボンクレジットの種類および量:12条3号
◇「06_GX推進法の規定に基づき参考上限取引価格及び調整基準取引価格を定める告示」
- 炭素価格の上限および2030年に向けての引き上げペース:2条1号、附則2項1号
社会の幅広い意見を政府に届けることが重要です。上記を参考に、一行でも一言でも書いてみてください。



