シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 市民と市の連携で再エネ・省エネ、そして地域経済活性化(滋賀県湖南市)


滋賀県湖南市「地域資源を活用した官民連携再エネ導入プロジェクト」

【施策部門】 業務その他部門
【施策タイプ】 条例・ルール作り新規事業
WWFの「ここに注目」
 
  • 市と市民が連携して共同発電所を設置し、自治体新電力会社の設立を後押し。
  • 共同発電所の配当等を地域商品券で還付し、地域経済循環をはかる。
  • グリーンボンドを活用し、自前の太陽光発電を設置するほか、顧客側の初期投資なし(削減した電気料金で相殺する形)で省エネ化を進める。
  • 農福連携や林福連携も絡めた複合的な地域活性化事業も展開。

施策概要

地域住民らが中心になって平成24(2012)年に立ち上げた「一般社団法人コナン市民共同発電所プロジェクト」による小規模分散型の市民共同発電所と、市等が出資する自治体新電力会社 「こなんウルトラパワー株式会社」(平成28年設立)を核に、自治体電力が市民共同発電所の電力を買い取ることで、自然エネルギー活用によるエネルギー費用流出の抑制やCO2排出量削減を目指す取り組み 。新電力会社はグリーンボンドを活用した自前の太陽光発電所2基やソーラーシェアリングも運営、一方の市民共同発電所では出資配当金を地域商品券「こなん商品券」で還付するほか、ふるさと納税のように特産品を受け取ることができる寄付事業も展開しながら地域経済循環の活性化をはかっている。現在、新電力会社の電力供給先は公共施設が63カ所、民間企業20カ所程度、一般家庭40カ所程度 。

市民共同発電所スキーム

市民共同発電所スキーム

こなんウルトラパワー株式会社の事業スキーム

こなんウルトラパワー株式会社の事業スキーム

予算

《費用》 新電力会社「こなんウルトラパワー㈱」2016年5月設立:出資金590万円(50.86%)

《利用した国・県などの補助金制度》 とくになし

削減効果

579t-CO2(2015年~19年度の累積値)

※内訳:小規模分散型市民共同発電 383t-CO2、太陽光発電事業 196t-CO2

その他効果

新電力会社が展開する省エネサービス事業で公共施設のLED化等によりCO2排出量336t削減ほか、市民共同発電所プロジェクトも含め平成27~令和元年度実績のCO2排出は1,213t削減、経済性効果は約1億700万円。副次的効果として、出資者への配当を地域商品券で実施したことによる経済効果が別途で約1,100万円 。

施策を通して

<実施前の課題>
市は平成24年に地域エネルギー課を発足させ、9月には全国に先駆けて「湖南市地域自然エネルギー基本条例」を制定。全国各地から専門家を招いた市民講座を開催(6年間で計42回)しながら施策を検討し、平成27年に「湖南市地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン(第一次:~令和元年度)」を策定した。
その具体化事業として「小規模分散型市民共同発電プロジェクト」を立ち上げ出資を募ったが、なかなか集まらなかった(当初は3週間ほどで集める予定だった)。先行事例(長野県飯田市)では配当が現金であれば全国からでもすぐに集まると分かっていたものの、地域経済循環の観点から地域商品券にこだわった。事業主体の一般社団法人コナン市民共同発電所プロジェクト の関係者と市職員が一緒になって声がけや企業回りをし、市広報誌への掲載を行った結果、3カ月ほどで初号機「バンバン市民発電所」(20.8kW)の出資額800万円(一口10万円、個人80口)が集まった。これまで4基が設置され設備容量は計166.38kW、出資額は計4,900万円。

<実施における課題や改善点>
新電力事業については、令和元年度から家庭向けの電力供給も開始したが40件ほどにとどまっている。公共施設の電力切り替えでも、担当部署の職員が自らの自治体電力会社のことをよく分かっていないケースもあるため、引き続き広報活動に力を入れる必要がある。また令和3年度は、冬の市場高騰を受けて電気料金も上昇したことから、公共施設の電気料金の補正予算対応を実施。結果として一般電気事業者 よりも安価だったが、その幅が小さくなった。

<施策のメリットとデメリット>
メリット:
市民共同発電所の出資の元本償還と配当2%を地域商品券で行い、域内経済循環に一役買っている。湖南市商工会では平成25年から地域商品券を発行し、敬老祝い金や自治会景品などに活用してきたことから、商品券発行額が増えてきている。新電力事業では、公共施設(小学校など60カ所以上)の電気料金を削減。この小売電気事業の利益をもとに今後も公共施設などで省エネ事業を展開予定。

デメリット:
市民共同発電所の稼働4基は、固定価格買取制度を活用 しているため、現在の買取価格 では同じスキームによる市民共同発電所を新たに設置することが難しく、今後は自家消費型のスキームを進める必要がある。新電力事業は、電力システム改革など国の施策の影響を受けるため、電気小売り以外の事業も展開するなど対応していく必要がある。

こんな自治体にオススメです

新電力事業 においては、バイオマスやごみ発電などの自己電源を持っていると強みになると思われる(湖南市の場合は他自治体と共同の焼却場があり、発電可能な設備改修や新設にはいくつか課題がある)。また、電力入札を実施していない自治体であれば、自らの自治体電力に切り替えることで電気料金のメリットが出る可能性がある。

今後の方針

新電力会社の事業として「自家消費型太陽光発電プロジェクト」を推進する。地域内の需要家の屋根を借りる形で太陽光パネルを設置し、発電された電力をその建物に売電。余剰電力は新電力会社が買い取る仕組み。すでに令和2年度から公共施設で1件(10kW)、令和3年度中に3件追加する予定。このほか市民と連携しながら木質バイオマス活用プロジェクト やイモエネルギー・熱利用プロジェクト なども進めていく。

「コナン市民共同発電所プロジェクト」

「こなんウルトラパワー株式会社」

自治体担当者からのコメント

地域エネルギー室
池本未和さん

地域においては、地域に根ざした主体による取組を進めることが大切であると考えています。当市では、こなんウルトラパワー㈱を核とした地域循環共生圏を目指したSDGs未来都市構想の実現に向けて、官民連携の自然エネルギー導入プロジェクトの実施による地域経済循環の創出により、持続可能なまちづくりに取り組んでいきます。

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