シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 中小規模事業所の温暖化対策を促し排出削減(東京都)


©Michel Gunther / WWF

東京都「地球温暖化対策報告書制度」

【施策部門】 産業部門事業その他部門
【施策タイプ】 条例・ルール作り
WWFの「ここに注目」
 
  • 多数の中小規模事業所を対象にした都市部でのCO2削減対策
  • 提出義務対象でなくても任意で提出可
  • 中小企業への減税制度等を設けることで、提出を促進

施策概要

都内で中小規模事業所※を所有または使用している事業者を対象に、各事業所のCO2排出量と地球温暖化対策の状況を『地球温暖化対策報告書』として、都に報告する制度。2010年度に開始。

この報告書の作成を通じて、事業者が自身の事業所のCO2排出量を把握し、削減対策を継続的に実施することを目的としています。 提出義務があるのは、同一事業者が都内に所有または使用している複数の中小規模事業所のうち、前年度の原油換算エネルギー使用量合計が3,000kL以上になる事業者(前年度の原油換算エネルギー使用量が 30kL 以上 1,500kL未満の事業所を全て合計した値)。また義務提出事業者でなくとも、任意で提出できる。

おもな報告内容は、① 実績年度のCO2 排出量(エネルギー等の使用量)。② 実績年度に実施した地球温暖化対策。(※都が整理した255種類の地球温暖化対策メニューから該当するものを選択)

※ 年間(4月~ 3月)のエネルギー使用量が1,500kL/年(原油換算)未満の事業所

予算

《支出費用》
本制度単体での予算額の算定は困難。
※本制度の運用経費以外(相談窓口の運営や省エネ診断他)を含めた予算計上をしているため。

《利用した国・県などの補助金制度》 特になし

削減効果

直近では、2019年度実績における提出義務者の延床面積当たりのエネルギー使用量(原単位)は2009年度比(制度開始時の値)で約16%の削減。

また、提出義務者が所有する事業所数・延床面積は年々増加傾向にあるが、省エネ効果等により 延床面積当たりのエネルギー使用量(原単位)は減少しているため、全体のエネルギー使用量は横ばいとなっている。

なお、提出義務者の報告事業所のうち、2009から2019年度までの実績を11年間連続して報告しているものについては、CO2排出量の2019年度実績が2009年度実績比で15.6%減少している。

その他効果

提出された報告書データを元に、事業者の延床面積当たりのCO2排出量(原単位)について、業種別の平均値からの高低を指標化した「低炭素ベンチマーク」を都が作成。同じ業種の中で、自分の事業所のCO2排出量の水準を自己評価できるようにすることで、中小規模事業所でのエネルギー利用等の見直しのきっかけを提供している。

施策を通して

<実施前の課題>
制度の(義務)対象事業者の捕捉方法には課題があった。特に、単一の事業者が都内に複数設置する事業所の原油換算エネルギー使用量(3,000kL以上)という基準では、義務対象者かどうかを一見して判断することが難しく、事業所の延床面積等からエネルギー使用量を推計するなどの精緻な事前調査行った。

<実施における課題や改善点>
1.提出事業者の温暖化対策の取組への一層の働きかけ
報告書提出だけでなく、温暖化対策にも積極的に取り組んでもらえるよう、取組状況の外部へのアピールに役立つツールを都のウェブサイトに公開し活用できるようにしている。
 
①PRシート
 事業所のCO2排出量や省エネ対策の取組等を表示
②カーボンレポート
 低炭素ベンチマークによってテナントビルの省エネレベルを分かりやすく表示

2.任意提出事業者への提出インセンティブの追加
義務提出事業者以外の事業者にも報告書提出を促していくことが課題。現状では、中小企業を対象とした補助制度・融資制度(※1)・減税制度(※2)等において、報告書の提出を要件化。


※1 東京都中小企業制度融資の社会的課題解決融資(ゼロエミッション支援)
※2 中小企業者向け省エネ促進税制(法人事業税・個人事業税の減免)
   設備(都の指定機器)の取得価額(上限2千万円)の1/2を事業税額から減免(事業税額の1/2を限度)
※1、2とも令和4年2月15日時点

<施策のメリットとデメリット>
メリット:
行政側のメリットとして、都内における中小規模事業所(事業者)のCO2排出量及び対策の実施状況を把握できることが挙げられる。
 事業者のメリットは、都が提供するツールにより、事業所のCO2排出量把握及び対策の実施を簡便に行うことができることや、中小企業については前述のとおり、報告書の提出により利用が可能となる補助制度や融資制度、減税制度があることが挙げられる。

デメリット: 行政側には特になし。

こんな自治体にオススメです

中小規模事業所のCO2排出量把握と対策実施を促したい自治体脱炭素の取り組みは全国共通の課題であり、国の省エネ法、温暖化対策法だけではカバーできない中小規模事業所が大部分を占める自治体も多い。それらを把握し、次の取り組みを考えるための第一歩となり得る。

今後の方針

今後も継続予定。省エネ及び再エネの取組をさらに発展・拡大させていく観点等から、東京都環境審議会において制度の強化や仕組みの充実を検討中。

地球温暖化対策報告書制度

地球温暖化対策報告書作成ハンドブック

自治体担当者からのコメント

東京都 環境局 地球環境エネルギー部 地域エネルギー課

本制度は大企業から個人事業主の方まで、都内に中小規模事業所を設置している事業者を対象にしています。全体で提出義務対象が約280者、任意提出対象が約1600者あり件数が多いため運用は大変ですが、都内の中小規模事業所の実態を踏まえた制度構築や運用ができること、本制度を通じて事業者団体等都の皆さんとCO2削減にむけた連携ができること、また、中小企業や個人事業主の方、例えば原油換算エネルギー使用量4や5kLという方からも前向きな脱炭素の取組をご報告いただくことも多く、意義のある制度だと考えています。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP