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WWFジャパン1年間の活動報告(2024年7月~2025年6月)
皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2025年度(FY2025)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。 自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。
2025/12/12

南米のチリで海の大切さを伝え、地域の人たちにも
その保全に参加してもらう普及活動を
1回実施できます。

野生のトラが生息する東南アジアの森で行なう
カメラトラップ調査のトレーニングを
実施できます。

スマトラの熱帯林で、
違法伐採や野生動物の密猟を防ぐパトロールを
14日間、支えることができます。

南米のチリで海の大切さを伝え、地域の人たちにも
その保全に参加してもらう普及活動を
1回実施できます。

野生のトラが生息する東南アジアの森で行なう
カメラトラップ調査のトレーニングを
実施できます。

スマトラの熱帯林で、
違法伐採や野生動物の密猟を防ぐパトロールを
14日間、支えることができます。
南米のチリで海の大切さを伝え、地域の人たちにも
その保全に参加してもらう普及活動を
1回実施できます。
ロシアでケガをしたトラを
野生復帰させるためのリハビリ活動を
6日間、支えることができます。
スマトラの熱帯林で、
違法伐採や野生動物の密猟を防ぐパトロールを
14日間、支えることができます。
南米のチリで海の大切さを伝え、地域の人たちにも
その保全に参加してもらう普及活動を
1回実施できます。
ロシアでケガをしたトラを
野生復帰させるためのリハビリ活動を
6日間、支えることができます。
スマトラの熱帯林で、
違法伐採や野生動物の密猟を防ぐパトロールを
14日間、支えることができます。
皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2025年度(FY2025)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。 自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。
2025/12/12

私たちの衣・食・住・遊を支えるさまざまなモノ。その生産が森林の過剰伐採、植林地・農園・牧草地などへの転換を招き、世界各地で自然林の減少を引き起こしています。自然林の減少はそのまま、そこに暮らす野生生物の危機にも直結します。
WWFジャパンは、日本の消費と関係が深い地域を中心に、木材、紙、パーム油、天然ゴム、カカオ、大豆、牛肉などの生産を持続可能なものに改善し、森と野生生物を守ることをめざしています。

上:インドシナトラ © Elizabeth Kemf / WWF 下:タイとミャンマーの国境地帯に残る熱帯林 © WWF-Japan
タイとミャンマーの国境地帯に残る森林地帯は、トラ、ドール、アジアゾウ、センザンコウなど、絶滅のおそれの高い野生生物の、残された貴重な生息地。しかし、天然ゴムの生産地拡大や道路の建設、鉱物の採掘などによって、自然林の減少が続いています。また、乱獲による草食動物の減少が、森林生態系全体に大きな影響を及ぼしています。
WWFは、この地域の食物連鎖の頂点に立つトラの減少をくいとめ、個体数の回復を図ることで、森林生態系全体の保全を図る活動を続けていますが、2024年9月、大きなターニングポイントを迎えました。タイ政府が行なった調査で、タイ国内の野生のトラの個体数増加が判明したのです。周辺国(ベトナム、ラオス、カンボジア)ではほぼ絶滅状態にある中で、タイは東南アジアで唯一、トラの個体数を回復させることに成功した国となりました。
これを一時的なものにしないためには継続的な取り組みが必要です。WWFは2025年6月、絶滅危惧種であり、森林生態系の中で重要な位置を占める草食動物、サンバーの回復を図る上で不可欠との判断のもと、飼育繁殖したサンバーを森へ放獣。野生下で繁殖につながるかモニタリングを続けながら、トラの生息状況の調査や、分断された森をつなぐコリドー(緑の回廊)の整備などを継続しています。

東白川村のFSC認証林。スギ・ヒノキ林の下に豊かな下層植生が育っている
世界の森林の減少をくいとめる手段のひとつとして、WWFは、森林のサステナブル(持続可能)な利用を促す「FSC®認証」のしくみを立ち上げ、各国で普及に力を注いでいます。しかし、日本国内のFSC認証林は、まだあまり広がっていません。
この状況を打開すべく、WWFは2024年10月、岐阜県東白川村と「日本のFSC®認証林推進協定」を締結。3月に宮城県南三陸町と同協定を結んだのに続き、国内2カ所めの取り組みが始まりました。
東白川村は東濃檜(とうのうひのき)の名産地で、20年にわたって「FSC®認証」の取得を継続しています。2025年5月、WWFは、東白川村、東白川村FSC®認証材普及推進協議会との連携のもと、地元の後藤木材株式会社が制作したFSC認証材の机10台を、東白川村小学校に寄贈。1年生を対象に、林業と生物多様性の保全をテーマにした授業も実施しました。
地域との協力を深めつつ、FSC認証のメリットを可視化し、日本における認証材の需要向上と、認証林の拡大をめざす取り組みが続いています。

カカオ農園で育つシェードツリー
日本が輸入しているカカオ豆の主要な産地であるガーナ共和国では、カカオ農園の開発による天然林の減少が続いています。マルミミゾウなどが暮らす貴重な森を守るためにも、サステナブル(持続可能)なカカオの生産・流通への転換が必要です。
WWFは、日陰を好むカカオの性質を活かし、小規模農家を支援して、シェードツリー(日陰を作る木)の苗木を配布するなど、カカオの生産性と生物多様性の両方の向上を図ってきました。
2025年2月には「ガーナ・カカオ森林ランドスケープ土地利用マップ」を公開。現地の協力機関NDFと共に開発した、森林破壊やカカオ農園開発の現状を把握できるオンライン・マップでは、カカオやその他の農業、鉱物採掘や休閑地など12種類に及ぶ土地利用が、1980~2020年の40年間でどのように変化したかが明示されています。
WWFはこのマップを活用し、カカオを扱う企業やチョコレートを購入する消費者に向けて、サステナブルなカカオを選ぶ大切さを伝えています。

水産物の獲りすぎや、漁業対象でない生きものまで網にかかってしまう混獲、沿岸や浅海域の環境を大きく損なうような開発、プラスチックの流入、そして、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の横行など、海の危機が続いています。
WWFジャパンは、日本が主要な消費国となっている水産物のサステナブルな利用を推進すること、プラスチック廃棄物の発生抑制や資源循環促進などを通して、海の生態系保全に取り組んでいます。

© Shutterstock / Guido Montaldo / WWF
日本人にとって馴染み深い、マグロ類やサンマ、サバなどの回遊魚。広い海域を移動するこうした水産物を持続可能な形で利用していくには、国境を越えた資源管理が不可欠です。WWFは、国際的な漁業管理が、海洋生態系の保全にも配慮されたものとなるよう、監視や提言を行なっています。
2024年11月のWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の年次会合では、資源の回復が報告されている太平洋クロマグロの漁獲枠の増枠が決まりましたが、これに際してWWFは、増枠は資源の増加傾向が十分に維持できる量にとどめるべきことを強く要求。結果として、クロマグロの持続可能な利用を考慮したバランスのとれた漁獲枠が合意されました。
しかしこの会合では、メバチ、キハダなどの管理強化は見送られたほか、2025年3月のNPFC(北太平洋漁業委員会)でも、サンマとサバの総漁獲可能量の削減が不十分な内容で合意されるなど、海の恵みの未来に不安を残す結果となりました。
一方、こうした国際交渉の場では、WWFも重要な海の環境問題として取り組んできた「IUU(違法・無報告・無規制)漁業」への対策が、長年の働きかけによって確実な進展をみせています。奴隷労働も引き起こしているこの問題の解決に向けて、今後も人権団体などと連携した取り組みを継続していきます。

チリイルカは沿岸性が強く、人間の海の利用による影響を受けやすい
世界の中でも、特に生物多様性が豊かな南米チリの海。しかし、サーモン(サケ)の養殖をはじめとする水産業の拡大により、海の環境と生きものたちへの深刻な影響が危惧されてきました。そこでWWFジャパンは2014年から、WWFチリへの支援・協力を通じて、この豊かな海を守る活動を開始。日本が輸入するサケ・マス類の約6割を占めるチリ産サーモンの養殖業を持続可能な形に転換するための活動をはじめ、野生生物の生態調査と保全、海洋保護区の管理の強化などを進めてきました。
野生生物の生態調査と保全に関する活動では特に、チリの沿岸域にのみ生息する固有種「チリイルカ」を守るための活動を実施。日本からの支援により、重要な生息域での個体数や生態、漁業や養殖業など人間が利用する海域と生息域との重なりを明らかにすることができました。この調査で得られた結果などをもとに、多様な関係者との話し合いを重ね、チリイルカの保全計画案を策定。2025年末までにチリ政府によって正式に承認される見込みです。

シンポジウムには多くの漁業関係者が参加し、その様子はオンラインでも配信された
2024年元日に発生した能登半島地震では、漁港、漁業設備などにも甚大な被害がもたらされました。漁業は徐々に再開されてはいるものの、地震による海中や魚種への影響などの全容把握には時間を要しており、復興への道のりにはまだ多くの課題が残されています。 そうした中、WWFは、能登の震災復興を通じた持続可能な水産業の構築をめざし、地域との協働を進めています。
2025年2月には、石川県七尾市で、北陸中日新聞との共催による「能登の水産業の未来と復興を考えるシンポジウム」を開催。能登の水産業の現状と復興に向けた課題などに関する講演が行なわれたほか、WWFが東日本大震災の際の復興支援プロジェクトの一環としてASC認証の取得を後押しした宮城県南三陸町の漁業者らも登壇し、震災後に持続可能な漁業をめざして取り組んだ実例や、当時のエピソード、得られた学びなどが共有されました。 WWFは今後も、能登の水産業を、より持続可能な形で再生させていく取り組みを続けます。

大小さまざまな河川、湖、池、沼、湿地帯など、水(淡水)をたたえた環境はとても多様です。しかしその総面積は、地球上のわずか1%しかありません。さらに、水資源の過剰な利用や開発などによって、その多くが危機にさらされています。
WWFジャパンは、日本を代表する水環境である水田の生態系の保全を推進。また、特に淡水を大量に利用し、排水の課題にも深くかかわっている繊維業界との協力を図り、水環境の改善をめざしています。

上:ニッポンバラタナゴ(左)とカワバタモロコ(右) © WWF-Japan 下:水路に生息する二枚貝(イシガイ類) © WWF-Japan
日本固有の希少種を含む淡水魚類が多く生き残る、九州・有明海沿岸の水田地帯。WWFは九州大学と共同で淡水生態系保全に取り組んでいます。
活動地域のひとつである熊本県玉名市では、市民と共に水路の現況調査を実施。ニッポンバラタナゴなどの淡水魚類や、コガタノゲンゴロウなどの水生昆虫の生息を確認しました。また、玉名高校や市民の参加を得て、絶滅の危機にある淡水魚セボシタビラの繁殖に欠かせない淡水棲二枚貝の調査や、「環境DNA」調査(水や土壌、空気などに含まれるDNAから生物の存在を調べる手法)も実施。採取したサンプルは九州大学で分析し、今後の保全活動に活用していくこととなります。
佐賀県佐賀市の東与賀町でも、市民の参加を得ながら「環境DNA」を用いて水生生物の調査を実施。また、淡水生物の保全と回復をめざして水田地帯の中に作られたビオトープで水生昆虫の調査を行ない、希少なゲンゴロウ類を含む10種の水生甲虫類などを確認。良好な環境が維持されていることを確かめた上で、2025年3月と5月、遺伝子撹乱にならないよう同じ水系で捕獲した淡水魚を、九州大学でのDNA分析を経て放流しました。このビオトープでは、今後も調査を継続し、自然再生に向けた足がかりとしていきます。

PANDA SHOPが扱う認証コットン製品
コットンは、私たちの暮らしに欠かせない天然繊維ですが、栽培から加工、消費に至る全工程で水の利用・汚染とかかわり、淡水生態系、流域の人々の暮らしにもさまざまな影響を及ぼしています。
こうした課題に対し、日本ではまだあまり認識が広がっていないことから、WWFはコットンと水環境の関連について、いろいろな方面から関心を高めていくための取り組みを重ねています。
環境や社会に配慮したファッションの普及に取り組む学生団体「やさしいせいふく」と連携し、インドの生産現場の視察や、若い世代に向けたオンライン・セミナーを実施。WWFのオンラインショップPANDA SHOPでは、厳しい認証基準をクリアしたサステナブルなコットン製品を扱うことで、「責任ある生産」に挑むメーカーを支援しています。
2025年5月には、ファッション産業に対して取り組みを促すファクトシート『Sustainable Cotton Journey』を制作・公開。アパレル企業や学生が共に学びあうトークイベントも開催しました。

成長した幼鳥を連れて水辺で採食するマナヅル
モンゴルなど中央アジアの湿地帯で繁殖し、韓国や日本の水田地帯で越冬する渡り鳥、マナヅルは、豊かな湿地の象徴といえます。浅い水辺に巣を作って産卵し、草の種子のほか、水草やカエル、小型の魚類などを食べています。現在、世界に6,700~7,700羽しか残っていない絶滅危惧種です。
WWFは、特に個体数が大きく減少しているモンゴルで、マナヅルの保全に取り組んでいます。マナヅルの繁殖地が集中する、モンゴル東部のオノン川、オルズ川、ヘルレン川、ハルハ川の4つの流域で行なった調査では、近年、急速に増えつつある家畜の放牧の影響を受けやすい流域ほど、繁殖成功率が低いなど、多くの知見が得られました。
WWFでは、特に対応を急ぐ必要のある「重要湿地」27カ所を特定。周辺で牧畜を営む人々の協力を得ながら、マナヅルの繁殖地の保全を進めています。水源や水辺の保全を図るこの取り組みは、地球温暖化などによる水不足のリスクを抱えるモンゴルの人々の暮らしを守ることにもつながっています。

食料、宝飾品、薬の原料、さらにはペットに至るまで、さまざまな目的で利用されている野生生物。中には、過剰な利用によって危機に陥っているものもいます。捕獲や取引(売買など)を規制する法律や条約に反した密猟・違法取引も後を絶ちません。
WWFジャパンは、特に日本が関係している過剰利用や違法取引を防ぐための活動を進めると同時に、野生生物の生息地保全にも取り組んでいます。

開発などにより生息域が減少しているアマゾンのジャガー
中南米の森で生態系の頂点に立つジャガー。150年前に比べその生息数は半減しており、各地で絶滅の危機が高まっています。開発による森林破壊、獲物となる動物の減少のほか、家畜を襲う害獣として駆除されるなど「人とのあつれき」も原因のひとつ。WWFジャパンは2022年から、WWFブラジルが展開するジャガーの保護活動を支援しています。
ブラジル南部のアトランティックフォレスト(大西洋沿岸林)では、分断されてしまった動物たちの生息地をつなぐため、農地の中にコリドー(緑の回廊)を設けています。現地の農場主からは、ジャガーの生息地を守る取り組みが、自分たちの農地や生活を守ることにつながっているとの声も聞かれ、地域と一体になった保全活動が進められています。
一方、アマゾン川流域のブラジル北部アパマ州では、ジャガーの生態や置かれた状況について把握するため、3つの保護区域でカメラトラップ(自動撮影装置)による生息状況調査を実施。これまでに集めた調査結果はデータ分析が進められており、調査手法のモデル確立やブラジル政府のジャガー保全計画に活かされることをめざします。さらに、深刻な課題となっている、ジャガーを含む野生動物による家畜への被害について解決を図るため、地域コミュニティでの聞き取り調査を開始しました。

捕獲による野生個体群への影響が心配されているミズオオトカゲ
フクロウ、トカゲ、カメなどの野生動物をペットとして取引(売り買いなど)することには、絶滅の危機にある動物の密猟・密輸、生態系への影響など、さまざまな問題が潜みます。WWFはこの問題への認識を深めるための取り組みを行なっています。
2025年3月、WWFが意見交換を続けてきた日本爬虫類両生類協会が、絶滅の危機にある日本の野生動物4種(シリケンイモリ、ミヤコヒキガエル、ニホンイシガメ、ヤエヤマイシガメ)について、野生捕獲個体の販売を自粛するよう、関係者に要望。これは、ペットの取引事業者団体が、法の規制以上の自主的な取り組みを行なった重要な事例となりました。WWFは、この要望の概要とペットをめぐる課題について発信しました。
また、野生動物のペット利用についての大学での講義や、需要削減のための動画配信なども行ない、ペット業界と消費者側の両面で、責任ある調達や飼育管理、安易な購入をしないなど、意識と行動の変容を促しています。

甲殻類をはじめ、生物多様性の価値が国際的に認められている名蔵アンパル
国際的に重要な「ラムサール条約湿地」に定められている、沖縄県・石垣島の名蔵アンパル。豊かなマングローブ林が広がり、カニやエビをはじめ多様な生物が暮らしています。絶滅危惧種カンムリワシの生息地でもあるこの流域では、大規模ゴルフリゾートの開発計画が進められており、WWFは地域団体などと共に、見直しを求めています。
2024年12月には沖縄県石垣市で、2025年4月には栃木県佐野市で、アンパルの自然をうたった八重山古謡を題材にした絵本「あんぱるぬゆんた」の原画展と記念イベントが開催され、WWFも保全の重要性について講演。原画展には合計1,000人以上が参加し、島内外で名蔵アンパルの生物多様性と危機を伝える機会となりました。
しかし、2025年5月には沖縄県が開発許可と農地転用許可を出し、着工への手続きが進行中。WWFは、これまで要請してきた見直し事項がどのように審査され反映されたのかを確認し、今後も必要な働きかけを進めていきます。

世界中の気候が今までと大きく違ってきていることを、誰もが肌で感じるようになりました。温暖化(気候変動)は、人間社会はもちろん、野生生物の暮らしにも大きな影響を与えます。
WWFジャパンは、国、自治体、企業を対象に、温室効果ガスの排出量を大幅に削減するよう促す活動に注力しています。また、自然環境や地域の文化などに配慮しながら、自然エネルギーの導入が進むようにするための活動にも取り組んでいます。

日本の温室効果ガス排出量のうち約85%を、化石燃料の利用に伴って排出される二酸化炭素が占めている
世界の約200の国々が協力して脱炭素化に取り組むことを約束したパリ協定では、全加盟国に対して、NDC(各国が定める温室効果ガスの排出削減目標)を5年ごとに更新して提出することが義務付けられています。新たなNDCの提出期限となる2025年2月に向けて、日本でも次期NDCの策定が進められましたが、WWFは、その新目標がより野心的で実効性のあるものとなるよう働きかけを行ないました。
次期NDCの議論が行なわれたのは、環境省と経済産業省が主催する審議会です。委員には、WWFをはじめとするNGO関係者や再生可能エネルギー事業者、研究者などに加え、エネルギー多消費産業の関係者など、多様な立場のメンバーが名を連ね、臨時の会合が何度も追加で開催されるなど、活発な議論が交わされました。
しかし、それらの議論を経てもなお、最終的に政府が決定し国連に提出した次期NDCは、2035年の削減目標を2013年比で60%減とするなど、パリ協定の1.5度目標の達成に必要な水準に対しては明らかに不十分なものとなりました。それを受け、WWFはただちに政府の決定に抗議する声明を発表し、2035年までに66%以上の温室効果ガス削減を求めるなど、先進国かつ温室効果ガス排出量の多い国としての責任を果たすよう訴えました。

「夏の風物“止”展」は、2024年8月15日から4日間にわたって、渋谷ヒカリエ(東京都)で開催された
将来必要となるエネルギー量や、それをまかなうエネルギー源など、日本のエネルギー政策の方針を定めている「エネルギー基本計画」。WWFは、日本がこの計画の中で、化石燃料からどの程度脱却し、再生可能エネルギーの比率を高められるかが、今後の温暖化対策の成否に深く関わると考えています。
2024年は、この計画の改定時期にあたっていましたが、新たにまとめられる「第7次エネルギー基本計画」は、2025年2月に国連に提出する次期NDCの根拠になることから、WWFはこの改定に向けた働きかけを強化しました。その一環として、2024年8月には、日本のエネルギー政策への市民の関心を高めるイベント「夏の風物 “止”展」を開催。高校野球や音楽フェスなどの夏の風物詩が、温暖化によってどのような影響を受けうるのか、その未来像を紹介し、温暖化対策の重要性と、再生可能エネルギーの必要性を訴えました。来場者からは、再生可能エネルギーへの期待や利用拡大を求める声が多く寄せられました。

COP29の日本パビリオンで、JCIのイベントの進行を務めるWWFスタッフ
近年、地球温暖化対策においては、政府の取り組みに加え、非国家アクター(企業や自治体、NGOなど、“国家(政府)”以外の主体のこと)が、自発的に脱炭素に取り組む動きが主流となりつつあります。WWFが共同事務局を務める、日本の非国家アクターによるネットワーク「JCI(気候変動イニシアティブ)」にも、現在830以上の企業や団体が参加し、連携しながら温暖化対策に意欲的に取り組んでいます。
2024年7月、JCIは、パリ協定の目標達成に向けた野心的な次期NDCと、それを確実に実現する新たなエネルギー基本計画の策定を、非国家アクターの立場から求める要望書を政府に提出。これには236のJCI参加団体が賛同しました。
また、企業が自社の温室効果ガスの排出削減を進める際の重要な指標となる「SBTiネットゼロ基準」の改定案を解説する説明会を開催し、日本企業の脱炭素化をさらに後押し。今後もこうした取り組みを通じて、非国家アクターを起点とした脱炭素化のうねりをさらに広げていきたいと考えています。
※JCI(気候変動イニシアティブ)としての取り組み

WWFジャパンの活動は大きく5つのテーマ(森林、海洋水産、淡水域、野生生物、地球温暖化)に分けられますが、その原因や、解決に向けた課題には多くの共通点もあります。
そこでテーマ横断の取り組みとして、金融機関や企業の事業および投融資に環境への配慮を求める活動や、環境保全と人道支援の連携、環境・社会課題に取り組む次世代リーダーの育成などを進めています。

被災した活動現場とイラワジイルカ
2025年3月、ミャンマー中部のマンダレー付近を震源地とするマグニチュード7.7の大地震が発生。ASEANの発表によれば、死者はおよそ3,800人、被災者は85万7,000人にのぼりました。
WWFミャンマーが希少種イラワジイルカの保全活動を行なっていたエーヤワディー川流域や、国際的にもその重要性が認められ、同じく保全活動の現場となっていたインレー湖周辺でも、家屋の倒壊や交通網の分断が発生。安全な水や食料、電力も確保できない事態が生じました。

ミャンマーのスタッフからのメッセージ
WWFにとって活動の現地パートナーである地域の人々の暮らしが安定しなければ、貴重な自然や野生動物を守る取り組みは継続できません。そこで、WWFミャンマーでは、現地の状況調査を実施。地域の緊急支援と保全活動の再開に向けて活動を開始しました。WWFジャパンもイギリスやフィンランド、オーストラリアのWWFと共に、緊急支援を展開。日本国内からは約600万円のご支援をいただき、現地への支援に充当しました。
ミャンマーでは現在も、保全活動の再開に向けた活動が続けられており、日本の皆さまからお預かりした支援金も、インレー湖の調査や環境回復活動、地域コミュニティの生活基盤を復興する取り組みに役立てられています。

生物多様性の豊かさの指標であるLPIの減少を示すグラフ
コロンビアのカリで開催された国連の「生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)」を前に、WWFは2024年10月10日、『生きている地球レポート2024-自然は危機に瀕している(Living Planet Report 2024)』を発表しました。これは、地球の生物多様性の豊かさと健全性に、どのような傾向がみられるのかをまとめた報告書です。
今回の報告では、1970年から2020年までの50年間に、自然と生物多様性の健全性を測る数値「生きている地球指数(LPI:Living Planet Index)」が73%も減少した深刻な現状を指摘。自然の損失と気候変動の2つが連鎖した危機により、地球が危険な転換点(ティッピング・ポイント)に直面していることについて、警鐘を鳴らしました。
また、2030年に向けた各国政府や企業、NGO、自治体などの取り組みが、きわめて重要であること、そして、国立公園などの保護区を守るための政策と、環境を守る食料生産、エネルギー、金融という4つの分野における変革の必要性を訴えました。

生物多様性は、あらゆるビジネスの根幹としても重視され始めている
地球環境の悪化を引き起こしている最大の原因は、大量生産・大量消費と経済効率を重視した現状の経済活動です。そうしたビジネスの在り方と、企業に対する投融資の在り方に今、「持続可能性(サステナビリティ)」を求める動きが高まっています。
この動きをさらに強化するためには、環境保全を促進するビジネスへの投融資を拡大し、一方で環境破壊につながる事業への投融資を減らしていくことが重要です。WWFではその取り組みの一環として、「TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclo-sures:自然関連財務情報開示タスクフォース)」に基づいた、企業による情報開示を促進。これを、投資家が事業やビジネスのサステナビリティを判断する際に活用していくよう、働きかけを行なっています。2024年9月には、企業がTNFDに則した情報開示をするにあたり、重視すべき4つのキーポイントを発表。また、日本の5行を含むアジア地域の49の銀行について、持続可能性の取り組みを評価する報告書も公開しました。
皆さまからのご支援が、世界100カ国以上で展開されているWWFネットワークの活動を推進する大きな力となっています。
FY2024
個人サポーター総数 約600万人
SNSフォロワー総数 約3,800万人
ネットワーク全体の収入 約11億4,800万ユーロ
ネットワーク全体の支出 約10億3,200万ユーロ
*FY2025については現在、WWFインターナショナルにて集計中です
WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。