シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 国の先をゆく県独自の住宅省エネ基準制度


© Shutterstock / Andrei Shumskiy / WWF

鳥取県「とっとり健康省エネ住宅普及促進事業」

【施策部門】 家庭部門
【施策タイプ】 ルール作り補助金
WWFの「ここに注目」
 
  • 国の基準を上回り、かつ普及しやすい「省エネ住宅基準」を県が独自に策定。
  • 基準を満たす住宅を対象とする助成制度では十分な予算を確保し、事業者や施主が活用しやすいよう「年中いつでも申請できる」ように
  • 助成要件として再生可能エネルギーの導入等を加えたほか、既存住宅の省エネ改修も助成対象に。

施策概要

国の省エネ基準を上回る県独自の「健康省エネ住宅性能基準」のもと、高断熱・高気密の「高い省エネ性能の住宅」を県が認定。助成制度等で認定住宅を広く普及させることで、CO2削減を進めながら住む人の健康維持の向上にもつなげる取り組み。
県は令和2年1月、戸建住宅における「健康省エネ住宅性能基準(T-G1、T-G2、T-G3)」を策定、この基準を満たす新築住宅の認定・助成制度「とっとり健康省エネ住宅『NE-ST』」を同年7月にスタートさせた。助成については平成24年開始の「とっとり住まいる支援事業」(県産材10㎥以上の使用で最大100万円助成)に上乗せする形(最大50万円)で、県の技術研修を受講し登録された事業者が設計・施工を行うことなどが要件。住まいる支援事業を含め「十分な予算を確保し、年中いつでも申請できる」ことも大きな特徴。
令和4年度からは助成要件として再生可能エネルギーを導入したZEH(※)証明を加え、県産材使用は内外装材(20㎡以上)も対象にしたほか、新たに既存住宅の改修のための「Re NE-ST」制度を開始した。

※ZEH:ゼッチ(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)…外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅。(環境省ホームページより)

概要図

予算

《費用》
令和元年度:120万8千円(断熱シミュレーション算定費や有識者委員会の実施費等)
令和2年度:普及促進費224万円、研修費151万円、助成金1,511万円
令和3年度:普及促進費90万円、研修費119万円、助成金3,134万円、賃貸・改修基準検討費166万円(工事費・温熱シミュレーション算定費や有識者委員会の実施費等)
※NE-STの申請件数は令和2年7月~令和4年3月末までに計240件(T-G1が135件、T-G2が93件、T-G3は12件)。新築戸建てのうちNE-STは20%(令和3年度)。
※なお戸建て住宅への助成制度は以前から予算が不足する場合には補正等による予算措置を行っている。理由は、予算や完了期限等の制約により助成金がもらえないケースがある制度は、事業者から施主に対し積極的に制度を進めてもらえないため。

《国などの補助金》
普及促進費、研修費等の一部(助成金は県単独財源)

削減効果

冷暖房費削減率は、国の省エネ基準を0%とするとT-G1で約30%削減、T-G2が約50%削減、T-G3だと約70%削減と試算。
NE-STのCO2削減量は、これまでのNE-ST建設戸数240戸がすべて国の省エネ基準で建てられた場合と比較して年間120t-CO2となる。

その他効果

・住まい手の健康維持…国の基準では難しい「家全体を暖める」ことがNE-ST基準では可能とされ、ヒートショック等の防止が期待される。住宅の高断熱・高気密化に伴う疾病予防により医療費等を軽減、4人家族の健康維持による間接的便益は10年で108万円との試算。
・地元経済の活性化…助成制度の要件として、県内に本拠地を置く建設業者の施工や県産材使用が挙げられており、地元経済の活性化につながっている。

施策を通して

<実施前の課題>
県内では平成27年に地元の建築・医療関係者らが「とっとり健康・省エネ住宅推進協議会」を設立、その勉強会に県職員が参加したことを機に、県独自の省エネ住宅基準の検討を開始。同協議会によるワーキンググループで県が作るべき基準の在り方を整理し、有識者委員会で承認する形をとった。
この過程で、これまでの国の省エネ基準について①省エネ以外のメリット(快適性や健康への効果等)が示されていない、②業者のコストなどを考慮し段階的に引き上げてきたため、新築後に基準が見直される可能性がある、などの課題点が挙げられた。そこで県は「経済的に家全体を暖められる基準」を軸に、多段階のレベルやメリットを分かりやすく示し、消費者が選択できる性能表示を目指した。

<実施における課題や改善点>
当初は基準策定と認定制度だけの予定だったが、平井伸治知事が年頭会見で助成金を出すことを明言し、急きょ予算を組んで次年度から助成制度を開始できた。
NE-STの基準説明会に参加した約230名に対するアンケートでは9割以上が策定を歓迎する一方で、4割が省エネ計算を未実施であった。
NE-STの認定制度開始から1年が経過した時点での事業者アンケート(約140社のうち80社が回答)では3割超が「ユーザーへの説明が難しい」と回答するなど実施へのハードルを感じる業者も多かった。
県はまず事業者登録のための技術研修(1回1万円)と考査合格を必須とし(受講者はこれまでに500人超)、登録事業者は県のホームページに掲載(令和4年3月末現在142社)。「省エネ計算」については、エクセル計算プログラムの配布をセットにした研修会(1回5千円、計100人参加)を実施したほか、「消費者への伝え方研修」(1回3千円、50人参加)も開催。さらにアンケートで研修希望の多かった「気密の施工」技術については、座学では伝わりにくいため、現場見学会など工事段階で研修(1回2千円)を実施。通常、業者は自前の施工技術を見せたがらないが、協議会メンバーの協力を得て現場2カ所で計100人が研修に参加できた。「想像していたよりも現実的な方法で、うちでもやれそうだ」といった声が聞かれた。

<施策のメリットとデメリット>
メリット:
長期的には、県民の健康増進やCO2削減をはじめ、引き上げが予想される国の基準を満たす良質な住宅ストックの形成(引き上げに合わせて事後改修すると費用は新築の5倍超)、中古住宅流通の活性化による廃棄物抑制も期待されている。また認定制度にかかる事業者の登録制度や説明義務などを通じ、現場の施工者育成も図ることができる。

デメリット: 特になし

こんな自治体にオススメです

省エネだけでなく、県民の健康寿命の延伸で社会保障費の削減にも寄与するとの長期的視野に立てば、全ての自治体で実施を推奨できる。

今後の方針

新築住宅においては2030年までに「NE-ST」標準化を目指す。県内の高性能な省エネ住宅を扱う専用サイトの立ち上げを計画中。価格査定システム等をつくり、物件を扱う不動産業者の登録制度も整備していく予定。

自治体担当者からのコメント

鳥取県生活環境部くらし安心局 住まいまちづくり課
槇原章二さん

独自基準の策定のポイントは2つあります。1点目は事業者登録制度とセットで行うこと、2点目は認定戸数を伸ばすための支援制度を組み合わせることです。事業者登録制度により、自治体の情報をダイレクトに事業者に届けることができ、さらに事業改善に向けた意見聴取も可能となり双方にとってメリットがあります。支援制度は、十分な予算を確保し、年度を跨ぐ工事も対象とすることで、いつでも申請できる制度となり、工務店も安心して施主に勧めることができます。高性能住宅の普及が進めば、県民の健康増進、地域の事業者の受注拡大、行政施策としての省エネ・CO2の削減の推進など好循環が生まれますので、各地域の事業者と協働で取組むことをお勧めします。

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