世界のイカ資源の未来を守るために―「イカサミット」が集めた協働と行動への期待
2026/06/26
- この記事のポイント
- 2026年5月26日および27日に、東京の国連大学エリザベス・ローズ国際会議場において、WWFジャパンは『イカサミット~世界のイカ資源の未来を共に守る~』をIUUフォーラムと共催しました。会場参加とオンライン参加を合わせ、二日間で約125名が参加。近年のイカ産業を取り巻く不漁問題と資源管理の難しさ、過剰漁獲による資源低下、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の横行、海洋環境の変化に伴う水産資源の変動についての報告に加え、燃料や原材料価格の高騰、国内外における規制強化など厳しい状況の中で取り組むべき課題の解決に向け、議論を交わしました。
なぜイカサミットが今開催されるのか
イカ類は日本が消費する重要な水産物のひとつですが、近年、世界的な需要の増加と、それに伴う深刻な資源枯渇が危惧されています。
近年、日本海で漁獲されるスルメイカは、歴史的な不漁に見舞われている一方、2025年は太平洋での予想を上回る漁獲が記録されるなど、漁獲管理の難しさが指摘されています。
その原因として、イカ類独自の生態的特徴や、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の影響、さらに海洋環境の変化があげられています。
シーフードミックスなどに使われるアメリカオオアカイカは、現状では資源が安定しているとみられますが、主に中国船による公海上での漁獲圧の影響が危惧されており、こちらも予断を許さない状況です。
WWFジャパンは、こうした状況を受けて、2022年よりイカ類の生産や流通構造に関する調査に着手。
オンラインセミナー「イカ類の持続可能な生産と消費を考える」を開催したほか、スルメイカの日本三大産地である石川県小木町にてイカ漁業関係者と現状や課題感に関する意見交換を実施し、さらに水産庁開催のスルメイカステークホルダー会議に参加するなど、イカ漁業をめぐるIUU漁業や資源管理の課題解決への道を探ってきました。
そして、その課題解決の一環として今回、国内外の多様なステークホルダーが一堂に会する「イカサミット~世界のイカ資源の未来を共に守る~」を開催することとしました。
イカの問題の解決には、水産庁が資源管理を強化する、漁業者が認証を取得するといった局所的な取り組みだけではなく、イカ漁業に関わるバリューチェーン全体の協力・連携が欠かせません。
イカサミットは、そうした協力・連携にかかわる関係者が一堂に会し、この問題を検討する機会として開催されたものです。
▼イベント概要
| 名称 | イカサミット ~世界のイカ資源の未来を共に守る~ |
|---|---|
| 開催日時 | 5月26日、27日 |
| 場所 | 国連大学 エリザベス・ローズ国際会議場 (東京都渋谷区) |
| 主催・共催 | WWFジャパン主催 IUUフォーラムジャパン共催 |
| 参加者数 | のべ125名 |
イカ資源をめぐる危機は世界共通の危機
サミットではまず、世界のイカ漁業の現状が報告されました。
世界のイカ漁獲量は年間300~400万トン規模に達していますが、多くの資源で十分な評価が行なわれていません。
イカは寿命がおよそ1年と短く、資源量が海洋環境の変化に大きく左右されるため、資源動向の予測が難しい特徴があります。日本周辺ではスルメイカ資源の低迷が続いている一方、海域によって漁況が大きく変動しており、従来の管理手法だけでは十分に対応できない状況も明らかになりました。
また、日本の漁業・加工業からは、原料不足や価格高騰、後継者不足、船舶建造費や燃油費の上昇など、経営基盤そのものを揺るがす課題が報告されました。
現場からは「資源管理」と「産業の持続可能性」を両立させる必要性が強く訴えられました。
サミット初日の「日本のイカ資源の現状と課題」に関する講演後のパネルディスカッション。左からモデレーターの植松(WWFジャパン)、境磨氏(水産研究・教育機構水産資源研究センター浮魚資源部浮魚第3グループ長)、赤塚 祐史朗 氏(水産庁資源管理部管理調整課資源管理推進室長)、中津 達也 氏(全国いか釣り漁業協会会長)、韮澤 新太郎 氏(全国いか加工業協同組合専務理事)、小川 栄次 氏(永宝水産株式会社代表取締役社長)、と谷地充晴氏(株式会社ヤマツ谷地商店代表取締役社長)。
中国のイカ漁業管理制度と世界のイカ漁業の課題について講演後に質疑応答にお答えする左からシャオチ・チウ氏(Environmental Justice Foundation東アジア・マネージャー)、ソンリン・ワン氏(青島市海洋生態研究会(QMCS)創設者・会長)、とモデレーターの植松(WWFジャパン)。
サプライチェーン全体で向き合うべきIUU漁業問題
今回のサミットで繰り返し取り上げられたテーマのひとつが、IUU漁業です。
海外では一部の遠洋イカ漁船団において、違法操業や過剰漁獲だけでなく、人権侵害を伴う事例も報告されています。
さらに、洋上転載(トランスシップメント)が不透明な取引や漁獲量の把握を困難なものにし、資源管理を難しくしていることも共有されました。
こうした問題は、日本市場に流通する輸入イカの世界的なサプライチェーン上にもつながっており、どこで、誰が、どのように漁獲したのかを把握することが、これまで以上に重要になっています。
サミットを通して示されたのは、「持続可能性は漁業者だけの責任ではない」という認識です。行政、研究機関、漁業者、加工業者、流通事業者、小売企業、そして消費者まで含めたバリューチェーン全体の連携が不可欠であることが強調されました。
解決策として期待が集まる電子トレーサビリティ
こうした複雑な課題を、どのように解決していくべきなのでしょうか。
その方法として、サミットで大きな注目を集めたのが、「協働」、「透明性」と「電子トレーサビリティ」です。
ペルーではTrazapp(トラスアップ)というスマートフォンアプリを活用し、漁獲から輸出までをデジタルで記録・管理する仕組みが導入されています。また、インドネシアでも電子管理システムによる漁獲情報管理が進められています。
さらに、Global Fishing Watchによる衛星データ活用や、漁業透明性に関する国際基準の整備など、世界ではすでに具体的な取り組みが動き始めています。
日本においても、こうした仕組みは決して遠い未来の話ではありません。Umios株式会社は、WWFペルーの電子トレーサビリティシステムと連携し、日本市場向け輸出での実証に取り組んでいることを紹介しました。
電子化によって漁獲情報が適切に記録・共有されれば、IUU漁業の抑止、資源管理の高度化、人権リスクへの対応だけでなく、産地や商品の価値向上にもつながります。
透明性は「規制への対応」ではなく、「選ばれる産業」になるための投資でもあります。
また、「漁業の透明性に関する世界憲章(Global Charter for Fisheries Transparency)」やSustainable Fisheries Partnershipによる「イカ・タコ・サプライチェーン・ラウンドテーブル」などの企業・NGO連携による改善活動など、国境を越えた枠組みも広がっています。
こうした取り組みはIUU漁業の抑止に加え、人権リスクの低減や持続可能な調達の実現にも寄与します。現場実装には利便性やコストへの配慮が不可欠であり、産業全体での連携が重要です。

サミット二日目の「解決策への期待(国際協働・透明性・トレーサビリティ)」について講演後のパネルディスカッションの様子です。左からモデレーターの植松(WWFジャパン)、チャン・イーモ氏(WWF中国ブルーエコノミー・プライオリティ・プロジェクト・コーディネーター)、ホセ・カルロス・アルバレス氏(WWFペルー水産物バリューチェーン・スペシャリスト)、北川 俊和 氏(Umios株式会社サステナビリティ戦略部 サステナビリティ推進課 兼 水産資源推進室 課長代理)とカルメン・ゴンザレス=ヴァレス 氏(Sustainable Fisheries Partnershipサプライチェーン・ラウンドテーブル・ディレクター)。
今こそ、イカ産業全体で未来への一歩を
閉会にあたり、WWFジャパンより『世界のイカ資源の未来を共に守るための共同宣言」を発表しました。
この共同宣言書では、IUU漁業の撲滅、科学的管理、電子情報共有、国際協力の重要性について、イカ産業に関わる多様なステークホルダーの署名を募っています。
今後もWWFジャパンでは。今回のサミットで得られた知見やネットワークと共同宣言を活かし、イカ漁業のバリューチェーン、水産庁や研究機関と連携しながら、IUU漁業を抑制し持続可能な資源管理を推進する活動を継続していきます。
「世界のイカ資源の未来を共に守るための共同宣言書」について
この同宣言書については、今後、さまざまな団体・企業からご署名を募り、いただき、広く発信していく予定です。貴団体(貴社)におかれまして本宣言書へのご署名を検討いただける場合には、WWFジャパン海洋水産グループ(fish@wwf.or.jp)まで、件名を「イカ共同宣言書の署名について」とのうえ、ご連絡賜りますようお願い申し上げます。

サミット終了時、会場参加者との集合写真。



