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はじめての 『生物多様性』~今おさえておきたいポイントをわかりやすく簡単に解説

「生物多様性」とは、単に動植物の種類が多いということだけを意味するものではなく、地球の長い歴史の中で育まれてきた生きものの相互のつながりをも指し示す言葉です。


近年、環境問題を語る文脈の中でクローズアップされることの多くなった生物多様性。
「生物多様性って、そもそもどういうものなんだろう」
「どうして守らないとならないの?」
そう疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
このページでは、生物多様性についての概要をできるだけ平易に解説することを心がけました。

そもそも「生物多様性」ってなに?

生物多様性とは、ひとことで言うと「地球上の生物が、バラエティに富んでいること」です。
でも、これは単に、動植物の種類が多いということだけを意味しているわけではありません。

「生物多様性」という言葉には以下の3つのレベルが含まれるとされています。

  1. 種の多様性・・・さまざまな種の生き物が存在しているということ
  2. 遺伝子の多様性・・・同じ種であっても体の大きさや形、模様や色などの個性がうまれる遺伝子のバリエーションが豊富であること
  3. 生態系の多様性・・・森、河川、干潟など、さまざまなタイプの自然が存在し、それらに適合した生物による生態系が存在していること

きれいな空気を呼吸するためには、光合成をする植物が必要です。
体の中には、大腸菌などがいてくれないと生きていけません。
海や森からの恵み、清浄な水、土の力、安定した気候、全てが「生物多様性」の恩恵として、もたらされています。

「生物多様性」とは、単に動植物の種類が多いということだけを意味するものではなく、地球の長い歴史の中で育まれてきた生きものの相互のつながりをも指し示す言葉なのです。

その相互のつながりのバランスが著しく損なわれることを、生物多様性の損失といいます。

生物多様性はどのくらい危機にあるの?

『生きている地球レポート2022』表紙

WWFは2022年10月に、地球環境の現状を報告する『生きている地球レポート2022』を発表しました。このレポートでは、自然と生物多様性の健全性を測る数値(LPI)が、1970~2018年の過去約50年間で69%減少1していることを報告しています。

とりわけ、世界の淡水域の野生生物を示す数値は最も深刻な打撃を受けており、平均83%減少していることが分かっています。地域別に見ると、最も減少率が大きかったのは中南米の-94%。次いでアフリカの-66%、アジア・太平洋-55%と続きます。

また、2022年10月の時点で、IUCN(国際自然保護連合)のまとめた絶滅のおそれのある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」に、絶滅の恐れが高いと選定された野生生物の種数は4万1,459種が記載されています。

多くの種に絶滅の危機を引き起こしている原因は、大きく次の4つに分類できます。

  1. 乱獲・・・とりすぎによって数が減ってしまうこと
  2. 生息環境の喪失・・・開発や汚染などにより生き物の暮らす環境が失われていること
  3. 外来生物・・・人がその生息域外から持ち込んで野生化した生きものが、元々その場所にいた野生生物を捕食したり、すみかや食べ物を奪うなどして自然そのものを変えてしまうこと
  4. 気候変動・・・気温や気候の変化により、食べ物が採れなくなったり、繁殖が出来なくなり、数を減らす動植物種が出てくる。一方で、生息域を広げ、数を増やすものも現れ、これらの新たに優勢になった動植物の影響で、脅かされる種(しゅ)が出てくることも。

生物多様性の損失をまねく要因には、さまざまな人間の行動が、さまざまな形で影響を及ぼしているといえるでしょう。

© Casper Douma / WWF

マグロは日本人にとっては寿司や刺身のイメージがありますが、世界的にはツナ缶としてたくさん食べられています。そうした理由から非常に需要が高まっていて、それによって魚自体も減ってきてしまっています。

© Brent Stirton / Getty Images / WWF-UK

海洋ごみの影響により、魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしています。

© naturepl.com / Doug Gimesy / WWF

オーストラリアではコアラを筆頭に、多様な生きものたちが暮らしていますが、森林火災や農地開発などによって減少が続いています。

© Elizabeth Henderson

北アメリカ原産のグリーンアノールは、小笠原諸島や沖縄島で繁殖。特に小笠原では、固有種のトンボ類やセミ類を絶滅に近い状態まで追い込んでしまっています。

なぜ生物多様性を守る必要があるのか

この地球上のあらゆる環境は、あらゆる自然に形作られたものです。
森林、草原、湿地、海洋などの生態系は、食料・飼料、医薬品、エネルギー、繊維など人間の生活に不可欠な恩恵をもたらしています。また、生態系は気候の調節、淡水の浄化、花粉媒介、土壌再生などの作用によってバランスを保ち、人間に癒しやインスピレーションも与えてくれています。

© Ella Kiviniemi / WWF

米メリーランド大学のロバート・コスタンザ博士の研究によると、生態系がもたらしているこれらのサービスを経済的価値に換算すると、1年あたりの価格は33兆ドル(約4,400兆円)に至ると試算されています(1997年、英科学誌Nature)。私たち人類が受けている恩恵がいかに大きいかが分かります。

人類は生態系に依存し、自然なしでは生きられないにも関わらず、これらの生態系サービスを乱用してきました。現在、地球のバイオキャパシティ(地球が生産・吸収できる生態系サービスの供給量)を、人類のエコロジカル・フットプリント(人類が地球環境に与えている「負荷」の大きさ)は75%も超過しています。世界が今の生活水準を続けるためには、地球1.75 個分の自然資源が必要となり、中長期的には持続可能ではない状態に陥っています。

これまでの生活を続けていては、さらなる生物多様性の損失を招き、結果として自然からの恩恵を失うことになってしまいます。人類がこれまで通りの社会経済の仕組みを継続することは既に難しい局面を迎えており、 一刻も早い対応が必要となっているのです。

どう対処する? ~ Nature Positive(ネイチャー・ポジティブ)について

今や、環境課題として強く認識されるようになった「生物多様性」の課題。その解決をめざすため、保全はもちろん、既に喪失した生物多様性の回復を目指すのが「Narute Positive(ネイチャー・ポジティブ)」という考え方です。ネイチャー・ポジティブとは、2020年をベースラインにして、2030年までに自然の損失を停止、または反転させることをいいます。政治やビジネスの分野でよく見かける言葉ですが、これを真に実現するためには、あらゆる立場の人々の関与が欠かせません。

WWFの活動

2030 年までに生物多様性の損失を反転させ、ネイチャー・ポジティブを達成するためには、貴重な森林・淡水・海洋生態系を保護区などで守ったり森林破壊を防いだりするような地域ベースでの環境保全活動に加えて、生物多様性を減少させ続けてきたこれまでの生産や消費のあり方を根本から変革するような、経済社会の変革および政策を組み合わせていくことが必須となります。

この状況を変え、身近に迫るさまざまな問題を解決していくためには、この下降線のグラフを、上向きに「反転」させ、自然と人が調和して生きられる未来を築いていかねばなりません。

そこでWWFジャパンでは、おもに次の3つの分野での活動を実施しています。

  1. 野生生物の生息環境の保全・・・野生生物が生きられる海や森などの自然環境を守る取り組み
  2. 持続可能な生産の推進・・・人の消費行動によって生じる環境への圧力を下げる取り組み
  3. 持続可能な消費の実現・・・持続可能な生産と、経済を支えるため、消費者一人ひとりが意識を持ち、声を上げ、行動する必要のある活動

この3つの要素を組み合わせ、同時に推進していくことで初めてネイチャー・ポジティブの実現が見えてきます。生物多様性の損失を回復基調にのせ、持続可能な暮らしを実現させた明るい未来を将来世代に受け渡すためにも、WWFはこれからも多様な立場の方々と手をたずさえて活動を続けてゆきます。

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