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WCPFC北小委員会会合2026結果報告 今年も太平洋クロマグロの長期的な漁獲戦略に合意できず

この記事のポイント
 2026年7月8日から7日間にわたり富山で開催されていた中西部太平洋まぐろ類保存委員会(WCPFC)の北小委員会(NC)、ならびに全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)とWCPFC NCクロマグロ合同作業部会が閉幕しました。資源回復を果たした太平洋クロマグロ(本まぐろ)について、昨年合意予定であった中長期的な漁獲戦略について議論されましたが、残念ながら合意に至りませんでした。
目次

劇的に資源回復した太平洋クロマグロ

 太平洋の海洋生態系の頂点に立つ太平洋クロマグロ(標準和名:クロマグロ 学名:Thunnus orientalis)。寿命は20歳以上で、成長すると最大で尾叉長300cm、体重500kgにもなります。
*:この記事では便宜上クロマグロを太平洋クロマグロとしております

 東アジア近海からメキシコ沿岸まで、大洋を回遊するこの大型魚は、「本まぐろ」とも呼ばれ、寿司や刺身の原料として高値で取引されることから「海のダイヤ」とも言われています。そして、日本はその7割以上を消費する、世界最大の消費国です。

 しかし、長年続いた過剰な漁獲により、その資源量は危機的な状況に陥りました。

 太平洋クロマグロ資源量は、2010年には初期資源量(B0:漁業が開始される以前の推定資源量)の1.7%まで減少しましたが、その後の漁獲規制の効果により資源量は回復傾向に転じ、2022年には23.2%(約14.4万トン)と、回復目標であった20%B0に予定よりも13年早く到達。一時は絶滅が危惧された太平洋クロマグロの資源は、安全水準まで回復することができました。

農林水産省, 楽しく食べる!魚好き集まれ!(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2411/spe1_03.html)より

農林水産省, 楽しく食べる!魚好き集まれ!(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2411/spe1_03.html)より

 これは、2030年までに生物多様性の減少を止めて回復へ反転させることを目指す国際目標「ネイチャーポジティブ」の好事例ともいえ、日本をはじめ関係各国が誇るべき事例となりました。

(リンク)太平洋クロマグロの生物情報ついてはこちら

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)とIATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)とが共同で管理しています。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)とIATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)とが共同で管理しています。

再び乱獲を引き起こさないために 管理戦略評価(MSE)導入の必要性

 資源回復をはたした太平洋クロマグロですが、次は、再度乱獲・資源枯渇を引き起こさないよう、中長期的な漁獲戦略を作成することが重要です。

 そもそも、基本的に、乱獲・資源枯渇を望んでいる漁獲国はいません。しかし、資源が減少した際、自国の直近の利益や産業維持のため漁獲量を減らすことができず乱獲に陥ってしまった事例は数多くあります。特に国際水産資源の場合は、WCPFCやIATTCなどの漁業管理機関に加盟する国々の全会一致の合意が必要のため、漁獲量の削減は特に難しいのが現状です。

 そこで、資源の状況にあわせて自動的に漁獲可能量(TAC)を算出できるようなルールや、その適用条件となる基準値を事前に作成・合意し、中長期的に資源を持続可能なレベルに維持するための戦略(漁獲戦略)を作成する必要があります。

 その際、より安定的な管理を行なうため、当初、予想していなかった不測の事態にも対応できるような仕組みを導入しておくことが重要です(たとえば、気候変動の影響など)。

 そこで、不測の事態もふくめた様々なシナリオを仮定し、候補となる管理戦略案の結果をコンピューターでシミュレーションし評価する管理戦略評価(MSE)という手法が開発されました。

 この手法はすでに、ミナミマグロ、大西洋クロマグロ、中西部太平洋のカツオおよび北太平洋ビンナガで導入、運用されています。

 WWFは、本会合の開催にあたり、WCPFC事務局にポジションペーパーを提出するとともに会合にオブザーバーとして参加。2026年末までにMSEに基づく漁獲戦略が合意されるよう働きかけを行ないました。

WWFがWCPFCに提出したポジションペーパー(英文)
WWF PBF Position Statement for PBFJWG 2026.pdf

2026年のWCPFC北小委員会は長崎市で開催されました。
©Shuhei Uematsu/WWF-Japan/

2026年のWCPFC北小委員会は長崎市で開催されました。

今年も漁獲戦略は合意できず

 WCPFCは、MSEに基づく漁獲戦略の合意に向けて、2025年、26年に計3回の特別会合を実施。

 「クロマグロをどの資源レベルで維持するか(目標管理基準値)」、「資源がどこまで減少したら漁獲量を大幅に減らすか(限界管理基準値)」、「漁獲量を大幅に減らす際にはどのレベルまで漁獲量を減らすべきか」など、主要な要素については、事前に大筋合意したうえで本会合に臨みました。

 なお、現在、太平洋クロマグロ資源は安全水準以上であることから、もし漁獲戦略に合意されれば、自動的に大型魚の漁獲枠が最大25%増加することもあり、本会議の結果は大きな注目を集めていました。

 会合中、最も議論が難航したのが、「太平洋の東西の漁獲比率」です。

 太平洋クロマグロは、太平洋の東西に分布しており、東側はメキシコと米国、西側は日本、台湾、韓国によって主に漁獲されており、現状の漁獲比率は東側20%、西側80%となっています。

 それに対し東側の両国は漁獲比率を30%まで増加させたいという意向を示し、西側の加盟国は現状維持を支持していました。

 なお、どちらの比率でも太平洋クロマグロ資源には悪影響がないような漁獲シナリオが科学者によって提示されていたため、国ごとの利益の配分と、管理の実現可能性などが主な議論となりました。

 度重なる非公開の会議により、合意まであと一歩となりましたが、会議最終日に突如メキシコが合意案に反対を示し、結果、残念ながら今回の会議では合意することができませんでした。それにより、漁獲枠が増枠されることはなく、現状の管理を継続することとなりました。

 ほとんどの参加国は、今回の結果に大変失望していましたが、引き続き、IATTC年次会合など代表団が集まる機会において、継続して議論していくこととなりました。

©Shuhei Uematsu/WWF-Japan/

IUU(違法・無報告・無規制)漁業対策は一定の進捗

 数年前、日本においてクロマグロの未報告漁獲という不正行為が相次いで発覚しました。これは世界的に問題となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業とみなされる行為であり、日本だけでなくWCPFCのクロマグロ管理の信頼性を損なう事件となりました。

 再発防止のため、水産庁は、漁業法の一部改正やクロマグロを流通適正化法の対象魚種に追加するという国内法強化を実施。IUU漁業対策を強化しました。

 しかし、これは日本国内のみが対象となるため、海外での未報告漁獲を防ぐことはできません。特に近年は、クロマグロの資源回復にともなって分布域や漁獲可能域も拡大しています。

 いままでクロマグロが漁獲されなかった場所でも漁獲されようになったということは、現行の管理が及んでいないIUU漁業によって、新たに漁獲されるというリスクも高まっている可能性があります。

 そこでWCPFCでは対策として、漁獲証明制度(CDS)の導入と、クロマグロ漁業の監視の強化をする方針としています。

 CDSは、「いつ、どこで、だれが、どのように、どれくらい」クロマグロを漁獲したかを示す証明書がなければ、クロマグロを輸出できないようにする仕組みで、すでにミナミマグロや大西洋クロマグロで導入されています。

 日本が主導で導入検討していますが、WCPFCとIATTCという異なる2つの地域漁業管理機関(RFMO)で運用するという、他にあまり例のない事例であることから、計画通りの進捗ができずにいました。

 2026年の会合では、ようやくCDSについての保全管理措置(CMM)のドラフトが合意され、今後、各国の予算配分など詳細を確定させ、パイロット試験を実施することとなりました。

漁獲戦略の早期合意にむけて より強固な国際連携を

 今回の会合では、昨年に続き太平洋クロマグロの中長期的な漁獲戦略の合意に失敗するという、大変残念な結果となりました。

 会合に出席したWWFジャパン海洋水産グループ漁業政策シニアマネージャーの植松周平は、今回の結果について次のように述べています。

 「絶滅の危機から奇跡的に資源回復した太平洋クロマグロを今後どのように管理していくか、世界的にも注目される会合となりました。焦点となったのは、東西の漁獲比率、すなわち各国の利益の配分比率です。
 それぞれの主義主張があるなか、各国が話し合い歩み寄るのが国際社会のあるべき姿です。しかし今回は、漁獲量第2位のメキシコが、最終日、突如調整案に反対し、理由についても明らかにしませんでした。明確な理由や根拠が示されないままこれまでの議論や努力が無駄になったのはとても残念です。
 IATTC年次会合など、まだ議論できる場は残されています。年内の合意をまだあきらめるべきではありません。
 持続可能な太平洋クロマグロ漁業を実現することは、国際的な目標を達成することであり、海洋生態系の保全においても重要な意味を持つものです。
 その合意に向けた国際協調の強化と議論を、各国が加速させることを期待します」。

 太平洋クロマグロの漁獲戦略合意のため、WWFは、WWFネットワーク各国、NGO、マーケットステークホルダーなどと連携しながら、引き続きRFMOや各国政府に働きかけを行なっていきます。

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