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奄美大島でのサンゴ礁生態系保全プロジェクトを本格始動

この記事のポイント
WWFジャパンは、2025年4月に奄美大島でのサンゴ礁生態系保全プロジェクトを開始しました。鹿児島県大島郡大和村国直にて、海のサンゴ礁生態系に関する調査や、集落の暮らしや文化、海との関わりに関する調査を行ないます。その結果をもとに、地域の観光・生活・文化に根差した、持続可能な海の生物多様性やサンゴ礁生態系の保全を、集落や関係協力機関とともに検討・実施していきます。
目次

なぜサンゴ礁生態系保全が必要か。

「海の熱帯雨林」と呼ばれるサンゴ礁は、全ての海洋生物種の25%がすみかとする、地球上で最も生物多様性が豊かな環境です。

また、人間も、食料の調達や漁業・観光業、防波効果など、サンゴ礁の生態系サービスが生み出すさまざまな恩恵を享受しています。

しかし、南西諸島では、1960年代以降、沿岸開発や埋め立て、赤土や栄養塩等の海洋流出、観光での不適切・過剰な利用、さらにオニヒトデなど食害生物の大発生により、サンゴの生息環境の劣化や悪化、減少が続いてきました。

国や地方の行政、大学・研究機関、企業やWWF等のNPO等、様々な組織や個人が、こうした脅威の軽減を目指すさまざまな取り組みを行なってきました。

ところが近年、こうした従来の脅威に加え、気候変動に伴う海水温の上昇が進行。

その影響によって、サンゴの白化やへい死の規模や頻度が増しています。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気温上昇を1.5度に抑えられたとしても、世界全体でサンゴの70~90%が失われ、2度以上の場合は99%が失われると予測しており、気候変動の影響を踏まえたサンゴ礁生態系の保全が急務となっています。

そこでWWFジャパンでは、2025年から、サンゴの保全上、重要度の高い海域に着目したプロジェクトを鹿児島県大島郡大和村国直にて新たに開始しました。

多様なサンゴが織りなすサンゴ礁生態系は危機に瀕し、その減少が危ぶまれている。
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多様なサンゴが織りなすサンゴ礁生態系は危機に瀕し、その減少が危ぶまれている。

プロジェクト概要

プロジェクト名 大和村国直でのサンゴ礁生態系保全プロジェクト
目標 国直のサンゴ礁生態系の回復力向上に向けて、住民と連携したモニタリングや保全が地域に定着していること。
期間 2025年4月~2030年6月
実施地 鹿児島県大島郡大和村国直
協力地域・関係機関 鹿児島県大島郡大和村国直集落、NPO法人TAMASU、奄美漁業協同組合、大和村役場、奄美海洋生物研究会、日本造礁サンゴ分類研究会、環境省奄美群島国立公園管理事務所(敬称略・順不同)

大和村国直でのサンゴ礁生態系保全プロジェクト概要

 

本プロジェクトでは、国立環境研究所や奄美群島サンゴ礁保全対策協議会、奄美海洋生物研究会の協力のもと、サンゴ種の多様性やサンゴ礁の健全性、白化からの回復状況、他の海域とのつながり等の観点で、サンゴの保全上重要性の高い海域を複数特定し、最終的に現場調査を経て国直をプロジェクトサイトとしました。

大和村国直の集落と海
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大和村国直の集落と海

今後は、国直の海のサンゴ礁生態系や、集落の生活・文化と海の関わりに関する調査を予定しています。

得られた情報をもとに、国直集落の観光・生活・文化に根差した形で、人的脅威の回避・抑止や、食害生物の大発生といった自然の脅威に対して迅速な対応が可能な体制を、集落の方々とともに検討・構築し、海の生物多様性保全、国直のサンゴ礁生態系保全を目指します。

2025年7月 第1回サンゴ礁調査

2025年7月、第1回サンゴ礁調査を実施しました。調査の内容と、報告会については、こちらをご覧ください。

日本のサンゴ礁生態系とその保全

奄美大島にて第1回サンゴ礁調査を実施!

奄美大島でサンゴ礁調査の報告をしました!

第1回サンゴ礁調査の様子
© 藤井琢磨

第1回サンゴ礁調査の様子

【参考情報】気候変動の中でのサンゴ礁生態系の保全について

南西諸島の海では、サンゴの白化やへい死の規模や頻度が増しています。

2024年は、過去に大規模な白化が起きた1996年や2022年に次いで、数多くの地域で広範囲での白化が確認されました。

国直のある奄美大島でも、1998年に次ぐ大規模白化が発生し、奄美海洋生物研究会が調査したすべての地点(63地点)で白化が確認され、その影響によるへい死率は平均61.2%に及びました。

サンゴの白化やへい死は、夏季の平均海水温が高かったことが影響していると考えられます。

こうした変化について、気候変動とサンゴ礁生態系の関係の2人の専門家は、次のように述べています。

山野博哉教授
(東京大学 大学院 理学系研究科・理学部、国立環境研究所 生物多様性領域 上級主席研究員)

地域が主体となり、サンゴ礁のある海への理解を深め、脅威から守る方法や体制を備えていくことで、海水温の上昇という回避が難しい脅威が迫るなかでも、サンゴ礁生態系の回復力の強化につなげていきたいと考えています。

南西諸島でサンゴが減少した場合、他にそれを代替する生態系が成立しにくいでしょう。

そうなると、一方的に衰退ということになり、水産資源も減少してしまうのではないかと思います。

もちろん、それに抵抗し、遠くの北や外国からこれまでの魚をとってくるということも短期的にはあり得ます。

しかし、それは持続的ではありませんので、長期的には社会の意識を変える必要に迫られるでしょう。

変化への対応や備えとして、まずは、海の中を知ることが必要です。

陸と違って海の中は普段は見えないので、意識されることが少ないと思います。そのため、科学的な知見をいかに伝えるかが課題だと思います。

阿部博哉研究員
(国立環境研究所 気候変動適応センター(アジア太平洋気候変動適応研究室) 研究員)

沿岸域の生態系が急激に変化するような場合には、これまでの利用や保全管理との間にギャップが生じる可能性があります。

これまでに利用していた資源が劣化した場合には、新たに活用できる資源を探すことが求められます。

また、保全や管理をすべき対象種が変わってくる可能性もあります。

気候変動下においては現状の生態系を維持することを目指す「保全策」だけでなく、変化に応じて対応する「適応策」の考え方がより一層重要になってきます。

ただし、自治体によって沿岸生態系を資源として認識・利活用しているかには大きな違いがあり、サンゴ等の変化がどの程度人間活動に影響を与えるかについては地域の差が顕著であると考えます。

サンゴに限らず、沿岸域の環境や生態系の変化にいち早く気づくことがまず重要です。

海の中の変化をくまなく把握することは容易ではないため、沿岸域の漁業やマリンレジャーに携わる人々からの情報や市民参加型のモニタリングを活用していくことが不可欠です。

上記の2名の専門家のコメントを踏まえると、気候変動が進む中でサンゴ礁の保全を進めていくためには、まず地域住民や関係者と協力して海の中の様子を知り、その変化にいち早く気づけるようになることが重要と言えます。

また、何を海の自然の恵みと捉え、どのように活用するか、考え方や関わり方を、地域の実情を踏まえて再構築し、それを踏まえた保全活動を展開していく必要もあります。

伝統の舟こぎ競争が続く大和村。海と人、人同士がつながっている。
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伝統の舟こぎ競争が続く大和村。海と人、人同士がつながっている。

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