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ペルーでの水産物の電子的なトレーサビリティの確保に向けた挑戦

この記事のポイント
世界の海や水産資源、さらには漁業者や労働者の脅威となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業。このIUU漁業由来の水産物を排除するうえで求められていることが、漁獲から最終消費地までの一貫したフルチェーン・トレーサビリティの確保です。WWFジャパンでは、WWFペルーと協力し、ペルーでの電子トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」の導入を推進。ペルーと日本の企業との協働も進め、漁獲の現場から日本市場まで、透明性や信頼性が担保された電子的なトレーサビリティの確保に挑戦しています。
目次

IUU漁業対策と電子トレーサビリティシステムの必要性

水産資源の減少や海洋生態系への悪影響、正規の漁業者の利益の損害、さらには乗組員の人権侵害など、世界の海の脅威となっている、IUU(違法・無報告・無規制)漁業。

水産物の流通が複雑であることに加え、IUU漁業由来の水産物を流通から排除するための仕組みが十分に整っていないことなどが、IUU漁業が蔓延している大きな理由となっています。

こうした状況の中、各国・地域では法令の強化や地域漁業管理機関での管理の強化をはじめとした対策が進められています。

日本でも、2022年12月に「水産物流通適正化法」が、新たに施行され、対象となる水産物を取り扱う事業者は、取引情報の伝達や取引記録の作成、さらに輸出入に際して保存や適法な採捕の証明書類の添付義務付け等が必要となりました。

これらはいずれも、漁獲から販売までの、流通に関する情報を集めて可視化し、追跡可能(トレーサブル)にすることで、IUU漁業で漁獲された問題のある水産物が、流通経路に混ざらないよう、排除することを推進するための措置です。

しかし、同法で現在対象となっているのは国内水産物4種・輸入規制対象種の4種のみに限られており、対象魚種の拡大が求められています。

ペルーで水揚げのために集まる多数のアメリカオオアカイカ漁船。水産物流通適正化法の輸入規制対象種のひとつであるイカの主要な輸入相手国であるペルーでも、IUU漁業対策が大きな課題となっています。
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ペルーで水揚げのために集まる多数のアメリカオオアカイカ漁船。水産物流通適正化法の輸入規制対象種のひとつであるイカの主要な輸入相手国であるペルーでも、IUU漁業対策が大きな課題となっています。

そこで法整備とともに欠かせないのが、各水産物サプライチェーンで、漁獲から最終消費地までの一貫したフルチェーン・トレーサビリティを確保することです。

流通経路が複雑な水産物の場合、企業は調達する水産物について、どこから購入したか(サプライヤー)や産地(原産国)の情報は保持していても、いつ、どこで、誰が、どのようにして漁獲したかといった詳細な情報は、サプライヤーに問い合わせをして、遡って情報を取得する必要があります。

こうした場合、必要な漁獲情報を取得するのに時間を要すだけではなく、情報の入力ミスや意図的な改ざんがあったとしても察知しにくく、IUU漁業由来の水産物の流通を防止しにくいといった問題点が指摘されています。

そのため、統一した手法で、電子的なデータ連携システムを構築することが提唱されています。

それを実現する試みの一つが、2017年に設立された、GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)です。これは水産物の流通・トレーサビリティシステムの国際標準化のためのプラットフォームで、WWFでは、GDSTに準拠したトレーサビリティシステムの導入支援を行なっています。

電子トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」

しかし、電子的なシステムを構築し、それを複雑な水産物サプライチェーンの各ステークホルダーに導入を進め、さらに各地点でのデータを連携させることは容易ではありません。

こうしたことからWWFジャパンは、WWFペルーと協力し、特にIUU漁業リスクの高い魚種のひとつであるアメリカオオアカイカなどの漁業で、電子的なトレーサビリティの確保を推進しています。

そのプロジェクトの中心となるのが、WWFペルーが2018年に開発し、翌年導入を開始した電子トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」の導入と拡大です。

このシステムを用いることで、誰が、いつ、どこで水産物を漁獲し、どのような経路で流通しているかを明確にすることができます。

また、無償のスマートフォンアプリであるため、漁業や流通に関わる関係者は誰でも、リアルタイムで水産物の漁獲や流通に関するデータの記録や確認を行なうことができます。

加えて、このシステムは、国際的なトレーサビリティに関する標準であるGDSTにも準拠しています。

そのため、このシステムを通じて、GDST標準で求められているデータを記録することで、世界的にも信頼性の高いトレーサビリティを確保することができます。

「トラスアップ(TrazApp)」を用いることで、漁業者や流通に関わる関係者は、漁獲や流通のデータをリアルタイムで簡単に登録・管理することができます。
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「トラスアップ(TrazApp)」を用いることで、漁業者や流通に関わる関係者は、漁獲や流通のデータをリアルタイムで簡単に登録・管理することができます。

また、トラスアップは、ペルー政府にも公認され、ペルーの漁業の中核を占める小規模零細の漁業者による利用が拡大しています。

漁業者にとっても、漁に出る際に必要な出漁許可をスマホのアプリからより手軽に申請・取得できるなど、大きなメリットとなっています。

これまで透明性が大きな課題となってきたペルーの小規模零細漁業における重要な進展であり、日本など現地からイカ等を輸入する消費国にとっても、そうした情報を把握するうえで大きな一歩です。

このように、アメリカオオアカイカを中心に、漁業の現場でトラスアップを用いたトレーサビリティの確保が進んでいる一方、その情報を日本などの輸出先国まで電子的に連携させていくことが、課題となっています。

トレーサビリティ情報を電子的に連携させていくには、現地側と輸出先国側でのシステムの構築や改修、またデータ形式の調整など、
現地の関係者だけでなく輸出先国の関係者の協力が必須で、さまざまな課題に対処する必要があります。

そこでWWFジャパンとWWFペルーは、最終的なフルチェーン・トレーサビリティの確保も見据え、ペルー側と日本側の関係者と協力し、こうした課題に対処し電子的にトレーサビリティ情報を連携させていくことに挑戦しています。

電子的なトレーサビリティ確保に向けたペルーと日本の関係者との協働

電子的なトレーサビリティの確保とデータ連携に向けて、日本の水産企業であるUmios株式会社(旧称マルハニチロ株式会社、以下Umios社)と、同社の現地ペルーのグループ会社であるSakana del Perú S.A.社(以下、サカナ社)と協働で進めています。

WWFではサカナ社に働きかけ、2024年から同社の漁業にトラスアップを導入。安定的に漁獲調達されているマルアナゴ(Ophichthus remiger)を用いて情報を電子的に記録することに着手しました。

それにもとづき、同社からUmios社まで、トレーサビリティ情報を電子的に連携させていくことに取り組んでいます。

南米大陸沿岸に分布するマルアナゴ。日本ではアナゴの代替品として煮アナゴや天ぷらとして食べられています。
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南米大陸沿岸に分布するマルアナゴ。日本ではアナゴの代替品として煮アナゴや天ぷらとして食べられています。

ペルーの現場では、漁獲から加工までの情報が、トラスアップを通じて電子的に記録が行われています。

特に加工については、サカナ社におけるマルアナゴの加工工程に合わせたシステムの構築が必要となったほか、漁獲から加工までの記録を一貫した状態で紐づけ管理するためのシステム改修も実施。

漁獲や加工に関わるスタッフも含め、実際に使用するサカナ社と密に連携しながら、現場の状況に合わせた調整を行ないました。

その結果、漁獲から出荷前までの情報が一貫した状態で記録し管理できるようになりました。

マルアナゴ漁船
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マルアナゴ漁船

水揚げ現場でトラスアップを通じて情報を記録するサカナ社のスタッフ
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水揚げ現場でトラスアップを通じて情報を記録するサカナ社のスタッフ

加工場でトラスアップを通じて情報を記録するサカナ社のスタッフ
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加工場でトラスアップを通じて情報を記録するサカナ社のスタッフ

現在は、ペルーの現場で記録された情報を日本側で引き継ぐためのデータ連携に向けた検討が進んでいます。

データ連携するうえでは技術的な課題もあり容易ではありませんが、ペルーの漁獲現場から日本市場までデータ連携された電子的なトレーサビリティの確立が近づいています。

さらに、サカナ社では、2026年5月にマルアナゴ漁業で、ペルーで初めてとなるMSC漁業認証を取得。

電子的なトレーサビリティの確保に加え、国際認証のMSC漁業認証規格の要件を満たしたことで、マルアナゴ資源の持続可能性や海洋環境の保全にとって大きな成果が見られています。

近年、世界各国・地域で水産物のトレーサビリティの確保がますます重要となる中で、トラスアップによるGDST標準に準拠した電子的なトレーサビリティの確保の取り組みが、先進的な事例となり、同様の事例が他のサプライチェーンや企業にも拡大していくことが期待されます。

WWFジャパンとしても、小売店や飲食店などの最終消費の現場までの連携も見据え、電子的なトレーサビリティの確保に引き続き取り組んでいきます。

【動画】ペルーでの電子トレーサビリティシステム「トラスアップ(TrazApp)」導入の取り組み

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