© Magnus Lundgren / Wild Wonders of China / WWF

イカ類の資源の現状と持続可能性への課題

この記事のポイント
イカ類は日本が消費する重要な水産物のひとつですが、近年、世界的な需要の増加と、それに伴う深刻な資源枯渇が危惧されています。日本近海で漁獲されるスルメイカは、歴史的な不漁に見舞われています。その原因としてIUU(違法・無報告・無規制)漁業や海洋環境の変化があげられています。いっぽうシーフードミックスなどに使われるアメリカオオアカイカは、現状では資源は安定しつつも主として中国船による公海上での漁獲圧の影響が危惧されており、こちらも予断を許さない状況です。
目次

イカ類の基礎情報

イカ類はタコやオウムガイと同様、頭足類に属する軟体動物で、スルメイカ、ヤリイカ、ホタルイカなど、さまざまな種類があります。タコの8本足に対し、イカは10本と言われますが、そのうちの2本は触腕と呼ばれ、ほかより長く主に餌を捕獲する際に活躍します。ミミ、エンペラなどと呼ばれる部位は、ヒレで遊泳時の方向転換などの役割を果たします。
多くのイカ類の寿命は1年と言われています。最大で体長10メートルを超えると言われるダイオウイカですら寿命は3年ほどと思いのほか短命です。

代表的なイカのひとつ、スルメイカ

スルメイカは、日本近海で最もよく漁獲される胴長30センチメートルほどのイカ類です。東シナ海から山陰沖を産卵場とし、日本近海から北太平洋にかけて分布します。秋、冬、そして春の年3回の産卵期があり、季節によって分布(漁獲海域)が異なります。生鮮、干物、乾物、塩辛などの加工品など、幅広く利用されています。主に集魚灯を利用したイカ釣りによって漁獲されます。

スルメイカ

スルメイカ

天ぷら、シーフードミックスなど加工品の原料、アメリカオオアカイカ

アメリカオオアカイカは、中南米の太平洋沖に分布する、胴長1メートルを超える大型のイカ類です。聞きなれない魚種ですが、近年の国産スルメイカの漁獲量減少を補完する重要な魚種であり、天ぷら、シーフードミックスほか乾燥珍味、冷凍イカ・加工品として幅広く利用されています。沿岸国による釣り漁業に加え、近年は沖合の外国船による釣り漁業が増大しています。

アメリカオオアカイカ
© Yawar Films WWF-Perú

アメリカオオアカイカ

イカ類資源の現状

世界のイカ需要は増加しており、漁獲量は拡大傾向にありますが、近年は30万トン前後とやや低迷しています。その約7割は太平洋で漁獲されていますが、2005年以降、太平洋北西部(日本近海)の漁獲が減少傾向にあるいっぽうで、太平洋南東部(ペルー沖)の漁獲量が急増しています。

太平洋におけるイカ類の海域区分別漁獲量の推移(FAO FishStatより水土社作図)

太平洋におけるイカ類の海域区分別漁獲量の推移(FAO FishStatより水土社作図)

スルメイカの現況

スルメイカは近年、資源量が急激に減少し、それに伴い漁獲量も減少しています。直近の漁獲予想でも前年並みか平年を下回るとされ、残念ながら不漁が続くと予測されています。秋に産卵し翌春に漁獲シーズンを迎えるスルメイカの系群は、主として日本海で漁獲され、中国、韓国も漁獲していますが、中国の漁獲量は未報告(0トン)となっており、資源量の推定や漁獲管理方策に深刻な影響を与えています。

スルメイカ(秋季系群)の国別漁獲量(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所 わが国周辺の水産資源の評価より作図)

スルメイカ(秋季系群)の国別漁獲量(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所 わが国周辺の水産資源の評価より作図)

アメリカオオアカイカの現況

南米太平洋沖に分布するアメリカオオアカイカは、ペルーと中国でその全体の9割以上を漁獲しています。現在のところ資源は「乱獲状態にはない」と評価され、安定した漁獲量が期待されますが、近年沿岸国の排他的経済水域(EEZ)外である公海での中国漁船による漁獲が急増していること、またエルニーニョなど海洋条件により大きく影響を受けることから、科学的情報の収集と国際的な管理方策の強化が必要です。

世界におけるアメリカオオアカイカの国別漁獲量(FAO FishStatより水土社作図)

世界におけるアメリカオオアカイカの国別漁獲量(FAO FishStatより水土社作図)

資源管理とIUU漁業

イカ類の資源管理の現状と課題

イカ類は複数の国の領海・EEZ、または公海にまたがって分布する資源のため、関係する多国間による資源評価と管理が必要です。しかしながら、太平洋の資源管理についての話し合いの場としてはNPFC(北太平洋漁業委員会)が設置されているものの、スルメイカについての議論はまだ十分には行われておらず、主要な漁場である日本海においては関係国(日本、中国、韓国)による水産資源管理体制が未整備のままです。
アメリカオオアカイカについては、SPRFMO(南太平洋地域漁業管理機関)での公海上での漁獲管理について議論が始まったばかりで、今後の実効的な管理施策の導入が必要です。

IUU漁業

イカ類はIUU漁業(違法・無報告・無規制)漁業がしばしば問題になっています。日本は主として中国とペルーから大量のイカ類を輸入していますが、ある調査報告によると中国から輸入されるイカ類の35~55%はIUU漁業由来と推定され、実際にFAO(国際連合食糧農業機関)に報告された漁獲データは0であるにも関わらず、衛星画像を使った分析からは日本海における中国船によるイカの夜間操業が確認されています。現在は中国政府の管理強化によりこうしたIUU漁業は減少しましたが、依然として不透明な状況が続いています。

中国からの主要な輸入水産物のIUU漁業の推定値(G. Pramoda et al. (2017) より作図)

中国からの主要な輸入水産物のIUU漁業の推定値(G. Pramoda et al. (2017) より作図)

いっぽうペルー沿岸におけるアメリカオオアカイカ漁業においても、操業を行う漁船の多くが正規の漁業許可を未取得または取得の過程にあるため、IUU漁業由来のアメリカオオアカイカの流通が蔓延しています。そのためWWFペルーでは、スマートフォンアプリを活用した漁業者の登録と漁獲情報の記録管理を進め、小規模零細の漁業者による漁船の漁業許可取得のサポートを行うために、IUU漁業の防止と持続可能なイカ漁業を推進しています。

WWFペルーによる漁業者へのスマートフォンアプリ(TrazApp)の現地説明会の様子

WWFペルーによる漁業者へのスマートフォンアプリ(TrazApp)の現地説明会の様子

日本とマーケットの責任と役割

イカ類は日本にとって需要な水産資源のひとつですが、世界的なイカ類の需要拡大、IUU漁業由来のイカ類流通の蔓延や国際的な管理対策の遅れにより、資源の安定調達が危ぶまれています。そこで2020年に施行された水産流通適正化法では、輸入イカ類について漁獲証明の添付が義務付けられました。
しかしながらIUU漁業を撲滅するには不十分で、国際的な資源管理強化が必須です。日本のイカ類を調達する企業は、国際的な資源管理強化の声を水産庁や国際管理機関、生産国に対し上げていくことが求められます。加えて、由来の明らかなイカ類の調達を進めるために、漁獲情報を含むトレーサビリティの確保を、加工や販売の調達先に働きかけていくことが重要です。

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