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IUU漁業について

この記事のポイント
IUU漁業とは、Illegal, Unreported and Unregulated漁業、つまり、「違法・無報告・無規制」に行なわれている漁業のことです。IUU漁業には、いわゆる密漁だけでなく、不正確および過少報告の漁業、旗国なしの漁船による漁業、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域での、認可されていない漁船による漁業も含まれます。現在、世界の海では、このIUU漁業が海洋の環境を悪化させる大きな要因の一つになっているため、WWFではその規制と管理強化の支援に取り組んでいます。
目次

世界の海を損なうIUU漁業

魚や貝、エビなど、世界のさまざまな水産資源は、近年減少の一途をたどっています。

その主な原因は、「乱獲」や「獲りすぎ」、すなわち水産資源の過剰な利用です。

この問題を解決するには、科学的根拠に従った実効性ある資源管理が必要です。

しかし、各国がそうした漁業管理を行なうための制度や法律を作っても、それが守られなければ意味がありません。

Illegal, Unreported and Unregulated漁業、つまり、「違法・無報告・無規制」で行なわれるIUU漁業は、こうした資源管理の実効性を脅かしている、大きな国際問題のひとつなのです。

  • 違法漁業(Illegal):国や漁業管理機関の許可なくまたは国内法や国際法に違反して行なう漁業
  • 無報告漁業(Unreported):法律や規則に違反し、報告が行われていない、または虚偽の報告を行なう漁業
  • 無規制漁業(Unregulated):無国籍または当事国以外の船舶が、規則および海洋資源の保全管理措置に従わずに行なう漁業

さらに、これらのIUU漁業においては、乗組員や漁業監視員(混獲や漁獲実態を調査報告するための調査員)の健康や生命を脅かすような人権問題も報告されるようになり、早急な対策強化が望まれています。

IUU漁業の実態

ある推定によると、世界のIUU漁業による漁獲量は1,100~2,600万トン、金額に換算して100~235億USドル(日本円に換算して、1兆1000億円~2兆5845憶円)に上るとされています(*1)。

これは日本の漁業・養殖業を合わせた生産量(442万トン)よりはるかに多く、ほぼ同等の生産額(1兆5579億円)に相当する損失です(*2)。

*1:David J. A. et al. (2009) Estimating the Worldwide Extent of Illegal Fishing.
*2:水産庁(2019)令和元年度 水産白書

図1.世界のIUU漁業による漁獲量と日本の漁業生産量との比較。毎年多くの水産物が不適切に漁獲され、販売・流通されている。

そこでWWFでは、10の種群において、日本の水産物市場におけるIUU漁業由来のリスクが高い魚種を特定するため、生産(漁獲)から流通、消費の6つの過程それぞれでリスク分析を行いました(*3)。

それによると、日本市場にIUU漁業由来の水産物が流入しているリスクは中~高程度であり、中でもウナギ類、ヒラメ・カレイ類、サケ・マス類で、そのリスクが高いことが判明しました。

*3:WWF Japan (2017) IUU Fishing Risk in and around Japan

図2.日本に流通する水産物のIUUリスク(WWF Japan (2017) より作図)

また別の調査研究によると、日本が輸入する上位9カ国で評価したところ、2015年に輸入した天然水産物215万トンの24~36%、金額にして1800~2700億円が、違法または無報告漁業によるものと推定されました(*4)。

国別・魚種別では、中国からのイカ・コウイカが最も多く、26,950~42,350トン、ついでアメリカからのスケトウダラ(18,342~26,901トン)、中国からのウナギ(8,162~13,603トン)と続きます。

中でも中国のウナギは輸入量(18,138トン)の45~75%を占めていることが推定されました。

*4:G. Pramoda, T. J. Pitcherb & G. Mantha (2017) Estimates of illegal and unreported seafood imports to Japan. Marine Policy 84.

図3.2015年に日本が輸入した主な水産物に占める違法・無報告漁業の推定量(G. Pramoda et al. (2017) より作図)

IUU漁業は海外の天然水産物に限ったものではなく、国産であっても養殖水産物であってもそのリスクは存在します。

水産庁の報告によると、毎年1,400件を超える違法漁業が検挙されています(*5)。

また養殖の場合、種苗や飼料原料として天然魚が多く使われており、IUU漁業のリスクが存在します。

ウナギの場合、日本で消費する99%は養殖によって生産されていますが、シラスウナギ(ウナギの稚魚)漁におけるIUU漁業リスクが高いことが知られています。

このようにIUU漁業が依然として蔓延している理由としては、主に次のような原因が考えられます。

  • 水産物の流通が複雑なこと
  • IUU漁業由来ではないことを証明するのに必要な漁獲情報を記録、保持し、流通の過程で正確に伝達する仕組みがないこと
  • 疑わしい水産物を識別、排除する仕組みが整っていないこと など

*5:水産庁(2019)漁獲証明制度に関する検討会(第1回) 漁獲証明制度に関する現状と課題 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/attach/pdf/gyokakusyoumei-2.pdf

IUU漁業が与える影響

水産資源の減少と環境への被害

1974年から2018年までの水産資源の状態を比べてみると、健全な資源状態の水産資源が占める比率が確実に下がり、一方で、枯渇の危機、つまり過剰に利用されているものが増えています。

結果として、開発の余地のある十分に豊富な水産資源は、10%にも満たないのが状況です。

水産資源の回復や持続可能な利用には、科学的な情報に基づいた管理方針に従うことが重要ですが、IUU漁業はこの方針に反するだけでなく、漁獲データが不正確となり科学的な分析を困難にします。

またIUU漁業ではその操業実態を隠ぺいするため、漁具の海中への遺棄によるゴーストギア発生のリスクも指摘されており、海洋生態系への影響が危惧されています。

正規漁業への損害

前述の調査によると、IUU漁業による被害額は、100~235億USドル(日本円に換算して、1兆1000億円~2兆5845憶円)と推定されています。

この値は日本の水産物の生産額とほぼ同等にも関わらず、その漁獲量は日本の生産量の実に2.5~5.9倍にも及びます。

すなわち、IUU漁業由来の水産物が安価で販売され、その分だけ正規の漁業者の利益を損なっていると考えられます。

アメリカでの研究では、IUU漁業により約10億米ドルもの損害を漁業者は被っており、IUU漁業を排除できれば、漁業者の収益は20%上昇すると算定されました(*6)。

*6:WWF (2016). An Analysis of the Impact of IUU Imports on U.S. Fishermen.

人権問題

近年、IUU漁業に関連して問題視されているのが、乗組員や漁業監視員、加工場等での労働者の健康や安全、そして人権問題に関するものです。

特に遠洋マグロ漁船などの外国人乗組員(多くはインドネシアなどの東南アジアからの移民労働者)が、航海中に不十分な食事や休息の中、長時間労働を強いられ、パスポートの没収や暴行などの行為も行なわれている事例が報告されています(*7)。中には航海中に死亡し、海洋に遺体を投棄した事例も発覚しています。

またマグロ・カツオ類の遠洋漁業では、漁獲や混獲などのデータを取得するため、地域漁業管理機関より派遣された漁業監視員が乗船しますが、航海中に行方不明になる事例も報告されています(*8)。

タイの養殖エビの加工場では児童労働が高い頻度で行なわれており、就学の機会が失われているだけではなく、火器の取り扱いなどの危険な作業や長時間労働に従事しているという報告もあります(*9)。


*7:認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ(2021)水産業における人権侵害と日本企業の関わりに関する報告
*8:https://wwf.panda.org/wwf_news/?
256511/WWF%2Dcalls%2Dfor%2Dend%2Dto%2Dharassment%2Dand%2Dworse%2Dof%2Dfisheries%2Dobservers
*9:The Asia Foundation and International Labour Organization (2015) Migrant and Child Labor in Thailand’s Shrimp and Other Seafood Supply Chains: Labor Conditions and the Decision to Study or Work.

写真:日本のマグロはえ縄漁船で働く外国人乗組員。日本の漁業においても外国人労働者は欠かせないものとなっている。

IUU漁業の根絶のための制度や取り組み

海洋という広く取り締まりの難しい場所で、このIUU漁業を減らしてゆくことは、容易なことではありません。

しかし、国、企業、マーケットなどでさまざまな対策が強化されつつあります。

寄港国措置協定(PSMA:Port State Measure Agreement)

正確には、違法漁業防止寄港国措置協定と言い、FAO(国連食糧農業機関)によって、2016年に30か国の参加によって発行された、IUU漁業の防止・抑制・廃絶を目指した、法的拘束力のある国際協定です。

IUU漁業の疑いが高い船舶の入港および港の利用の拒否や船舶の取り調べなどを可能とします。日本は2017年に批准しました。

図4.寄港国措置協定PSMAの利点

漁獲証明制度(Catch Documentation Scheme)と輸入管理制度(Import Control Scheme)

2020年、日本ではIUU漁業対策を目的として、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産物流通適正化法)が制定されました。

これによりIUU漁業リスクが高い特定の水産物において、漁獲者、漁獲海域(水揚げ港)、漁獲日、漁獲量などの情報を登録管理する「漁獲証明制度」が施行されるとともに、輸入水産物についても輸出国に対して同様の情報の提示を求める「輸入管理制度」が施行されます。

またこれらの情報の記録、発行、遡及のための電子化技術の導入も検討されています。

地域漁業管理機関(RFMO:Regional Fishery Management Organization)

マグロやカツオ、サンマなどのように、自国の領海や排他的経済水域を超えて分布・回遊する水産資源を管理するためには、漁業を行なう国々が協力して資源管理規則を定め実行する必要があります。

魚種や海域によってRFMOは複数あり、日本と特にかかわりが深いのはWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)とNPFC(北太平洋漁業委員会)です。

これらの委員会では、魚種ごとの資源量の推定、国別漁獲割り当て、管理方針、混獲対策、IUU対策などが検討されます。

図5.WCPFCとNPFCの漁業管理海域

GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)

WWFとグローバル・フード・トレーサビリティ・センター(GFTC)の呼びかけにより、世界中の水産物のトレーサビリティシステムの相互運用と検証とができる新たな標準を策定することを目指して発足した、水産物のトレーサビリティに関する国際的な対話の枠組で、現在までに100以上の企業・団体が参加しています。

IUU漁業由来の水産物の輸入や流通を防止する際の前提として重要なのは、水産物が漁獲されてから、実際に最終消費者に購入されるまでをトラッキングできるようにする、生産・加工・流通・販売を通じた一貫したトレーサビリティが確保されることで、そのために必要な情報・データセット(KDEs)がまとめられています。

日本においても、水産物を取り扱う企業が、KDEsを網羅したトレーサビリティシステムを構築・導入することが求められています。

MSC認証/ASC認証

MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証とASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証は、持続可能な漁業や養殖業であることを示す国際的な認証制度です。

認証の取得審査にあたり、提出された書類・データの確認や関係者からの聞き取り等を通じて、法令順守をはじめ、操業が持続可能な水準に達しているかが判断されます。

また、認証を取得した漁業、養殖場からの水産物が他と混在しないよう、加工・流通・販売を行なう企業も、CoC認証を取得する必要があり、IUU漁業由来の水産物の流通防止に有効な制度のひとつとなっています。
(小売店では、店内で加工・包装などを行なう場合、CoC認証が必要となります。)

WWFジャパンの活動

WWFジャパンは、海外のWWFオフィスや他のNGO、研究機関と連携して、国(水産庁)や地域漁業管理機関(RFMO)、水産物を取り扱う企業・団体、漁業者・養殖業者に対し、IUU漁業根絶のための仕組みの強化の働きかけ、持続可能な水産物の生産と消費に関しての取り組み支援などを行なっています。

(1) IUU漁業対策フォーラムへの参加

WWFジャパンは、(株)シーフードレガシー、セイラーズフォーザシー日本支局、ザ・ネイチャー・コンサーバンシーとともに、IUU漁業対策フォーラム(IUUフォーラム)を立ち上げ、IUU漁業対策を推進するための情報収集、調査分析、政府や企業との対話・提案、普及啓発などを行なっています。

▼IUU漁業対策フォーラムのウェブサイト
https://iuuwatch.jp/

(2) 水産流通適正化法に関する取り組み

WWFジャパンは、水産庁が2020年設定した「漁獲証明制度に関する検討会」および2021年設立の「水産流通適正化制度検討会議」において、検討委員として議論に参加。

対象魚種の拡大とロードマップの策定、選定基準の設定、生産現場から最終消費地までのフルチェーントレーサビリティの実現、電子化技術の導入などについて提言ならびに情報提供を行なってきました。

©︎WWF Japan

写真:IUU漁業対策フォーラムメンバーとともに、水産流通適正化法に関して野上農林水産大臣(中央)と面談(2021年8月10日)

(3) 地域漁業管理機関への参加と働きかけ

WWFジャパンは、主としてWCPFCやNPFCに参加し、早急に取り組むべき課題や管理方針について提案するとともに、関連する科学者会議等での情報収集、水産庁等との対話を続けています。

(4) 持続可能な水産物の推進

WWFジャパンは、MSC認証やASC認証の推進と、頑強なトレーサビリティシステムの導入を目指し、水産物を取り扱う企業・団体と情報・意見交換を継続しています。

また日本が消費する主要な水産物については、国内外の生産地において、MSC漁業認証規格やASC基準を満たす水準に達することを目指した改善プロジェクトに取り組み、持続可能な水産業を目指す生産者の支援を行なっています。

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