© David Lawson / WWF-UK

オンラインセミナー「エキゾチックペット利用と企業責任」開催報告

この記事のポイント
近年、日本で注目を集める「エキゾチックペット」の飼育。流通量が増加する一方で、遺棄や逃走、それによって生じる外来種化といった課題も生じています。これらの課題解決のためには、ペット事業に関わる企業自身が自主的な取り組みを進めることが必要とされる一方、十分な情報が不足しています。エキゾチックペット利用に関するリスクや企業責任、そして業界・企業が「今」取り組むべきことを伝えるため、WWFジャパンは、2023年3月にペット事業に関わる企業を対象としたオンラインセミナーを開催しました。
目次

地球環境とペット産業の関わり

現在、地球上にはヒトをはじめ、多様な動植物や微生物などが息づいており、それぞれが生態系の中で共生し、バランスを保ちながら生きています。

そして、これらの生命が豊かであることによって、海の恵みである魚や木材から作られる紙、植物の光合成で出来る酸素など、ヒトはたくさんの恩恵を受け、それらを「資源」として利用しています。

人の生活は、生命の豊かさ(生物多様性)の上に成り立っているといっても過言ではないのです。

しかしながら、生物多様性の豊かさを示す指数(生きている地球指数:LPI)*は2018年時点で、1970年に比べ69%減少したことが報告されています。

※「生きている地球指数(LPI)」は、陸、淡水、海など自然の中で生きる、脊椎動物(哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類)の約5,230種、約31,821個体群を対象に、個体群サイズの変動率から計算したもの。

生きている地球レポート(WWF,2022)

生きている地球レポート(WWF,2022)

ペット取引が生物多様性に与える影響

では、この「生物多様性の減少」と「ペット」にどのような関係があるのでしょうか?

生物多様性減少の背景には、化石燃料採掘のための開発や森林伐採、土壌汚染など、人間の活動(人的要因)が深く関係しています。

ペット目的での野生動物の利用も例外ではありません。

例えば、野生動物の過剰捕獲によって種(しゅ)の絶滅の危機を高めてしまう「乱獲」や、本来の生息地以外の場所に生物が定着し、在来種を捕食したり、住みかなどを奪ったりする「侵略的外来種」の問題は、ペット取引と密接に結びついています。

犬猫以外の「エキゾチックペット」の飼育が注目を集める中、商業価値の高い野生動物種が過剰に捕獲され、絶滅のリスクが増加し、遺棄や逃走によりペット目的で輸入された生き物が侵略的外来種となる例が発生しています。

生きている地球レポート(WWF,2022)

生きている地球レポート(WWF,2022)

実際、さまざまな調査や研究からもペット取引と生物多様性の関係性が明らかになっています。

「世界的に成長するエキゾチックペット*市場が、生物多様性保全と侵略的外来生物の出現の両方に影響を及ぼしている」ことが指摘されているほか(Lockwood, et al. 2019)、IUCNのレッドリスト掲載の絶滅危機種のうち11%が、ペット・展示利用の影響を受けているとされています。

また世界の爬虫類の35%以上がペット取引の対象となっており、取引種の90%で野生由来の個体が流通していることが報告されています(Marshall, et al. 2020)。

*本文献では、実利目的以外で飼育している動物および家畜化の歴史が比較的浅い動物をエキゾチックペットと定義。

別名ミズオオトカゲとも呼ばれるサルバトールモニター(Varanus salvator)は、日本のペット市場でも流通していますが、野生由来の個体の販売も多く確認されています。
© Fletcher & Baylis / WWF-Indonesia

別名ミズオオトカゲとも呼ばれるサルバトールモニター(Varanus salvator)は、日本のペット市場でも流通していますが、野生由来の個体の販売も多く確認されています。

ショウガラゴ(Galago senegalensis)は過剰な取引から生きものを守るための国際条約により輸出入が規制され、野生個体は減少傾向にあります。しかし、日本のペット市場で人気があり、2022年にも日本向けの密輸が発覚しています。
© Martin Harvey / WWF

ショウガラゴ(Galago senegalensis)は過剰な取引から生きものを守るための国際条約により輸出入が規制され、野生個体は減少傾向にあります。しかし、日本のペット市場で人気があり、2022年にも日本向けの密輸が発覚しています。

官民学の専門家と共にペット産業へ向けた情報発信

ペット取引が生物多様性に与える影響が明らかになりつつある中、生物多様性回復のためには、調達に携わるペット業界・企業が持続可能な方法で事業を行なっていくことが欠かせません。

また、近年、動物の飼養管理に関する法規制が強化され、社会でも動物福祉への配慮が重視されるようになり、ペット産業を取り巻く環境は大きな転換期にあります。

そこで、WWFジャパンは2023年3月10日、行政および動物福祉の専門家や、ペット産業のCSR推進活動を行うNPOと共に、エキゾチックペットの利用や企業責任について伝えるオンラインセミナーを開催しました。

当日は、ペット産業の企業や団体、関連セクターの方々など約70名の方に参加いただきました。

今回のオンラインセミナーでは、各専門家からエキゾチックペットに携わる企業が知るべきリスクや法規制の現状などを伝えただけでなく、パネルディスカッションを通じて、今後企業がどのように考え、行動すべきであるのかといった方向性も示しました。

オンラインセミナー概要:「エキゾチックペット利用と企業責任」

プログラム

1. 開会挨拶
 日本ペットサミット会長/東京大学大学院教授   
西村 亮平氏
2. 講演(1):「持続可能なエキゾチックペット産業に向けて~企業が知るべき5つのリスク~」
 WWFジャパン 野生生物グループ 岡元 友実子
3. 講演(2):「野生動物の福祉」
 日本獣医生命科学大学 野生動物学研究室 准教授  田中 亜紀氏
4. 講演(3):「動物取扱業の概要と飼い主の責務」
 環境省 自然環境局 総務課 動物愛護管理室 室長   野村 環氏
5. 講演(4):「動物福祉の時代に勝ち残るために―ペット企業に求められる変革とは?」
 認定特定非営利活動法人 人と動物の共生センター  奥田 順之氏
6. パネルディスカッション
 ファシリテーター:奥田 順之氏
7. 閉会挨拶
 WWFジャパン事務局長 東梅 貞義

講演内容

1.開会挨拶

日本ペットサミット会長/東京大学大学院教授 西村 亮平氏

開会の挨拶を、日本ペットサミット会長兼東京大学大学院教授を務められる西村亮平氏よりいただきました。地球上で人類が増加し続ける中で、人以外の動物たちとどう共存・共生するかは極めて重要な課題であり、その一つがエキゾチックペットと呼ばれる動物たちとどう向き合うべきかである、と指摘。本セミナーでの議論からその方向性が見いだされることを期待したいと述べられました。

2.講演(1):「持続可能なエキゾチックペット産業に向けて~企業が知るべき5つのリスク~」

WWFジャパン 野生生物グループ 岡元 友実子

WWFジャパンから、エキゾチックペットの利用に関わる5つのリスクとして、「外来生物化のリスク」「感染症のリスク」「動物福祉に関するリスク」「希少種を扱うリスク」「違法取引のリスク」を紹介しました。

エキゾチックペットに携わる企業は、その利用に伴うこうしたリスクや問題を認識し、エキゾチックペットの適切な利用と管理に取組む必要があること、またこうした企業と取引関係にある企業においても、取引先の取り組み状況の把握と監視を行うことの重要性を訴えました。

3.講演(2):「野生動物の福祉」

日本獣医生命科学大学 野生動物学研究室 准教授  田中亜紀氏

エキゾチックペットに含まれる野生動物のペット利用における動物福祉について、日本獣医生命科学大学の田中亜紀氏より、発表をいただきました。

飼育下の動物においては、野生動物であっても動物福祉を担保しなければならない一方、種の特異的な行動や身体的ニーズを無視したペット利用により動物福祉が損なわれる場面が多々発生していると述べられました。

動物福祉を無視したペットの飼育は、動物と人の双方にとって危険であることからも、野生動物のペット利用について、今後正しい付き合い方をより科学的な側面も含めて検討し、法制度も整備することが必要であると伝えられました。

4.講演(3):「動物取扱業の概要と飼い主の責務」

環境省 自然環境局 総務課 動物愛護管理室 室長   野村環氏

動物取扱業と飼主の責務を考える上で欠かせない法制度の仕組みについては、環境省の野村環氏よりご説明いただきました。

初めに、動物愛護法に基づき、動物取扱業を手掛ける場合に求められる登録や届出の制度を紹介。さらに、令和3年6月1日に施行された動物取扱業の動物管理に関する省令は、犬猫以外のエキゾチックペットにも適用されることに留意が必要であると述べられました。

次に、エキゾチックペットに含まれる希少野生動物は種の保存法において規制や管理がされていると解説がありました。また、本来の生息域外に定着した動植物を管理する外来生物法の改正において、外来生物に関する知識と理解を含め、適切に取り扱うように努めることが事業者および国民の責務として新たに記載されたことからも、事業者自身の遵守に加え、消費者へ伝えることの必要性が共有されました。

5. 講演(4):「動物福祉の時代に勝ち残るために―ペット企業に求められる変革とは?」

認定特定非営利活動法人 人と動物の共生センター  奥田順之氏

動物福祉の概念が日本社会に広く浸透していく中で、世論の意識にも変化が見られていることを踏まえ、こうした状況の中でペット企業に求められる変革について、NPO法人 人と動物の共生センターの奥田順之氏より発表いただきました。

動物愛護管理法の飼養管理基準に関する省令(第3次答申)によれば犬猫以外の哺乳類、鳥類及び爬虫類に係る基準についても、今後検討を進めるものとすると明記されていること、このため次回法改正時にエキゾチックペットの飼養管理基準が具体化される可能性が高いことに留意すべきであることが伝えられました。

また今後、飼養管理基準に関する規制が強化され、消費者の動物福祉に対する意識が高まっていく中、エキゾチックペットに携わる企業は法律を遵守するだけでなく、動物福祉や生態系を守ることを意識した「攻めのCSR」を行なうことが欠かせないと訴えられました。

パネルディスカッション

ファシリテーター:認定特定非営利活動法人 人と動物の共生センター  奥田順之氏
パネリスト:
日本ペットサミット会長/東京大学大学院教授 西村 亮平氏
日本獣医生命科学大学 野生動物学研究室 准教授 田中 亜紀氏
環境省 自然環境局 総務課 動物愛護管理室 室長 野村 環氏
WWFジャパン野生生物グループ 岡元 友実子

パネルディスカッションでは、各講演を通じエキゾチックペット利用に関するリスクや企業責任を知った上で、ペット業界・企業が「今」取り組むべきことを焦点に議論を展開。

事業者が踏み出す第一歩として、まずは5つのリスクや、それに関連する法規制の理解、動物福祉への配慮とはどういうことか等をロジカルに考え、物事を進める必要性があるという指摘が西村氏からありました。

次に、田中氏よりオーストラリアやアメリカにおける生態系保全を考慮した飼育可能種に関する法規制が紹介され、今後は専門家からも科学的根拠に基づいた情報を積極的に発信していくことが大切であると伝えました。

そして、現在、日本政府が策定に向けて準備を進めているエキゾチックペットに関する飼養管理基準について、企業が合意形成にどう参加するのか、野村氏より説明がありました。動物愛護管理法に基づく動物取扱業では、哺乳類、鳥類、爬虫類が対象となるため、そうした動物を扱っている企業が所属する団体で意見を取りまとめ、伝えてもらうことが効果的だと述べました。

今後企業に求める取り組みや協働の可能性については、岡元よりまずはリスクや課題の認識や検討をしてもらいたいと述べました。
WWFジャパンは環境保全団体として生物多様性保全のための活動を行なっており、事業者に求められている責任や役割を基に具体的な意見交換を行ないたいと伝えました。協働の例として、生体調達の基準作りの策定、保全に関する知見の提供を挙げました。
また参考になりうる海外の取り組みとして、アメリカのペット保険会社が掲げる、絶滅のおそれが高い種や野生捕獲個体を対象動物として扱わない、という事例も紹介しました。

パネルディスカッションの様子
© WWF Japan

パネルディスカッションの様子

閉会挨拶

WWFジャパン事務局長 東梅 貞義

最後にWWFジャパン事務局長である東梅貞義より閉会挨拶が行なわれました。専門家による講演やパネルディスカッションを通し、エキゾチックペットに携わる企業が課題を認識し、事業の見直しや改善を行うといった社会責任を果たすための検討つながる、貴重な機会になったと述べました。

また最後に、今後もWWFジャパンは官学を含む多様なステークホルダーと意見交換や協働を行いながら活動を継続し、課題解決に取り組んでいくと締めくくりました。


【イベント概要】
タイトル:エキゾチックペット利用と企業責任
日時:2023年3月10日(金)13:00~15:00
場所:オンライン開催
参加者数:約70名
主催:WWFジャパン
共催:認定特定非営利活動法人 人と動物の共生センター
後援:環境省

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