© Martin Harvey / WWF

野生動物のペット化に対する行動変容キャンペーン「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」

この記事のポイント
カワウソやフクロウ、トカゲなどペットとして利用される動物はさまざま。こうした野生動物の中には密輸や絶滅といった危機に晒されている動物がいます。この問題の根底には、消費者の需要があります。WWFジャパンは、消費者の「野生動物を飼いたい」と思う気持ちに自ら疑問を投げかけ、中でもリスクが伴う動物については、「飼育を自ら諦める」ことを促すため、「社会行動変容(Social Behavioral Change)」に取り組んでいます。
目次

ペット利用される野生動物

日本はイヌやネコ以外の小動物、いわゆる「エキゾチックペット」や「エキゾチックアニマル」と呼ばれる動物をペットとして利用しています

エキゾチックペットの中には、ウサギやハムスターなどの家畜化された動物のほかに、コツメカワウソやショウガラゴ、シロフクロウなど、本来自然環境で生きる「野生動物」も多く確認されています。

また、野生動物の多くは、海外原産の動物。
ペット利用のために多くの野生動物が、日本に持ち込まれているのです。

© Casper Douma / WWF

日本に多く輸入されているグリーンイグアナ(Iguana iguana)。野生個体の捕獲も確認されている。

実際、ペット利用される野生動物(※1)の2021年の輸入頭数は、推定40万頭を上回り、近年増加傾向にあります

※1.  厚生労働省 輸入動物統計から家畜化された動物(フェレット、ハムスター、ラット、マウス、モルモット、ハト)を除く生きた哺乳類、鳥類の輸入頭数、及び財務省 貿易統計から生きた爬虫類、両生類の輸入頭数を抽出し、概算。 
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000069864.html
https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm


さらに、ワシントン条約(※2)で輸出入が規制されている野生動物の日本の輸入規模は、両生類で世界2位、爬虫類は3位に位置し、国際的に見ても日本のペット利用が大きな影響力を持っていることは明らかです。(CITES Wildlife TradeViewで2019年の輸入量をWWFが算出) 

© Wild Wonders of Europe / Konrad Wothe / WWF

ファイアーサラマンダー(Salamandra salamandra)ヨーロッパに分布するサンショウウオの一種。ペットとして利用されているほか、近年は感染症の広がりなどにより減少が指摘されている。

※2. ワシントン条約:「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、国際取引のための過剰利用による野生生物の絶滅を防止することを目的としている。

また、国内原産の野生動物も、同様にペットとして利用されており、特定の地域だけに生息する固有種も高い人気があります。

一方で、野生動物のペット利用には、多くの問題が伴うことはあまり知られていません。

ペット利用に伴うリスク

WWFジャパンは、野生動物のペット利用には、次のようなリスクが伴うと考えています。

・野生動物を絶滅に追い込むリスク

ペット利用される動物の中には、絶滅のおそれのある動物が多く含まれ、ペット取引によって野生での存続が脅かされている種もいます。

・密猟や密輸を増加させるリスク

日本に向けた野生動物の密猟や密輸が毎年発覚しています。日本に違法に持ち込まれた動物がペット市場に流通している可能性が指摘されています。

© Adriano ARGENIO / WWF-Italy

世界的にも密猟や密輸が確認されているヨウム(Psittacus erithacus)

・動物由来感染症(人獣共通感染症)に感染するリスク

動物から人に感染する病気「動物由来感染症(人獣共通感染症)」のリスクがあります。

・動物福祉を確保できないリスク

一般家庭やアニマルカフェなどでの飼育が適さず、動物が精神的・肉体的に大きなストレスを受けている場合があります。

© Rob Webster / WWF

夜行性のスローロリスは、昼行性の人間との生活を強いられることでストレスを感じている可能性がある。

・外来生物を発生、拡散させるリスク

ペット利用されている動物が逃げ出したり、遺棄されることで生態系を脅かす事例が数多く確認されています。

こうした問題を解決するためには、消費者のペットに対する意識の変容が必須ですが、問題の認知さえ十分とは言えません。

ペット利用と消費者の需要

WWFジャパンは2021年2月に、日本の1,000人に対して、野生動物が含まれるエキゾチックペット利用※3に関する意識調査を行いました。

※3. 調査ではエキゾチックペットを「一般的なペットとして飼われている動物以外で、特に外国産の動物や野生由来の動物」と定義し、アンケートを実施しました。ウサギやハムスターなどペットとして家畜化されている小動物はここに含まれていません。

【関連資料】WWFジャパン「エキゾチックペットに関する日本の意識調査」

その結果、こうした動物のペット飼育に関する問題の認知は低いうえに、ペット利用に問題が伴うことを知っても、「触れてみたい」、「飼ってみたい」という気持ちを持つ人が一定数いることが明らかになりました。」

つまり、リスクが伴う動物のペット飼育への需要を削減するためには、問題を伝える普及啓発活動に留まっていては大きな効果は期待できず、消費者の「触れたい」、「飼いたい」という心理に働きかける施策が必要なのです。

© Russell Pickering

野生動物と触れ合えるアニマルカフェでも展示されているアメリカワシミミズク(Bubo virginianus)。

社会行動変容アプローチ

こうした消費者の心理に作用し、望ましい行動へ促していく方法として、社会行動変容(Social Behavior Change:SBC)という科学的なアプローチがあります。

SBCは、働きかける消費者グループ(ターゲット)を特定し、彼らの動機や選択に影響を与える様々な要因を分析したうえで、ターゲットへの直接コミュニケーション(「行動変容コミュニケーション」)や、ターゲットに影響力のあるコミュニティを動員(「ソーシャル&コミュニティモビライゼーション」)、時にはアドボカシー活動を組み合わせ、ターゲットを望ましい態度や行動に促すアプローチです。


SBCは次の5つのステップで実施することが推奨されています。

【SBCの5つのステップ】
1.状況把握
状況と消費者について理解・分析し、働きかける人達(ターゲット層)と彼らに求めたい行動を選定する

2.デザイン
戦略を立てる

3.制作
ターゲット層に効果的に作用するメッセージやマテリアル、コミュニケーション計画をつくる

4.実施とモニタリング
アクティビティを実施し、期待した結果が得られているかをモニタリングする

5.評価とリデザイン
アクティビティの結果が、行動変容に繋がったかを評価し、改善のための再設計を行う

出典:SOCIAL AND BEHAVIOR CHANGE COMMUNICATION (SBCC) DEMAND REDUCTION GUIDEBOOK(USAID Wildlife Asia, 2020)
https://www.usaidrdw.org//resources/tools/sbcc-guidebook


実際、SBCは、すでにアジア諸国などで象牙やトラ製品など野生生物製品の需要削減において実践され、効果を上げていることが報告されています。

アジア諸国では、野生生物製品への高い需要があり、その需要がアフリカゾウやトラの違法取引を下支えしていると認識され、ワシントン条約でも、違法取引に対抗するためには、需要そのものを削減していくことが重要である、という決議がされています。

【関連資料】ワシントン条約 決議17.4

© WWF / James Morgan

タイで販売されている象牙製品

野生動物のペット利用に関する社会行動変容キャンペーン

WWFジャパンでは、野生生物の取引を監視・調査するTRAFFICとの連携のもと、このSBCを利用して、ペット利用される野生動物に特化した社会行動変容キャンペーンに着手しました。

野生動物のペット飼育に関する動機や背景、彼らの心理に作用するメッセージ、影響力のある人や媒体に関する情報を収集、分析し、キャンペーンの戦略をデザインしてきました。

スミレコンゴウインコ(Anodorhynchus hyacinthinus)を含むインコ類はペットとして人気がある。

状況把握

まず、消費者の野生動物が含まれるエキゾチックペットの飼育に関する動機や背景など理解するため、2021年6 月~10月にかけて意識調査を実施しました。

調査では、ウサギやハムスターのように家畜化された動物以外のエキゾチックペット(主に野生動物)を飼っている人(以下、「飼育者」)、および飼ったことがなく、飼いたいと思っている人(以下、「飼育意向者」)を主に対象とし、どちらでもない人との比較も行いながら、「飼育者」と「飼育意向者」の心理や行動上の特徴を深掘りしました。

【関連資料】Reducing Demand for Exotic Pets in Japan(WWFJapan, TRAFFIC, GlobeScan, 2022)

実施した調査は以下になります。

グループインタビュー調査
対象者:飼育者、飼育意向者

オンラインアンケート調査
対象者:日本全国の15 歳~79 歳、1,000 名(飼育者329人、飼育意向者336人、どちらでもない人331人)

調査結果から、主に次のことが明らかになっています。

・飼育者よりも飼育意向者の方が行動を変化させやすい

・ペット飼育の理由は、イヌやネコ、ウサギなどの家畜化動物の飼育者のそれと共通する部分が多い

・飼育者、飼育意向者は動物に大きな愛情を持ち、ペット飼育に対して満足している、または満足することができると期待している

・飼育意向者層の中でも、動物に強い愛情を持ち、動物が飼育者を認識するような特徴を持つ動物を求める傾向が強い層が、より行動を変化させやすい

・ペット飼育を妨げる情報として、密輸や絶滅リスクに比べ、飼いにくさ(飼育スペースがない、外出が制限される)の情報がより飼育意向を削ぐ

図1.飼育意向者が飼育したいと考えている動物を現在まだ飼育(購入)していない理由(N=336)

・飼育意向者に最も影響を与える媒体や人は、SNS(45%)、テレビ(32%)、家族/親戚(29%)であった

図2. 飼育意向者にとって、ペット飼育の決断に最も重要な影響を与える人やもの(n=336 )

・飼育意向者は、獣医師、動物園や水族館のスタッフ、ペットショップが発信する情報に信頼を寄せている。

図3. 飼育意向者がエキゾチックペット(ウサギやハムスターなどペットとして家畜化されている小動物はここに含まれていない)の情報を発信するメッセンジャーとして最も信頼する人や組織(n=336)

・飼育者、飼育意向者のうち半数以上が(67%)が、野生動物をペット飼育することについて、周囲から好意的に受け止められていると感じている

図4. 飼育者・飼育意向者が認識している、家族や友人(SNSコミュニティを含む)など周囲のエキゾチックペット(ウサギやハムスターなどペットとして家畜化されている小動物はここに含まれていない)の飼育に対する受け止め(n=665)(%)

デザインと制作

WWFジャパンでは、飼育意向者が「野生動物を飼いたい」と思う気持ちに自ら疑問を投げかけ、中でもリスクが伴う動物については、「飼育を自ら諦める」ことを促す行動変容キャンペーンを設計しました。

キャンペーンでは、飼育意向者に直接コミュニケーションするのと同時に、飼育意向者の周囲の人を含む、一般市民が、ペット利用される野生動物の問題について認知し、「かわいいから」「珍しいから」という理由で野生動物をペット化することを是としない社会的風潮を作っていくことも目指します。

具体的には、動物園と連携し、「ペットとして飼う大変さ」を切り口に、密輸や絶滅などのリスクについて説明する動画およびWebコンテンツを作成。飼育意向者に、野生動物のペット飼育の問題への気づきを与え、自らペット飼育を諦めることを促します。

そして同時に、動物園やメディアを通じ、動物や、社会や環境の課題に関心がある層にも問題を周知します。野生動物のペット利用に潜むリスクを知り、共に声をあげてもらうことで、飼育意向者の行動変容を後押しする社会的風潮を醸成します。

「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」

WWFジャパンは、SBCのアプローチを用いたキャンペーン「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」を2022年8月9日から実施しています。
コツメカワウソ版に続き、ショウガラゴ、スローロリス、フェネック、コモンマーモセット、スナネコ版が随時公開される予定です。

野生動物は、ペットとして飼育した場合、本来の生息地のような環境を準備、維持するのが難しく、結果的に飼育される動物に大きな負担を強いる可能性があります。また、本来の生息地のような環境を準備、維持するには、多額の金額と労力がかかり、飼おうとしているあなた自身やパートナー、家族にも大きな負担がかかるかもしれません。

無理して一緒に暮らすことは、その動物のためにも、私たち人間のためにもならないことを知っていただき、さらに周囲の人にシェアしてもらうべく、キャンペーンサイトでは、「#ペットにしても幸せにできない動物」をつけてTwitter投稿を促しています。

キャンペーンを見て、これらの動物はやっぱりペットには向いていないかもと思い直した方、絶滅、密猟・密輸、感染症、動物福祉、外来生物に関するリスクの伴う野生動物のペット化に疑問を感じた方は、ぜひその想いをTwitterで投稿し、周りの人に伝えてみてくだい。

「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」特設Webサイトにて、Twitter投稿を呼びかけている。

「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」特設Webサイト

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