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持続可能なペット産業の実現に向けて―再考すべき野生動物ペット利用のリスクと企業の責任

この記事のポイント
近年、犬猫以外の「エキゾチックペット」や「エキゾチックアニマル」と呼ばれる動物の飼育が注目を集めています。しかし、その対象にはシロフクロウやコツメカワウソといった希少な野生動物も含まれています。野生動物のペット利用がもたらすさまざまなリスクが顕在化する中、ペット事業に直接、あるいは間接的にかかわる企業の社会的責任が問われています。今回、WWFジャパンは、ペット産業全体で認識すべき野生動物利用のリスクと企業の責任について、リーフレット形式で紹介。企業が自主的な取り組みを進めることで、企業自身のサステナビリティを向上させるだけでなく、持続可能なペット産業の実現を求めています。
目次

ペット産業で求められる企業のサステナビリティ

今、日本では「環境・社会・経済」の持続可能性に配慮した企業の「サステナブル経営」が広く求められています。

カーボンニュートラルやプラスチック利用の削減、サプライチェーンでの持続可能な調達等に加え、こうした事業を評価するESG 投資も拡大しており、一般消費者にも、企業の姿勢を問う認識が広まっています。

特に、環境面で世界的に注目されているのが生物多様性の保全です。

近年、犬猫以外の「エキゾチックペット」や「エキゾチックアニマル」と呼ばれる動物の飼育が注目を集めていますが、その中にはシロフクロウやコツメカワウソといった希少な野生動物も含まれています。

こうした野生動物のペット利用が生物多様性に影響を与えていることが指摘されており、IUCN(国際自然保護連合)も、生物を絶滅に追いやる要因のひとつとして、ペットや展示目的の過剰利用を挙げています。

日本は世界有数の野生動物のペット市場であり、一般向けのペットの販売や、ふれあい目的のビジネスが広く行なわれています。

一方、国際的にはこうした利用の環境・社会面の問題への懸念から、規制強化を進める動きが強まっており、野生動物を利用する日本企業にとっても、これがビジネス・リスクとなる可能性が高まっています。

ペット産業のサステナビリティを向上させ、リスクを回避するためにも、直接動物を取り扱う販売企業やふれあい施設、さらに消費者への情報発信にかかわるメディアを含めた、産業界全体で社会的責任を果たす取り組みが今、求められています。

図1 野生動物の流通とペット産業における各業種の役割と関係性

野生動物のペット利用に直接関わる企業(ペットショップ、アニマルカフェ等)および間接的に関わる企業(ペット保険、商業施設、メディア等)に向けたリーフレット

企業が社会的責任を果たし、取り組みを行うためには、まずは現状と問題点を把握することが欠かせません。

しかしながら、野生動物をペットやふれあい等の商業目的で利用することに伴うリスクや、企業が取り組むべきポイントについて知ることのできる資料は非常に限られています。

そのため、今回WWFジャパンでは、ペット事業に直接あるいは間接的にかかわる企業が、野生動物利用のリスクおよび企業の責任について知ることができるリーフレットを作成しました。

リーフレット『再考すべき野生動物ペット利用のリスクと企業の責任』

野生動物のペット利用に伴うリスク

ペットやふれあい等の商業目的での野生動物の利用は、次のようなリスクをもたらします。

絶滅危惧種

  • IUCN のレッドリスト掲載動物(約 85,000 種)の 20%が絶滅危機種であり、そのうち11%でペット・展示利用が脅威となっている*1。
  • 爬虫類では全体の推定 35%以上(約 3,900 種)がペット取引の対象で、その対象種の90%が野生由来の個体となっている。

密輸

  • 日本では、水際さえ通り抜ければ多くの種において「密輸」個体も合法市場で販売可能であり、国内で入手困難な希少種が密輸の標的になっている。
  • 2007 ~ 2018 年に合計 78 件(1,161 匹)の日本向けの密輸が税関で発覚。ペットショップ経営者が関与していた事例も確認されている。

感染症

  • 野生動物は、様々な「動物由来感染症(動物から人に感染する病気)」の病原体を保有している可能性がある。
  • 中には人に重篤な感染症を引き起こす病原体を伝播する恐れがあり、輸入が禁止されている動物(サル類、プレーリードッグなど)もいる。

動物福祉

  • 一般家庭やアニマルカフェなどでは、動物福祉の指標である「5 つの自由*2」を十分に満たす環境が容易に準備できない。
  • 設備面に加え、温湿度の維持や飼育管理には多額の費用や労力を要し、万が一災害等が発生した場合にはその維持が非常に困難となる。

外来種

  • アライグマをはじめ、ペット目的で日本に輸入された動物が野外に遺棄され、外来種として生態系に悪影響を与える事例が多発している。
  • ミシシッピアカミミガメやアメリカザリガニのように、生態系保全の観点から販売等が禁止された例もある。
© Conservation Media / WWF-US

プレーリードッグ(Cynomys ludovicianus)は、動物由来感染症の発生予防・蔓延防止の観点から、感染症法に基づき輸入が禁止されている動物ですが、現在も飼育下繁殖の個体がペットとして流通しています。

*1 IUCNレッドリスト(2021)を基にWWFジャパン算出。
*2 国際的な動物福祉指標「5 つの自由」:
1 飢えと渇きからの自由
2 不快からの自由
3 痛み・傷害・病気からの自由
4 恐怖や抑圧からの自由
5 正常な行動を表現する自由
(参照:公益社団法人 日本動物福祉協会(2017).「動物福祉について」https://www.jaws.or.jp/welfare01/

ペット取引が招く野生動物の国際取引規制強化

ペット取引を含む生物の直接利用は、生息地破壊や気候変動に並ぶ種の絶滅要因の一つとして、国際会議の場でも重要な課題に挙げられています。

これまでも、ヨウム、スローロリスといった複数の種が、ペット目的の過剰利用や密輸により絶滅リスクが高まったため、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の附属書に掲載され、国際取引が規制されることになりました。

© Adriano ARGENIO / WWF-Italy

アフリカに生息する大型のオウムの一種、ヨウム(Psittacus erithacus)。ペットとしての需要が高く、高値で取引されることなどから世界的に密輸が横行。2016年にワシントン条約の附属書Ⅰに掲載され、国際取引は原則禁止となりましたが、現在も個体数の減少が続いています。

展示や発信のリスク

アニマルカフェでの展示、TV やSNSを通じた発信によって、ペットとして飼育されている野生動物が話題となる例は少なくありません。

コツメカワウソは、「ペット」として紹介する民法TV 番組の放送を契機に人気を博し、SNSやカフェ等でのカワウソの露出も増加したことから、日本でのペット需要が急増。

特に国内では非常に高値で取引されていたことなどから、複数の日本に向けた密輸事件も行われ、発覚しました。

コツメカワウソはIUCN のレッドリストにおいて絶滅危機種(VU:危急種)に指定されており、ペット需要の増加が絶滅リスクを高めるとして、2019 年にワシントン条約附属書Ⅰに掲載、国際取引は原則禁止となりました。

©Nicole Duplaix

コツメカワウソ(Aonyx cinereus)主な捕食対象であるカニなどの甲羅をかみ砕くことのできる、強力な顎を持ちます。噛まれれば大怪我につながる可能性もあり、一般家庭でペットとして飼育するには不適な野生動物です。

企業のレピュテーションに及ぼす影響

こうしたペット需要や取引に対する厳しい姿勢が、国際的にも強まる中、日本でも近年、野生動物を「かわいいペット」として安易に紹介するTV番組などに対し、SNSを通じて、視聴者から厳しい声が多く寄せられるようになりました。

また、アメリカに本社を置く大手コンピュータ・ソフトウェア企業が掲載した、絶滅危惧種であるコツメカワウソをペットとして表現した新製品の広告に対しても抗議が寄せられたほか、SNSでの批判や広告を取り下げた経緯までもが全国的に報道されるようになりました。

これらの変化は、日本でも企業の野生動物ペット利用に対し、社会的に厳しい目が向けられるようになったことを示しています。

ペットショップやアニマルカフェのみならず、情報発信を手掛けるメディアにとっても、野生動物を「ペット」として扱う展示や発信を行なうことが、企業のレピュテーションリスクにつながる可能性を十分に認識する必要があります。

「ふれあい」に伴うリスク

現在、餌を与える、直接触るなど野生動物との「ふれあい」を行なうことのできる施設が、アニマルカフェや小動物園等の形態で日本各地に存在しています。

しかし、こうした施設では、絶滅のリスクが高い希少な野生動物が多く利用されていることが判明しています。

© David Lawson

ペットやアニマルカフェで人気の高いシロフクロウ(Bubo scandiacus)ですが、生息地の破壊等により個体数が減少しており、IUCNのレッドリストで絶滅危機種(EN)に指定されています。

さらに、「ふれあい」行為は、動物に肉体的・精神的ストレスを与える可能性が高い上、動物由来感染症への感染リスクも高まります。

日本の厚生労働省のガイドラインでは、「サルやプレーリードッグ等の特定の野生動物種や爬虫類とのふれあい行為を推奨しない」ことが明記されています。

また、アメリカの保健社会福祉省も5 歳以下の子供が爬虫類や両生類、およびその飼育環境に触れるべきではないと通告しています。

© Martin Harvey / WWF

鮮やかな色彩などから日本でもペットとして人気の高いグリーンパイソン(Morelia viridis)。しかし、爬虫類は腸管系の疾患を伝播する可能性が高く、動物由来感染症の観点からリスクの高い動物です。

韓国における「野生動物カフェ」の全面禁止

こうした動物福祉や感染症の観点から、海外では野生動物ふれあい施設への規制強化の動きがあります。

2022 年1月には、韓国政府が韓国全土に159軒ある「野生動物カフェ」を3~4年の猶予期間の後、全面禁止とする方針を発表。

これらのカフェで飼育されているアライグマ、ミーアキャットや各種両生爬虫類などの動物たちは保護施設に移されることになりました。
特にアライグマは遺棄された場合、外来生物として生態系に悪影響を及ぼすことが予想されるため、飼育個体の試験的な登録も開始されることが伝えられました。

© Frank PARHIZGAR / WWF-Canada

アライグマ(Procyon lotor)は日本でもペットブーム後野外に遺棄され、現在では特定外来生物に指定されています。

これらの韓国政府による「野生動物カフェ」に対する思い切った施策の背景には、展示利用される野生動物の動物福祉が不十分とする声や、新型コロナウイルスパンデミックにより感染症をはじめとする公衆衛生への懸念が高まったことがあります。

日本でも「ふれあい」を事業とする企業には、さまざまなリスクや今後の規制強化を視野に入れた、事業の早急な見直しが求められます。

消費者の問題意識が示すリスク

WWF ジャパンが2021 年に実施した意識調査の結果、日本では野生動物のペット利用* に関する問題への認知度は低い一方、その問題についての情報提供を受けた人の95%は問題であるとの認識を示しました。

特に、絶滅危惧種、密輸、感染症、動物福祉、外来種の問題のうち、感染症の問題が最も重要だと回答した人が過半数を占め、日本での野生動物のペット利用への規制強化が必要だと感じる人も95% に上りました。

ペット産業に携わる企業は、法律に抵触しなければ問題ないと判断するのではなく、消費者がこうした問題意識を持ち、ペットに関連するビジネスを見ている可能性を常に考慮し自主的な規制実施やサステナビリティを明示できる取り組みを行なう必要があります。

*エキゾチックペットに関する日本の意識調査(WWF ジャパン,2021):調査ではエキゾチックペットを「一般的なペットとして飼われている動物以外で、特に外国産の動物や野生由来の動物」と定義し、アンケートを実施しました。ウサギやハムスターなどペットとして家畜化されている小動物はここに含まれていません。

持続可能なペット産業の実現に向けて

野生動物のペット利用がもたらす様々なリスクが顕在化する中、直接動物を取り扱う販売企業やふれあい施設、さらに消費者への情報発信にかかわるメディアを含めた、産業界全体における企業の社会的責任が問われています。

企業自身のサステナビリティを向上させ、持続可能なペット産業を実現するために、WWFジャパンは企業に対し以下の取り組みを求めると共に、企業各社への知見や情報の提供を行なっています。

WWFジャパンがペット産業の企業に対し求める取り組み

● 野生動物を商業的に直接扱う企業へ(ペットショップ、アニマルカフェ等)
 1. 責任ある調達
  ・生態系に負荷を与えない、持続可能な範囲での調達を行うこと
  ・サプライチェーンにおける合法性とトレーサビリティを確立すること
 2. 責任ある飼育管理
  ・動物福祉の指標である 5 つの自由を満たせない場合は、動物を取り扱わないこと
  ・感染症のリスクを認識し、人と動物の安全に十分に配慮すること
 3. 責任ある消費者への情報発信
  ・野生動物のペット需要をいたずらに喚起しないように努めること
  ・消費者に対し、ペットの適切な選択、管理および終生飼育を促す情報を発信すること

● 野生動物を間接的に直接扱う企業へ(ペット保険、商業施設、メディア等)
 1. 野生動物ペット利用に関わる事業内容の見直し
  ・取引先、提携先が持続可能なペット事業を行っているか検証すること
 2. 責任ある消費者への情報発信
  ・消費者に対し、野生動物のペット利用のリスクを含めた正しい情報を発信すること

▼リーフレットのダウンロードはこちら
『再考すべき野生動物ペット利用のリスクと企業の責任』

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