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西表島干立における新たな湿地再生の取り組み ~西表島干立村ふるさとの田んぼ再生プロジェクト

この記事のポイント
WWFジャパンがイリオモテヤマネコやカンムリワシの生息地保全活動を実施している沖縄県西表島で、2025年から新たに干立において、湿地再生のプロジェクトが始動しました。場所は、同島西部の干立地区の耕作放棄地。地域住民の方々や研究者が連携して進めるこの活動について紹介します。
目次

最も危機的状況にある自然~淡水生態系

最新のWWF「生きている地球レポート2024」では、世界の生物多様性の健全性を図る指標「生きている地球指数(LPI)」は1970年に比べて全体として73%減少し、中でも淡水生態系は85%と最も減少度が大きいことが報告されています。

WWFジャパンは、2020年から環境省「西表石垣国立公園(西表地区)地域協働による水環境保全・再生手法検討業務」を受託し、沖縄県西表島の稲葉において、イリオモテヤマネコの餌場となる水辺再生の取り組みを進めてきました。

この事業では、開放水面を創出することにより、水生昆虫や湿地性植物の種数が回復する効果が実証されています。

参考:
西表島・浦内川流域における陸水環境再生の取り組み
【動画あり】旧稲葉集落で進む水辺再生~西表島浦内川での活動レポート

© 鈴木直樹

カエルを食べるイリオモテヤマネコ。推定生息数は約100頭(環境省2008年調査)。国内希少野生動植物種(種の保存法). CR:絶滅危惧IA類(環境省レッドリスト).様々な水辺の生き物を食物としていることが知られている。

2025年からは、新たに西表島・浦内川流域の西側に位置する干立において、地域住民の皆さんと共に、無農薬の水田作りを通じた湿地再生の協働を開始することになりました。

西表島干立におけるプロジェクト開始の経緯

西表島の西部に位置する干立は、500年以上の歴史を有する島の中で最も古い集落の一つです。

北を金座山(カナヤザン)、南をマングローブ林を有する与那田(ヨナダ)川、西は海にそれぞれ囲まれ、自然と共存した自給自足の暮らしが1970年代まで営まれてきました。

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西表島西部に位置する干立.周辺を山・川(マングローブ)・海に囲まれている。

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干立の集落内.奥に見えるのが金座山

干立では、年間を通じて、稲作を中心とした節目節目に様々な行事が執り行われており、古くから伝わる歌や踊りなどが今もあります。なかでもシチ(節祭)は国の重要無形民俗文化財に指定されています。

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シチ(節祭)の様子

干立では、2018年より、宮本太氏(東京農業大学)のチームが、計18回にわたり植物調査を実施してきました。

この調査の結果、干立に残された水田周辺には、西表島内でも他の地域では見られなくなってしまった絶滅危惧種のスイシャホシクサをはじめとする希少植物が生育していることが確認されました。

© WWFジャパン

干立で生育が確認されたスイシャホシクサ.CR:絶滅危惧ⅠA類(環境省レッドリスト)

2024年10月、宮本氏の調査チームは、干立の住民を対象に、7年間にわたる植物調査の結果について報告会を開催しました。

その際、西表島内で今では干立だけに生育している希少植物の存在と、その生育には無農薬による稲作の継続と周辺環境の保全が重要であることが伝えられました。

一方、干立では、集落内の水田が近年急速に減少したことにより、豊年祭をはじめとする伝統的な行事に必要な稲わらを集落内で十分に調達することが難しくなってきていることが問題になっていました。

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稲わらで豊年祭に使う綱を編む干立の住民

こうした状況を受けて、干立住民で構成される一般社団法人イルンティ・フタデムラと干立公民館が中心となり、伝統的な祭りの礎であり、干立に残る希少な植物が生育できる環境として、昔ながらの無農薬の水田作りを目指そうという機運が高まりました。

このような水田環境の再生は、植物とそれに支えられて生息する様々な水生生物、それらを餌とするイリオモテヤマネコやカンムリワシの生息地の保全にもつながる取り組みです。

そこでWWFジャパンもこの干立の皆さんによる水田作りの取り組みに賛同し、西表島の生物多様性を保全する湿地拡大の活動として協働することとなり、2025年から新たなプロジェクト「西表島干立村ふるさとの田んぼ再生プロジェクト」が始動しました。

今後の活動 ~耕作放棄地の再生に向けて

干立では、かつては山からの豊かな水を使って広く水田が営まれていましたが、そうした場所の多くが耕作放棄地となっており、僅かな水田だけが残されている状況でした。

そこでプロジェクトでは、干立住民の皆さんの協力により、無農薬の水田を維持・拡大していく計画です。

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プロジェクトの水田再生予定地(青色で囲われた部分)

また水田として再生された淡水湿地とその周辺における植物群と水生生物の生育・生息状況を継続して調査することにより、生物多様性の回復状況をモニタリングしていきます。

こうした取り組みを通じて、イリオモテヤマネコやカンムリワシの餌場となる湿地を拡大するとともに、稲わらを集落内で自給できるようにすることで祭りを継続し、生物多様性の保全とそれに根差した伝統文化の継承を同時に目指していきます。

2025年春に作付けされた水田再生地の様子(動画)

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プロジェクト名 西表島干立村ふるさとの田んぼ再生プロジェクト
フィールド 沖縄県西表島干立
期間 2025年1月~
実施体制 プロジェクトメンバー:
  • 一般社団法人イルンティ・フタデムラ
  • 干立公民館
  • 宮本太氏(農学博士、東京農業大学)
  • WWFジャパン(野生生物グループ)

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