国際山の日に考える気候変動とユキヒョウの未来
2025/12/11
今日12月11日は、国際山の日。国際山岳デーとも呼ばれます。国連が2003年に制定した記念日で持続可能な、山岳地域の発展の重要性を認識し、毎年設定されるテーマに沿って、山の重要性に対する理解を深めることを目的としています。 今年のテーマは「氷河は水・食料・生計にとって重要」。世界の山岳地域で氷河が果たす役割は、単なる景観にとどまりません。氷河は水の貯蔵庫であり、そこから流れる水は農業や牧畜、そして人々の暮らしを支えています。私たちがWWFインドの仲間と共にユキヒョウ保全活動を行なう西ヒマラヤも冬季は降雪が多く、氷河もあり、重要な水の供給源となっています。しかし今、その基盤が揺らいでいます。

チャンタンにある湖のひとつツォ・カー(ソカーとも)。多くの水鳥がいて、周囲の草地には、キアン(チベットノロバ)、ノウサギ、ナキウサギなども生息しています。
活動のフィールドがあるラダックの東南地域のチャンタンは標高4,000mを超える高地に広がる寒冷砂漠。ここで暮らす遊牧的な牧畜を営む人々「チャンパ」は、家畜を連れて季節ごとに移動し(移牧)、氷河の融水や泉を頼りに生活をしてきました。ところが近年、気候変動の影響で氷河は急速に後退し、雪解け水や湧水が減少。フィールドチームが最近まとめた報告書によると、冬は短く、気温は上昇し、降雪は不安定になっています。その結果、牧草地は乾燥し、家畜の生産性が落ち、移牧の持続性が危機に瀕しています。

凍った川を通って調査地へ向かフィールドスタッフ
調査では、完全な移牧世帯は半牧畜世帯より約37%高い気候変動に対しより脆弱であることが明らかになりました。特に南東部では水不足が深刻で、伝統的な移動ルートも国境問題で制限され、生活の選択肢が狭まっています。一方、中央部では観光やホームステイなど新しい収入源を取り入れることで、比較的適応力が高いことも分かりました。こうした違いは、地域ごとの水資源やインフラ、社会的支援の有無に左右されています。

家畜を放牧するチャンパの女性
私たちは現地で、雨水貯留や泉の再生、女性による手織物のマイクロビジネス支援などを進めています。これらは単なる経済対策ではなく、文化と自然を守りながら持続可能な暮らしを支える取り組みです。氷河の変化は遠い世界の話ではありません。山の水は、やがて平地の川となり、私たちの食卓や生活にもつながっています。国際山の日をきっかけに、山岳地域の現実に目を向けてみませんか。

ラダックの高山には、過酷な環境に適応した植物、写真のイワシャコ などの鳥類、ブルーシープやアルガリなど草食の有蹄類、アカギツネ、ヒマラヤオオカミ、ユキヒョウといった肉食動物が特有の生態系を形作っています。





