© Aline Massuca/COP30

COP30結果報告


化石燃料からの転換の道筋と、適応などへの資金援助の間で揺れた結末

アマゾンの都市ベレンでの交渉の核心は、排出削減の野心を高めること、特に今回はCOP28で決まった化石燃料からの転換の道筋を作ることができるかと、深刻化する気候危機の影響に適応するために脆弱国を支援する資金を増やすことができるか、この二つの要求のバランスを見つけることでした。これは長年の交渉の中で激しく対立してきた点であり、いまだ満たされていない要求です。

ホスト国ブラジルが主導して、「グローバル・ムチロン(Global Mutirão)」と題したCOP決定文書のドラフトが2週目の議論を経て、11月18日と11月21日の2度出されました。最初のドラフトでは、小島嶼国などが強く主張する化石燃料からの転換や、森林破壊の停止と回復といった第1回グローバル・ストックテイクの成果の実現に向けた具体的な工程を示唆する選択肢も入り、同時に途上国の要求である2030年または2035年までに先進国からの適応資金を3倍にする目標を”決定”する選択肢も入っていました。

しかし、2度目のドラフトでは、化石燃料からの転換や森林破壊の停止と回復に向けた工程に関する文言は二つとも削除されてしまいました。COP30開催前、議長国ブラジルのルラ大統領は「化石燃料からの転換に関するロードマップ」策定を提案しており、これには80カ国以上が支持を表明していたにもかかわらず。2度目のドラフトが発表された直後、化石燃料転換ロードマップ策定を求めていたコロンビアをはじめとする複数の国々が共同で記者会見を行ない、強く反発しました。一方、適応資金を3倍に増やすことについては、2030年ではなく2035年までに先延ばしになり、資金拠出についても、先進国の義務としてではなく、努力目標に弱められました。すなわち化石燃料からの転換と途上国への適応資金を3倍に増やすという双方の要求が対立し、交渉は難航したのです。

最終的には「グローバル・ムチロン(Global Mutirão)」決定(COP30決定)には化石燃料からの転換や森林破壊の停止・回復に関するロードマップを作るという文言は入らないまま採択となりました。しかし議長はこの採択が多くの国や市民団体にとって納得できるものではないことに理解を示し、COP外のイニシアティブとはなりますが、議長国自身が化石燃料からの転換と森林破壊の停止に関する二つのロードマップに対して、議論の場を設定し、COP31で報告すると発表しました。

また、適応資金を3倍に増額する目標については、2度目のドラフトのまま、目標年を2030年から2035年に5年先延ばしとなったうえ、先進国に資金拠出の努力を呼びかける努力目標にとどまり、期待された具体的な数値目標の設定には至りませんでした。いわば双方痛み分けの結果ですが、実はこれはCOP会議の常とう手段であり、双方が望むベストからは程遠い結果とはいえ、双方ともに弱いながらもある程度の成果は得た、とも言えます。

「化石燃料からの転換に関するロードマップ」COP外のイニシアティブに注視が必要

「化石燃料からの転換に関するロードマップ」はCOP30の正式な決定とはなりませんでしたが、COP議長イニシアティブで2026年のCOP31に報告されるという形で、いわばセミフォーマルな議論が始まるということになります。しかもコロンビアとオランダ政府のリードで、すでに議論の場と日程も具体的に決まっています(2026年4月28〜29日コロンビアのサンタマルタにて第一回会議開催予定)。

このイニシアティブには、2025年12月7日現在、欧州やラテンアメリカ諸国、アフリカ、小島嶼国等85カ国が賛同しています。COP31の交渉議長国であるオーストラリアも賛同していることで、COP31において少なくとも注目される存在になることが予想されます。

また、実はCOP30決定のパラグラフ41の中で、回りくどい言い方ながら、COPの正式なアジェンダになりうるフックも用意されています。そもそも各国の自主的な積極性に行動の実効性をゆだねるパリ協定においては、正式なCOP決定だけではなく、これまでも様々な議長リードの国際イニシアティブや、非国家アクター主体の国際連携が大きな役割を果たしてきました。まずは積極的な国々主体で進め、ほかの国際連携イニシアティブなどとも連動して、実効性を確保しようとしてきた経緯があります。その一つとして、この化石燃料ロードマップも機能していく可能性を秘めています。

COP決定:1.5度目標達成に向けた野心の向上を呼び掛け

本来COP30に託されたアジェンダは、2035年の各国NDCの提出です。各国NDCが、パリ協定の長期目標である1.5度達成に必要な削減量に向けてどの程度積みあがるかが注目されました。NDCを遅れて提出する国が後を絶たず、まだ75カ国が提出していません(2025年12月12日現在)。そして COP期間中に発表されたNDC統合報告書アップデートによると、11月9日までに提出されたNDCを足し合わせても、2035年時点で2019年比で12%減少にとどまっています1 。IPCCによると、1.5度目標達成に必要なのは、2035年に60%減(2019年比)なので、まだはるかに足りていません。

ではパリ協定は失敗なのか、というと、実はパリ協定以前の政策のままであれば、2035年に世界の温室効果ガス排出量は20~48%も増加したと推測されているのです。それがパリ協定があることで、不十分とはいえ12%減少する予測に変わりました。気温で言えば、パリ協定以前では、4度の上昇が予測されたのですが、パリ協定による各国の努力で2.3~2.5度の上昇予測まで下がりました。1.5度に気温上昇をとどめるにはまだまだ足りませんが、少なくともパリ協定がある方がはるかに世界はよい方向へ向かっているということが示されたのです。COP30決定では、1.5度目標達成に向けて野心の向上が呼びかけられました。

1 (出典)UNFCCC Secretariat (2025) Message to Parties and Observers: Nationally Determined Contributions Synthesis Report – Update. (2025/11/15)

COP決定:1.5度オーバーシュートに初めて言及

2024年は世界の平均気温上昇がはじめて1.5度に達しました。パリ協定の長期目標は、20~30年の平均気温上昇を指すので、単年度で1.5度を超えたからといって、パリ協定の目標が達成できなくなった、ということではありませんが、1.5度に気温上昇を抑えることが難しくなってきていることは否めません。

COP30決定でははじめて1.5度を超える可能性について触れました。これはオーバーシュートと呼ばれる経路の文脈で、1.5度をいったん超えて上昇した気温が、いずれ1.5度に戻ってくる、という経路を言います。この場合は、1.5度を超える規模と期間が短くなるほど影響は少なくなる、という言い方で言及されています。すなわちパリ協定の1.5度目標はまだ達成不可能ではありませんが、いずれにしても早期に大規模の削減努力が必要であることには変わりありません。

ブラジル政府提案:森林減少防止の新たな仕組みTFFF

COP30の開催地としてベレンが選ばれたのは、ブラジルの熱帯雨林の重要性と、それが人間活動や地球温暖化による気候変動から受けている脅威を強調するため、ホスト国ブラジルがこだわったからです。ブラジル政府は、COP30における森林減少防止の成果として、COP外ですが、「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティー(以降TFFF)」の設立を発表しました。これは、“森林を伐らずに残すこと”自体に対価を支払うという新しい資金メカニズムで、TFFFにおいて設置される新基金は、投資から生まれた利益を、森林保全を行なう途上国に分配するというスキームです。

主に先進国の政府または民間セクターが基金に資金提供し、投資先に再投資されます。再投資によって生み出される利益は、まず利息や配当金の支払いにあてられ、利益の余剰分が残存する熱帯林の面積、及び再生林の面積に基づいて途上国に分配されます。資金を受け取る国は、森林の面積に応じて、1ヘクタールあたり4ドルを基準に資金の支給が提案されており、熱帯林を保全する経済的インセンティブが与えられます。さらに受け取った資金の20%は、先住民族と地域社会のために直接還元されるといいます。

2025年11月末現在で、すでに60カ国以上が賛同し、ブラジルやインドネシアといった途上国側からも積極的に資金が提供されることが決まっています。ちなみに日本も賛同国に名を連ねていますが、資金供与は未定ということです。全体として途上国への資金支援の議論の停滞が見込まれたCOP30において、COP外とはいえ、TFFFは新たな多国間連携の象徴とも言えそうです。

COP30に先立って開催されたリーダーズサミット(首脳級会合)初日の11月6日、ブラジルは構想をあたためてきた国際熱帯林保護基金(TFFF)の設立を正式に発表
©Alex Ferro

COP30に先立って開催されたリーダーズサミット(首脳級会合)初日の11月6日、ブラジルは構想をあたためてきた国際熱帯林保護基金(TFFF)の設立を正式に発表

交渉と並んで注目を集めた非国家アクターたち

他方、パリ協定からアメリカ連邦政府が脱退する中で、交渉と並んで大きな盛り上がりと重要な進展を見せたのは非国家アクターの活動です。COP30は、パリ協定成立から10年の間に立ち上がった数々のイニシアティブの成果を、1.5度目標の実現に不可欠な気候変動対策の「実施」にいかにつなげていくかが注目されていました。

企業、自治体、大学、若者団体、先住民族、市民団体など、政府以外の主体「非国家アクター」は、COP30でもまた会場に熱気をもたらし続け、いまやパリ協定の「実施」を担う主役と言えるほどです。

中でも、アマゾンでのCOPで注目を浴びたのは先住民族の方々です。開催国ブラジルは、開催前から先住民族のCOP30参画を重要視。ベレンには3,000人もの先住民が招待され、そのうち1,000人が公式交渉に参加すると見積もられていました。実際に、会期中を通して会場の内外で多くの先住民族の姿が見られました。また、11月15日にベレン市内で行なわれた大規模な気候マーチでは、色とりどりの民族衣装に身を包んだ多くの先住民族が、農地の拡大による森林破壊や化石燃料の開発からアマゾンを守るよう、訴えていました。

COPの期間中に行なわれた気候マーチには、アマゾン地域から多くの先住民族も、それぞれの民族衣装に身を包んで参加。歌や踊りを披露し、豊かな伝統文化を通して、生きる基盤であるアマゾンの自然を開発から守るように訴えました。先住民の土地や文化を守ることは、気候変動の緩和や適応を進めていくために必要な自然と共生する技術や英知を守ることにほかなりません。
© WWF-Japan

COPの期間中に行なわれた気候マーチには、アマゾン地域から多くの先住民族も、それぞれの民族衣装に身を包んで参加。歌や踊りを披露し、豊かな伝統文化を通して、生きる基盤であるアマゾンの自然を開発から守るように訴えました。先住民の土地や文化を守ることは、気候変動の緩和や適応を進めていくために必要な自然と共生する技術や英知を守ることにほかなりません。

連邦政府での参加は見送ったアメリカだが、州政府は積極的

COP30ではアメリカ連邦政府の参加はありませんでした。そのような中、アメリカの存在感を発揮していたのは同国の非国家アクターです。COP30開催前の11月3日から5日、世界中の州知事や都市の首長たちを集めてリオデジャネイロで行なわれた「ローカル・リーダーズ・フォーラム」には、アメリカからも100を超える地域のリーダーたちが集まりました。

11月11日には、アメリカの非国家アクターが5,000以上も参加する連合「America Is All In(アメリカはみんなパリ協定にいる)」が、COP30会場内でイベントを開催。都市、企業、大学、研究機関から集まったメンバーが進展を続ける各自の取り組みを共有しました。また、終盤に登場したカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、「気候変動対策を議論するために集まったベレンにおいて、カリフォルニア州がアメリカ連邦政府に代わり、その対話をリードし続ける」と述べ、会場を湧かせました。

非国家アクターの取り組みを集結する「アクション・アジェンダ」の始動

COP30の成功の柱のひとつとして、交渉と並んで議長が力を注いできた取り組みが「アクション・アジェンダ」です。パリ協定から10年、非国家アクターのネットゼロ達成を推進する数々のイニシアティブが立ち上がり、成功例を作ってきました。アクション・アジェンダは、まず第1回グローバル・ストック・テイクの成果で明らかになった1.5度を実現するのに不可欠な取り組みを6つの軸に分類。それぞれの軸には、合計で30のアクティベーション・グループが形成され、これまでに482の非国家アクターイニシアティブが各グループの活動に参画しました。各グループでは、参画した非国家アクターイニシアティブがこれまでの経験から生み出した570もの「解決策」が共有され、世界全体で活用できる117もの「解決策を加速するための計画」が提案されました。

この活動は、議長国ブラジル、気候ハイレベル・チャンピオン、UNFCCCが協働で実施しています。COP30気候ハイレベル・チャンピオンのダン・イオシュペ氏は、「アクション・アジェンダは、実施(implementation)の効果的なエンジンだ」と述べています。

このアクション・アジェンダの枠組みは、11月9日に気候ハイレベル・チャンピオンが発表した「世界気候行動アジェンダ2026-2030」において、同様の枠組みを踏襲する形で2030年まで続けられることとなっています。特に、2028年のグローバル・ストックテイクに向けて、この枠組みを通じて非国家アクターによる実施がどのように加速していくのか、今後の進捗に期待がかかります。

非国家アクターのネットゼロに求められる高い信頼性・透明性

11月11日、ネットゼロ政策に関するタスクフォースが、新たな報告書を発表しました。これは、2021年のCOP27で国連ハイレベル専門家グループから発表された提言書「インテグリティの重要性:ビジネス、金融機関、自治体、地域によるネットゼロ宣言の在り方」をフォローアップするために立ち上がった同タスクフォースが、政策によって提言書の実現を後押しするために進められているものです。

同タスクフォースは、2024年のCOP29でG20諸国における気候変動政策が、前述の提言書とどれほど整合しているかを調査した報告書を発表しました。今回新たに発表された報告書では、世界の一部でみられる気候変動政策からの後退にかかわらず、昨年のCOP29以降の一年で、世界的にネットゼロの実現に有効な政策導入や規制が急速に進んでいると示しました。

中でも、重要な企業の情報開示について、世界のGDPの60%以上を占める地域で、企業のサステナブル情報開示の国際基準であるISSBに準拠した開示基準の導入または導入に向けた準備が進んでいることが明らかとなりました。一方で、気候変動に関する訴訟は2017年以降250%増加し、化石燃料業界による情報開示などの規制や政策を弱めようとするロビー活動は激しさを増していることもわかりました。これは、企業あるいは業界団体による気候変動対策やロビー活動に対して、より透明性や信頼性を確保する必要性を示しており、それを後押しする法や規制の一層の加速が求められることを指摘しています。

閉幕を受けてのコメント

田中健 WWFジャパン 気候・エネルギーグループ(非国家アクター連携担当)

今回の交渉では、化石燃料からの転換や森林破壊の停止と回復を含むグローバル・ストックテイクの成果を実施に導くための、具体的なロードマップを作るという合意は残念ながら見られませんでした。しかし、交渉の外で行なわれた非国家アクター、すなわち締約国政府以外の主体を取り巻く活動は、パリ協定から10年の成果の蓄積を一つにする「アクション・アジェンダ」を軸に、新しいフェーズへと踏み出しました。COPにおける非国家アクターのこうした活動は、自らの取り組みを前進させるだけでなく、締約国による交渉を後押しするシグナルを送るという役割もあります。今後の非国家アクターの活動がさらに進化し、締約国に向けたシグナルが一層強さを増していくことを期待します。

小西雅子 WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー)

COP30に限らず、200カ国の自国益がぶつかるCOP交渉は熾烈を極めます。その結果として双方ともに弱められた合意にならざるを得ませんが、今は議長リードのこの指とまれ方式のイニシアティブや、非国家アクター主導の国際連携が活況を呈しています。いわばCOPは脱炭素の世界最大の見本市化しており、ここに集い、国際約束やその進捗発表をすることは、脱炭素社会のリーダーである証となります(抵抗勢力の場合もありますが)。そのCOPの成果は、COPの正式な決定だけではなく、枠外の先進的なイニシアティブを注視する必要があります。今回のCOP30においては、化石燃料からの転換に関するロードマップとTFFFから目が離せません。特にグローバルに活躍する先進企業にとっては先進と認知される知見がここに生まれてきますので、賛同するかは別にしてもご注目ください!

【COP30】現地からの発信

1.5度目標をあきらめない

アメリカの気候変動対策を主導する非国家アクターたち

気候マーチが行なわれました

新報告書発表:ネットゼロを推進する気候変動政策は急速に進展、しかし更なる加速が必要

COP30が開幕しました

国際熱帯林保護基金が設立されました

リーダーズサミットが始まりました

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP