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コロナ禍からの経済回復は、温暖化対策にもつながるグリーン・リカバリーに

この記事のポイント
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済の停滞。そこからの回復を図るときには、単なる「過去の姿を取りもどす復興プラン」ではなく、温暖化対策も含めたサステナブルな社会づくりを目指す復興プラン「グリーン・リカバリー」を目指すことが重要です。なぜグリーン・リカバリーが今、求められているのか。世界各国で進む、さまざまな経済復興の中でのグリーン・リカバリーの動きと、日本に求められていることは何かをお伝えします。
目次

コロナ禍による経済封鎖で、温室効果ガス排出量も減少

世界を揺るがしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がり。

その対策として行なわれた、主要国の都市封鎖や、人や物の移動の制限により世界のエネルギー需要は減少しました。

国際エネルギー機関(IEA)の予測では、2020年のエネルギー需要は約6%の減少。

中でも、石炭と石油の使用が減ったために、温室効果ガスの排出量は約8%減少すると予測されています。

これは2008年の金融危機時の減少分の6倍にもあたります。

しかし、これは産業構造の転換の結果ではないため、経済が回復すればすぐに元通りの排出となります。

実際に2008年に起きたリーマンショック時には、経済回復時には温室効果ガスは急増しました。

今回もまた経済回復のみを優先し、これまで通りの化石燃料に依存した大量消費型の産業構造へ戻るならば、地球温暖化が加速して生物多様性がより破壊され、さらなる感染症や異常気象が蔓延する社会になってしまいます。

深刻な打撃を受けた世界の経済を、どのように回復させることが大事なのか。

世界の国々の最大の関心事である、これからの経済復興の在り方において、今最も注目されているのが「グリーン・リカバリー」です。

なぜグリーン・リカバリーが重要か?

「グリーン・リカバリー」とは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響を受けた経済の回復にあたり、今までの社会に戻すのではなく、地球温暖化対策や国連のSDGs(持続可能な開発目標)を同時に実現し、持続可能な社会への転換をめざす復興プランです。

つまり、各国が経済回復を図るためになりふり構わず刺激策を打つのではなく、温暖化の進行を防ぎつつ、よりレジリエントな社会構築のために経済刺激策の資金を使っていく、という考え方です。

現在、この「グリーン・リカバリー」を目指す動きが、カナダやフランスにおいて、いち早く打ち出され、世界に広がっています。

世界のコロナ禍からの経済刺激策をまとめているイギリスの独立研究機関VIVID ECONOMICSによると、世界主要国の経済刺激策の総額は11.4兆ドル。

そのうち約30%の3.5兆ドルが「グリーンな」、すなわち環境も重視した経済刺激策として、評価されています。

グリーン・リカバリーの有効性

「グリーン・リカバリー」は、その実施によって、経済成長や雇用増加が可能であることも示されています。

国際エネルギー機関(IEA)は2020年6月、新しい報告書『Sustainable Recovery:持続可能なリカバリー(経済復興)』を発表。

その中で、持続可能性を重視した施策、たとえば再エネや省エネ、電気自動車購入への補助などに3年間で3兆ドル投じれば、世界のGDP成長率を、その投資がなかった時の成長率と比較して、年平均で1.1%ポイント増加させる効果を持つ、経済成長の可能性を示しました。

その成長の規模は、2023年には日本1国分に相当するGDPに相当すると予想されています。

また、失われた雇用を900万人規模で新規に生み出す効果や、温室効果ガスの排出を減少に向かわせ、45億トンもの削減を実現することが可能であることも示しました。

まさに、温暖化防止に向けた世界の約束である「パリ協定」の目標に沿った削減の道筋が、実現できることを明らかにして見せたものといえるでしょう。

また、これが環境NGOからではなく、OECD諸国がエネルギーの需給安定のために設立した国際エネルギー機関であるIEAが発表したという点に、世界の潮流の大きな変化が感じられます。

【事例】欧州委員会の「次世代EU」回復パッケージ

世界的なグリーン・リカバリーをめぐる動きの中で、現在特に高く評価されているのが、欧州委員会の復興策です。

欧州委員会は2020年5月27日、2021年~27年の次期中期予算の一環として、新型コロナウイルスで打撃を受けたEU加盟国の支援のため、7500億ユーロ(約89兆円)の復興基金「次世代EU」を設置すると発表。

その中の成長戦略として、2019年12月に発表された「欧州グリーンディール」を明確に位置づけました。

欧州グリーンディールとは、「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロ、2030年に90年比で50~55%削減」への目標引き上げを含むパリ協定に沿った環境戦略のこと。

また、ここで投じられる7,500億ユーロのうち30%は、化石燃料への依存を減らし、エネルギー効率を高めるなどの目標を定めた対策を含む「グリーン」イニシアチブに向けられることになっています。

中でもすべての復興融資と助成金は、「環境に害を及ぼさないこと」と明記されているため、欧州連合加盟国への波及効果が大きいと考えられます。

この「次世代EU」回復パッケージは、これまでに発表された世界の経済復興策の中で最も環境に優しい刺激策と評価されています。

【事例】各国、そして国連の動き

国ごとの事例では、フランスが、航空業界への支援の条件として、省エネ型飛行機の導入や、近距離のフライトを減便することなどを求めた施策が注目されています。

さらにカナダでは、気候変動関連情報の開示を行なうことなどが企業に条件づけられた他、ドイツも2020年6月に発表した「未来のためのパッケージ」の中で、エネルギーと運輸セクターなどに対し、グリーンなインフラへの移行を促す内容を盛り込みました。

国連もこうした世界の動きを強く後押ししています。
グテーレス事務総長は、2020年4月の早い段階から、「温室効果ガス排出や新型コロナウイルスなどに国境は関係ない。我々にはパリ協定とSDGsという、協調するための行動フレームワークがある」と明言。

国連組織を挙げて、コロナ禍からのグリーン・リカバリーを推進すると同時に、すべての国に対し、パリ協定の削減目標を強化することと、「2050年ゼロ」の長期目標を持つよう、強く求めました。

また、ESG投資が拡大する中、巨額の資金を持つ世界の年金基金なども、企業に対しパリ協定に沿った行動を強く要請。

ビジネス界でも、グローバル企業を中心とした企業連盟が、各国政府に続々とコロナ禍からの回復を目指す経済刺激策を、グリーンにするよう求める声明を発表しています。

今後、こうした動きはさらに強まり、「グリーン・リカバリー」が世界の経済において主流化していくことが期待されています。

© Shutterstock / Soonthorn Wongsaita / WWF

日本の経済回復策のグリーン度は?

日本のコロナ禍からの経済刺激策は、事業規模230兆円以上。
アメリカに次いで世界で第2位の規模を誇ります。

しかし、VIVIDECONOMICSの日本に対する評価は、そのほとんどが「環境にネガティブだ」というものでした。

そうした姿勢を象徴する出来事が、コロナ禍のさなかの2020年3月30日にありました。

この日、日本政府は、国連に2030年までの、温室効果ガスの削減目標を再提出しました。

それは、2013年比で26%削減という内容で、世界の国々がこの日本並みの削減努力しかしないならば、平均気温は3度以上も上昇する、というレベルでのものです。

この、もともと海外の研究機関などから「非常に不十分」だと評価される目標を据え置いたままの発表は、国際的に再び強い批判にさらされることになりました。

パリ協定を、これからの経済活動の軸、新たなビジネスチャンスと位置付けて、その実現に注力する国々に、大きく後れを取った形です。

日本に対しては、これから本格的に実施する経済刺激策の中で、温暖化対策やSDGsの達成との相乗効果をもたらす具体策が求められます。

とりわけ、温暖化対策はエネルギー対策であることから、エネルギーや運輸、産業分野が、化石燃料から脱却できるよう促す施策が必要です。

たとえばカナダでは、金融安定理事会(FSB)によって設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース」に沿った情報開示を、回復にあたっての支援を行なう条件としています。

パリ協定が、単なる環境条約ではなく、脱炭素社会へ向かう世界共通のビジネスルールが定められたものでもあることを意識し、こうした官民一体となった施策を考え、実施することが求められています。

日本社会が温暖化に対してレジリエンスを高め、日本の産業がパリ協定の脱炭素時代においても競争力を持ち続けるためにも。

今こそグリーン・リカバリーを目指すべき時が来ています。

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