© Rafa Neddermeyer/COP30 Brasil Amazônia/PR

1.5度目標をあきらめない


どの国が2035年の削減目標を提出して、どの国はまだ提出していないのか。各国の提出状況を示すリストと地図が、COP30の開幕とともに日々、更新されています。9月末までに64カ国にすぎなかった提出国は、COP30が終盤を迎えた11月19日に119カ国まで増えました。

パリ協定では、すべての締約国が5年ごとに温室効果ガスの削減目標を国連に提出することになっています。2025年は、10年後の2035年目標を提出する重要な年にあたります。しかし、COP30開幕前の9月末までに提出した国は締約国全体の3分の1にすぎませんでした。10月末、国連はこの削減目標を分析した「統合報告書」を発表。すべての国の2035年目標を足し合わせても、1.5度目標の達成には遠く及ばないと警告しました。

その後、COP30が開幕した11月10日、国連は、開幕直前までに提出された最新の状況をもとに統合報告書を更新。これまで増加し続けてきた世界の温室効果ガスの排出量が初めて減少に転じ、パリ協定がなければ2035年に20〜48%の増加が見込まれた温室効果ガスが、2019年比で12%の削減に転じると示されました。

しかし、パリ協定がめざす1.5度目標を実現するためには、2035年までに2019年比で60%削減しなければなりません。2035年の排出量が2019年比で12%減にとどまるという予想は、60%減との間になお大きな乖離があることを明らかにしました。

出典:UNFCCC,NDC Synthesis Report-Update (2025/11/10発表)

出典:UNFCCC,NDC Synthesis Report-Update (2025/11/10発表)

1.5度目標を実現するためには、COP28で採択された化石燃料からの転換の道筋を具体的に示す必要があります。そして、その手段として2030年の再生可能エネルギーの設備容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を2倍にするといったエネルギー関連の合意を進展させることが不可欠です。COP30では、締約国が統合報告書が示した乖離にどう対応するかを話し合っていますが、各国の意見の集約は難航しています。

COP30は会期を3日残すだけとなりました。

COP30に先立つリーダーズサミットで、グテーレス国連事務総長は「国連は1.5度目標をあきらめない」とゆるぎない決意を表明しました。COP30議長のリーダーシップの下、各国が対立を乗り越え、化石燃料からの転換を具体的に前進させる合意をし、1.5度目標をあきらめないという意思を世界に示せるかにCOP30の成功がかかっています。WWFは閉幕まで交渉の前進に向けて働きかけていきます。

© Ueslei Marcelino/COP30

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自然保護室(気候・エネルギー)
田中 健

修士(理学・九州大学)
福岡県庁、経済産業省で廃棄物管理やリサイクルなどの環境保全行政に従事、日本のリサイクル企業の海外ビジネス展開を支援。その後、日本科学未来館にて科学コミュニケーターとして、国内外の科学館、企業、研究機関などと連携し、科学技術や研究者と一般市民をつなぐ様々なプロジェクトを担当。2018年8月から現職。気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative: JCI)等、企業や自治体など非国家アクターの気候変動対策の強化に取り組む。

子どもの頃から、自然や生き物の「なぜ?」を探るのが好きでした。自治体や国で環境保全に10年取り組むも、「もっとたくさんの人に環境問題を伝えたい!」と思い、一念発起。科学館スタッフとして環境・社会・教育など様々な分野のプロジェクトを通じて科学コミュニケーションの経験を積み、WWFへ。これまでの経験をまとめて生かし、地球温暖化という大きな課題にチャレンジ精神で取り組みます。

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