©Alex Ferro

国際熱帯林保護基金が設立されました


COP30の開催地、ベレン空港に降り立つと、飛行機と空港をつなぐボーディングブリッジが接続されました。そのほとんどに「森林COP」と書かれています。気候変動と生物多様性の2つの地球課題の解決をにぎる森林。なかでも豊かな生物多様性を誇りながらも減少の著しいの重要性に世界の関心を向けるため、アマゾン地域での開催を決行した議長国ブラジルの強い意思を感じました。

ベレン空港から伸びるボーディングブリッジの列。熱帯林の保全をめざす議長国ブラジルの意思を示すように、「森林COP」をアピールするイメージが描かれています。
© Y.Sato/WWF-Japan

ベレン空港から伸びるボーディングブリッジの列。熱帯林の保全をめざす議長国ブラジルの意思を示すように、「森林COP」をアピールするイメージが描かれています。

 COP30に先立って開催されたリーダーズサミット(首脳級会合)初日の11月6日、ブラジルは構想をあたためてきた国際熱帯林保護基金(TFFF)の設立を正式に発表しました。

 ブラジルをはじめ南米9カ国にまたがる熱帯雨林、アマゾン。その面積は日本の国土の約18倍といわれています。熱帯雨林は生物多様性を育み、大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素として貯留することで気候変動を緩和しています。森林による炭素の吸収量は世界最大の排出国、中国の排出量に匹敵する年間約11.7Gtと試算されています。
 しかし、森林の減少に歯止めがかかりません。森林破壊にともなう排出量は世界第2位のアメリカに迫る約4Gtといわれています。パリ協定がめざす1.5度目標を達成するためには、排出量を増加させる森林破壊や森林火災を食い止めることが不可欠なのです。


 TFFFは、それら熱帯林を保全するためにブラジルが創設したこれまでにない基金です。先進国をはじめとする国だけでなく、民間セクターにも参加を呼びかけて資金を積み立て、債券等への投資から得る利益を、自国の熱帯林(正確には熱帯・亜熱帯湿潤広葉樹林)を守る取組をする国々に配布します。

 森林破壊の主な要因の一つに農地転換があります。森林を保全するよりも、農地や放牧地にするほうが利益を生む経済システムが、森林破壊を拡大させています。そのため新基金は、森林を破壊するより保全するほうが利益を生む経済的インセンティブの創出をめざしています。

 資金を受け取る国は、保全する森林の面積に応じて1ヘクタールあたり4ドルを目安に支給されるといいます。また、資金の20%は、熱帯林とともに生き、その保全にも重要な役割を果たしている地域住民や先住民のために使われます。

© Zig Koch / WWF

ブラジル政府は各国政府からの公的資金250億ドルを基に、1000億ドルの民間資金を呼び込み、1,250億ドルの基金の創設をめざしています。そのため、自ら10億ドルの拠出を表明。このイニシアチブにリーダーズサミットの2日間で53か国が賛同したほか、ノルウェーの30億ドルを筆頭に、インドネシアやポルトガルなどが拠出を表明し、基金の総額は55億ドルに達しました。

 ブラジルのルラ大統領は「史上初めてグローバルサウスが森林保全の国際イニシアチブにおいて主導的役割を果たした」と述べ、シルバ環境・気候変動大臣は「森林が生み出す生態系サービスの価値を初めて認め、これを保全する永続的なインセンティブが生まれた」とその意義を語りました。


 リオデジャネイロの名が気候変動枠組条約と生物多様性条約を生んだ都市として歴史に残ったように、TFFFがその構想どおりに機能すれば、これを生んだベレンの名は熱帯林保護の新しい歴史をつくった都市として記憶されることしょう。

2週間にわたる会議では、例年同様激しい議論となることが予想されます。
© Hermes Caruzo

2週間にわたる会議では、例年同様激しい議論となることが予想されます。

WWFでは、会議の成功をめざして2週間の会期中にさまざまな活動を行います。今後の発信にぜひ関心をお寄せください。

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自然保護室(気候・エネルギー)
田中 健

修士(理学・九州大学)
福岡県庁、経済産業省で廃棄物管理やリサイクルなどの環境保全行政に従事、日本のリサイクル企業の海外ビジネス展開を支援。その後、日本科学未来館にて科学コミュニケーターとして、国内外の科学館、企業、研究機関などと連携し、科学技術や研究者と一般市民をつなぐ様々なプロジェクトを担当。2018年8月から現職。気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative: JCI)等、企業や自治体など非国家アクターの気候変動対策の強化に取り組む。

子どもの頃から、自然や生き物の「なぜ?」を探るのが好きでした。自治体や国で環境保全に10年取り組むも、「もっとたくさんの人に環境問題を伝えたい!」と思い、一念発起。科学館スタッフとして環境・社会・教育など様々な分野のプロジェクトを通じて科学コミュニケーションの経験を積み、WWFへ。これまでの経験をまとめて生かし、地球温暖化という大きな課題にチャレンジ精神で取り組みます。

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