© Sergio Moraes/COP30

新報告書発表:ネットゼロを推進する気候変動政策は急速に進展、しかし更なる加速が必要


COP30では、「非国家アクター」と呼ばれる政府以外のアクターである世界の企業や金融機関などがこれまでに数々重ねてきた宣言や計画を超えて、具体的な気候変動対策を「実施」することがこれまで以上に強く求められています。パリ協定から10年の間に、すでに世界中で多くの非国家アクターがネットゼロに向けて行動をする宣言をしていますが、これらをグリーンウォッシュ(見せかけの環境対策)ではなく、実際の行動へと促すために欠かせない鍵となるのが、各国の気候変動に関する政策導入や強化です。

 11月11日、この課題に取り組む国際機関や専門家によって構成される「ネットゼロ政策に関するタスクフォース」が、世界の気候変動政策の進捗をまとめた新たな報告書を発表しました。昨年のCOP29でも発表された同様の報告書をさらに更新し、この一年における気候変動政策の進捗状況や課題、そして政府、企業、金融機関に向けたベストプラクティスがまとめられています。

スペインパビリオンで行われた報告書の発表イベントで、企業や金融機関のネットゼロに向けた気候変動政策の進捗と可能性を議論する登壇者たち
© WWF Japan

スペインパビリオンで行われた報告書の発表イベントで、企業や金融機関のネットゼロに向けた気候変動政策の進捗と可能性を議論する登壇者たち

報告書は、世界の一部でみられる気候変動政策からの後退にかかわらず、昨年のCOP29以降の一年で、世界的にネットゼロの実現に有効な政策導入や規制が急速に進んでいると示しました。中でも、重要な企業の情報開示について、世界のGDPの60%以上を占める地域で、企業のサステナブル情報開示の国際基準であるISSBに準拠した開示基準の導入または導入に向けた準備が進んでいることが明らかとなりました。統一された国際基準の情報開示が進むと、企業の脱炭素に向けた取り組み状況が、投融資の判断をする機関投資家や消費者に一目瞭然となり、企業がより脱炭素に取り組むインセンティブとなるため、効果的なのです。一方で、気候変動に関する訴訟は2017年以降250%増加し、化石燃料業界による情報開示などの規制や政策を弱めようとするロビー活動は激しさを増していることもわかりました。これは、企業あるいは業界団体による気候変動対策やロビー活動に対して、より透明性や信頼性を確保する必要性を示しており、それを後押しする法や規制の一層の加速が求められることを指摘しています。

エアコン故障のため、うちわがなくてはいられないほどの暑い会場で行なわれたイベント。報告書作成に関わった登壇者たちは汗をにじませながらも、真剣に議論を進めていた。
© WWF Japan

エアコン故障のため、うちわがなくてはいられないほどの暑い会場で行なわれたイベント。報告書作成に関わった登壇者たちは汗をにじませながらも、真剣に議論を進めていた。

COP30 REPORT: Policy matters: From pledges to delivery a decade after Paris

COP30 REPORT: Policy matters: From pledges to delivery a decade after Paris

報告書を作った「ネットゼロ政策に関するタスクフォース」のヘレナ・ヴィンズ・フィエスタス共同議長は、「今は落胆する時ではありません。私たちにはツール、技術、そして決意があります」と世界に呼びかけています。

5.6万人もの参加登録があったCOP30が、各国のネットゼロ政策、ひいては非国家アクターのネットゼロに向けた取り組みの進展につながる前向きな成果を見せることができるか、引き続きご注目ください。

COP30 REPORT: Policy matters: From pledges to delivery a decade after Paris

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自然保護室(気候・エネルギー)
田中 健

修士(理学・九州大学)
福岡県庁、経済産業省で廃棄物管理やリサイクルなどの環境保全行政に従事、日本のリサイクル企業の海外ビジネス展開を支援。その後、日本科学未来館にて科学コミュニケーターとして、国内外の科学館、企業、研究機関などと連携し、科学技術や研究者と一般市民をつなぐ様々なプロジェクトを担当。2018年8月から現職。気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative: JCI)等、企業や自治体など非国家アクターの気候変動対策の強化に取り組む。

子どもの頃から、自然や生き物の「なぜ?」を探るのが好きでした。自治体や国で環境保全に10年取り組むも、「もっとたくさんの人に環境問題を伝えたい!」と思い、一念発起。科学館スタッフとして環境・社会・教育など様々な分野のプロジェクトを通じて科学コミュニケーションの経験を積み、WWFへ。これまでの経験をまとめて生かし、地球温暖化という大きな課題にチャレンジ精神で取り組みます。

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