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トルコ、ギリシャの山火事についての続報

この記事のポイント
2021年7月、地中海沿岸のギリシャ、トルコで、大規模な山火事が発生。各地に甚大な被害をもたらしました。トルコでは待望の降雨もあり、8月下旬以降、火災はおさまりつつありますが、被災者や野生生物の救護活動は今も続けられています。また、ギリシャでは、まだ火災が続いており、場所によっては2度目の火災も発生。一部の野生生物保護区などが、壊滅的な打撃を受けています。被害の現状と、日本の皆さまからお預かりした募金を含む、世界各国からの緊急支援により、行なわれている活動についてご報告します。
目次

トルコの火災と緊急支援活動

トルコの火災と緊急支援活動
©DHA

火災の被害

地球温暖化(気候変動)に起因すると考えられる異常気象により、各地で干ばつが続いていた地中海沿岸で、2021年7月、深刻な山火事が多発しました。

その最も大きな被害を受けている国の一つがトルコです。

トルコでは2021年7月28日以降、81県のうち51県で、合計250以上の山火事が発生。

特に被害が深刻だった南西部では、推定で13万5,000ヘクタールもの地域が焼失しました。

被害は、森林やそこにすむ野生生物、農耕地帯などに広く及び、8名の方が犠牲になりました。

また焼失面積は、トルコで過去20年間に起きた火災の総面積を上回るともいわれています。

8月中旬以降には降雨もあり、ほぼ全土で火災は鎮火しましたが、トルコ北東部では逆に大雨による洪水が発生。道路や市街地が大規模な被害が発生し、犠牲者も出てしまいました。

WWFトルコの取り組みと今後の展望

©WWF TURKEY

WWFトルコは火災の発生直後に、緊急対応計画を策定。まず、トルコ国内の企業に要請して1週間で集めた約90万ユーロの寄付金を、被災地での消火活動支援に充てました。

この活動では、得られた資金を基に、消火用のヘリコプターを投入。7日間で計57時間の消火活動に従事し、対象地域での火災を鎮火に貢献しました。

現在は火災はおさまっていますが、被災地への救済活動は続けられており、今も支援が必要とされています。

WWFトルコでは、被災した野生生物を救護する活動に着手しており、現場で使用する緊急用キットや、救護用の車両、必要な技術機器の調達を進めているほか、長期的な取り組みとして、新たな救護センターの建設を計画しています。

被災地に乗り込んだ救護用の自動車
© AHMET EMRE KUTUKCU/WWF TURKEY

被災地に乗り込んだ救護用の自動車

野生動物救護で使う緊急用のキットを用意するスタッフたち
©WWF TURKEY

野生動物救護で使う緊急用のキットを用意するスタッフたち

そのために必要な予算は、緊急用キットの準備に5万ユーロ、救護車両などの準備に10万ユーロ、救護センターの建設に250万ユーロと見積もられています。

日本を含む世界各国から寄せられる募金や寄付金も、こうした費用に充てられる予定ですが、まだ不足しており、WWFトルコではさらなる支援を呼びかけています。

WWFトルコからのメッセージ

「私たちが支援を求める声に、世界のWWFが力を合わせ、迅速に応えてくれたことに、あらためて感謝いたします。このつながりは、私たちにとってとても大切なものであり、トルコが受けた傷をより早く癒すものとなるでしょう。そして、時を同じくして、壊滅的な火災に見舞われたギリシャの友人たちに、心からのお見舞いを申し上げます」

ギリシャの火災と緊急支援活動

火災の現状

ギリシャではこれまでに、エヴィア、ペロポネソス、アッティカ、フォキダの各県で発生した大規模な火災によって、推定で12万7,807ヘクタールが焼失しました。

これは過去20年間に、ギリシャで夏季に起きた火災による平均焼失面積の3倍に相当する規模です。

また現在のところ、今回の火災は、ギリシャで22万5,734ヘクタールが焼失した2007年、14万5,033ヘクタールが焼失した2000年に次ぐ、3番目の規模と期間となっています。

一度鎮火した場所でも火災が再発しています。

首都アテネの北西約20キロに位置するパテラス山(標高1,131m)では、2回目の大規模な火災が発生し、9,437haが焼失。マウンテン・パテラス野生生物保護区は、壊滅的な打撃を受けました。

このパテラス山を含むアッティカ地方では、森林全体の14%が失われたと考えられています。

今回の被害は、地域の気候に影響を与え、土壌の浸食リスクを高め、地域の植物や野生生物の個体数に直接影響を与えることが懸念されています。

また、分断された森林などの生態系をつなぐため、植樹などを行なって設置された、各地のコリドー(緑の回廊)も消滅してしまいました。

これによって、パテラス山から20キロほど東に位置する、パルニサ山の保護区とのつながりが断たれ、そこに生息するアカシカの個体群や、最近アッティカ地方で再び確認されるようになったオオカミに、影響が及ぶことが懸念されています。

焼亡したパルニサ山の森と、火から逃げ延びたアカシカ
©_Giorgos_Saliarelis

焼亡したパルニサ山の森と、火から逃げ延びたアカシカ

また、首都アテネの北東約40キロのエーゲ海に浮かぶエヴィア島では、固有種のナラ類(Quercus euboica)や、ギリシャ固有種のモミ類(Abies cephalonica)、ヨーロッパクロマツなどの生育が確認されていますが、こうした貴重な樹種の森でも火災が発生。植生の自然回復が可能なのか、心配されています。

エヴィア島では、火災により地域社会や経済も、大きな影響を受けています。

ギリシャのハチミツ生産量の70%を占めるハチミツ生産者をはじめ、樹脂の採取や林業、そして観光業などで生計を立て、森林を頼って暮らしてきた人々の置かれた状況は深刻です。

© Ioanna_Stratou/WWFGreece

WWFギリシャの取り組みと今後の展望

WWFギリシャでは、火災の発生からこれまでに、主に次のような活動を展開してきました。

  • 火災で被災した野生動物の救護や、保護した野生動物を自然環境に戻すためのリハビリ活動を主体的に行なっている民間団体ANIMAへの支援。
  • エヴィア島の地元消防ボランティアグループに対する消防設備の支援。
  • 国としての対策の軸を、これまでのような火災の発生後の消火対応から、発生の予防に転換することを求め、そのための提案をまとめた書簡を首相に提出。
  • メディアからのインタビューや論説、インターネットを介した発信を通じて、ギリシャでの火災防止に必要な体制や取り組みの変更を求める公的対話に積極的に参加。
  • 国際的なギリシャへの支援の呼びかけ など

また、WWFギリシャではエヴィア島において、貴重な樹種が生育する地域や、過去20年間に繰り返し発生した火災によって再生能力を失い砂漠化した地域を明らかにした地図を、すぐにも製作する予定です。

これは、今後の開発などによって失われる可能性のある、保護活動の必要な残された森林地域を特定するためのものです。

被災したエヴィア島の森。貴重な植生が失われた。
© Thanos_Giannakakis

被災したエヴィア島の森。貴重な植生が失われた。

ギリシャで火災が多発するシーズンは、通常であれば、毎年10月の末に終わりを迎えます。

しかし、今のところ気温はまだ高く、気候変動の影響による度重なる熱波によって、森林は非常に乾燥しており、火災の危険が続いています。

この状況が、夏が終わっても続くようであれば、新たな大規模火災が発生する可能性もあると考えられます。

引き続き、皆さまのご支援をお願いいたします

火災はおさまっても、問題が終わるわけではありません。

被災した人々や自然、そこに生きる野生生物が、本当に支援や救護を必要とするのは、むしろ火災の後、回復に向けた道のりにおいてです。

WWFは引き続き、ギリシャおよびトルコでの火災に対する取り組みを行ない、日本でもその活動を支えるための募金活動を継続いたします。

皆さまにはこれからも、この大きな課題にご関心をお持ちいただき、活動へのご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

▼トルコおよびギリシャの山火事で被害を受けた野生生物のために(Yahoo!ネット募金のサイト)
https://donation.yahoo.co.jp/detail/174010/

WWFジャパンではYahoo!ネット募金を通じて、ギリシャ、トルコへの支援を募っております。ぜひ、ご協力をお願いいたします。(受け付けは2021年10月末まで)

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