地球温暖化による野生生物への影響


これまでにないスピードで変化していく気候、多発する異常気象が引き起こす環境の変化は、ホッキョクグマをはじめ、さまざまな野生生物を、絶滅の淵へ追い込んでいきます。現在、地球温暖化の影響を受けていると考えられる野生生物の数は、およそ2,800種。この数字は、今後さらに増加してゆくと見られています。温暖化による野生の生きものたちの危機。それは、地球上のあらゆる命を支える自然環境の崩壊につながります。

絶滅危機種の10種に1種が気候変動の影響を受けている

IUCN(国際自然保護連合)が発表している、世界の絶滅の恐れのある野生生物のリスト「レッドリスト」には、2万4,000種あまりの野生生物が「絶滅の危機の高い種(絶滅危機種)」として掲載されています。(2017年8月時点)

そしてレッドリストは、野生生物を追いつめる大きな11の要因の一つに、「気候変動」つまり地球温暖化を挙げています。

この気候変動による影響を受けていると考えられている絶滅危機種は、西暦2000年以降、急激に増加してきました。

2000年時点で15種とされたその数字は、2004年には182種に急増。さらに2008年、632種と増え、2010年には1,000種を超えました。2015年には2,000種を数えるまでになり、2017年にはこれが2,835種に。3,000種という数字も、すでに目前に迫っています。

現在、レッドリストに掲載されている絶滅危機種の、実に10種に1種以上が、この温暖化の影響を受けている、ということです。

懸念される野生生物への影響

もちろん、この気候変動で脅かされている野生生物の中には、密猟や生息環境の破壊といった、他の危機にさらされているものが少なくありません。

むしろ、温暖化のみによって絶滅しかけているものは、数少ないといってよいでしょう。

実際、目には見えない温暖化による影響は、捉えがたく、科学でも証明するのが難しい影響です。

しかし問題なのは、これまで野生生物を脅かしてきた大きな要因、「乱獲」「生息環境の破壊」「外来種」といった脅威に、この「気候変動」がさらに重なることは、野生生物の絶滅の危険性を、さらに増大させてしまうおそれがある、ということです。

実際、ただ一つの原因だけで生物が絶滅してしまうことは希です。上記の大きな要因が複合的に作用し、圧力を加速させることが、大きな問題なのです。

気候変動のリスクにさらされている絶滅危機種の数

Red Listのランク動物植物その他
CR(近絶滅種) 504 278 5
EN(絶滅危惧種) 732 224 6
VU(危急種) 929 154 3
総計 2,165 656 14

動植物の変化がさらなる気候変動につながる

気候変動が自然や野生生物に及ぼす深刻な影響の原因は、地球環境にもたらされる、急激な「変化」です。

気温や気候が変化する中では、食物が採れなくなったり、繁殖が出来なくなり、数を減らす動植物種が出てくるだけでなく、一方で生息域を広げ、数を増やすものも出てくるでしょう。

生えている植物が変化し、生息する野生動物が変化すれば、温暖化による変化に耐えていた動植物も、新たに優勢になった動植物に生息地や食物を奪われたり、捕食されて減少し、絶滅する種が出てくるかもしれません。

温暖化はこうした間接的な影響も生物に対して及ぼす危険性があるのです。

さらに広い地域で植生や生物相が大きく変化すると、地域の気候自体を変えてしまう可能性もあります。

たとえば、森林や草原だった場所が、干ばつなどで広く砂漠化したりすると、その地域の気温や気候そのものを変化させる一因になります。

これがさらに在来の野生生物や生態系を脅かす原因になるのです。

  • ※出典:IMPACT OF CLIMATE CHANGE ON SPECIES(WWF 2015)

地球温暖化の影響を受けている野生動物

実際に温暖化の影響を受けていることが懸念される、いくつかの野生生物の事例を紹介します。


ジャイアントパンダ

食物の99%がタケという、珍しい習性を持つクマ科の野生動物です。推定個体数は1,864頭(2015年)。中国の6つの山脈に分布していますが、生息地は各地で分断されています。手厚い保護活動によって近年は数がわずかに増えているとされていますが、今も絶滅が心配されています。

▼地球温暖化の影響:生息地である竹林の環境変化

ジャイアントパンダは食物とすみかの両方を、険峻な山岳地帯に自生する竹林に頼っています。数種が知られるこの野生のタケは、種によって実をつける時期が異なり、長いものでは数十年おきにしか花を咲かせません。このため、気温や気候の変化で生育や発芽ができなくなるタケの種類が出てくる可能性が、研究者により指摘されています。
こうした影響を受け、竹林が減少したり消滅すると、パンダはすみかと食物の両方を失うことになります。特に、秦嶺山脈、大相嶺、邛崃山脈では温暖化の進行による竹林とその生物多様性の減少が懸念されています。
特殊な食性を持つパンダの場合、こうした竹林の代わりとなる生息域がありません。温暖化がもたらす限られた山地の環境の変化は、パンダにとって深刻な脅威となります。
WWFは生息地の森の保全に取り組むとともに、分断された野生のパンダの分布域を「緑の回廊(コリドー)」でつなぎ、孤立した個体群が移動できる環境を整えることで、こうした影響を極力緩和する活動を目指しています。


ホッキョクグマ

オスは体長3.5m、体重400キロを超える、陸上最大の肉食動物です。推定個体数は2万~2万5,000頭。北極の海氷の上をすみかとし、アザラシを主に獲物としています。過去には狩猟により数を減らした歴史があり、現在も水銀などの化学物質による汚染の影響が懸念されています。

▼地球温暖化の影響:海氷の消失による食物と繁殖地の不足

ホッキョクグマの主食はアザラシ。北極の海氷の上で狩りをしますが、氷が解ける夏の間は、数カ月にわたりほぼ何も食べずに過ごします。このため、温暖化によって氷のない期間が長くなると、十分な獲物が獲れず、弱ったり、繁殖できなくなります。
海氷が無くなると、ホッキョクグマは海を長時間、泳ぐことを強いられ、途中で溺れたり、陸地に上がって人と衝突事故を起こすことがあります。また、雪が減り雨が増えると、子育てに必要な雪洞も作れなくなります。
米国地質調査所の調査では、現在のペースで温暖化が進むと、ホッキョクグマの生存に適した夏の海氷の面積が、21世紀中頃には42%失われる可能性が示されました。また、その頃までには、ホッキョクグマの個体数が2/3まで減少する、と予測する科学者もいます。
この動物を守るためには、北極ではなく、世界中の国々で温暖化の防止を推し進める必要があります。WWFは各国政府や世界の企業に対し、温暖化防止のためのルール作りと、温室効果ガス排出の削減を強く訴えています。


スマトラオランウータン

東南アジア、スマトラ島の標高500~1,500mの熱帯雨林に生息し、ジャックフルーツやマンゴー、ドリアン、イチジクなどの果物を主食としています。乱伐や、パーム油(植物油)を生産するための農地(プランテーション)開発による森の消失で、深刻な絶滅の危機にさらされています。

▼地球温暖化の影響:大雨と干ばつによる森の変化

温暖化が進むことで、スマトラと周辺の島々では、特に2025年までに、雨の増加が予想されています。こうした天候の変化は、オランウータンの主食である果物の生育を減少させ、オランウータンの成長や繁殖に影響を及ぼすと考えられています。
一方で、乾季には干ばつがこの島々を襲い、森林火災を深刻化させる可能性が指摘されています。1997年以降、たびたび生じている「エルニーニョ現象」と、それにともなって生じた大規模な森林火災は、すでに広大な森を焼き、多くの野生のオランウータンを死に至らしめました。もともと、森林伐採によって減少しているオランウータンにとって、気候変動によるさらなる打撃は、絶滅危機を深刻化させる大きな問題です。
さらに、森が燃えれば、温暖化の主因である二酸化炭素が大量に大気中に放出され、これがまた温暖化をより進めてしまう原因にもなります。
WWFはスマトラやボルネオなどの島々で、熱帯林の消失をくいとめ、森とそこに生きる野生生物を守る活動を続けています。


ユキヒョウ

ヒマラヤと中央アジアの山岳地帯に生息するユキヒョウ。標高4,000メートル以上の、世界で最も高地にすむネコ科の野生動物です。美しい毛皮を狙った密猟が今も起きています。また、近年は高地にも広がった放牧地で、家畜を襲う害獣として殺されることも。推定個体数は4,080~6,590頭。

▼地球温暖化の影響:高山の環境の変化と人との軋轢の増加

WWFは2015年に発表した報告書の中で、ユキヒョウが過去20年間、密猟や、生息環境の悪化などにより、その個体数を16%減少させてきたと指摘しました。気候変動による高山の環境の変化は、このユキヒョウの危機に、追い打ちをかけるおそれがあると考えられています。
高山で著しい気温の上昇は、森林限界を引き上げ、それまで寒くて植物が生きられなかった高地を、緑で覆ってしまうようになります。これにより、もともと植物の乏しい岩場のような、ユキヒョウの生息に適した環境が減少してしまう可能性があります。
こうした高山の環境の変化は同時に、マーコールやアルガリ、バーラルなど、ユキヒョウが獲物とする大型のヤギ、ヒツジ類の生息にも影響を及ぼすおそれがあります。
WWFは同報告書の中で、このまま地球温暖化への対策を何も講じなければユキヒョウの生息地が、現在の3分の1まで減少する恐れがあること、そして、今すぐにも世界各国が協力して取り組むべき地球温暖化の防止に向けた活動の必要性を訴えています。


アフリカゾウ

肩の高さ3.3m、体重7.5トンにもなる、現存する陸上生物では最大の種。身体に汗腺を持たないため、体温を下げ、寄生虫を除くためには、48時間以上おかずに水浴びか泥浴びをしないと、健康に生きられません。生息地の開発と、象牙を狙った密猟が大きな脅威です。推定個体数は約42万頭。

▼地球温暖化の影響:生息地アフリカの乾燥化

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第4次評価報告書の中で、2080年までに、アフリカ大陸で乾燥した地域が5~8%拡大し、一部が干ばつに見舞われると予測しました。この変動は、常緑樹林の減少と、落葉樹林や熱に強い草地の拡大などをもたらし、さらに一連の植生の変化は、水源や水流にも影響を及ぼすと考えられています。
特に、乾燥化がもたらす水資源の不足は、ゾウにとって深刻な危機であり、水の利用をめぐって人との間で衝突を引き起こす原因にもなります。また、雨や水を求めるゾウが、より大きな距離を移動することになった場合、その途上にある町や道路、農地などが、それを妨げる可能性もあります。
アフリカゾウは高い適応能力を持つ野生動物ですが、気候変動のような大規模な影響に十分に対応できるかどうかは不明です。また、こうした気候の影響が、密猟による圧力や脅威を、より大きくする危険もあります。
WWFは国境を越えた視点から、ゾウの生息域を保全し、象牙などの密猟と違法取引を取り締まる取り組みを支援しています。


アオウミガメ

熱帯から亜熱帯の海を中心に分布するウミガメの一種です。ウミガメ類では唯一の完全な草食性で、アマモなどの海草や藻類などを主食としています。産卵場所の砂浜が開発によって消失したり、食用にするための捕獲や卵の乱獲、誤って漁網にかかって命を落とす「混獲」の脅威を受けています。

▼地球温暖化の影響:オスとメスのバランスが変わる

アオウミガメの卵は、産み落とされた場所の砂の温度で、オスかメスかが決まります。温度が高ければメスが生まれ、温度が低い場所ではオスが生まれます。このため、温暖化によりわずかでも気温が上がると、メスばかりが増え、オスとメスのバランスが狂って、繁殖ができなくなる恐れがあります。
また、温暖化の主因である二酸化炭素(CO2)の大気中の濃度の上昇は、海に溶け込むCO2を増やして、海水を酸性化させ、アオウミガメの食物である海草をはじめ海中の生態系に大きな影響を及ぼすと考えられているほか、氷河の融解による塩分濃度の低下なども生じるといわれており、こうした問題が、ウミガメの生活史と海の環境に、どのような影響を及ぼすことになるのかが懸念されています。
さらに、激しい嵐や、海面上昇は、産卵に適した砂浜の自然と、産み落とされた卵を破壊します。開発などによる影響に加え、こうした脅威が増大することは、1億年以上にわたる進化を遂げてきたウミガメ類を絶滅の縁に追いやる、深刻な問題です。


シロナガスクジラ

全長35m、体重190トンにもなる、地球史上最大の野生動物。世界の大洋に分布し、オキアミなどのプランクトンを食べます。夏には水温の低い高緯度の海域に移動。冬は低緯度の温暖な海に移動して、繁殖します。誤って漁網にかかる「混獲」や、船舶との衝突、化学物質による汚染などが脅威となっています。

▼地球温暖化の影響:繁殖域の移動と食物への影響

地球温暖化の主因である二酸化炭素(CO2)が大気中で増加すると、海に溶け込むCO2も増加し、海水が酸性化します。これはエビなどの甲殻類が持つ、カルシウムの殻を溶かし、その発生に深刻な影響を及ぼします。シロナガスクジラの主食オキアミも例外ではなく、クジラの個体群が大きな打撃を受ける可能性があります。
また、シロナガスクジラは海の深い場所から、冷たい海流が上昇してくる海域を重要な生息域としています。こうした海域は、海底から海面近くに運ばれる栄養分が豊富で、プランクトンが多く発生するためです。
しかし、海面近くの水温が高くなり、安定した水の層を作ってしまうと、下からの冷たい海流が阻まれて停滞し、プランクトンの発生も抑えられてしまい、十分な採食ができなくなります。このため、シロナガスクジラは採食に適した場所を求め、200~500kmも余分に南へ移動しなくてはならないと考えられています。
こうした移動距離の増加は、エネルギーの浪費と繁殖期間の短縮につながり、繁殖域自体も縮小すると懸念されています。


コアラ

オーストラリアの東部と南東部に生息する有袋類(胎盤を持たず、お腹の袋で仔を育てる哺乳類)の一種。毒素のあるユーカリの葉を主食とする変わった食性を持ちます。火災や開発による森の消失と分断。また地上に降りたところを襲ってくるイヌやネコ、自動車との交通事故が脅威となっています。

▼地球温暖化の影響:水の不足と森の減少

生息地のオーストラリア内陸部で、10年にわたり続いた大規模な干ばつによる影響を受けています。コアラは、植物の葉から必要な水分を採っており、「コアラ」という名称も、元は「水を飲まない」という意味の現地語に由来するといいます。しかし、こうした地域では、異常気象による干ばつで多くの植物が枯死したため、「水不足」で衰弱して命を落とすコアラが多く出るようになりました。近年は地面に降りて、直接水を飲むコアラの姿も確認されています。
コアラは長年、各地で保護され、絶滅の危機は無いとされてきました。しかし、異常気象という形で顕れた地球温暖化の影響が今、コアラの未来を、危ういものに変えようとしています。もともと、地面を歩き回るのを得意とせず、機敏な動きもできないコアラが、水分を求めて従来より多く木から降りる機会が増えれば、他の肉食動物に襲われたり、交通事故に遭う危険性も増える可能性もあります。さまざまな危機が複合して、より大きな脅威になることを想定した、保護活動が求められます。


トナカイ(カリブー)

北半球の北極圏とその周辺に群でくらすトナカイ。北米ではカリブーと呼ばれるこの動物は、シカ科の仲間では唯一、雌雄共に角を持つ野生動物です。空や海を「渡る」鳥やウミガメのように、極北のツンドラの大地を、季節に応じて数百キロ、時に千キロ以上も、大きな群で旅をします。

▼地球温暖化の影響:北極圏の季節とサイクルの変化

トナカイは生息地で行なわれている、石油パイプラインなどの設置を含む、さまざまな開発により、長距離の移動ルートが、分断・消失する危機にさらされています。
トナカイは数週間という短い夏の間に、植物の豊かなツンドラをめざし、ここで十分に栄養をつけて秋の終わりに仔を産みますが、こうした開発が移動ルート上で行なわれると、それを迂回せねばならなくなり、ちょうどよいタイミングで目的地に着くのが難しくなります。
こうした状況に加え、地球温暖化によって北極圏で氷の張る時期や降雪が変化すると、ツンドラを訪れる夏のタイミング自体がずれてしまい、旅をしてきたトナカイたちが、十分な食物にありつけず、繁殖もできなく恐れがあります。さらに温暖化は、トナカイを殺してしまうほどの天敵である蚊を増加させ、この虫が媒介する病気も広げて、トナカイを絶滅の危機に追いやると指摘されています。
2015年の推定個体数は289万頭。多く見えますが、これはかつて480万頭とされたトナカイが、近年激減した結果なのです。


進む温暖化の影響を食い止めるために

いま、多くの野生生物が、地球温暖化の影響を受け始めていると考えられています。

多様な要因が関係する、地球温暖化が環境や植生に及ぼす影響を、科学で確実に証明するのは非常に困難です。

しかし、地球上の各地でこうした問題が実際のものとなれば、その脅威は途方もなく大きなものとなります。

人類もまた、その影響から逃れることはできません。

農業や漁業、林業などは、こうした影響を直接受けることになりますし、これらの原材料に頼ったさまざまな製品やサービスに携わる産業や経済も、間接的に打撃を受けます。

深刻な危険性や可能性が考えられる以上、未来に向けて危機を回避するための、温暖化防止の取り組みは行なってゆく必要があるのです。

野生生物は、この地球という星の自然環境の確かな一部であり、同時にその現状を表すバロメーターでもあります。

今、多くの野生生物が受けているさまざまな気候変動の影響は、そのまま人類を含めた地球環境が、温暖化によってどのような危機にさらされるのか、また今後、さらされようとしているのかを示す警告に他なりません。

WWFはさまざまな野生生物の生きる地球環境を保全するために、そして人類が自然と調和して生きていくことのできる「持続可能な未来」を目指す活動の一つとして、地球温暖化をくい止める取り組みを行なっています。


<参考資料>

  • IUCN REDLIST : http://www.iucnredlist.org/
  • IMPACT OF CLIMATE CHANGE ON SPECIES : WWF 2015
    http://d2ouvy59p0dg6k.cloudfront.net/downloads/impact_of_climate_change_on_species___wwf_report.pdf
  • Fragile Connections: Snow leopards, people, water and the global climate : WWF 2015
    http://d2ouvy59p0dg6k.cloudfront.net/downloads/fragile_connections__final_with_links_.pdf

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