サンタマルタ会議と国連総会決議に見る日本への示唆
2026/06/03
- この記事のポイント
- 昨今の中東情勢や、コウテイペンギンの絶滅危惧種への指定など、気候変動対策の必要性と有効性が改めて浮き彫りになっています。国際社会では2026年4月の「サンタマルタ会議」や5月の国連総会でのICJ勧告的意見に関する決議の採択など、対策強化への機運が高まっています。一方、WWFの評価では、日本のNDCに改善の余地が残ります。削減目標と対策の強化で、この潮流への貢献と、経済のレジリエンスの向上が日本政府に求められます。
再認識される脱炭素の必要性と有効性
生物多様性への大きな脅威の1つである気候変動。その影響は各国の取り組みにもかかわらず、随所にますます表れています。
例えばコウテイペンギンは、2026年4月に絶滅の危険性の評価が2段階引き上げられ、「絶滅危惧種」に指定されました。21世紀末には絶滅に至る可能性も懸念されています。
その理由として気候変動の深刻化が指摘されており、国際社会は一丸となって気候変動対策をいっそう進めなければなりません。
【コウテイペンギンや南極の状況をもっと知りたい方へ】
・「コウテイペンギンが絶滅危惧種に選定 気候変動の脅威が深刻に」
・「広島で第48回南極条約協議国会議開催 ~気候危機の象徴・コウテイペンギンの「特別保護種」指定が議題に~」
・「【WWFジャパン声明】南極条約は加速する気候変動に対応できず」

2026年5月に広島市で開催された「南極条約協議国会議」では、コウテイペンギンを「特別保護種」に指定する議論がなされました。
また、そうした対策は、人間の社会・経済にもメリットをもたらします。健康・災害リスクの低減といった長期的な効果に加えて、化石燃料の市況悪化の回避などの短期的な効果も期待できます。
後者は特に、昨今の中東情勢によって顕在化したと言えます。日本経済新聞の報道によれば、火力発電への依存度の高い東京・中部地域で、卸電力価格が高騰しています(*1)。一方、「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」は、これまでに再エネ導入に向けて十分に投資してきた国々では、今回のエネルギー危機による影響が軽減されたと分析しています(*2)。
このように気候変動対策、とりわけその主因である温室効果ガスを排出する化石燃料からの転換は、必要性および有効性の両方が改めて明らかになったと言えます。
国際社会での気候変動対策の強化に向けた機運の高まり
そうしたなか、国際社会では化石燃料からの転換をはじめとして、いっそうの気候変動対策の強化に向けた機運が高まっています。
それを象徴するのが、2026年4月の「化石燃料からの転換に向けたサンタマルタ会議」と、2026年5月の国連総会での決議です。
化石燃料からの転換に向けたサンタマルタ会議
この国際会議は、2026年4月24日から29日にかけて、南米コロンビアの都市・サンタマルタで開催されました。
ここでは、化石燃料からの転換を加速させていくために、どのような取り組みができるのか、共通理解と実践的な方向性を得るために、各国が議論しました。
共同議長はコロンビアとオランダが務め、化石燃料の供給国と需要国の双方から、あわせて53の国と地域が有志として参加。さらに、アカデミアや企業、NGOなど多岐にわたる2,608団体も参加を表明しました。
この会議の目標は当初から、国連における従来の国際交渉を代替することではありませんでした(*3)。目指されていたのは、継続的な議論の場の設定によって、化石燃料からの転換についての機運を維持・強化すること、それを通じて国連での国際交渉を補完することです。
当初の意図に整合する形で、第2回の会議を2027年に開催することが決まりました。ツバルとアイルランドが共同議長を務めます。
そのうえで、第1回・第2回の議長国や、各種のイニシアティブをリードする国々から成る「コーディネーショングループ」が設置されます。これは、今後の会議での議論を適切に継続的・一体的なものとするために設けられます。

人間の排出する温室効果ガスのうち、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素が最多を占めます。
(図表の出典)全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(httpswww.jccca.org)より
第2回に向けては、3つのワークストリームも設置されます。具体的には、①各国での化石燃料からの転換を目指すロードマップ作りの支援、②経済面における化石燃料への依存の低減と資金枠組みの検討、③化石燃料の供給国・需要国双方での取り組みの整合性確保、の3つです。これらを通じて、化石燃料への依存を克服するために、各国がどのように協力できるのか議論されていきます。
加えて、「SPGET(The Science Panel of the Global Energy Transition)」と呼ばれる組織も設置されます。化石燃料への依存を克服するために必要な科学的知見を、各国に提供することを役割とします。
直近のCOP30の議長国であったブラジルは、化石燃料からの転換や森林破壊の停止の実現に向けたロードマップについて、策定のための議論を進めていきます。今回の会議での議論を取りまとめた報告書がインプットされる予定です。加えて、2026年のCOP31をはじめとした、国際交渉の場での議論などにも活用されます。
ICJ勧告的意見を受けた国連総会決議
2025年7月23日に、国際司法裁判所(ICJ)は、各国に気候変動対策をとることを法的義務として認め、それに違反した場合には対策や賠償を行なう責任も生じうることを、勧告的意見として示しました。
また、各国の排出削減目標は、パリ協定の掲げる1.5度目標の実現に十分貢献できるものでなければならないこと、自国企業の排出を制限するために必要な規制等を実施しない場合には国家が責任を負いうることなども示しています。

太平洋の島嶼国は温室効果ガスの排出量が少ない一方で、海面上昇などの影響を強く受けています。
そして、2026年5月20日には、この勧告的意見で示された内容を各国が実行に移すことなどを求める決議が、国連総会において採択されました。
提起したのは、地球温暖化による海面上昇で国土の喪失が懸念されるバヌアツなどです。世界全体での温室効果ガスの排出量に占める割合は圧倒的に少ないにもかかわらず、地球温暖化の影響を最も顕著に受けている国々が主導しました。
上述のICJ勧告的意見も国連総会決議も、法的拘束力があるわけではありません。しかし、いずれも各国にさらなる気候変動対策の強化を求める強い政治的メッセージになります。国際社会がこれらの要請に十分応えられるかが問われています。
日本への示唆
上述のとおり、国際的には気候変動対策の強化に向けた動きが確かに高まっています。では日本は、どのように対応していくべきでしょうか。
まず、脱炭素に向けた目標を強化して、リードの意思を国際的に示すことが求められます。特に、温室効果ガスの排出削減目標などを定めた、「国が決定する貢献(NDC)」の改善は不可欠です。
WWFでは、各国のNDCが満たすべき基準をチェックリストとして策定し、それに基づいた評価を実施しています。その一環として、WWFジャパンも日本のNDCを確認しました。
その結果は「ほど遠い(Long Way To Go)」と、あるべきNDCからは不十分なものに留まっていました。

WWFインターナショナルが実施するキャンペーン “NDCsWeWant” では、24の項目について各国のNDCを確認。5段階で評価します。
早期に国連に提出された点や、審議会の委員構成・議論方法が2021年の検討時から一定程度の改善が見られた点は、前向きな変化です。
他方、排出削減の水準は、IPCCをはじめとした科学的知見に照らすと不十分であり、目標の強化が欠かせません。WWFジャパンは2035年までに2013年比で少なくとも66%以上の排出削減は可能だと分析しています。
その他のNDCの確認項目については、以下をご覧ください。
・インフォグラフィック
・チェックリスト(英語)
そして、その実現に向けては、対策の強化も必要です。省エネを今まで以上に深掘りすること、屋根置き太陽光発電の義務化などを通じて既存の再エネを最大限導入すること、そして、2026年度から始まった排出量取引制度(GX-ETS)を改善することなどが、有効な選択肢となります。
こうした取り組みに早急に着手することで、人々の暮らしと自然環境を守ることを目指した国際的な潮流に、日本も応えられます。
同時に、輸入し続ける化石燃料を減らすことで、エネルギー安全保障と経済のレジリエンスの向上という実利を、日本経済が得ることにもつながります。
これらの実現を目指して、削減目標と対策の強化に日本政府が迅速に着手できるか、いま問われているのです。
<出典>
*1:日本経済新聞電子版(2026年4月13日付)「電力スポット、火力依存高い東京・中部で高値突出 中東危機で地域差」(閲覧日:2026年5月1日)
*2:IRENA (2026). “From energy crisis to energy security: Action for policy makers”.
*3:The First Conference on Transitioning Away from Fossil Fuels Website



