広島で第48回南極条約協議国会議開催 ~気候危機の象徴・コウテイペンギンの「特別保護種」指定が議題に~
2026/05/08
- この記事のポイント
- 2026年4月、IUCNの「レッドリスト」においてコウテイペンギンが初めて「絶滅危惧種(EN)」に指定されました。危機の最大の原因と考えられるのは地球温暖化をはじめとする気候変動。こうした深刻な状況をうけ、5月中旬に広島市で開催される「南極条約協議国会議」では、コウテイペンギンの「特別保護種」指定を求める動きが高まっています。コンセンサス方式を採るこの会議で、すべての協議国が合意に至ることができるのか――その行方が見守られます。
「第48回南極条約協議国会議(ATCM48)」の開催
2026年5月11日(月)から21日(木)にかけて、広島市で「第48回南極条約協議国会議(ATCM48)」が開催されます。

「南極条約」とは
南極条約とは、1959年に「南極の平和的利用」や「科学調査の自由と国際協力」等を目的に採択された、日本も締結する多国間条約です。1998年には、続いて南極の環境と生態系を保護するための「環境保護に関する南極条約議定書」が発効しました。
南極条約の58の締約国の中でも、南極で実際に科学的調査活動を行なっている29か国を「協議国」と呼び、「南極条約協議国会議(ATCM)」を定期的に開催しています。
日本も「協議国」の一員で、南極に4つの観測基地―古い順に(閉鎖中含め)「昭和基地」「あすか基地」「みずほ基地」「ドームふじ基地」を有しています。
今回の広島開催で第48回目となる「南極協議国会議(ATCM48)」。会議では、南極環境保護議定書に基づく、「環境保全委員会(CEP)」の会合も開催され、南極における環境保全について各国が議論します。

2025年イタリアで開催されたATCM47の様子。ATCMは協議国がアルファベット順に持ち回りで開催します。
なぜ南極条約が大切なのか、崩れる棚氷、成長できないコウテイペンギンのヒナ
2026年4月9日、国際自然保護連合(IUCN)は、世界の野生動植物種の保全状況についてまとめた「レッドリスト」で、南極大陸に生息するコウテイペンギンの絶滅危機レベルを絶滅の恐れが極めて高いとされる「EN(絶滅危惧種)」に引き上げたことを発表しました。
IUCNの予測では、コウテイペンギンの個体数は今後50年で半減し、21世紀末には絶滅に至る可能性も懸念されています。

詳しくはこちら:コウテイペンギンが絶滅危惧種に選定 気候変動の脅威が深刻に |WWFジャパン
コウテイペンギンを救うために、一番重要な手段は、温暖化を食い止めること―すなわち気候変動対策を加速させることです。
個体数の減少の最大の原因と考えられるのは、気候変動がもたらしている南極の海氷の急激な変化。氷の解ける時期が早まったことで、コウテイペンギンのヒナが成長する前に、水に濡れて体温を奪われ凍死したり、溺死したりと、深刻な繁殖の失敗が頻発しているとみられています。

陸地の氷床が割れないまま海に押し出された「棚氷」。気候変動により早期に崩壊するリスクが高まります。
また、南極観光ブームなど、急増する環境客数も南極の自然環境に圧力を与えています。南極の観光客数は1992から2020年で10倍に増加している一方で、既存の制度設計では、南極の自然を適切に守れないことが指摘されています(※1)。
そのために、WWFでは今回のATCM48において、コウテイペンギンを南極条約の「特別保護種」に指定するべきと考えています。
「特別保護種」としては、かつてはナンキョクオットセイ(2006年に除外済)、現在はロスアザラシの1種のみが指定されています。「特別保護種」とすることによって、国際的に合意された保護をもって、「特別保護種」への圧力を最小限に抑えることが可能になります。
気候変動によりすでに脅威にさらされているコウテイペンギンの生息地に対し、観光や船舶の往来などの追加的な影響からの保護が進むことが期待されます。
南極を守るためには、国際協調が不可欠
南極は、各国による領土権の請求が凍結された、いわばどの国にも帰属していない空間です。そのため、各国は、「南極条約」および「環境保護に関する南極条約議定書」という国際的な枠組みに基づいて科学的調査等の活動を行っています。
さらに、南極地域の管理に関わるルールや方針は、ACTMにおいて全会一致のコンセンサス方式で決定されます。そこでは、多数国の同意を越えて、すべての協議国が同意することがルールの形成に欠かせません。
こうした中、5月11日から開催される「ATCM48」では、コウテイペンギンが、すべての協議国の同意のもと「特別保護種」に指定されるのか、その行方に国際社会の視線が集まっています。 とりわけ、日本が議長国として南極条約の議論を主導するこの機会に、各国の合意形成を力強くリードし、コウテイペンギンの保護に向けた具体的な成果を導くことが期待されています。

気候変動が脅かす南極の命
さらに、コウテイペンギンをはじめとする南極の生物を絶滅の危機に追い込んでいる最大の原因である気候変動。これは、南極条約協議国29か国だけにとどまらず、世界中のあらゆる国とあらゆる経済活動に関わる、グローバルな課題です。
世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2度より充分低く抑え、1.5度に抑える努力を追求する「パリ協定」について、1.5度目標の達成には温室効果ガス排出量を世界全体で2030年までに43%(2019年比)、2035年までに60%(同)、それぞれ削減しなければならないことが分かっています。
しかし現在、「国が決定した貢献(NDC)」―各国の排出削減目標―は、すべての削減目標を足し合わせても1.5度達成のために必要とされる削減量には届いていません。パリ協定による各国の努力で2.3~2.5度の上昇予測まで下がりましたが、この水準では深刻な気候影響を回避するには依然として不十分であり、さらなる排出削減の強化が急務です。
各国には、より野心的な削減目標を掲げ、その実現に向けた取り組みを加速させることが求められます。そのなかで、先進国である日本はリーダーシップを発揮することが必要です。
上記の科学的知見に整合する形で、日本の2035年温室効果ガス排出削減目標を、少なくとも66%(2013年比)以上に引き上げるべきです。
また、その実現手段として、一層省エネを深掘りすることのほか、温室効果ガスの主な発生源である化石燃料からの転換を加速させることが不可欠です。
まずは、発電時に温室効果ガスを排出しない再エネの導入を自然に十分配慮しつつ最大限進めること、GX-ETSはじめカーボンプライシングを強化することなどに取り組むべきです。
北極とともに地球上で最も急速かつ顕著に気候変動の影響が現れていると報告されている南極の生態系。気候変動の影響を極めて受けやすく、コウテイペンギンをはじめとする多くの生き物の存続が脅かされています。
こうした影響を食い止めるためにも、WWFは国際社会に対し、「脱炭素社会」の実現を強く求め続けます。また、日本政府に対し、ATCM48議長国として責任のあるリーダーシップを発揮し、議論を主導していくことを期待します。
WWFは、気候変動に限らず、人間活動の圧力で失われつつある生物多様性を守るための提言と行動に、引き続き力を注いでいきます。

南極地域で危機に瀕しているのはコウテイペンギンだけではありません。ナンキョクオットセイも、2026年4月のIUCN最新「レッドリスト」で「低懸念種」から「絶滅危惧種」に格上げされました。1999年から2025年の間に個体数が50%以上減少したと推定されています。
※1 Impacts of tourism in Antarctica - resource | IUCN



