グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026 参加報告 ― ネイチャーポジティブを「理念」から「実装」へ―
2026/07/27
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- 生物多様性の危機が世界各地で深刻化する中、「ネイチャーポジティブ」すなわち、自然の回復が、生物多様性保全の重要な取り組みテーマとして注目されています。2026年7月14日、15日の2日間、熊本市で「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)」が開催されました。2026年10月にアルメニアで開催される生物多様性条約の第17回締約国会議(CBD-COP17)を見据え、ネイチャーポジティブの実現に向け、どのような議論が行なわれたのか。本サミットの概要とポイントをお伝えします。
2026年7月14日、15日の2日間、熊本市で「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)」が開催されました。本サミットは、Nature Positive Initiative(NPI)と国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)が主催し、2026年10月にアルメニアで開催される生物多様性条約の第17回締約国会議(CBD-COP17)を見据えつつ、主に民間の視点からネイチャーポジティブの実現に向けた議論を行なう国際会議です。企業、金融機関、政府、自治体、研究機関、NGOなどが集い、参加登録者数は2,725人、2日間の延べ参加者数は5,000人に達し、そのうち3分の2が企業と金融機関の関係者でした。
特に注目されたのは、日本を代表する企業の社長や会長、CEO、執行役員クラスが多数参加し、生物多様性を経営課題として語っていたことです。経団連会長をはじめ、多くの企業トップが「生物多様性は事業の基盤である」との認識を共有しました。また、生物多様性条約事務局長、IUCN事務局長、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のCEOをはじめ、世界のサステナビリティ分野を代表するリーダーが熊本に集結し、CDB-COP17で中間評価が行われる「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」の実践に向けた企業の取り組みについて議論を展開しました。
ネイチャーポジティブは経済・経営の課題へ

サミット冒頭で、Nature Positive Initiative(NPI)主宰のマルコ・ランベルティーニ氏(元WWFインターナショナル事務局長)は、これまでの経済発展が自然の損失を伴ってきたことを指摘し、「ネイチャーポジティブはスローガンではなく、測定可能な目標である」と強調しました。また、国連開発計画(UNDP)のペドロ・コンセイソン氏は、人々を動かすのは危機感だけではなく、より良い未来への希望であり、自然と人間の幸福は切り離せないと語りました。
これらの講演は、サミットを通じて繰り返し語られた「自然は事業の基盤であり、人間社会の繁栄と自然の回復は両立できる」というメッセージの出発点となりました。
気候と生物多様性を同時に解決する時代へ
今回のサミットで何度も語られたのが、気候変動と生物多様性の問題は切り離せないという認識です。多くの登壇者は、気候変動への対応だけでは十分ではなく、自然の回復がなければ気候目標も達成できないと指摘しました。一方で、森林や湿地など生態系の保全・再生は、炭素吸収、防災・減災、水資源保全などを通じて気候変動対策にも貢献します。また、「気候分野から学ぶべき」という意見も数多く聞かれました。気候変動分野では、この20年余りで目標設定、情報開示、指標開発、金融の動員が大きく進展しました。
自然分野でもTNFDをはじめとする共通フレームワークやネイチャークレジットなどの議論が進みつつあり、気候の経験を参考にしながら、より速いスピードで実装を進めていく必要性が複数のセッションで共有されました。
共通課題として浮かび上がった「測定」

多くの登壇者が共通課題として挙げたのが、「自然をどう測るか」です。
気候変動には温室効果ガス排出量という共通指標が存在するが、生物多様性は地域や生態系によって状況が大きく異なります。そのため、「何を測り、どう比較するか」が重要な論点となりました。特に「自然の状態(State of Nature)」パイロット事業のセッションでは、2年間にわたる開発と実証を経て、生態系の状態を評価する指標が企業の情報開示や目標設定に活用される段階に入りつつあることが共有されました。
また、農業や林業分野の先進企業からは、自然への依存や影響を評価し経営判断につなげる試みが共有されたほか、TNFD、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、GRI(Global Reporting Initiative)などによる評価手法の標準化や、AI、衛星データ、環境DNAを活用した可視化の取り組みも紹介されました。
こうした取り組みが急速進められている背景には、生物多様性の保全がもはや、ビジネスの持続可能性においても、欠かせない重要な要素となっていることが挙げられます。自然関連情報を企業経営や金融の意思決定に活用するための「共通言語」の構築は、今後のネイチャーポジティブ推進の鍵となりそうです。
会場を包んだ行動への熱気

メインホール以外でも数多くの分科会やサイドイベントが開催され、企業、NGO、研究機関、自治体による協働事例が共有され、人気セッションでは立ち見や入室できない人たちが発生するほどの盛況ぶりでした。また、「NATURE TECH!」と題した生物多様性に関する展示会も平行して開催され、多くの企業や団体の最新の商品やサービス、活動等が紹介され賑わいを見せていました。地元の子どもたちも見学し、ネイチャーポジティブや企業・地域の取り組みについて学んでいました。
こうした発信の会場で、特に目を引いたのは、日本の企業関係者の多さと積極性です。とりわけ、自然関連情報開示や測定手法への関心は高く、ネイチャーポジティブは「なぜ取り組むか」から「どう実行するか」を議論する段階に入っていることがうかがわれました。
熊本からCBD‐COP17へ

熊本開催ならではの特徴として、水資源と地域スケールでの取り組みも注目を集めました。地下水に支えられる熊本の発展と、阿蘇の草原や流域管理は、ネイチャーポジティブを具体的に理解する好事例となりました。
サミット終盤では、企業や金融、自治体、市民社会が、連携して行動を加速する必要性を強調。閉会式では「熊本宣言」が採択され、85の企業・団体(うち民間企業41社)が賛同しました。宣言では、KM-GBFの達成、自然資本の価値の認識、科学的な評価手法の整備、公正な移行の推進などが掲げられました。
開催の2日間を通じて得られた前進は、ネイチャーポジティブの議論が「理念」から「実装」の段階へと確実に進みつつあること。そこに多くのステークホルダーが参画し、「熊本宣言」への賛同を含む、明確な意思表示を行なったことです。
今回のサミットで共有された知見やネットワーク、また熊本宣言で示されたコミットメントを、実効性ある行動につなげていくことが重要です。特に、企業が自然関連のリスク・依存・影響を把握・開示し、負の影響を削減していくことを求めるKM-GBF「ターゲット15」の達成に向けて、ビジネス界の取り組みが大きな推進力となることが期待されます。一方で、CBD-COP17に向けては、2030年目標の達成に向けたグローバルな進捗の遅れが明らかになる中、各国の政治的コミットメントの強化と、さらなる実践につなげるための議論が必要となっています。こうした中で、熊本で示されたビジネス界の前進を、国際的社会全体の行動の加速につなげていくことが重要です。

WWFジャパンメンバーの取り組み
WWFジャパンのメンバーも複数の分科会やサイドイベントで登壇しました。流域でのランドスケープアプローチやウォーター・スチュワードシップ、熱帯林保全、企業の自然移行計画(Nature Transition Plan)などをテーマに事例や提言を発信しました。熱心に耳を傾ける参加者が多く見られ、ネイチャーポジティブの「実装」への関心の高さがうかがえました。
また、NATURE TECH!では、WWFジャパン野生生物グループメンバーによるポスター展示や、WWFジャパンの次世代環境リーダー育成プログラム「BEE」のメンバーによる発表が行なわれました。

国際熱帯木材機関主催のサイドイベント「熱帯林によるコ・ベネフィット」の様子。世界の森林の45%を占める熱帯林の持続可能な管理が生物多様性回復、気候変動対策と人々の豊かな暮らしの実現につながることを語るWWFジャパンスタッフ

WWFジャパンメンバーが登壇した「流域で進めるランドスケープ・アプローチ:「流域治水」で希少種保全と減災を両立させ、金融機関に訴求する鍵は?」の様子。議論の中では数値化・測定の重要性を確認するとともに、地域で進行する生物多様性の劣化への地道な対応、五感で得られる情報や地域との協働の重要性にも触れられた。

WWFジャパン主催サイドイベント「自然移行計画の実現と拡大に向けて 」に登壇するWWFメンバーら。TNFDが公表した自然移行計画ガイダンスを踏まえ、自然移行計画の意義、TNFDパイロットから得られた知見、企業・金融機関の実践事例、普及・主流化に向けた課題、気候・自然・社会課題の統合的な移行計画等について議論を行なった。

WWFスタッフが登壇した分科会「ウォーター・スチュワードシップの実践:流域協働が拓く未来」の様子。流域での協働に取り組む企業の事例をサミット開催地である熊本での事例を中心に紹介し、参加者が自社操業を超えて流域レベルでの協働とネイチャーポジティブの実現へと踏み出す契機を創出することを目指した。

WWFジャパン野生生物グループによるポスター展示

来場者に活動を紹介するBEEメンバー

展示会では、WWFジャパンが淡水の生態系保全に共に取り組む玉名高校科学部の絶滅危惧種の生息調査に関するポスター発表も行なわれた
GLOBAL NATURE POSITIVE SUMMIT 2026(グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026)
日時:2026年7月14日~15日
場所:熊本城ホール(熊本市)
参加登録者数:2,725人(2日間の延べ参加者数 約5,000人)
主催:Nature Positive Initiative(NPI)、国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)
公式ホームページhttps://events.nikkeibp.co.jp/event/2026/GNPS_jp/



