野生動物のペット利用の見直しを求める行動変容プログラムの実施と評価

この記事のポイント
野生動物を絶滅の危機に追いやる深刻な原因の一つに、ペットなどを目的とした捕獲や利用があります。そこで、WWFジャパンでは2021年から2025年にかけて、野生動物のペット利用に見直しを求める「行動変容プログラム」を実施。「リスクが高い動物をペットとして欲しい」と考える人を対象に、「飼わない」という行動を促す取り組みを行ないました。その働きかけによって「ペットとして飼わない」という意識を変えることができたのか、効果を検証し、その結果と活動から得られた学びについて報告します。
目次

ペットプログラム実施の背景

人の暮らしを豊かにし、ときに命の大切さを教えてくれるペット。

日本では、イヌやネコ、ウサギなど家畜化された動物だけでなく、サルやトカゲなど、本来は自然環境で暮らす野生動物もペットとして飼育されています。

こうした野生動物の多くは、海外から輸入されており、その規模は欧米諸国にも匹敵。
日本は、世界有数の野生動物輸入大国の一つとして位置づけられています。

しかし、野生動物の利用には、以下のリスクが伴います。

  • 野生動物を絶滅に追い込むリスク
    ペット利用される動物の中には、絶滅のおそれのある動物が多く含まれ、ペット取引によって野生での存続が脅かされている種もいます。
  • 密猟や密輸を増加させるリスク
    日本に向けた野生動物の密猟や密輸が毎年発覚しています。日本に違法に持ち込まれた動物がペット市場に流通している可能性が指摘されています。
  • 動物由来感染症(人獣共通感染症)に感染するリスク
    動物から人に感染する病気「動物由来感染症(人獣共通感染症)」のリスクがあります。
  • 動物福祉を確保できないリスク
    一般家庭やアニマルカフェなどでの飼育が適さず、動物が精神的・肉体的に大きなストレスを受けている場合があります。
  • 外来生物を発生、拡散させるリスク
    ペット利用されている動物が逃げ出したり、遺棄されることで日本の生態系を脅かす事例が数多く確認されています。 

こうした問題を解決するためには、消費者のペットに対する意識の変容が必須ですが、現在の日本では、問題の認知さえ十分とは言えません。

2022年6月に日本向けの密輸が発覚したサルの1種、ショウガラゴ。他の種類のサルと併せて21頭が日本の空港で差止めされた。
© Martin Harvey

2022年6月に日本向けの密輸が発覚したサルの1種、ショウガラゴ。他の種類のサルと併せて21頭が日本の空港で差止めされた。

実際、WWFジャパンが2021年に行なったアンケート調査(※1)では、こうした動物のペット飼育に関するリスクの認知は低いうえに、リスクがあることを知った上でも、「触れてみたい」、「飼ってみたい」という気持ちを持つ人が一定数いることが明らかになりました。

リスクが伴う動物のペット飼育の見直しを求めるためには、問題を伝えるだけでは大きな効果は期待できず、消費者の「触れたい」、「飼いたい」という心理に作用する対策が必要だ、ということが示されたのです。

※1. 調査ではエキゾチックペットを「一般的なペットとして飼われている動物以外で、特に外国産の動物や野生由来の動物」と定義し、アンケートを実施しました。ウサギやハムスターなど家畜化され、ペット利用されている小動物はここに含まれていません。

リスクがあるという認識は、「触れてみたい」、「飼ってみたい」という気持ちにあまり影響しない。

リスクがあるという認識は、「触れてみたい」、「飼ってみたい」という気持ちにあまり影響しない。

そこでカギとなるのが、社会行動変容(Social and Behavior Change:SBC)です。これは、国際的にもその重要性が認識され、実績のある科学的なアプローチです。

このSBCでは、まず働きかける消費者グループ(ターゲット)を特定し、彼らの動機や選択に影響を与えるさまざまな要因を分析します。

そして、ターゲットへの直接コミュニケーション(行動変容コミュニケーション)や、ターゲットに影響力のあるコミュニティを巻き込む(ソーシャル&コミュニティモビライゼーション)を組み合わせ、ターゲットが自発的に望ましい態度や行動を起こすよう促します。

また、SBCはターゲットへの働きかけの有効性、つまり、働きかけが、ターゲットの意識や行動変容に十分な効果があるか、を検証し、必要な改善を行なうことを求めています。

WWFジャパンでは、このSBCを活用して、野生動物の中でも「リスクが高いと思われる動物」のペット飼育見直しを求める行動変容プログラムを行なうことにしました。

2019年以降、毎年ペット目的で日本に輸入がされているスナネコ。野生の生息数は明らかになっていない。それにもかかわらず2022年までは野生捕獲された個体が輸入されていた。
©WWF-Japan

2019年以降、毎年ペット目的で日本に輸入がされているスナネコ。野生の生息数は明らかになっていない。それにもかかわらず2022年までは野生捕獲された個体が輸入されていた。

消費者の野生動物のペット飼育の動機や認識を知る

このプログラムを実施するためには、野生動物をペットとして求める消費者のことを詳しく知る必要があります。

WWFジャパンでは、2021年に野生動物のペット飼育に関するインタビュー調査(9名を対象)と、オンラインアンケート調査(1,000名を対象)を行ない、対象者の気持ちや飼育に対する認識などを分析。
どのような情報が、どういう風に届けば、ターゲットの気持ちや行動が変わるのか、探りました。

(関連リンク)
意識調査報告書:Reducing Demand for Exotic Pets in Japan

調査結果から、主に次のことが明らかになりました。

  • 飼育者よりも飼育意向者の方が行動を変化させやすい(※2)
  • 飼育意向者層の中には、動物に強い愛情を持ち、飼育者を認識する特性を持つ動物(主に哺乳類や鳥類)を求める傾向が強い層が存在する。この層は他の層に比べて、より意識や行動を変化させやすい
  • この層は、一人暮らしで独身の若年層が多い
  • 密輸や絶滅リスクに比べ、飼育スペースがない、外出が制限されるといった飼いにくさや飼育の難しさに関する情報が飼育意向の低減につながる
  • 飼育意向者に最も影響を与える媒体や人は、SNS(45%)、テレビ(32%)、家族/親戚(29%)
  • 飼育意向者は、獣医師、動物園や水族館のスタッフ、ペットショップが発信する情報に信頼を寄せている

※2. 飼育者はすでに野生動物をペットとして飼っている/飼ったことがある人、飼育意向者は野生動物の飼育経験はないが、ペットとして飼ってみたいと思っている人を指します。

プログラムの実施と評価、そして改善

WWFジャパンでは、この調査結果を踏まえ、以下の2つのアプローチを組み合わせた施策を展開しました。

  1. ターゲット(意識・行動変容を促したい人)に対して直接、リスクの高い種については「ペットとして飼わない」という選択を促す行動変容コミュニケーション(以下、キャンペーン)
  2. ターゲット(意識・行動変容を促したい人)の周囲を動員し、リスクの高い種の「ペット飼育を好意的に受け止めない社会的な認識」を広げるソーシャル&コミュニティモビライゼーション

1. 行動変容コミュニケーション(キャンペーン)

調査の結果、飼育者よりも飼育意向者の方が行動変容を促しやすいこと。特に動物との関係性を重視し、飼い主を認識する動物を求める層でその傾向が強いことがわかりました。

この結果を踏まえ、キャンペーンでは、人とのコミュニケーションが取りやすいと認識され、人気の高いコツメカワウソ、ショウガラゴ、スローロリス、コモンマーモセット、フェネック、スナネコの6種(以下、ハイリスク種)をプログラムの対象種とし、これら動物をペットとして求める飼育意向者をターゲットに設定しました。

このハイリスク種は、違法取引、絶滅リスク、外来種問題、動物由来感染症、動物福祉といったペット利用に伴ういずれかのリスクが高い動物です。

また、飼育意向者は動物の飼育に関する専門家に信頼を寄せ、飼育の難しさに関する情報が彼らの飼育意向を削ぐ、という結果から、動物園の飼育員をメッセンジャーとして、「ペットとして飼うことの難しさ」を切り口に、密輸や絶滅リスクなどの問題を伝える動画やウェブサイト(以下、キャンペーンコンテンツ)を制作しました。

ウェブサイトには、研究者や専門機関によるコメントも掲載し、野生動物のペット利用が抱える問題への理解を科学的に示すことで、飼育意向者が飼育の是非を再考することを後押ししました。

さらに、コンテンツでは「ペットにしても幸せにできない動物」をメッセージとして掲載。飼育意向者の動物への愛情に訴えながら、「ペットとして飼うことは動物のためになるのか」という問いを自ら立て、野生動物をペットとして迎えることの適切さを考えてもらうことを目指しました。

(関連情報)
キャンペーンサイト:
「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」

#ペットにしても幸せにできない動物

動物の愛くるしい姿は、私たちを穏やかな気持ちにし、

ときに癒しを与えてくれます。しかし残念ながら、すべての動物が

ペットに向いているわけではありません。



なかには野生下と大きく異なる環境で暮らすことで、

ストレスを抱えてしまう動物もいます。

また、知らないところで密猟や密輸を助長し、

絶滅のおそれを高めてしまう場合や、

感染症のリスクがある場合もあります。

そんな動物を「責任を持って飼える」と、

あなたは本当に言えますか?



動物を愛する、あなただからこそ。

#ペットにしても幸せにできない動物 がいること、知ってください。

キャンペーンのメッセージ

なお、キャンペーンでは、オンライン広告も活用して飼育意向者をキャンペーンコンテンツへ誘導し、積極的に「飼いにくさ」に関する情報を届けました。

運用開始から約半年後には、飼育意向者へのインタビュー調査を実施し、情報の有用性や適切な情報量や表現を検証。コンテンツが飼育意向の低減にどの程度寄与したか、効果を高めるために必要な改善策は何か、を整理しました。

また、コンテンツの改善と併せて、ペット人気が高いフクロウを新たに対象動物に加え、より幅広い飼育意向者へのアプローチにも取り組んでいます。

その後も、飼育意向者へのインタビューをもとにコンテンツのバリエーションを増やすなどの改善と、広告露出の強化を行ない、ターゲットに何度もメッセージを届けることを試みました。

追加したフクロウのコンテンツ(上記サイトより)

追加したフクロウのコンテンツ(上記サイトより)

2.ソーシャル&コミュニティモビライゼーション

行動変容の効果を高めるには、飼育意向者への直接的な働きかけだけでなく、彼らを取り巻く社会環境(コミュニティ)にも変化を生み出す必要があります。

そこで、ウェブサイトでは、キャンペーンの趣旨に共感した人が、その考えを「#ペットにしても幸せにできない動物」をつけてSNSで発信することを促し、「ハイリスク種を安易にペットとして飼育しない」という社会的な認識を広める施策を行ないました。

また、動物園と連携してハイリスク種の生態や飼育に伴う課題を伝えるイベントを開催したほか、「国際フクロウの日」などの機会に合わせて、各動物園が順番にキャンペーンメッセージに関連した情報を発信するSNS投稿リレーなどを実施。
市民にメッセージの共感と拡散を呼びかけました。

加えて、SNSでの拡散に繋がるよう、テレビやウェブメディアなどでの露出拡大にも取り組み、ハイリスク種のペット利用が抱える課題への認知拡大を図りました。

動物園との連携イベントの様子
© WWF-Japan
動物園との連携イベントの様子
© WWF-Japan

動物園との連携イベントの様子

こうした動物園などの協力により、キャンペーンへの賛同や課題への理解を示す声が多く寄せられ、「#ペットにしても幸せにできない動物」をつけた投稿は約3万件にも及びました。

しかし、こうした施策を行ないながらも、そのメッセージが実際に飼育者に届いているか、という疑念がありました。

なぜなら、SNSでの発信者の多くは自然保護や動物福祉への関心が高い層であり、飼育意向者とは異なるコミュニティに属している可能性が高いと考えられるためです。
「ハイリスク種の飼育見直し」を求める声が高まっても、それが飼育意向者に届いているとは限りません。

また、一般的に、こうした課題に関する情報発信には心理的なハードルがあること、ハイリスク種の飼育者への配慮などから、明確な動機やきっかけがなければ積極的な発信や拡散につながりにくいことも判明しました。

つまり、飼育意向者と関心や価値観を共有するコミュニティを巻き込み、その中で自発的な情報共有や対話が生まれる環境をつくる必要性が見えてきたのです。

そこでWWFジャパンは、動物への関心が高く、ハイリスク種の飼育を検討する人々とも関心や価値観を共有しやすい動物系大学・専門学校の学生にアプローチすることにしました。

具体的には、学生への講義、ワークショップを実施し、ペット利用の問題を共有します。その後、学生がハイリスク種について調査・情報収集を行ない、その情報をもとにイラストレーターと協働して、動物の生態やペット利用に伴うリスクを分かりやすく伝えるイラストを制作し、冊子としてまとめました。

こうした取り組みを通じ、キャンペーンに「自分が関わった」として認識を高めてもらうことで、学生の主体的な発信を後押ししました。

ペット利用の問題を周囲に伝える方法について意見やアイデアを共有しあう学生ワークショップの様子
© WWF-Japan
動物園で飼育員にインタビューを行なう学生
© WWF-Japan

ペット利用の問題を周囲に伝える方法について意見やアイデアを共有しあう学生ワークショップの様子(左)、動物園で飼育員にインタビューを行なう学生(右)

(関連リンク)
冊子:「飼育レット・オブ・ワイルド・アニマル」

5年間のプログラムの効果検証

WWFジャパンは5年間にわたり、この一連の行動変容プログラムで、行動変容コミュニケーションとソーシャル&コミュニティモビライゼーションの両方を、それぞれ評価と改善を繰り返しながら、実施してきました。

その効果を検証するため、2種類の意識調査を行ない、飼育意向者が「ハイリスク種をペットとして求めない」、「ハイリスク種のペット利用を好意的に受け止めない」という認識を持つのか、確認しました。

<実施した効果検証の概要>
調査の種類 調査【1】
長期効果検証調査
調査【2】
短期効果検証調査
目的 キャンペーン動画などコンテンツの長期的な効果を知る キャンペーン動画の短期的な効果を知る
実施時期 2026年1月~2月 2025年6月
手法 オンラインアンケート オンラインアンケート
対象者 「ウェブでコンテンツを見たと申告した人」と「コンテンツを見ていないと申告した人」 ウェブでコンテンツを実際に見た人
対象者数 見たと申告した人:749人
見ていないと申告した人:1,072人
208人
評価指標
  • ハイリスク種の飼育意向
  • ハイリスク種のペット利用に対する是非(飼育に前向きかどうか)
  • 回答者の家族や友人のペット利用に関する好意度の認識
  • ハイリスク種の飼育意向
  • ハイリスク種のペット利用に対する好意度
特徴
  • コンテンツを見たかどうかは回答者の記憶に基づくため、本当に接触したか、確認できない。
  • コンテンツ接触から一定期間が経過した状況で回答を得るため、長期的な意識変容の有無を把握できる。
  • コンテンツの直接的な効果を把握できる。
  • コンテンツ接触後に近いタイミングで回答を得るため、確認された効果が長期的に持続するか、まで判断できない。

【1】長期効果評価調査(接触者・非接触者比較調査)

この調査では、調査対象の1,821人のうち、キャンペーンコンテンツを見たと回答したグループ(接触者749人)と、見ていない/記憶にないと回答したグループ(非接触者1,072人)を対象に、ハイリスク種のペット飼育意向、飼育に対する是非の認識、周囲の人々の飼育の好意度の認識などを比較しました。
そして、両グループの回答の差から、キャンペーンコンテンツによる影響を分析しました(※3)

※3 キャンペーンコンテンツの接触の有無は回答者の記憶と自己申告に基づいています。そのため、実際の接触状況と一致していない可能性があります。例えば、別の動画をこのキャンペーンと誤認していたり、接触回数の記憶に誤りがあったりした可能性があります。

また、もともとの動物への関心の高さやペット飼育経験など、キャンペーン接触以外の要因が結果に影響する可能性を考慮し、回答者をハイリスク種への関心度に応じてグループ化(※4)。接触者と非接触者の分類からさらに関心度による細分化し、計6グループでの結果を比較・分析しました。

※4 ハイリスク種との触れ合いに対する期待感について質問し、回答者を以下3つのグループに分類しました。

  • High Interest(高関心層):触れ合いを「楽しめる」と回答
  • Low-Neutral Interest(低・中立関心層):触れ合いを「楽しめない」または「わからない」と回答
  • Low Interest(低関心層):触れ合いを「楽しめない」と回答 なお、触れ合いを楽しめないと回答した人は、低・中立関心層、低関心層の両方に含まれます。

調査結果からは、主に次のことが明らかになりました。

  • キャンペーンコンテンツを見たと回答した人のうち、接触回数が1~2回が81%と大半を占め、3回以上視聴した人は18%にとどまった。
  • キャンペーンコンテンツを見たと回答した人は、見ていないと回答した人と比べて、ハイリスク種の飼育意向や飼育を肯定的に受け止める割合が高い傾向にあった。
  • ハイリスク種の実際の飼育率は低く、飼育意向と実際の飼育行動との間には大きなギャップがあった。
  • キャンペーンへの接触回数別に見ると、1~3回接触した人では飼育意向や飼育に対する好意度が高い傾向が見られた一方、4回以上接触した人ではそれらが低くなる傾向が見られた。この傾向は高関心層でも確認された。
  • 低・中立関心層および低関心層では、キャンペーンを見た人の方が見ていない人に比べ、ハイリスク種のペット飼育を否定的に捉える傾向があった。
  • 「飼育の難しさ」に関する情報は、すべてのグループで広く認知されていた。
  • 「ペットにしても幸せにできない」といった感情に訴えるメッセージは、飼育を思いとどまる心理的な抑止として機能している可能性があった。

(関連リンク)
長期効果評価調査:Evaluation Research on Consumer Demand for High-risk Exotic Pets in Japan

【2】短期効果評価調査(接触者調査)

WWFジャパンでは、一部のコンテンツを広告として配信し、ハイリスク種の飼育意向を持つ消費者への接触を促しました。その広告の視聴履歴をもとに視聴者を特定し、オンラインアンケート調査を実施しました。

調査はコンテンツを視聴した208人を対象に、コツメカワウソ、ショウガラゴ、スナネコ、フクロウ類の4種類(※5)について、ペット飼育意向や飼育に対する認識を調査しました。

※5 キャンペーンの改善プロセスにおいて、対象種を人気の高い7種類から4種類に絞りました。働きかける飼育意向者を限定することでキャンペーンの効果最大化を目指しました。

調査結果から、主に次のことが明らかになりました。

  • 「ペットとして飼いたい」と回答した人よりも、「飼いたくない」と回答した人の割合が高かった。
  • 「ペットとして飼いたくない」と回答した人の割合は、コンテンツへの接触回数が増えるほど高くなる傾向が見られた。
  • ハイリスク種のペット飼育について、「一般的に飼ってもよい」と考える人は一定数存在したものの、「適切な飼育環境を整えられる人であれば飼ってもよい」あるいは「一般的に飼うべきではない」と回答した人の割合がより高く、飼育を限定的に認める、または否定的な認識を持つ人が多数を占めた。
接触回数ごとのハイリスク種の飼育意向

接触回数ごとのハイリスク種の飼育意向

行動変容プログラムを振り返って

これらの調査結果を踏まえ、WWFジャパンではプログラムの成果と課題を次のように評価しました。

飼育意向者の意識を変えることができたか

まず、短期効果評価調査(調査【2】)では、キャンペーンへの接触回数が増えるほど、「ペットとして飼いたくない」と回答する人の割合が高くなる傾向が見られました。
このことから、キャンペーンは飼育意向の低減に一定の効果を持っていた可能性があります。

一方、長期効果評価調査(調査【1】)では、キャンペーンコンテンツを見たと回答した人の方が、見ていない人に比べて、飼育意向や飼育に対して好意的である傾向が確認されました。(ただし、本キャンペーンはハイリスク種への関心が高い層を主な対象としていたため、コンテンツ接触者にはそもそも関心の高い人が多く含まれていた可能性があります。)

そして、キャンペーンの接触回数が4回以上の人においては、飼育意向や飼育に否定的な傾向(ペット意向が下がる、飼育を良くないと思う)傾向が確認されました。

これらの結果から、「キャンペーンへの接触によって意識の変容はあるものの、それは時間の経過とともに薄れてしまった。その効果を維持、強化するためには、複数回にわたって繰り返しメッセージが届けられる必要があった」という結論に至りました。

実際、キャンペーンコンテンツを見たと回答した人の多くが、自己申告で1~2回の接触にとどまっており、メッセージの反復的な伝達は十分ではありませんでした。そのことが、意識変容の定着を難しくことが示唆されます。

さらに、SNSや動画配信サービスには、ハイリスク種の魅力やペット飼育を肯定的に紹介する情報が数多く存在してます。こうした環境の中では、キャンペーンによって生じた意識変容がより維持されにくかったことが考えられます。

© Ly Dang

「ペットとして飼いたい」という気持ちをどう捉えるか

コンテンツの意識変容効果は限定的であり、調査【1】では、キャンペーンの接触者の56%がハイリスク種のいずれかを「飼いたい」と回答しました。
しかし、この結果から、多くの人が実際にハイリスク種を購入・飼育すると解釈することは適切ではありません。

その理由は2つあります。

まず1つ目は、「飼いたい」という気持ちと、実際に飼育するという行動は必ずしも一致しないためです。

行動変容を分析するフレームワークとして知られる「COM-Bモデル」では、人が行動を起こすためには、実行能力(Capability)、機会(Opportunity)、動機(Motivation)の3つが相互に作用し、それらの要素がそろう必要があるとされています。
たとえ動機(Motivation)が高くても、実行能力(Capability)や機会(Opportunity)が低い場合、行動は起こりにくいのです。

COM-Bモデル。

COM-Bモデル。

  • Capability(実行能力):その行動を実践するための知識や技術、自信
  • Opportunity(機会):その行動を取ることができる環境や条件(例えば、購入できる場所がある、家族が賛成している)
  • Motivation(動機):その行動を取りたいと思う気持ちや意思

    NCSCT Standard Treatment Programmeのウェブサイトより抜粋 https://training.more-life.co.uk/lessons/the-comb-b-model-of-behaviour/

今回のキャンペーンで伝えた飼育の難しさの情報は、「飼いたい」「飼ってみたい」という純粋な動機そのものを大きく変えることはなくても、実際に購入や飼育を検討する場面では、こうした情報がハードルとなり、購入を断念させるかもしれません。

調査【1】では、ハイリスク種の飼育意向を持つ人が一定数存在する一方で、実際の飼育率は低く、意向と行動の間には大きなギャップがあることも確認され、その可能性を裏付けています。

そして理由の2つ目は、キャンペーンがハイリスク種に関心の高い層に届くよう設計されていたことから、接触者の中には、もともとハイリスク種への関心が高い人が多く含まれていた、と考えられる点です。

こうした高関心層では、確証バイアス(自分の仮説や先入観を肯定する情報ばかりに目を向け、反する情報を軽視・無視してしまう傾向のこと)が働き、「飼うべきではない」というメッセージに対して、「自分なら適切に飼育できる」と反発的に受け止めたり、「飼育の難しさ」に関する情報を飼育方法の解説として解釈した可能性もあります。

© John E. Newby / WWF

ハイリスク種のペット利用を見直す機運の醸成

高関心層における意識変容は限定的であった一方、低・中立関心層および低関心層では、キャンペーンに接触した人ほどハイリスク種のペット飼育を否定的に捉える傾向がありました。

つまり、ハイリスク種への関心がそれほど高くない人に対しては、「ハイリスク種の飼育を見直す必要がある」というキャンペーンの趣旨が適切に伝わり、理解された可能性があるということです。

この結果は、2つの意味を持ちます。

まずひとつは、キャンペーンは、飼育意向者の意識変容という目的にとどまらず、「ハイリスク種を安易にペットとして飼うべきではない」という社会での認識や雰囲気の醸成にも一定の役割を果たした可能性があったことです。

そして、もうひとつは、モビライゼーション施策として実施した動物園や学生との協働、メディアを通じた情報発信が、一般市民や学生といった対象に適切に受け止められ、ハイリスク種のペット利用が抱える課題への理解を広げ、それが飼育意向者変容を後押しする可能性の確認ができた、ことです。

ハイリスク種への関心がそれほど高くない層においてキャンペーンの趣旨が理解されていたことは、このような社会への働きかけを継続することで、「安易にペットとして飼うべきではない」という認識がより広く共有され、将来的には飼育意向者の意思決定にも影響を与えうることを示唆しています。

動物園との連携イベントなどはメディアにも取り上げられ、約400件の露出につながり、ハイリスク種のペット利用が抱える問題を広く社会に発信する機会となりました。

また、イラスト制作に参加した学生は、自ら学園祭でイラストの配布やポスター展示を行ない、来場者に向けて野生動物のペット利用の問題を伝えてくれました。
さらに、このイラスト冊子は約10か所の動物病院、専門学校にも配布・設置され、動物関心層に届けられています。

イラスト冊子の配布とペット利用の問題を説明する学生
© WWF-Japan
ポスターを見る来場者
© WWF-Japan

イラスト冊子の配布とペット利用の問題を説明する学生(左)、ポスターを見る来場者(右)

今後に向けて

今回の行動変容プログラムでは、ハイリスク種のペット飼育意向を大幅に減少させるには至りませんでした。

しかし、飼育の難しさや、動物福祉上の課題への理解を促し、「ハイリスク種を安易にペットとして飼わない」という認識の形成には、一定の効果があったと考えられます。

また、調査結果に加えて、プログラム設計や飼育意向者とのやり取りなどからも、行動変容に関する以下の知見を得ることもできました。

  • 効果的な意識変容には繰り返しのメッセージへの接触が重要である。
  • キャンペーンで用いるクリエイティブや映像、メッセージの表現方法によっては、意図した効果だけでなく、想定とは異なる受け止められ方をする場合がある。そのため、働きかける対象者ごとに、情報の種類や伝え方の効果を十分検証する。
  • 変容させるテーマや対象によっては、感情に訴えかけるメッセージや社会規範を活用したメッセージが変容の後押しとなる可能性がある。
  • オンライン広告や動画配信は、一方向のコミュニケーションにとどまりやすく、対象者がどのように情報を受け止め、何を感じたのかを直接把握することは困難。そのため、イベントやワークショップなどの双方向のコミュニケーションを組み合わせ、対象者の反応や考えを理解しながら、より深い意識変容を促していくことも検討する必要がある。
  • 「行動をやめさせる」だけではなく、その先にある代替案や他の選択肢を示すことが変容の効果を高める。
  • ターゲットへの情報提供だけではなく、専門家や関係機関との連携、メディアを通じた発信など、社会全体で課題への理解を深めていくことも有効である。
日本の爬虫類ペット市場で人気のコバルトツリーモニター。インドネシアの法律で野生捕獲個体の輸出は認められていないが、「野生捕獲」と記載された個体が日本市場に流通していることが確認された。消費者の意識変容は、哺乳類や鳥類以外の動物にも求められている。
© WWF / Lutz Obelgonner

日本の爬虫類ペット市場で人気のコバルトツリーモニター。インドネシアの法律で野生捕獲個体の輸出は認められていないが、「野生捕獲」と記載された個体が日本市場に流通していることが確認された。消費者の意識変容は、哺乳類や鳥類以外の動物にも求められている。

今回のプロジェクトは、野生動物のペット利用という課題に対する取り組みであると同時に、行動変容をどのように生み出し、評価していくかを学ぶ貴重な機会となりました。

また、動物園や有識者の協力が得られなければ、このプログラムを実施することもできませんでした。動画などのコンテンツ作成や関連イベントの実施にあたり、多様な視点から寄せられた意見やアイデアは、プログラムの質、効果を高め、プログラムの成果を高める大きな支えとなりました。

ここで得られた知見、ネットワークを今後WWFジャパンが取り組むさまざまな保全、普及啓発活動に活かしていきます。

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