シンポジウム「野生生物の絶滅を防ぐための約束―南西諸島の現場から考える、生きものの流通・消費・社会の責任」開催報告
2026/07/09
- この記事のポイント
- 2021年に世界自然遺産に登録された南西諸島では、その後もペット販売等を目的とした希少な野生生物の密猟・持ち出しが相次いで発生しています。2026年6月25日、WWFジャパンは、生物多様性に対する直接的脅威となっている希少種の密猟や大量捕獲、違法または過剰な取引の防止に向けて、官民・業界横断で連携した取り組みを推進することを目指し、シンポジウムを開催しました。その内容について、ご報告します。
相次ぐ南西諸島の野生生物の密猟・持ち出し
日本の南西諸島は、その豊かな生物多様性と独自性の高い生物相の価値が国際的に認められ、2021年7月26日に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が、ユネスコの世界自然遺産に登録されました。
しかし、世界遺産の登録後も、南西諸島の各地で、希少種を含む固有の野生生物を多数捕獲し持ち出し販売するという案件が、相次いで発生しています。

密猟・盗掘や大量捕獲・持ち出しの対象となっている南西諸島の絶滅危惧種。左上から時計回りに、イボイモリ、リュウキュウヤマガメ、シリケンイモリ、カクチョウラン、オカヤドカリ、クロイワトカゲモドキ、マルバネクワガタ。記事冒頭のメイン画像はヤエヤマセマルハコガメで、同じく密猟され持ち出された事例が発生している。
また南西諸島を含む日本国内では、ペットや鑑賞用に飼育されていた生物が逃走や遺棄をきっかけに外来種として定着し、生態系に大きな影響を及ぼしている例もあります。
生きものを販売したり飼育したりする際は、適正な管理下で終生飼育し、決して野外へ放たないことの重要性の理解に向けた、利用者への教育・啓発が、新たな外来種を生み出さないために非常に重要となっています。

飼育・観賞用の動物が外来種となっている例。左上から時計回りに、グリーンアノール、カミツキガメ、マダラロレカリア、インドクジャク、グリーンイグアナ、アライグマ。
このように野生生物の密猟や持ち出しは、生息地で個体数を減少させる原因となり得ることに加え、持ち出された先で新たな外来種問題を引き起こすことによっても、生物多様性に対する直接的な脅威となるのです。
特に規模が小さいゆえに脆弱な島々の生態系、個体数が減少している希少種や繁殖力の弱い種に対して、密猟や大量捕獲、そして捕獲された野生生物の島外への持ち出しの影響は、甚大なものとなりえます。
この課題に対する実効性ある対策を実現するには、官民と業界横断の連携が不可欠です。
そこで、この連携を強化し、ペット事業、eコマース、運輸業、観光業など関連する企業・団体による取り組みの輪が広がることを目指して、WWFジャパンではシンポジウムを開催することにしました。
開催概要とプログラム

名称:シンポジウム「野生生物の絶滅を防ぐための約束―南西諸島の現場から考える、生きものの流通・消費・社会の責任」
主催:WWFジャパン
会場:関係者限定オンライン開催
日時:2026年6月25日(木)13:30-16:00
参加状況:事前登録者165名、当日参加者97名
参加登録者の内訳:
プログラム:
| 1 | シンポジウムの趣旨説明 | WWFジャパン野生生物グループ 小田倫子 |
| 2 | 国内外における野生動物の違法採集・商取引について | WWFジャパン自然保護委員 兵庫県立大学名誉教授 太田英利氏 |
| 3 | 沖縄・奄美地域における密猟対策の取組について | 環境省沖縄奄美自然環境事務所 石垣自然保護官事務所 自然保護官 古見用介氏 奄美群島国立公園管理事務所 国立公園保護管理企画官 山本以智人氏 |
| 4 | 野生生物の脆弱性や取引による生態系への影響 | 琉球大学教育学部教授 富永篤氏 |
| 5 | 野生生物取引:国際的な取り組みと共同宣言の紹介 | WWFジャパン野生生物グループ 西野亮子 |
| 6 | 野生生物の違法取引防止に向けたJALグループの取り組み | 日本航空株式会社 サステナビリティ推進部長 亀山和哉氏 |
| 7 | 希少種の取引監視に関する取組 | LINEヤフー株式会社 政策企画本部コマース部長 桑原華穂氏 |
| 8 | 安心・安全なマーケットプレイスに向けたメルカリの取り組み | 株式会社メルカリ 経営戦略室政策企画部長 今枝由梨英氏 |
| 9 | 野生生物の違法・過剰利用を防ぐ取り組みについて | 合同会社ぶりくら 事務局長 川口晃司氏 |
| 10 | 共同宣言への賛同の呼びかけ | WWFジャパン野生生物グループ 若尾慶子 |
発表の内容
1. 開催趣旨と野生生物の密猟・違法過剰取引の課題について
2. 南西諸島の現場から
3. 生物学の観点から
4. 国際的な取り組みと共同宣言の紹介
5. 航空業界の取り組み
6. eコマース業界の取り組み
7. ペット業界の取り組み
1. 開催趣旨と野生生物の密猟・違法過剰取引の課題について
最初に、今回のシンポジウムの開催の背景と趣旨について、WWFジャパン野生生物グループの小田倫子(南西諸島の生息地保全活動を担当)より、上記の内容の説明を行ないました。

次に、WWFジャパン自然保護委員で兵庫県立大学名誉教授の太田英利氏より、国内外で発生している野生生物の密猟・取引の実例を挙げながら、この問題と対策の重要性について、次の内容のご発表を頂きました。
- 爬虫類などのペット利用は、人工繁殖個体のみを対象とするのであれば捕獲による野生個体群への影響はないだろうが、残念ながら現実には、一部飼育愛好家の野生個体を求める根強い需要が、生息地での保護種の密猟や繁殖力の弱い種の大量捕獲を招いていること、
- 南西諸島は限定されたエリアに固有種が多く生息しており、魅力的な商品として違法採集の対象となっていること、
- 外国人による密猟・持ち出しは、少なくとも1990年代前半から報告されており、密猟者の国籍は米国や欧州から中国などまで幅広く、昨年西表島・久米島で密猟され持ち出しされたヤエヤマセマルハコガメやリュウキュウヤマガメ等のカメ類は、特に中国で投機(マネーゲーム)の対象として信じ難いほどの高値で取引されていること、
- 密猟され生息地から持ち出されてしまった野生個体は、たとえその後に押収されても、新たな病原体の伝播や遺伝的かく乱のリスクから容易には野生に戻せないため、持ち出し自体を防ぐことが特に重要であること、
- しかし、日本では保護種の密猟や密輸に対し軽い刑罰しか科されない例が多く、法制度が抑止力になっているとはいえないこと
2. 南西諸島の現場から

環境省沖縄奄美自然環境事務所 石垣自然保護官事務所の古見用介自然保護官より、沖縄県八重山地方の現場から、生息地の状況や密猟対策の取り組みについて、次の内容のご発表を頂きました。
- 沖縄・奄美地域は、日本の国土面積のわずか0.9%にすぎない一方、島ごとに独自の進化を遂げた固有種・固有亜種が数多く生息する、生物多様性の非常に豊かな地域であること、
- しかし近年、人による捕獲・採取が、開発に次ぐ第2の野生生物減少の要因となっていること、
- こうした状況を受け、国の種の保存法や文化財保護法、自然公園法、鳥獣保護管理法に加え、沖縄県内の市町村条例による保護も進められていること、
- にもかかわらず、与那国島の固有亜種ヨナグニマルバネクワガタや八重山地域のヤエヤママルバネクワガタ・希少なカエルやカメ類などの違法捕獲などが発生しており、樹木等生息環境の破壊を伴うケースもあること、
- 環境省では、自治体、地域住民、警察、林野庁等と連携し、合同パトロール、監視カメラや看板の設置、空港・港での普及啓発、識別アプリの開発、毀損された生息地の回復、関係機関による連絡会議など様々な対策を実施中であること、
- 今後も、生息地・取引市場・水際の三方面から監視と規制を強化し、関係者で協力して希少な野生動植物を守ることが必要であること
また世界自然遺産登録地である奄美の現場からも、奄美群島国立公園管理事務所の山本以智人国立公園保護管理企画官から、次の内容のご報告を頂きました。
- 奄美大島では昨日(2026年6月24日)、天然記念物であるオカヤドカリの密猟容疑により2名が逮捕され、昨年(2025年)も160キロ約5,300匹という大量の同種の持ち出し事件が発生しており、密猟は現在も続く深刻な課題となっていること、
- 自治体や世界遺産保全の協力企業の皆さんと共に対策を進めているものの、現場でのパトロールだけでは限界があること、
- 今後は、密猟された生物の物流や販売に関係する企業や研究者の方々と連携しながら、対策を強化していく必要があると考えていること
3. 生物学の観点から

次に、琉球大学教育学部教授の富永篤氏より、「野生生物の脆弱性や取引による生態系への影響」と題して、次の内容のご発表を頂きました。
- 野生生物の商取引に伴う問題として、乱獲による個体数減少、感染症の拡大、外来種化による生態系への影響が挙げられること、
- 両生類の最大の減少要因は、世界的には気候変動とされている一方、日本では生息地の破壊であることが報告されていること、
- 特にシリケンイモリやアカハライモリはペットとして非常に人気があり、野生捕獲された個体が大量に取引されており、インターネットオークションで売買されるイモリ類については2018年頃から急激に販売実数が伸びたこと、
- イモリ類は寿命が長く、成熟個体が長年かけて蓄積される一方、産卵数が少なく再生産能力が低いため、乱獲が繰り返されると個体群が急速に縮小することから、乱獲が地域個体群を破壊する深刻な要因となること、
- 両生類の商取引による国内外の移動は、カエルツボカビやイモリツボカビなど感染症の拡散を招き、海外での種の絶滅も招いていること、
- ペット由来の外来種は、在来種の捕食や交雑を引き起こし、地域の遺伝的多様性を損なうおそれがあること、
- このように両生類を含む野生生物の商取引は、多面的に生態系へ影響を与えるものであり、グローバル化や物流の発達により取引が拡大している中、包括的な対策が急務であること
4. 国際的な取り組みと共同宣言の紹介

WWFジャパン野生生物グループ長の西野亮子からは、この課題に対する国際的な状況について、次の内容をご報告しました。
- 輸送手段や流通の発達により、野生生物の取引量は増加傾向にあり、違法な野生生物取引も急増しており、その規模は日本円で年間約3兆円、6000種以上の動植物種が違法取引の対象になっていること、
- 野生生物の違法取引はローリスク・ハイリターンとされ、組織犯罪の資金源にもなっていることから、インターポールやWCO(世界税関機構)が国際的な取締りを強化し、2025年は生きた動物の押収量が過去最大であったこと、
- 国連では2015年から複数回にわたり違法野生生物取引に関する決議が採択され、IUCNもペット取引に関する2025年の決議でポジティブリストを推奨するなど、国際的な課題として取り組むことの重要性が繰り返し確認されていること、
- 民間セクターの取り組みも進められており、2013年にイギリスで発足したUnited for Wildlifeは2016年に輸送タスクフォース、2018年に金融タスクフォースをそれぞれ立ち上げ、バッキンガム宮殿宣言とマンションハウス宣言を採択して、輸送や金融面での民間の取り組みを促進しており、IMO(国際海事機構)では野生生物密輸防止のためのガイドラインが採択され、またマネーロンダリング対策やサイバー犯罪対策のためのトレーニングツールの開発、そしてAI技術を活用したツールの開発も進んでいること、
- 日本は生きた野生動物の輸入大国で、爬虫類については世界第2位の輸入量であること、
- WWFの活動として、市場調査を通じて捕獲・取引が規制されている日本の在来種の販売や絶滅危惧種・固有種の販売を確認しており、またペットの外来種化やワンヘルスの観点からの感染症リスクについて調査報告を実施していることに加え、消費者の意識や行動を変えるためのキャンペーン、規制が不十分な分野での政策提言などを進めてきたこと、
- 生息地から流通、輸送、市場、消費者に至る各段階で、企業、行政、警察、研究者、消費者が、連携して取り組むことが今後ますます求められていること
- 今回のシンポジウムでは、関連する企業・団体に共同宣言(下記8.で詳述)への賛同を呼びかけていること
続いて、上記の共同宣言に賛同を表明している企業の方々から、各社の取り組み内容について発表されました。
5. 航空業界の取り組み

輸送業界から、日本航空株式会社 サステナビリティ推進部長 亀山和哉氏より、同社の以下の取り組みについて、ご発表頂きました:
- JALグループは2026年3月に発表した「経営ビジョン2035」で「Sustainable Well-being Future」を掲げ、CO₂排出など環境への影響が大きい航空業界として、気候変動や生物多様性保全を含む5つの環境課題に重点的に取り組んでいること、
- 生物多様性を脅かす原因として、気候変動に加え、侵略的外来種、野生生物の乱獲・密猟を重要なものと認識し、特に野生生物の違法取引(IWT)対策に力を入れており、2018年には野生生物の違法取引撲滅を目指す「バッキンガム宮殿宣言」に署名したこと、
- 国際的な航空ネットワークを持つ企業として、近年アジア太平洋地域を中心に野生生物の違法取引件数が増加していることを受けて、密輸・違法取引への意図せぬ関与のリスクがあることから、水際対策を推進していること、
- 具体的な取り組みとしては、WWFジャパンやTRAFFICと連携した社員研修やシンポジウムへの参加、行政機関との協力推進、奄美・沖縄地域では希少種の不正持ち出し防止、奄美では野生生物の持ち出し防止に関する共同文書の発出に貢献していること、
- こうした取り組みの成果として、石垣空港でヤシガニ、奄美空港で希少カエル・ヘビ類、また最近はセマルハコガメ等の不正輸送を空港で発見・阻止したケースもあること、
- 今後のさらなる対策として、機内や空港における通報体制の整備を進めていること、
- 野生生物の違法取引撲滅のためには、自社単独での対応には限界があり、業界の垣根を超えた取り組みが不可欠と認識しており、同じ志をもつ企業、団体、自治体、行政への働きかけを強化し、水際対策の徹底を図っていきたいと考え、今回の共同宣言に賛同を表明していること
6. eコマース業界の取り組み
eコマース業界からは、LINEヤフー株式会社と株式会社メルカリの2社にご登壇頂きました。

最初に、LINEヤフー株式会社 政策企画本部コマース部長 桑原華穂氏より、同社の以下の取り組みについて、ご発表頂きました:
- ヤフーオークションでは、法令に抵触するもの、社会通念上取り扱いに注意が必要な商品の出品については、違法な流通や不適切な取引につながらないようにプラットフォームとして適切に対応する必要があると考えていること、
- 希少種や規制対象種については、生態系への影響、違法流通のリスク、利用者にとってのわかりやすさといった観点を踏まえて、法令に基づく規制にとどまらず、自主的な出品ルールを設けており、哺乳類・鳥類・爬虫類の生体、食用以外の有精卵、野生捕獲の両生類の生体と卵、種の保存法の国内希少野生動植物種、登録票が確認できない国際希少野生動植物種、特定外来生物、あらゆる象牙製品、乱獲など捕獲方法が不適切なものを出品禁止とし、さらにレッドリスト掲載種のうち準絶滅危惧種以上についても自主的に出品を禁止していること、
- 監視体制としては、24時間365日体制の専門チームがキーワード検索や売り場巡回を実施して違反出品の発見に努めているほか、利用者からの違反申告、行政機関や専門団体からの情報提供、SNS上の情報も活用しており、近年はAIを活用した機械学習の導入も進めているが、種の特定や偽装出品の判別には専門知識が必要な場合もあること、
- 希少種については、そもそも違反出品が行われないようにすることが非常に重要なことから、利用者への注意喚起にも力を入れており、法改正や規制対象種の変更に関する周知を行うほか、違反出品者には削除理由や再発防止のための説明を通知していること、
- 取引ルールについては、取引実態や社会的要請を踏まえて継続的に見直しており、2019年の全象牙製品の出品禁止、2022年のレッドリスト掲載種規制強化、2024年の野生捕獲両生類の出品禁止など改定を重ねてきていること、
- 今後も行政機関や専門家、NGOと連携しながら、希少種保全と健全な取引環境の実現を目指しており、今回の共同宣言にも賛同を表明していること

次に、株式会社メルカリ 経営戦略室政策企画部長 今枝由梨英氏より、同社の以下の取り組みについて、ご発表頂きました:
- メルカリは「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」をミッションに掲げ、不要になったものを必要とする人へつなぐことで資源循環と豊かな社会の実現を目指しており、「安全であること」「信頼できること」「人道的であること」の3つの基本原則に基づきマーケットプレイスを運営していること、
- 運営ルールについては、定期的にアドバイザリーボードを開催し、社会情勢の変化を踏まえながら見直しを行っていること、
- 希少野生動植物種、象牙とその加工品、生体は出品禁止としており、種の保存法に基づく新たな指定があった場合には速やかに出品・販売を禁止し、コーポレートブログなどを通じて利用者へ周知していること、
- 判別が難しい出品への対応強化のため、TRAFFICやWWFジャパンと連携した社内勉強会を開催し、絶滅危惧種やワシントン条約、規制・識別方法などについて社員教育を行っていること、
- 今後も、有識者や社会からの意見を取り入れ運営し、関係団体との共同の取り組みにも積極的に参画していく方針で、今回の共同宣言にも賛同を表明していること
7. ペット業界の取り組み

ペット業界から、合同会社ぶりくら事務局長 川口晃司氏より、同社の以下の取り組みについて、ご発表頂きました:
- 合同会社ぶりくらは、2001年に爬虫類・両生類のブリーダー団体として設立され、爬虫類・両生類の持続可能な国内繁殖と流通確立を目指し、 国内飼育下繁殖個体(CB個体)の価値普及、飼育モラルの向上、ペット目的の乱獲抑制、適切な飼育技術の公開、趣味として高次元の楽しみへの脱皮、両生類・爬虫類を中心とした飼育関連業界の活性化支援を目的に活動していること、
- 関東・関西で年2回展示即売会を開催しており、出展はブリーダーやショップが自ら繁殖した個体に限定し、種の保存法や動物愛護管理法の違反者の出展を認めず、野生個体の流通抑制に努めていること、
- 希少野生動植物種や外来生物問題に関する講演会や啓発活動も実施し、法規制の変遷や保全の重要性について情報発信を行っていること、
- 2003年に指定されたイシカワガエル、イボイモリ、オビトカケモドキなど、天然記念物に指定された種については自家繁殖個体であっても出品を自粛するなど、自主規制も行なっていること、
- 近年では、環境省の調査への協力を通じて、南西諸島で採集された野生個体がイベントで多数流通している実態を確認し、業界団体である日本爬虫類両生類協会(JPRAS)と連携して販売自粛を呼びかけ、その結果、対象種の流通は大幅に減少し、業界全体の意識向上にもつながっていること、
- インドホシガメなどを対象としたDNA鑑定による個体識別研究に協力し、マイクロチップに代わる管理手法の検討を支援しており、ヤエヤマセマルハコガメなど識別が困難な種の課題にも関係団体と連携して対応していく方針であること、
- 今後は「生体だけでなくモラルも販売する」という考えのもと、適正な取引と野生生物保護を両立する健全な市場形成を目指しており、今回の共同文書に賛同を表明していること
共同宣言への賛同
シンポジウムの最後に、WWFジャパン野生生物グループの若尾慶子(ペットプロジェクトを担当)より、次の共同宣言への賛同が呼びかけられました。
「野生生物の違法または過剰な利用による絶滅を防ぐための共同宣言」
- 野生生物の違法または過剰な捕獲・持ち出し・輸出入・販売、これらに伴う外来生物の野外への放出が、生物多様性への直接的な脅威となっていることを認識する
- 合法性が確認できない、または種の存続や生態系に悪影響を及ぼすおそれの高い野生生物の捕獲・持ち出し・輸出入・販売を抑止するため、自社の野生生物や生息地への関わりを把握・評価し、取り組みを進める
- 生体を取り扱う事業者は、野外放出の防止を徹底する
- 1-3について、消費者/観光客・取引先・社員等への普及と、取り組みへの参加を求める
シンポジウム当日には、上記の登壇企業を含めて合計19の企業・団体が賛同を表明しました。
その後2026年7月1日までさらに賛同を募ったところ、最終的に合計27の企業・団体に賛同頂くことができました。
賛同企業・団体については、こちらをご参照ください:
https://www.wwf.or.jp/activities/statement/6316.html
共同宣言に対する専門家のコメント
九州大学大学院比較社会文化研究院教授 荒谷邦雄先生(ご専門は「昆虫学、生物多様性科学」)
国内外で主として商業目的の野生生物の密猟や持ち出し、過剰な取引が横行している近年の状況にあって、WWFの主催で、生息地から市場に出回るまでのサプライチェーンに関係する様々なステークホルダーの皆様を対象に、このようなシンポジウムが開催されることは画期的で、大変意義深いことだと思います。
安易な生物の移動や販売は、対象種を絶滅の危機に追い込むだけでなく、移動先の在来種や生態系に深刻な影響を与えることも大いに懸念されます。今後は、まさに「自身の関わりを認識し、野生生物とその生息地をまもるために行動する社会」を目指して、個人消費者(愛好家)ベースでのモラルの向上も視野に入れた活動の展開を期待します。
東京女子大学名誉教授/ワシントン条約締約国会議日本政府代表団顧問 石井信夫先生(ご専門は「哺乳類の生態と保全」)
野生動植物(以後、野生生物といいます)を手元に置きたいというのはヒトに備わった自然な気持ちで、生きものに負担をかけますが、一概に否定すべきではありません。否定すれば、野生生物や生態系のことを深く実感をもって知ることはできず、保全する意味がわからず、守ろうという気持ちも起きなくなる可能性があります。
商取引が野生生物に及ぼす影響は一律ではありません。悪影響を及ぼすこともありますが好影響をもたらす場合もあります。海外では野生生物の商取引から得られる経済的利益を保全に結び付けることで、生息環境が守られ、生きものも増えた事例があります。
なお、養殖は捕獲・採取圧の抑制に有効なこともありますが、完全養殖では生息環境がなくなってもかまわないことに注意が必要です。持続可能な捕獲・採取のためにも、養殖の元を得るためにも生息環境の保全が重要です。
ネット通販が一般化した現在、野生生物の入手はきわめて容易になり、対象となる生きものの減少や絶滅につながる過剰な捕獲・採取・利用が起きやすくなりました。
販売者も消費者も自分の行為がもたらす影響と責任を十分に自覚しなければなりません。
今回、共同宣言の採択を契機として、生体を扱う事業者を含め、野生生物の利用が生物多様性にもたらす影響の認識、そして保全に向けた取り組みが深まることを期待します。
兵庫県立大学 名誉教授 太田英利先生(ご専門は「爬虫類の系統分類、生物地理、保全 )
人新世と呼ばれる今日、人類の活動はいやが上にも地球上のすべての生命・生物多様性に影響しています。影響の形態としては、比較的早い時期から野生生物の保護に取り組む関係者の懸念事項となっていた(1)伐採・埋め立てなどによる生息地の喪失や(2)化学物質による汚染に伴う生息環境の劣化などがありましたが、特に近年では(3)人や物資の移動と共に本来生息していなかった場所に持ち込まれた生物(いわゆる外来種)の定着による在来の生態系・食物網の変質とそれに伴う生物多様性の低下、そして(4)生息範囲の限られた希少種や繁殖・回復力の脆弱な種の乱獲に伴う、直接的な種多様性の低下などが挙げられます。本シンポジウムでは、このうち主に(4)の現状把握と対策について、この問題が特に凝集された観のある南西諸島の爬虫類と両生類を中心に、それぞれ異なった視点・立場の関係者からの情報が、多角的な検討のため提供されました。結果まとめられた共同宣言は、この問題への取り組みに向けたひとつの指針として位置付けられ、今後の発展・活用が期待されます。
琉球大学 教育学部教授 富永篤先生(ご専門は「両生類の生態学と分類学」)
現在、各地のイモリ、さらには一部のサンショウウオ類の乱獲が続いています。こうした採集は、何十年もの年月をかけて維持されてきた地域個体群を破壊することにつながります。一度失われた個体群を元の状態まで回復させるには、再び何十年、あるいはそれ以上の長い年月を要する可能性があります。また、野生動物の商取引は、乱獲による個体群への直接的な影響だけでなく、飼育個体の逸出による外来生物問題や、野生動物の感染症を地域・世界規模で拡散させる要因にもなり得ます。いま、こうした問題に関わる私たち一人ひとりが、一度立ち止まって考える必要があります。そのような意味で、多くのステークホルダーが参画してまとめられた今回の共同宣言は、大変意義深いものだと思います。この宣言を契機に、野生動植物との節度ある持続可能な関わり方が社会に根付くことを願っています。
福岡県保健環境研究所 専門研究員 中島淳先生(ご専門は「淡水魚・水生昆虫の生態学と分類学」)
私は幼少時から野生の淡水魚類や水生昆虫類を捕獲して飼育することを趣味とし、それが高じて現在はそうした生物の研究者として、その保全にも取り組んでいます。採集や飼育は生物に興味関心をもつ窓口になるのは事実ですが、その一方で、そうした趣味が一部の野生生物を減らし、絶滅させる原因になっているのも事実です。また飼育個体の遺棄による外来種問題も深刻です。現在進んでいるネイチャーポジティブ社会の実現に向けて、趣味であっても野生生物との付き合い方は大きく変わっていくべき状況にあります。
これまでと同じでは立ち行きません。今回の共同宣言はそうした背景のもと、ただ採集や飼育の禁止を進めるためのものではなく、これからの持続可能な生物趣味のあり方を目指していくものと捉えています。野生生物の採集や飼育が「悪い趣味」にならないよう、一人ひとりが高い意識と自制心をもって、関わっていくことが重要です。趣味で野生生物の採集や飼育をしている人たちがいたからこそ、生物多様性の保全が成功したと言われるような社会になっていくことを願っています。
東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センター 諸澤崇裕先生(ご専門は「魚類・野生動物生態学」)
WWFが中心となり、多くのステークホルダーが関わった共同宣言が取りまとめられたことにより、希少種保全の前進につながると思います。このような取り組みを多くの方に知ってもらい、適正な管理のもと持続可能な利用ができるようさらなる取り組みが進むことを期待します。
南西諸島の生物多様性の保全に向けて
今回のシンポジウムの各発表で示された通り、野生生物の密猟・乱獲・違法過剰な取引に対する対策及び、飼育個体の野外放出による外来種の発生への対策が、生物多様性保全の取り組みとして、今、強く求められています。
SDGsの達成目標年であり、昆明モントリオール生物多様性枠組のネイチャー・ポジティブの目標年である2030年まで、残り4年を切りましたが、いずれのゴールも厳しい達成状況となっています。
生物多様性への直接的脅威となっているこの環境課題に対して、官民、関係業界の連携した取り組みが急務となっています。
WWFジャパンも引き続き、今回のご登壇者の皆さん、賛同企業・団体をはじめとする皆さんと協力して、野生生物の絶滅を防ぐ活動を続けていきます。



