© Richard Barrett / WWF-UK

ジャガーの棲む森:保全活動の現場アマゾンを訪ねて


活動視察のため、アマゾンで実施しているジャガー保全プロジェクトの現場に行ってきました。

足元から地平線まで続く、大小さまざまな木々の景色。

ここは、ブラジル北部のアマパ州に広がるアマゾンの森、私たちがジャガーの保全に取り組む、プロジェクトの現場です。

ブラジル北部のアマパ州に広がるアマゾンの森
© WWF-Japan

ジャガーは中南米の生態系の頂点に立つ動物ですが、生態や個体数などは、まだまだわからないことばかり。

そこで、私たちのプロジェクトではまず、このアマパ州で生息調査から開始しましたが、その中で、生息域の各地で近年、「人とのあつれき」の懸念が、高まっていることがわかってきました。

カメラトラップが捉えたジャガー
© WWF-Brazil

本プロジェクトで設置した生息調査用のカメラトラップが捉えたジャガー。「あつれき」の問題は、こうした森の周辺にある放牧地や人の居住地に現れたジャガーが、家畜を襲うなどの被害をもたらすことで生じています。

2024年からは、アマパ州立大学と協力して、この問題の実態調査を併せて進めていくことにしました。

私たちも、その現場を訪問。
保護区内で代々居住されている先住民の方のご家族にお話を伺ったところ、家畜被害を避けるため、また、子どもの安全や通学面の利便性を考えて、住居を森の中から幹線道路沿いまで移動させたことなどを、話してくださいました。

野生動物による被害はジャガーに限ったものではありませんでしたが、そうした実態を知ることは、保全活動を進める上で重要な情報です。

© WWF-Japan
© WWF-Japan

「人とのあつれき」の実態調査では、社会学調査の手法を活用して、保護区のステータスの違う2カ所でヒアリングを実施し比較。今回訪問したのは「リオ・カジャリ採集保護区」:先住民のみが居住を認められている保護区で、商業的な活動に制限があります。保護区内に20くらいの集落が点在していて、今回、7家族が暮らす集落「Vila Nova」を訪問しました。

Vila Novaにある休憩所にて。店主が採集したブラジルナッツをふるまってくれました。この地域では近年、家畜で生計を立てるより、ブラジルナッツ採集やアサイー栽培に生業を切り替える家庭が増えています。これは、野生動物による家畜被害を回避する手段になりますが、採集時にジャガーなどと遭遇する危険があります。
© WWF-Japan

Vila Novaにある休憩所にて。店主が採集したブラジルナッツをふるまってくれました。この地域では近年、家畜で生計を立てるより、ブラジルナッツ採集やアサイー栽培に生業を切り替える家庭が増えています。これは、野生動物による家畜被害を回避する手段になりますが、採集時にジャガーなどと遭遇する危険があります。

こうした取り組みを実施するには、まず地域の信頼を得なくてはなりません。

その土地ならではの事情や、言葉遣いなども理解しておく必要もあります。

一緒に調査に取り組んでいるアマパ州立大学の教授も、こうした点の重要性を考慮した上で、社会学的手法を取り入れた調査・研究を進めています。

集落訪問後のミーティング。「人とのあつれき」の実態調査で協働している、アマパ州立大学の生物/社会学研究者のハーバート教授と。
© WWF-Japan

集落訪問後のミーティング。「人とのあつれき」の実態調査で協働している、アマパ州立大学の生物/社会学研究者のハーバート教授と。

地域で行なう野生動物の調査は、動物だけを相手にするものではありません。

道のりは長く、継続した取り組みがとても重要です。

日本の皆さまのご支援により、スタートすることができたこの取り組みを、これからも現地の仲間や地域の方々と一緒に進めていきたいと思います。

ジャガーの画像
WILDCTAS その瞳に映る危機

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自然保護室(野生生物 グループ長)、TRAFFIC
西野 亮子

学士(芸術文化)
2009年よりTRAFFICにて広報分野を中心に従事し、イベント運営、出版物作成などワシントン条約に関する普及啓発に努める。2016年からは重点種(特に注力すべき種)プログラム推進に携わり、取引を中心とした現状調査を担当。2018年以降は、関係する行政機関や企業へ働きかけ、取り組み促進を促す活動に従事し、野生生物の違法取引(IWT)の撲滅、持続可能ではない野生生物取引削減を目指す。ワシントン条約第70回常設委員会参加。東京都象牙取引規制に関する有識者会議委員(2022年3月終了)

「野生生物を守る」ことを起点に、そこに暮らす人、その場所の環境、そして利用する側の意識、すべての段階で取り組みが必要です。生息地から市場まで、それらを繋ぐことが私の役割です。

人と自然が調和して
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環境保全団体です。

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