アマゾンにおけるジャガー保護 活動報告(~2024年7月)
2024/10/01
- この記事のポイント
- 中南米の生態系の頂点に立つ大型肉食獣ジャガー。ジャガーは今、生息域の各地で、開発による森林破壊や異常気象による湿地環境の喪失、さらには害獣として殺される、地域住民との「あつれき」によって、絶滅の危機が高まっています。そこでWWFジャパンは、ブラジルのアマゾンでWWFブラジルが取り組むジャガーの調査活動を支援。その調査結果を保全活動に結び付ける取り組みを支えています。現地からの2024年度(2023年7月から2024年6月末まで)に行なわれた活動と、結果を報告します。
南米の森の「王者」を守れ
トラ、ライオンに次ぐ、世界第三の体躯を持つ、中南米最大の肉食獣、ジャガー。
ジャガーはかつて、北米のテキサスやアリゾナから南の南北大陸に広く分布していましたが、現在は開発による森や湿地の喪失、また家畜を害する害獣としての駆除によって減少。
その生息域はかつての半分にまで縮小しており、絶滅の危険性が高まっていると考えられています。
そうした中でジャガーが比較的安全にくらしている、最後の砦ともいうべき場所があります。世界最大の熱帯雨林が広がるアマゾンです。
しかし、見通しのきかない広大な森におおわれたアマゾンに、ジャガーがどれくらい生息し、どのような暮らしを送っているのかは、今も正しくわかっていません。
さらに、森林破壊もアマゾンの各地で生じているほか、違法な金の採掘なども続いているなど、ジャガーを取り巻く状況は、年々悪化していると考えられています。
そこで、WWFブラジルは、特にアマゾン北部の森林で、ジャガーの生息調査を行ない、今後の保全に役立てる取り組みを行なっています。
なお、2022年からスタートしたこの取り組みは、WWFジャパンによる日本からの支援により、支えられてきました。
謎多きアマゾンのジャガーの姿に迫る
WWF ブラジルによる、このジャガー保護活動は、国立公園の保護管理などに取り組む機関「シコ•メンデス⽣物多様性保全研究所 (ICMBio)」、および現地のパートナーとの協力により、行なわれています。
フィールドとなっているのは、ブラジルの北端に位置するアマパ州内のエリアで、活動の主目的は、アマゾン北部と同州内の保護区における、ジャガーの個体数の把握です。
そして、2023年7月からは特に、アマパ州内でも最も北に位置し、大西洋に面したカボ・オランジ国立公園で、カメラトラップ(調査用の自動カメラ)を用いた調査を開始。
設置した36対72台のカメラトラップを回収し、データの分析を行ないました。
このカメラトラップは、2023年11月30日から12月9日にかけて、3km間隔で格子状に配置され、2024年2⽉3日から2⽉11日までに全て回収されました。
各調査地点は、国立公園内の道なき森や湿地の中に分け入った先にあり、また場所によってはGPSが機能しない場所もあるなど、非常に難航を強いられましたが、現地の方々の案内の元、調査チームは何とか、回収に成功。無事に調査データを入手することができました。
回収された1万4,000点の画像データ
今回の調査では、3,522回の夜間の撮影を含む、合計1万4.001点の写真および動画のデータが収集され、検査されることになりました。
これらのデータには全て、撮影された日付、時刻、場所が⾃動的に保存されています。
しかし、中には風に吹かれた葉が動き、シャッターが下りてしまった例や、周囲が暗すぎたり、動物の動きが早くてきちんと識別ができないケースなども含まれており、全てがデータとして活かせるわけではありません。
実際、今回も回収したデータも、検証した結果、科学的にも有効な記録とみなされた画像は2,842点にとどまりました。
それでも、その3,000件近い画像の中には、実に16目、25科に分類される、44種もの野生動物の姿が捉えられていました。
分類群ごとの内訳は、次の通りです。
この中には、IUCN(国際自然保護連合)の『レッドリスト』で、「絶滅危惧種(EN)」が1種、「危急種(VU)」に選定された種が4種、「準絶滅危惧種(NT)」が3種、「情報不⾜種(DD)」が1種含まれていました。
また、特に記録が多かったのは、大型のネズミのような姿をした齧歯目の哺乳類アグーチと、キジ目に分類される地上性の鳥ラッパチョウで、これらはジャガーの獲物にもなっている野生動物です。
ジャガーの記録は?
ジャガーについては、36カ所の調査地点のうち、5つの地点でその姿を捉えることに成功しました。
ここで記録された7点の画像が示すジャガーの個体は全てオスでしたが、個体識別できるだけのデータはなく、実際に何頭いたのか、重複があったのかどうか、については分かっていません。
ただ、記録された5カ所は、調査エリアの南北に広く散っていたことから、ジャガーが国立公園内を広く移動している可能性は、見て取ることができました。
またこの他にも、クチジロペッカリーやマザマジカ、オオアルマジロ、アメリカバクなど、ジャガーが獲物としている野生動物も数多く記録。こうした情報も今後の保全活動で活用されることになります。
ジャガーを守るためのワークショップを開催
WWFブラジルでは、この調査結果をふまえ、2024年6月、アマパ州の州都マカパの町で、同州のジャガー保護計画を策定するためのワークショップを開催しました。
ワークショップには、州や保護活動の関係者、研究者のみならず、地域の利害関係者に相当する住民や先住民の代表ら25名が参加。
ジャガーを脅かす問題を解決していくため、科学的調査の結果と、地域社会の観点から、幅広い視点で、取り組みの在り方を検討しました。
実際に、カボ・オランジ周辺を含むアマゾン北部では、大規模な牧場の開発や、金をはじめとする鉱物資源の採掘、保護区への不法な侵入や土地の占拠、家畜スイギュウの野⽣化、家畜を殺されたことに対する報復や、野生動物の狩猟、そして森林破壊など、さまざまな問題が生じており、これがジャガーにとっても大きな脅威となっています。
ワークショップでは、これらの情報収集や分析を行ない、脅威の大きさを評価して、優先的な取り組みを選ぶなど、対策の戦略を取り決めました。
WWFブラジルでは今後も、現地のコミュニティや行政、国立公園の関係者と連携しながら、ジャガーを守るための調査と保全の取り組みを継続していきます。
そしてWWFジャパンも、WWFブラジルへの支援を通じて、ジャガーと地域の人々が共存できる未来を目指した未来づくりを目指していきます。
担当スタッフより:ブラジル・ジャガー保全プロジェクト担当 岡元友実子
アマゾンでのジャガー保護活動がスタートしてから2年が経ち、現地では3年目の取り組みを目指した動きが始まりました。
厳しい円安のため、日本からの資金支援は非常な苦戦を強いられていますが、それでも、WWFジャパン会員の皆さまと、WWF野生動物アドプト制度のスポンサーズにご参加くださっている皆さまからの、あたたかいご支援により、現地では無事に継続することができました。応援してくださった皆さまに、心より御礼を申し上げます。
WWFブラジルから届く報告や、現地スタッフとのやり取りは、いつも驚きの連続です。陸路もないアマゾンの森に設置されたカメラのレンズが捉えるのは、実際に見ることがきわめて困難な、野生動物たちの姿。ジャガーもまた、まぎれもないそうした動物の1種です。
今回の報告でも触れたとおり、カメラトラップの画像1万4,000点のうち、ジャガーが映っていたのはわずかに7点! これを調べ、守る努力を惜しまない現地の仲間たちには、本当に頭が下がる思いです。
ここまで、私たちが日本から支援している活動は順調に進んでいますが、それでも対象となっている地域は、まだごく一部に過ぎません。大自然の世界を相手にした挑戦は、まだまだ続きます!
ぜひこれからもブラジルで頑張るスタッフたちを、ご一緒に日本から応援して頂ければと思います。
WWFジャパンの「野生動物アドプト制度」について
WWFジャパンは、絶滅の危機にある野生動物と、その生息環境を守るプロジェクトを、日本の皆さまに個人スポンサー(里親)として継続的にご支援いただく「野生動物アドプト制度」を実施しています。
この活動の輪を広げていくために、ご関心をお持ちくださった方はぜひ、個人スポンサーとしてご支援に参加いただきますよう、お願いいたします。
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