AWS国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0公開
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- 2026年3月22日世界水の日に、AWS(Alliance for Water Stewardship)は、国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0を公開しました。AWS規格は、企業が自社の水利用について理解し、その利用が周囲の環境や人々にどのようなインパクトを及ぼしているかを把握するための枠組みです。水は産業、人々、生態系などにとって共有財であることを踏まえ、企業には、自社操業内での水資源管理を超えた取り組みを含め、責任ある水利用管理「ウォーター・スチュワードシップ」が求められています。
国内外で加速する水リスク
渇水、洪水、水質汚染など多面的かつ地域的な側面を持つ水リスク。
日本でも、近年、無降水日の日数が増加し、ダムの貯水率低下や農作物の栽培への影響など、渇水が各地で報告されています。一方で、豪雨災害が激甚化・頻発化し、水害が国民の暮らしや行政の体制・財政などに甚大な影響を与えています。
そして、このような水リスクは、気候変動によりさらに増加していく可能性も分析されています。水問題は今、日本人にとって目の前の身近な問題となっていると言えます。
グローバルで見ても、水リスクは加速化が止まりません。
2026年1月、国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が発表した報告書『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』では、「水ストレス」や「水の危機」といった従来の用語が、多くの地域における現状を捉えきれておらず、今や地球規模の「水破産」の時代に突入したことが発表されました。
多くの社会で人々が河川や土壌、積雪などから毎年得られる再生可能な水「収入」を過剰に消費したばかりか、帯水層や氷河、湿地などの自然貯水庫における長期的な「貯蓄」をも使い果たし、その結果、帯水層の縮小、デルタ地帯や沿岸都市の地盤沈下、湖沼や湿地の消失、生物多様性の不可逆的喪失が拡大していることが指摘されています。

出典:国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』(Global Water Bankruptcy Living Beyond Our Hydrological Means in the Post-Crisis Era)
2025年11月、世界銀行が初めて発表した『世界水モニタリング報告書』では、世界は毎年3240億立方メートルの淡水を失っており、これは年間2億8000万人の需要を満たすのと同じ量に相当することが指摘されました。
このような水の損失は、深刻化する干ばつ、不十分な価格政策、不十分な調整、森林破壊、湿地の劣化、過剰な灌漑など、土地・水の持続可能ではない管理や慣行によって引き起こされていることが明らかにされています。
水、生物多様性、気候変動はつながっている
健全な水環境を支える淡水生態系もまた、危機的な状況に陥っています。淡水の生物多様性の豊かさは、過去50年間の間に、約85%失われたとされています。

出典:LPI:Living Planet Report 2024 – A System in Peril. WWF, Gland, Switzerland. WWF. (2024) を元にWWFジャパン作成
IUCN(国際自然保護連合)の研究チームは2025年1月に、現在、世界の淡水に生息する生物約2万3000種のうち24%が絶滅の危機にあるという分析結果を発表しました。その中には、日本固有の淡水魚の約40%も含まれています。
気候変動に加え人為的な影響――たとえば経済活動や生活のために過剰に水を採取したり、排水によって水質が悪化したり、湿地の農地転換やダム建設、治水などによる生物の生息・生育域の変化や侵略性の高い外来生物の蔓延も、水環境を劣化させる脅威となっています。
このように、水は生物多様性や気候変動、食料や健康といった他の課題と切り離して考えることはできず、それぞれが相互に影響・補助しあっているのです。
企業の責任ある水利用管理「ウォーター・スチュワードシップ」
衣食住やデータ通信、インフラ設備などのあらゆる企業活動が、人々の生活を支えていますが、このような企業活動は、水とこれを支える淡水生態系に少なからず依存・影響しています。
世界経済フォーラムは、気候変動とサステナビリティに関する議論において、「水」が重要でないトピックという従来の考えから、主流(メインストリーム)へと移行したことを述べています。
水ストレスの増大とサプライチェーンの混乱を踏まえ、多くのセクターの企業(特にこれまで水への依存・影響の大きさから取り組みを進めてきた食品・飲料セクター以外のセクター)が、事業の長期計画において「水」を考慮する必要に迫られていることが明言されました。
従来の(現状の)企業の水の取り組みとしては、工場での節水など企業の敷地内の取り組みが先行してきましたが、「点」での取り組みだけでは根源的な水の課題解消には不十分です。
水は企業、行政、市民、野生生物など共有する資源であり、上流~下流まで「流域」という広いスケールで課題を捉え、対策していくことが必要です。
つまり、企業としても、流域に関わる多様なステークホルダーと連携し、企業拠点の枠を超えた「面的な」アプローチが重要ということです。
このような取り組みを通し、社会・文化・環境・経済の観点で公平で持続可能な水利用管理に貢献することが、国際的にも求められています。
これを「ウォーター・スチュワードシップ」(責任ある水利用管理)と言い、企業が自ら水環境の保全に参画し、持続可能な水利用管理を推進していく上で基盤となるものです。

WWFが示す「ウォーター・スチュワードシップの取り組みの階層(Water Stewardship Ladder)」
Alliance for Water Stewardship(AWS)とは
拠点や流域においてウォーター・スチュワードシップに取り組む際に、優れた指針のひとつとなるのが、AWS国際ウォーター・スチュワードシップ規格(AWS規格)です。

Alliance for Water Stewardship(AWS)は、国際的な水課題への対応と、ウォーター・スチュワードシップのための信頼性ある世界共通の基準を策定することを目的として、国連、国際NGO(WWFも含む)、研究機関などの主要な水関連組織によって 、2009 年に設立された国際組織です。
AWS規格は、水利用者(企業)が自らの水の使い方を理解し、その利用が周囲の環境や人々にどのような影響を及ぼしているかを把握するための枠組みです。
AWS規格は、あらゆる業種の企業が、協働的かつ透明性のある形で水に関わるパフォーマンスを向上させ、より広範な水のサステナビリティ・ゴールの達成に貢献するために、サイトレベルで活用することができます。
AWS規格バージョン3.0公開
今回、2026年3月22日世界水の日に、AWS規格バージョン3.0が公開となりました。バージョン2.0が公開された2019年より、7年ぶりの規格更新となります。
出典:Alliance for Water Stewardship(AWS)『国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0』
AWS規格では、サイトおよび流域内において、以下の5つの主要なアウトカム(成果)を達成することを目的としています。

出典:Alliance for Water Stewardship(AWS)『国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0』
変更点の中でも特に生物多様性に関する記述として、バージョン2.0ではアウトカム(成果)に「水資源に関連する重要区域」と表現されていたものが、今回のバージョン3.0では、「健全な淡水生態系と生物多様性」と明確化されました。
3つの重要点
WWFジャパンは、AWS規格バージョン2.0と比較した今回のバージョン3.0の重要な更新ポイントとして、主に以下の3点に注目しています。
- 淡水生態系と生物多様性がアウトカム(成果)として明文化され、現状把握、モニタリング、保全などが具体的な取り組みとして追加されたこと
- 気候変動トレンドと水への影響の把握や、気候変動の影響を考慮した水レジリエンスの構築など、気候変動と水の連関が明確化されたこと
- 協働活動(コレクティブアクション)の取り組みが規格の要求事項として具体化されたこと
規格抜粋:サイトのウォーター・スチュワードシップ計画に定められた協働活動を実施し、その進捗状況をモニタリングし、文書化しなければならない。協働活動の性質とサイトの役割には、少なくとも以下を含めなければならない:
• 存在する場合は、協働活動のイニシアティブへの参画
• 関与するステークホルダーとの水関連データおよび情報の共有
• 二者間の連携
今回AWS規格バージョン3.0でも規定されたように、水は生物多様性や気候変動と深く連関したテーマです。
このような地球規模の複雑な課題を解決するためには、水、生物多様性、気候変動といった各課題のつながりを捉えて、統合的な課題解決に取り組むことが重要です(ネクサス・アプローチ)。
そして、こうした多角的な課題は、企業単独または特定の場所だけで解消することはできません。
ウォーター・スチュワードシップの重要な原則の一つとしても位置付けられているように、流域でのステークホルダーとの協働活動(コレクティブアクション)により、相乗的な効果を生み出すことができます。
地域コミュニティ、行政、企業、NGO/NPOなど、流域に関連する多様な主体が情報交換し、協働していくことが重要です。

出典:WWF、TNCほかNGO『UNPACKING COLLECTIVE ACTION IN WATER STEWARDSHIP』
流域の協働活動において、例えば行政には水ガバナンスの整備、金融機関には自然に関連したファイナンス・スキーム、研究機関には流域のモニタリング・評価などの各役割を例示したもの。
ウォーター・スチュワードシップの推進に向けて
企業のウォーター・スチュワードシップの道のりは長く、かつ、直線的な道ではありません。
自社拠点で完結する節水や水質の取り組みだけでなく、淡水の生物多様性や地域の水衛生(WASH)、洪水などは、評価や進捗の測定が困難な側面もあります。
ステークホルダーと連携する協働活動には、合意形成に向けた対話も欠かせず、これには時間やリソースが必要です。
しかし、本来的に「水」の課題に着手するにあたり、このような多面的な水の課題を避けて通ることはできません。
まずは、企業の水のサステナビリティ目標に、水使用量・水質だけでなく洪水、WASH、水ガバナンスといった多面的な水の要素を含むことが第一歩です。
そのうえで、適切な目標や水リスク把握に基づき、優先流域を決定した際には、AWS規格などに基づき、ウォーター・スチュワードシップに取り組むことを推奨します。

ウォーター・スチュワードシップや水の取り組み全般について、ご質問・ご関心をお持ちの企業関係者の方は、下記までお問い合わせください。
WWFジャパン淡水グループ:water@wwf.or.jp
参照・引用:
国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』(Global Water Bankruptcy Living Beyond Our Hydrological Means in the Post-Crisis Era)
国連大学プレスリリース『国連大学の最新報告書:地球規模の水「破産」を宣言』
世界銀行『世界水モニタリング報告書』(Global Water Monitor 2025 Report)
Alliance for Water Stewardship(AWS)『国際ウォーター・スチュワードシップ規格』
WWF、TNCほかNGO『UNPACKING COLLECTIVE ACTION IN WATER STEWARDSHIP』




