国境を越えたフライウェイ保全へ WWFモンゴル、香港と連携したツル類越冬地・九州での活動報告
2026/02/02
- この記事のポイント
- 毎年秋冬になると、九州を中心とした日本の水田環境に飛来し、越冬するマナヅルとナベヅル。この大型の水鳥たちは、初夏にはロシア、中国、モンゴルにまたがるアムール川(黒竜江)流域などに繁殖する「渡り鳥」です。こうした「渡り」を行なうマナヅル、ナベヅルなどの保全には、渡りのルートである「フライウェイ」を意識した取り組み、つまり、繁殖地と中継地、越冬地を一体で保全していくことが重要です。今回、このフライウェイ連携の一環として、ツルの繁殖地の保全に取り組むWWFモンゴルとWWF香港のスタッフが来日し、越冬地である日本の現場視察と、地域との国際交流を行ないました。
モンゴルと日本をつなぐWWFのマナヅル保全活動
WWFジャパンは、2024年よりWWFモンゴルのマナヅル保全活動支援を開始し、その繁殖地であるアムール川流域に広がる湖沼など湿地の基礎調査及び保全活動を行なってきました。
マナヅルは、春~夏を過ごす繁殖地であるロシア、中国(北東部)、モンゴルの湿地帯から、越冬地である朝鮮半島、西日本、中国(揚子江流域)の水田地帯まで、2,000キロ以上の距離を毎年移動する「渡り鳥」です。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、マナヅルは「VU(危急種)」とされ、特に、主にモンゴルで繁殖する個体群(西部個体群)は減少傾向にあると指摘されています。
国境を越える渡り鳥の保全には、渡りのルートである「フライウェイ」、つまり繁殖地・中継地・越冬地が、各地で異なる課題・脅威などを情報共有しながら、連携して保全活動を進めていくことが重要です。
その理由は、「渡り」で利用する場所の、どこか1カ所でも失われてしまったら、ツルたちは生きていくことができないからです。
このフライウェイ連携の取り組みとして、2026年1月、WWFモンゴルとWWF香港から渡り鳥と湿地保全を担当するスタッフが来日し、越冬地の現場視察と、地域との国際交流を行ないました。
WWFモンゴル、香港のスタッフ来日 万羽鶴にびっくり!
国際的に重要な湿地保護区、ラムサール条約の登録湿地である鹿児島県の「出水ツルの越冬地」は、マナヅル、ナベヅルをはじめ多くの渡り鳥が、ねぐらや採食場として利用する一大越冬地です。
WWFモンゴル、WWF香港のスタッフとの現場視察は、こちら出水の越冬地からスタート。
夜明け前に、浅く水を張った人工ねぐらから干拓地へ飛び立つ様子や、給餌場で穀物をついばむ姿を観察しました。
人工ねぐらと給餌場に集うマナヅル、ナベヅル。日の出前の薄明の中、ツルたちのクォーックォーッという鳴き声が響きます。マナヅル、ナベヅル以外に、カモ類やカラスなど多数の野鳥が集います。この日はソデグロヅル、サカツラガンなどの珍客も確認できました。
普段、広大な草原で、まばらに暮らすツルを見慣れているWWFモンゴルのスタッフたちは、初めて見る越冬地・日本でのツルたちの密集状態に驚いた様子。

実際に、日本ではマナヅル・ナベヅルの個体群がこの地域に集中しているため、感染症が広がるリスクも高まっています。
2022年から23年にかけての冬季には、日本で全国的に鳥インフルエンザの感染が拡大しましたが、出水平野で越冬するツル類もその影響を受けました。このシーズンに、出水では、鳥インフルエンザによって死んだり衰弱したツル類が、約1,500羽も回収されたのです。この数値は、例年の10倍以上に上りました。
世界の個体数のうちマナヅルの約5割、ナベヅルの約9割が集中する出水で感染拡大が起きると、絶滅危惧種のこれらツル類の個体群への影響が甚大です。
鳥インフルエンザは野鳥のみの問題ではありません。例えば養鶏場で感染が起こった場合には、養鶏産業、ひいては人の暮らしにも影響が及びます。この課題に対応するためには、人や動物の健康と、それを取り巻く環境のつながりを捉え、分野横断的な課題に対し、関係者が連携して取り組んでいく、「ワンヘルス(One Health)」の考え方が重要です。
このような背景を踏まえ、日本では、出水平野に集中するマナヅル・ナベヅルの「越冬地の分散化」が長年の課題となっています。出水市や環境省が中心となり、給餌量の削減など分散化に向けた取り組みを進めています。
しかし、分散化は、一地域だけでできることではありません。出水以外の地域でも、ツル類の越冬に適した湿地や水田などの景観が維持・保全されていくことが重要です。
生物多様性ゆたかな熊本県玉名市へ
次に一行が訪れたのは熊本県玉名市。
ここは、1970年代よりツル類が毎年数家族訪れている越冬地です。
ツルがのんびりとすごす横島干拓は比較的新しい干拓地ですが、田んぼや畑が広がり、二番穂や落穂などを主な食料とするツルの生息環境として適した環境となっています。
WWFジャパンは、ここ玉名市において、市民を対象とした生物多様性イベントの開催や、セボシタビラの保全に向けた地域の高校生や市民との協働など、地域の方々と活動を展開しています。
関連記事:「希少な淡水魚を守る:熊本県玉名市における1年間の活動報告」
今回、一行は玉名市の藏原隆浩市長を表敬訪問し、玉名市の生物多様性の魅力についてお話するとともに、国際交流を通じた保全のための意見交換の機会もいただきました。
玉名市横島小学校にて「東アジア国際交流ツル学習会」に参加
また、玉名市立横島小学校にて開催されたツルの学習会にも参加しました。
この取り組みは、日本野鳥の会熊本県支部、横島校区まちづくり委員会、横島町文化財保存顕彰会が8年にわたり継続してきた取り組みです。
今回は、海外からのスタッフが訪問することを受けて、「東アジア国際交流ツル学習会」と銘打っての開催です。
WWFモンゴルでツルの保全に取り組むプレブドルジ・スレンホローからは、繁殖地での課題として、家畜や牧羊犬によるマナヅルの巣や卵の破壊、過放牧による水源の富栄養化、気候変動の影響による湿地の減少などを説明。
そのような脅威に対し、モンゴルでは、保全活動地の子どもたちの活躍により、繁殖地の環境モニタリングや、遊牧民の人々への普及啓発活動が行なわれていることを紹介しました。

WWF香港で、アジアのフライウェイ保全を担当しているスタッフのヴィヴィアン・フーからも、ツル類の生態や、渡りのルート、日本の位置付け(越冬地としての重要性)などを紹介。
子どもたちが今からできることとして、観察を目いっぱい楽しむこと、そして、家族や友人、まわりの人々へ学習会で学んだことの共有が大切であることを伝えました。

日本野鳥の会とWWFによるこの授業の後、横島干拓に移動してツルの観察会が行なわれ、晴天の下、マナヅルを観察することができました。
双眼鏡と望遠鏡で、野鳥を観察する児童たち。マナヅルの採食の様子や、ミサゴのホバリングを観察しました。
横島小学校のみなさん、関係者みなさんと観察会後に記念の一枚。
最後に、横島小学校の3年生より、折り鶴をいただき、WWFモンゴルからはモンゴルのお土産を贈り、国際交流を行いました。
日本でもモンゴルでも、子どもたちの知識の吸収力と好奇心の強さはピカイチ。今回の「東アジア国際交流ツル学習会」を通じ、地域の魅力であるマナヅル、ナベヅルについて、たくさんのことを見て知ってもらうことができました。

毎年ツルが飛来する日本の水田は、貴重な環境
玉名市のように、毎年ツル類が自然と飛来し、越冬することができる水田の環境はとても貴重です。
自然の湿地と異なり、水田は人の手により維持されていくもので、今ある環境は農家さんがこれまで継続されてきた米作りによるものです。そのような場所に、結果的にツルが集まっているのです。
保全の観点では、生息地となる水田が維持・拡大されていくことは望ましいことですが、一方で、ツル類だけでなく他の野鳥も集まってくることで、近隣の畑に農業被害が発生する現状もあります。
この課題の解決を含む、人と自然の共生は一筋縄ではいきませんが、人、動物、農業、環境をはじめ、さまざまな観点から情報共有をし、一緒に考えていくことが大切です。
ツルたちを守れ!フライウェイの連携に向けて
渡り鳥の保全には、今回のように、地域や国内外を問わずに、関係する人たちが広く、深く連携して、情報の共有を進めることが重要です。
日本では、環境省を中心に、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)の国際枠組みによる情報共有や取り組みが行なわれており、これは、渡り性水鳥とその生息地を保全するための仕組みとして運用されています。
このネットワーク活動は、あらゆる利害関係者間の意見交換・協力及び協働を推進するフライウェイ全体にわたる枠組みを提供することを目的としたもので、WWFもこの枠組みに参加しています。
1つの湿地や国ではフライウェイに生息するすべての渡り鳥を保護することはできないため、国際的な協力が不可欠なのです。
WWFジャパンは、WWFモンゴルとのフライウェイ連携のもと、マナヅルの繁殖地・越冬地双方の情報共有と保全活動を目指し、活動していきます。

参考リンク:
鹿児島県 令和4-5年鳥インフルエンザ情報
厚生労働省 ワンヘルス・アプローチに基づく人獣共通感染症対策
環境省 東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)



