© WWF-UK / James Morgan

象牙取引、国際都市東京都の役割について提案

この記事のポイント
1年間におよそ2万頭が密猟されているといわれるアフリカゾウ。密猟によって狙われる象牙ですが、国際取引は原則禁止されています。そのような中、今でも合法的な象牙の国内取引を続ける日本から海外への象牙の密輸出が多発。国際的に各国内での象牙取引を禁止する動きが進む一方で、日本の政策の遅れが指摘されています。こうした中、2020年1月に東京都が都内の象牙取引規制について検討する有識者会議を立ち上げました。WWFジャパンとTRAFFICは、有識者メンバーとしてこの会議に参加。2月15日には、東京都に期待する役割をまとめ提案しました。
目次

2021.06.25修正

象牙問題の今

未だに止まない象牙の違法取引、アフリカゾウの密猟

1年間におよそ2万頭が密猟、すなわち違法な狩猟によって殺されているアフリカゾウ。

密猟の目的は、高値で売買されるその牙、「象牙」です。

歴史的、文化的にも長く利用されてきた象牙は、世界各地で貴重品として珍重され、古くから人の所有欲を駆り立ててきました。

アフリカゾウの象牙は16~17世紀には年間200トン、20世紀はじめには年間800トンが取引されていたといわれる。国際的な取引規制もなかった当時は、その9割以上が殺されたゾウから採られたものと考えられている。
©Martin Harvey / WWF

アフリカゾウの象牙は16~17世紀には年間200トン、20世紀はじめには年間800トンが取引されていたといわれる。国際的な取引規制もなかった当時は、その9割以上が殺されたゾウから採られたものと考えられている。

1975年、野生生物を過度な利用から守るために国際取引のルールを初めて定めた「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」が発効。

この条約による象牙の国際取引の規制により、アフリカゾウの保全策も前進することになりました。

1989年の条約の締約国会議では、象牙の国際取引を全面的に禁止する厳しい措置を決議。

これによって、アフリカゾウの密猟は一時落ち着きを見せました。

しかし2000年代に入ると、アフリカとアジアの経済成長に伴い、再び高価な象牙を狙った密猟が再燃。

特に、富裕層が増加した中国をはじめとするアジアでは、富のシンボルとされる象牙の需要が拡大し、2006年以降、密猟が増加しました。

また、2009年以降は、象牙の違法取引も増加。とりわけ、中国の資本によるアフリカでのインフラ開発などが、象牙の需要と密猟を結び付け、違法な取引ルートを強固なものとする要因になったと考えられます。

厳格な措置へと舵をきる国際社会

象牙の国際取引は、ワシントン条約によって禁止されていますが、国内における取引は、中国をはじめとする多くの国で、当時まだ合法的に認められていました。

このため、違法な象牙が国内に一度密輸されてしまうと、合法な象牙と区別がつかなくなり、容易に流通してしまう問題が生じ、密輸、そして密猟の増加を招いていたのです。

こうした状況を受け、ワシントン条約においても議論が重ねられた結果、2016年、密猟や違法取引に寄与している象牙市場を有する国に対し、国内取引を停止させる法的な措置をとるよう、勧告する決議が採択されました。

本来、国際取引を規制するワシントン条約の決議において、各国内の取引規制に対し、ここまで言及するのは異例のことですが、それほどまでに世界の象牙の違法取引と、密猟の現状は、深刻化していたということです。

この勧告を受けて、アメリカや中国、タイや香港、台湾といった象牙消費国・地域が、次々に国内取引禁止に向けた法改正を実施。

条約の決議に従い、国際的に断固とした姿勢で密猟・密輸への対策を進める意思を表明したのです。

日本が象牙取引を厳格にしなければならない理由

しかし、象牙の国内市場を有する日本は、こうした国際社会の潮流から外れた動きを見せています。

日本は、1970年代から80年代にかけて世界最大の象牙輸入国であり、消費国でした。

国際取引が禁止される1989年より以前に輸入した象牙は、累計6,000トン以上に上ります。

日本の未加工象牙輸入実績<br>国際取引が禁止となった後の1999年、2009年にはワシントン条約の承認を得た特別措置により、個体数の安定している南部アフリカ諸国から合計90トンの象牙も輸入している。<br>(出典:ファクトシート:日本の国内象牙市場と違法取引)<br>

日本の未加工象牙輸入実績
国際取引が禁止となった後の1999年、2009年にはワシントン条約の承認を得た特別措置により、個体数の安定している南部アフリカ諸国から合計90トンの象牙も輸入している。
(出典:ファクトシート:日本の国内象牙市場と違法取引)

この過去の取引による、膨大な象牙の在庫が、国際取引の禁止後、現在に至るまで、国内で合法的に取引され続けています。

この日本の象牙市場は縮小傾向にあり、海外から日本に違法な象牙が大量に密輸される例もないため、日本の国内市場はゾウの密猟に関係していない、とされてきました。

しかし近年、こうした日本に残る象牙が違法に海外に持ち出される「密輸出」が多発し問題になっています。

2011年から2016年の6年間で、日本から密輸出された象牙は少なくとも2.4トン。このうち95%が中国向けのものでした。

また、2019年、2020年共に、中国向け密輸出において、日本が出所であった事例が最も多いことが指摘されるなど、日本からの密輸出の問題は今も止むことがなく続いています。

2020年に発覚した象牙の違法取引に関する押収場所と取引ルート。線が太いほど、発生頻度が高いことを示す。違法取引は税関など水際の取り締まり努力により発見されたものしか把握できないため、実際にはより多くの違法行為が起きていると考えられる。<br>(出典:USAID Wildlife Asia Counter Wildlife Trafficking Digest: Southeast Asia And China)<br>

2020年に発覚した象牙の違法取引に関する押収場所と取引ルート。線が太いほど、発生頻度が高いことを示す。違法取引は税関など水際の取り締まり努力により発見されたものしか把握できないため、実際にはより多くの違法行為が起きていると考えられる。
(出典:USAID Wildlife Asia Counter Wildlife Trafficking Digest: Southeast Asia And China)

日本で容易に入手され、海外に持ち出される象牙は、アジアの象牙のブラックマーケットを活性化し、さらなる需要と密猟を招く要因になりかねません。

多くの象牙の在庫と、合法的な国内市場を有する国として、日本がこの問題に対して負うべき責任は、非常に重いと言わねばなりません。

期待される東京都の取り組み

一刻も早い、国としての対策や強い姿勢を、日本政府が国際社会から求められる中、国際都市である東京に対しても、期待の声が高まっています。

2019年5月、ニューヨーク市長から東京都知事宛に、東京都での象牙取引を禁止するように要請した書簡が届けられました。

東京都の姉妹都市でもあるニューヨーク市があるニューヨーク州は、州内の象牙取引を禁止している州。

同じ自治体として、象牙をめぐる国際社会の動きを意識した取り組みを行なっています。

こうした要請を受け、東京都は2020年1月、「象牙取引規制に関する有識者会議」を立ち上げました。

会議の目的は、象牙取引に関して、国際都市である東京がなすべき対策を検討すること。

2021年6月までに4回の会議が開催され、国内の象牙取引の実態や、象牙を利用している彫刻師の方や、トレーサビリティ認証制度に詳しい専門家などをお招きした情報の共有と検討を進めてきました。

東京都が実施した象牙市場の実態調査(2020年3月)<br>左)象牙製品等の取り扱いの有無について。事業者のうち3割が象牙を取り扱っていないと回答(象牙取扱事業者として国に登録している都内の事業者2,979件のうち、回答のあった1,319件の内訳)。<br>右)製造・加工の有無について。印章の取り扱いが最多で、3割は卸や小売専門(回答のあった都内の象牙取扱事業者1,319件のうち、象牙製品等を取り扱っている事業者889件の内訳)。<br>(出典:象牙規制に関する有識者会議第2回会議関係資料:参考資料1)

東京都が実施した象牙市場の実態調査(2020年3月)
左)象牙製品等の取り扱いの有無について。事業者のうち3割が象牙を取り扱っていないと回答(象牙取扱事業者として国に登録している都内の事業者2,979件のうち、回答のあった1,319件の内訳)。
右)製造・加工の有無について。印章の取り扱いが最多で、3割は卸や小売専門(回答のあった都内の象牙取扱事業者1,319件のうち、象牙製品等を取り扱っている事業者889件の内訳)。
(出典:象牙規制に関する有識者会議第2回会議関係資料:参考資料1)

WWFジャパンとTRAFFICも、この有識者の一員として招聘を受け、会議に参加。

日本から海外への密輸が続いている現状について情報を提供すると共に、特に国内の象牙取引については、厳格に管理された狭い例外を除き、原則停止すべき立場を明示し、国に先行した取り組みを検討するよう、東京都に求めています。

象牙の国内取引の問題は、法制度の改善が重要なカギとなるため、自治体である東京都が単独で、実効性の高い施策を打つことには困難があります。

しかし、国際都市として、不十分な対応しか取れていない日本政府に対して、政策の改善を働きかけることは可能であり、それは東京都に期待される大きな役割といえるでしょう。

東京都では、オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて、日本から海外への象牙の持ち出しを防止するための取り組みが検討されていますが、こうした取り組みが一時的、短期的な施策にとどまらず、取引の規制に向けた、より踏み込んだ長期的な施策となることが重要であり、求められます。

WWFジャパンは、都として、象牙の取引規制をどのように考えるのかなど、具体的な姿勢を明示した指針や宣言を発表すること、さらに都内での象牙取引禁止を前提とした独自の条例の制定などを求めています。

今後も引き続き提言と働きかけを続けていきます。

【WWFジャパン/TRAFFICによる東京都への提案】

2021年3月に開催された第4回会議では、東京都に期待される具体的な取り組みについての意見交換が行われ、WWFジャパンとTRAFFICが共同で提出した提案書についても共有しました。その概要は以下の通りです。

1. 長期的施策
象牙取引の原則禁止を目指す旨を明らかにした長期的施策の指針を定め、独自の宣言を行なうこと
その他、
(ア) 都内における象牙の取引状況・在庫の実態の把握と、それを踏まえた施策の効果測定を行なうこと
(イ) 取引原則禁止については、運用に際して条例制定など一定の権限・拘束力のある施策とすること
(ウ) 取引原則禁止の中では、文化的重要性や、トレーサビリティが担保できるなど一定の条件が認められる場合においては「狭い例外」として選定し明確に示すこと
(エ) 首都圏を中心に他の自治体との連携を検討し、都の施策の効果を最大化すること

2. 短期的施策
1の宣言をふまえた、緊急措置の立案
(オ) 短期的施策の成果は国に報告し、効果が期待できる施策については国の政策としての導入・実施を提言すること
(カ) 東京2020大会の終了後にも、この問題について長期的に対処・実行する部署を設けること。また、象牙に限定せず、類似の問題に対応すること
(キ) 具体的には、下記施策を実施すること
①事業者にかかわる取り組み:期間限定で販売自粛を促す
今後、都における象牙規制に関する条例制定を見据えて試験的実施とする
②水際にかかわる取り組み(1):税関と連携し、徹底した周知
キャンペーンやポスター掲示だけではなく、執行部隊や空港関係者(空港運営企業、航空企業、テナントなど)と連携して「象牙持ち出し禁止」の周知を徹底する
③水際にかかわる取り組み(2):特別に訓練を受けた探知犬の配備
④訪日客にかかわる取り組み:関連企業と連携し、徹底した周知
水際同様、キャンペーンやポスター掲示だけではなく、関係者内での認識を上げて「象牙持ち出し禁止」について訪日客にアプローチする

提案詳細:象牙規制に関する有識者会議第4回会議関係資料(資料5-3)「WWFジャパン・TRAFFIC共同提案」

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP