朝日SDGs ACTION!ウェビナー「WWFと考える SDGsの実践セミナー」を開催 生物多様性をビジネスにする~野生生物保全とイノベーション

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WWFジャパンは2025年5月22日の「国際生物多様性の日」に、朝日新聞SDGs ACTION!編集部とウェビナー「WWFと考える SDGsの実践セミナー」を開催。「生物多様性をビジネスにする~野生生物保全とイノベーション」をテーマに、「生物多様性の保全を社会の当然に」を掲げるベンチャー企業バイオームの藤木庄五郎代表取締役CEO(最高経営責任者) をゲストに迎え、生物多様性の危機や、技術革新による課題解決の可能性について考えました。
目次

世界の生物多様性の危機とビジネス

5月22日は、1992年5月22日に国連生物多様性条約が採択されたことを記念し、世界の生物多様性の保全を考える日として定められた「国際生物多様性の日」です。

しかし、生物多様性の危機は、生物多様性条約が成立してから30年が過ぎた現在も続いており、さらに深刻化の度合いを強めています。

IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」に掲載された、絶滅危機が高いとされる野生生物の種数は4万7000種以上。

また、WWFが2024年に発表した「生きている地球レポート2024」でも、生物多様性の豊かさを示す「生きている地球指数(Living Planet Index: LPI)」が、1970~2020年の間に73%も減少したことがわかっています。

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出典:WWF「生きている地球レポート2024」

そうした中、国際社会は2030年までの「ネイチャーポジティブ(自然生態系の損失を食い止め、回復させていくこと)」の実現を、生物多様性条約が定める世界共通の目標として掲げ、その実現を目指す動きが強まっています。

ビジネスの分野においても、企業に自然関連の情報開示を促すTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が2023年9月に最終提言を公開。

機関投資家もこうした情報の開示に注目しており、企業の対応が問われています。

生物多様性の保全に向けたこれからのビジネスと可能性とは?

WWFジャパンは2025年5月22日の「国際生物多様性の日」、朝日新聞SDGs ACTION!編集部と共に、第5回目となるウェビナー「WWFと考える SDGsの実践セミナー」を開催しました。

テーマは、「生物多様性をビジネスにする~野生生物保全とイノベーション」。

ゲストに「生物多様性の保全を社会の当然に」を掲げるベンチャー企業バイオームの藤木庄五郎代表取締役CEO(最高経営責任者)をお迎えし、WWFからは西野亮子野生生物グループ長が登壇し、生物多様性の危機と、新しいテクノロジーによる、ビジネスを通じた課題解決の可能性についてお話ししました。

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世界の生物多様性の現状とWWFの取り組み

ウェビナーでは、まずWWFの西野より、世界の生物多様性の現状と危機、特に直接的な影響として深刻な問題となっている、野生生物の密猟や違法取引について説明。

税関などの水際対策支援や、違法取引の温床と指摘されているオンライン取引の適正化に向けて行なっている、業界への働きかけについて解説しました。

その中で西野は、取引される動植物の「識別」が、大きな課題になっていることを指摘。正しい情報をふまえた、消費者の意識変容が重要であることを指摘しました。

生物多様性の保全をビジネスに!バイオーム誕生の軌跡

続いて、「生物多様性の保全を社会の当然に」を掲げる京都府のベンチャー企業バイオームの代表取締役CEO藤木庄五郎氏より、自社のビジネスとその展望についてお話しいただきました。

藤木氏がバイオームを設立したのは2017年。
ユーザーがスマートフォンなどで撮影した写真を投稿してもらい、AI(人工知能)で生き物の名前を判定する「いきものコレクションアプリ『Biome(バイオーム)』」を展開してきました。

また、こうしたツールを使って収集したデータを基礎に、企業向けのTNFD対応支援事業なども展開しています。


藤木氏は、まずご自身のバックグラウンドと、バイオームの立ち上げまでの経緯を説明。学生の時からご自身のテーマとしてきた「生物多様性」の危機と、その背景にある人間の経済活動の関係性を指摘し、生物多様性を守るビジネス、の立ち上げを志向された軌跡をお話しくださいました。

重要だったのは、生物の情報を「見える」ようにすること。

そして、現在では110万人が利用しているアプリ『Biome』の機能と、そこで収集されるデータの意味を解説していただきました。

実際に『Biome』で収集されたデータは、地域の開発計画の立案に際して、生物の生息状況を確認する際などにも使われているとのこと。

藤木氏はこうしたデータが、アプリを使用する多くのユーザーから寄せられる情報に支えられており、大きく貢献している点を強調されました。

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トークセッション:生きもののデータをどう活用する? これからに向けたビジョン

続いて、朝日新聞SDGs ACTION!の竹山栄太郎編集長のファシリテーションでトークセッションを実施。
まず藤木氏より、アプリ『Biome』の機能と、そこで集められた情報が、TNFDの企業の生物多様性関連の情報開示にも役立てられていることを説明。

西野からは、実際の野生生物取引の現場や、オンライン取引のプラットフォーム上で、生物の種(しゅ)を正しく識別することが課題になっており、そのためのデータの集積と、AIによる貢献が重要であることをお話ししました。

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実際、沖縄などでは、島外から持ち出されようとする野生動物が規制対象種ではないかを判別するのに、バイオームのテクノロジーを活用できないか検証中で、こうした取り組みの広がりが重要であることが指摘されました。

また、こうした技術は、野生動物の識別だけでなく、木材などの自然由来の資源についても、応用が可能です。

環境負荷の有無や大小を明らかにし、適切なものを判断して利用する動きは、少しずつ広がり始めており、ビジネスにも変化の兆しが見え始めています。

これをさらに大きくしていく要素としては、企業がまず自社としての生物多様性の方針を明らかにし、サプライチェーン全体で取り組みを進めていくことが重要です。

藤木氏は今後に向けた課題として「とにかく、何でも、生物多様性を知ってもらう」ことの重要性を指摘。大阪・関西万博での出展や、国内およびインドネシアやボリビアでの『Biome』も使った普及活動などについて、お話しくださいました。

西野からは、政策の改善と消費者の意識の変革が大事であることを説明。現在取り組んでいる、野生動物のペット利用についての行動変容キャンペーンを紹介しました。

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生物多様性の保全は、一部の人の意識の高さに頼って行なうべきものではなく、社会的な仕組みにおいて、実現していくべきものです。

ビジネスもまた同じであり、藤木氏は最後に、その実現を目指したい、技術としてはまだまだ!と今後に向けたビジョンを語ってくださいました。

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ご登壇いただいた、バイオームの藤木氏(中央)とWWFジャパンの西野(左)、司会の朝日新聞SDGs ACTION! 編集長の竹山栄太郎氏(右)

イベント概要:WWFと考える SDGsの実践セミナー『生物多様性をビジネスにする~野生生物保全とイノベーション』

開催日:2025年5月22日

会場:オンライン開催
参加者:266名(アーカイブ配信申し込み:約700名)
登壇(敬称略):
株式会社バイオーム 代表取締役CEO 藤木庄五郎
WWFジャパン 野生生物グループ 西野亮子
朝日新聞SDGs ACTION! 編集長 竹山栄太郎
主催:朝日新聞SDGs ACTION!編集部、WWFジャパン

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