【開催報告】企業向けセミナー:「水破産」時代に求められるウォーター・スチュワードシップの実践― 水・生物多様性・気候変動のつながりを捉えた対応(2026年5月25日/対面・オンライン開催)
2026/06/26
- この記事のポイント
- 2026年5月25日、WWFジャパンとAlliance for Water Stewardshipは、ウォーター・スチュワードシップ(責任ある水利用管理)の実践をテーマとする企業向けセミナーを開催しました。「水破産」の現状を踏まえた国連大学からの基調講演や、各登壇者からの現場事例の紹介により、水・生物多様性・気候変動という横断的テーマを現場活動を通じて現状把握し取り組むことと、流域のコレクティブアクション(協働活動)の重要性を伝えました。
水ストレス、水危機から「水破産」時代へ

出典:国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』(Global Water Bankruptcy Living Beyond Our Hydrological Means in the Post-Crisis Era)
WWFジャパンは、Alliance for Water Stewardship(AWS)との共催により、2026年5月25日(月)、「企業向けセミナー:「水破産」時代に求められるウォーター・スチュワードシップの実践― 水・生物多様性・気候変動のつながりを捉えた対応」を国連大学及びオンラインにて開催しました。
2026年1月、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が発表した報告書『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』では、「水ストレス」や「水の危機」といった従来の用語では、多くの地域で起きている現状を十分に捉えきれなくなっており、今や地球規模の「水破産」の時代に突入したことが示されました。
日本においても近年、無降水日が増加し、ダムの貯水率低下や農作物への被害など、渇水の影響が各地で報告されています。一方で、豪雨災害が激甚化・頻発化し、水害が人々の暮らしや行政の体制・財政などに甚大な影響を与えています。このような多面的な水リスクは、気候変動の進行により、さらに増加していく可能性も指摘されています。
水をとりまく危機的現状は、社会全体の課題であるとともに、サプライチェーンを通じて水環境に影響を及ぼしている企業にとって、喫緊に取り組むべき分野となっています。
本セミナーは、このような課題を共有し、企業が水・生物多様性・気候変動という横断的なテーマに実践的に取り組むヒントを持ち帰っていただくことを目的に開催しました。
当日は、食品・飲料、化学工業、ICT・エレクトロニクス、アパレル・繊維、建設、金融・保険などさまざまなセクターの企業が参加。学術機関やNGO含め、389名の参加がありました。
セミナー概要
| イベント名 | 「水破産」時代に求められるウォーター・スチュワードシップの実践― 水・生物多様性・気候変動のつながりを捉えた対応 |
|---|---|
| 日時 | 2026年5月25日(月)14:30-17:30 |
| 場所 | 国連大学およびオンライン |
| 参加者数 | 389名 |
| 主催 | WWFジャパン、Alliance for Water Stewardship |
プログラム
※以下、敬称略
| # | 登壇者 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | WWFジャパン自然保護室淡水グループ長 小林 俊介 |
はじめに |
| 2 | 国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH) 所長 カーヴェ・マダーニ(録画登壇) | 基調講演:共通項としての水:報告書『Global Water Bankruptcy』が示す課題と視座 |
| 3 | 国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS) 学術事業アドバイザー および 早稲田大学教授 勝間 靖 | 現場から見たコミュニティの水リスクとその民間企業のサプライチェーンとのつながり |
| 4 | WWFインターナショナルグローバル・ウォーター・スチュワードシップ副リーダー ライラン・ドブソン | ウォーター・スチュワードシップと水・生物多様性のネクサス~ ICTセクター、食品セクターなど企業事例紹介~ |
| 5 | Alliance for Water Stewardship (AWS) セクターコーディネーター・日本 難波 圭 | AWS国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0のポイント |
| 6 | Q & A | |
| 7 | WWFジャパン自然保護室淡水グループ 金 惠娜 | アパレル・繊維産業の水リスク:ウォーター・スチュワードシップと淡水生態系保全の現場事例~トルコ・ブユックメンデレス川の取り組み~ |
| 8 | ・サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部天然水の森グループスペシャリスト 市田 智之 ・株式会社資生堂 那須工場 田口 邦彦 ・日本コカ・コーラ株式会社 広報・渉外&サステナビリティ推進本部 シニアマネージャー 李アンジェラ ・WWFジャパン自然保護室淡水グループ 羽尾 芽生(モデレーター) |
・登壇企業各社より、自社拠点と流域の取り組み事例発表 ・パネルディスカッション *ディスカッションテーマ:①水資源保全から見えてきた生物多様性の視点、②流域の視点とステークホルダー協働の重要性 |
| 9 | Q & A | |
| 10 | WWFジャパン | おわりに |
各講演の概要
基調講演:共通項としての水:報告書『Global Water Bankruptcy』が示す課題と視座
国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH) 所長 カーヴェ・マダーニ(録画登壇)
水ストレスや水危機を超えた「水破産」とは、再生可能な流入量や安全な利用量を超えて取水が続き、水関連の自然資本に不可逆的または高コストの損失が生じ、回復困難な損害が長期的に蓄積した状態を指す。
また、地域によって異なる水の課題は、水量だけでなく、水質の劣化やこれらによる生態系への影響など幅広い。

出典:国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』(Global Water Bankruptcy Living Beyond Our Hydrological Means in the Post-Crisis Era)
水破産時代の今後は、回復のための施策を進めつつも、残された水資源やそれを育む自然環境をどのように守り、需要を削減し、適応していくのかが焦点となる。
水は、取り返しのつかない状態に移行しながらも、一方で、地域コミュニティ、産業、国家安全保障、食料安全保障に直結する共通項としての側面を持ち、市民、民間企業、行政などあらゆる主体が水に団結して取り組まなければならない。
つまり、水はリスクだけでなく「機会」の側面も多分に持つものであり、気候変動の緩和、生物多様性の回復など分野的にも横断的に取り組むことが求められる。

現場から見たコミュニティの水リスクとその民間企業のサプライチェーンとのつながり
国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS) 学術事業アドバイザー および 早稲田大学教授 勝間 靖
世界が気候変動の危機に直面するなか、GHG (温室効果ガス)排出削減のためには、脱炭素化またはカーボン・ニュートラルを進め、クリーン・エネルギーへ移行させなければならない。そのために必要とされるリチウム、コバルト、ニッケル、銅、グラファイト、レアアースなどの、いわゆる「移行鉱物」への需要が高まっている。
鉱物資源の開発には、地域への影響が伴う。環境破壊だけでなく、開発に伴い非自発的な移住を迫る結果、国内避難民を発生させる。また、公害による健康被害をもたらし、健康への権利が侵害されることもある。
こうした課題は他人事ではない。日本では足尾銅山鉱毒事件の例があるほか、近年でも、スマートフォンやコンピューターといった電子機器、自動車、医療機器など、私たちの生活は多くの産業によって支えられているが、そうした産業活動には、サプライチェーンを辿るとさまざまな鉱物資源が用いられている。
鉱物資源への需要が高まる中、近年、持続可能な鉱業に向け、国際社会においていくつか注目すべき動きがある:
- 国連環境計画(UNEP)と責任ある鉱業保証のためのイニシアティブ(IRMA)の協力表明(2026年2月)
- 経済協力開発機構(OECD)による「紛争の影響および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」刊行
- 日本の電子情報技術産業協会(JEITA)による責任ある鉱物調達の推進
- 「ビジネスと人権センター」による「移行鉱物トラッカー」の開発
こうした潮流を捉え、企業にもサプライチェーンで環境や社会への負荷を把握し、改善に向けた取り組みが求められる。

ウォーター・スチュワードシップと水・生物多様性のネクサス~ ICTセクター、食品セクターなど企業事例紹介~
WWFインターナショナルグローバル・ウォーター・スチュワードシップ副リーダー ライラン・ドブソン
企業が水に取り組む際に重要なことは、自社拠点を超えて「流域の視点」を持つことである。
従来型の水管理とは、自社の取水量削減や排水管理といった自社拠点レベルの対応(=マネジメント)にとどまってきたが、これからは、水が循環する地域・流域という広がりの中で、水利用者として責任をもって社会的・環境的な価値を守ること(=スチュワードシップ)が企業にも求められている。なぜならば、水は、流域全体の共有財産であり、自社拠点内だけで対策を講じても、水不足や水質悪化、生態系劣化といった事業リスクを軽減ことはできないからだ。
このような流域の視点は、水だけでなく、生物多様性とも密接に関わっている。生態系サービスは、水資源や食料資源の提供、気候の調整機能、水質浄化機能など、多面的な機能をもち、産業を直接的・間接的に支えている。水資源だけでなく、それを育む社会基盤といえる生物多様性にも、企業が取り組む意義は大きい。

そして今、グローバルな先進企業は、水や生物多様性のつながりを捉えた現場活動を展開し始めている。
例えば、食品・飲料セクターのダノン社は、サプライチェーン上負荷の大きい原材料生産に焦点を当て、生産地でのリジェネラティブ農業とランドスケープの保全(土壌の健康の維持・向上、湿地再生、流域保全など)を行なっている。
ICTセクターのアップル社は、従来からあらゆる産業で取り組まれてきた水利用の効率性の向上だけでなく、自社ビジネスに関連する「流域のレジリエンス」の向上に重点を置き、取り組み始めている。例えば、サプライヤーとの協働によるサプライチェーンでのウォーター・スチュワードシップの実施や、水・生物多様性・気候・エネルギーシステムのつながりを捉えたアプローチとしての生態系回復活動やNbS(自然に根差した解決策)の実施である。
他にも、アパレル繊維、製薬などさまざまなセクターでも同様に、ビジネスにとって重要なサプライチェーンで環境負荷の高い流域に焦点を当て、水と生物多様性に取り組む現場活動が実践されている。国際潮流を捉え、今後、日本企業にもさらなるコミットメントへの期待が寄せられる。

AWS国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0のポイント
Alliance for Water Stewardship (AWS) セクターコーディネーター・日本 難波 圭
AWSは、230以上の企業、NGO、政府関係者が協働する国際ネットワーク。世界の淡⽔資源を守ることを⽬的に、AWS規格と認証制度を通じて、優れたウォーター・スチュワードシップの取り組みを推進している。
本年3月22日世界水の日に、AWS国際規格バージョン3.0がグローバルで公開となった。
参考:Alliance for Water Stewardship(AWS)『国際ウォーター・スチュワードシップ規格バージョン3.0』
バージョン3.0では、要求事項数(旧「指標」)をバージョン2.0より、コア、ゴールド、プラチナの3段階の認証におけるそれぞれの要求事項の見直しが行われ、重複および付加価値の低い要求事項を26項目削減し、全72要求事項にまとめた。特に、ゴールド・プラチナレベルにおいて、コア要求事項を基盤に継続的改善につながる、より厳選されたアドバンス要求事項が採用された。
その他、バージョン3.0の主なポイントは以下のとおり:
- 淡水生態系およびそれらの生物多様性の項目が明文化され、淡水生態系および生物種の特定・評価に加え、それらの保護・保全・回復に向けた目標および施策の策定・実施が重視されることとなった。
- 流域における降水量の変化や洪水・干ばつ等の異常事象を含む、気候動向および水関連影響の把握を求める新たなコア要求事項が導入された。
- コア・ゴールド・プラチナの各レベルにおいて、コレクティブ・アクションの段階的な要求事項が導入された。
なお、バージョン3.0は、欧州企業サステナビリティ報告指令(CSRD)のESRS E3(水資源基準)との高い互換性を持ち、TNFDやCDPなどの情報開示枠組みとも用語等の整合性をはかったものである。
2025年3月に発足したジャパン・ウォーター・スチュワードシップ(JWS)の活動も更なる拡大を見据え、日本でのAWSおよびウォーター・スチュワードシップの普及を目指していく。
参考:ジャパン・ウォータースチュワードシップ(JWS)
アパレル・繊維産業の水リスク:ウォーター・スチュワードシップと淡水生態系保全の現場事例~トルコ・ブユックメンデレス川の取り組み~
WWFジャパン自然保護室淡水グループ 金 惠娜
アパレル繊維産業の原材料のひとつ、コットンを例にとると、農作物としての特性上、生育には多くの水を必要とするが、一方、綿花の開花の条件として「乾燥」が必要。そのため、水リスクの高い地域に産地が集積する傾向がある。
アラル海やトルコでの実害が示すとおり、コットン栽培で多量の灌漑用水を使うことで、地域の渇水リスクのさらなる増大に繋がっている。
水量の課題以外に、コットン栽培で大量に使用される農薬や殺虫剤が、周辺河川の水質汚染を引き起こし、現地コミュニティの清潔な水のアクセスを制限し、生物多様性にも影響を与えることにつながっている。
このような危機的な現状を1社だけで解決することはできない。アパレル繊維産業には、コレクティブアクションによる生産地の課題解決に向けた取り組みが、事業の継続のためにも求められている。
WWFジャパンは、WWFトルコとの連携により、ブユックメンデレス川流域のウォーター・スチュワードシップ活動を推進。

アパレル企業、地域の商工会、農業関係者、漁業関係者など流域に関わるさまざまな主体が参加するプログラムである。
企業の参画背景と役割は主に以下のとおり:
- 流域に所在する自社サプライヤーへの働きかけにより、イニシアチブや活動プラットフォームの参加を促進
- 地域での持続可能な生産に向けたガイドラインの作成、促進
- 資金提供
この他、当該流域では、リジェネラティブ農業と節水灌漑によるサステナブルなコットン栽培や、淡水の生物多様性の取り組みとして、ヨーロッパウナギの保全活動も実施。産業を支える生物多様性保全も、活動の柱に据える。
流域の活動は広範囲にわたるが、地域の水環境に依存・影響する企業の参加は必要不可欠。
まずは自社サプライチェーン上重要性の高い流域の水リスクの理解し、サプライヤーを含めステークホルダーとの対話により、地域課題への理解を深めることが重要である。

パネルディスカッション:
下記をテーマに、サントリーホールディングス株式会社、株式会社資生堂、日本コカ・コーラ株式会社の3社より現場活動の発表とディスカッションを実施。
①水資源保全から見えてきた「流域」と「生物多様性」の視点
②ステークホルダー協働/コレクティブアクションの重要性
「サントリー 天然水の森」における水源涵養活動について
サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部天然水の森グループスペシャリスト 市田 智之
いい水がなければ製品を作ることができないとの考えから、「良質な地下水=サントリーの生命線」ととらえている。
そして、良質な地下水は、もとを辿ると森で育まれるとの考えから、工場の水源地域において森林と生物多様性の保全・再生により水源涵養を行う「サントリー 天然水の森」活動を全国16都府県・27か所で行ってきた。国有林や県有林等の無償整備を30年基本単位で行なう、長期的な視点が特徴である。
清冽な地下水のためには、雨水を地中に貯留・浸透させる森林土壌の健全性が重要であり、間伐などの手入れにより、下草や低木の茂る明るい森作りを目指す。
木の根の形は、樹種により異なり、多様な木々が斜面への杭の役割や、土の表面をネットのように押さえる役割などを持ち、洪水や土砂災害の防止機能も持つ。そのような観点でも、生物多様性は重要である。

森林や生物多様性の保全には、さまざまな知見が必要であり、水、植物、鳥類などの分野から40名を超える専門家とともに調査研究を行なっている。レーザー航測による地形や植生の調査、調査を基にした30~100年後の目標植生と整備方針の作成、方針に基づく地域ステークホルダーと連携した森林整備活動を実施している。

流域ステークホルダーと連携した水資源管理
株式会社資生堂 那須工場 田口 邦彦
資生堂は、栃木県大田原市にある那須工場において、流域ステークホルダーと連携したウォーター・スチュワードシップに向けた取り組みを実施。

大田原市は、昔から水資源が豊かな地域とされ、産業を支えている。一方、市内には、「おかんじぢ湧水地」という天然記念物のイトヨが生息する湧水があるが、昨年、水が枯れイトヨが確認できなかったという現象が起きた。
自社の使用する水資源がどこから来ているのか、そして、潤沢と言われてきた地域の水資源が本当に持続可能なのか、まずは現在地点を把握することが重要と考え、那須野が原複合扇状地の特徴を捉え、地下水の流動経路の可視化など科学的調査を実施した。
ネイチャーポジティブ那須野が原アライアンスへの参加、ステークホルダーへの調査内容の報告・共有、地域の高校生との協働による減水深調査、研究機関と連携した水質調査など、流域のステークホルダーとの連携を進めている。

Water Journey 2026
日本コカ・コーラ株式会社
広報・渉外&サステナビリティ推進本部 シニアマネージャー 李アンジェラ
日本コカ・コーラは、「水」を製品に使用されている最も重要な原料と位置づけ、約20年間にわたり「水の旅(Water Journey)」と称した取り組みを継続してきた。
具体的な取り組みとしては、コカ・コーラシステムがグローバルで行なっている地域への水の還元が挙げられる。日本でも全国22か所の工場全てで実施。例えば、森林保全や草原保全、水田の湛水、湿地の回復といった活動により、水のリプレニッシュを達成している。
直接操業だけでなく、サプライチェーンでの水フットプリントが大きいことを把握し、原材料生産地における活動も展開。
グローバルには、12の優先原材料を定めており、日本では特に茶葉の生産地 静岡県御前崎市、掛川市と連携協定を結び、水量・水質両方の側面から流域の健全性の向上を目指して、地下水の保全活動や環境教育、環境にやさしい農業などの取り組みを進めている。

コカ・コーラボトラーであるコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社では、水・森林・生物多様性を一体的な価値として捉えている。そのうえで、水源涵養に向けて取り組んできた森林保全活動を基盤に、生物多様性価値の科学的実証や自然共生サイト認定取得など、統合的なアプローチを推進している。
このような活動を通じ、水を守ることが、農業や地域貢献、そして生物多様性などさまざまなつながりを生み出していると実感している。

ディスカッション要点:
テーマ【1】水資源保全から見えてきた「流域」と「生物多様性」の視点
Q:自社拠点内の水資源の取り組みを超えて、「流域」や「生物多様性」といった広い視座で活動することによる企業視点の意義やベネフィットとは?
市田氏:製品の製造に長い年月を要するのと同様に、自然相手にも長期的な視点が重要。例えば活動地では、松枯れが起きている地域もあるが、1、2年ですぐに成果が出て解決できるものではない。数十年先を見据えて活動設計していく必要がある。企業にとってのベネフィット、活動の価値という視点では、自社製品と結びついたブランドイメージに加え、地域からの信頼醸成、友好的な反応をいただけること。自社操業を続けていくには、やはり地域の理解というものは不可欠であり、自治体や土地所有者の方々など、さまざまな人々とのコミュニケーションが非常に重要と考えている。
田口氏:水資源を捉えるとき、「流域の現状がわからないこと」自体がリスクだと考える。単純に水使用量削減を進めていくのではなく、本当にその取り組みが流域、地域にどれだけ貢献できるのか考えなければならない。水資源の効率的使用は、一つの工場だけで取り組むのではなく、「水循環」の視点で上流~下流の流域を捉えた活動としていくことが重要。地下水や淡水生物など、目に見えないことを調査によって明らかにし、流域ステークホルダーとの対話と協働を通じて取り組むことは事業継続性と企業価値を高める戦略的観点で重要と考える。
李氏:The Coca Cola Foundationでは、WWFジャパンと連携し、4年間九州・有明海流入河川流域の減災と生物多様性保全の両立プロジェクトを実施してきたが、その中で、水と生物多様性のつながりを実感。社としては、生物多様性を環境問題として捉えるだけでなく「ビジネス基盤」として捉えている。生物多様性を含め、ビジネスを成り立たせてくれる要素を統括的に考えていく必要がある。か学的なエビデンスも重要で、生物多様性の価値の実証などシステムとして取り組んでいるところもあるが、社として、何を重要と捉えこのような活動を行なっているのか、ストーリーを語っていく、そのなかでつながりの生まれた地域の方々と協働していくことを大切にしている。
テーマ【2】ステークホルダー協働/コレクティブアクションの重要性
Q:地域のさまざまな方々と協働していくにあたり直面した課題とは?連携を進めていくための実践的な工夫やヒントとは?
田口氏:地域の方々と連携を開始する前段階で、まず社内での合意形成も丁寧に進める必要がある。会社全体の目標が水使用量削減のなかで、地域ごとに異なる水課題に取り組む目的や意義等、理解醸成を行なった。社外での、地域との関係づくりについては、流域の視点で見ると複数の市町村がまたがるので、行政ごとの課題や方針の違いも踏まえ、対話していくことが重要。また、農業従事者の方々には、詳細な科学的データをもって対話に行った方が良いのではないかと思ったが、学識有識者から最初から巻き込んで一緒に取り組むことがもっとも効果的とアドバイスを頂き、まずは話をしてみて、企業や個人の観点ではなく流域全体がこうあってほしい、という広い視点で話すことで共感頂けたと感じている。いろいろな人と話す中で、高校、アカデミア、土地改良区などさまざまなステークホルダーにつながっていった。
李氏:コレクティブアクションというと、大規模なプロジェクトをやらなければならない、資金もリソースもかかると考え、一歩踏み出すのが難しいと感じる方がいるかもしれない。しかし、これまで活動してきた経験から、まずは小さく始めてみるのが重要だと感じている。最初に、流域にどんなステークホルダーが関わっているのか調べることから開始するが、その際、各ステークホルダーの目的や考え方が少しずつ異なっていることがわかる。このような差異をまず理解する、ダイアログに時間をかけて重ねていくことで、課題の解像度もクリアになり、どんな解決策が誰の関心と重なるのかがわかってくる。
市田氏:地域と関係を構築していくうえで、まず身近な課題に寄り添うことが重要だと考える。例えば、上流域の森林を整備することで、土砂流亡が軽減するといった、地域の方々にとっての身近な課題の解決に向けて動くこと。また、企業から一方的なコミュニケーションをはかるのではなく、活動の中で連携している専門家の方々や、複数の人々を交えて対話を行うことで、より良い理解醸成につながる。一社でできることではないので、多様な機関・人々とのコミュニケーションを重ねていくことが不可欠である。

「水破産」の時代において求められる企業の取り組みとは:地域課題に根差した解決策をステークホルダーとともに実践すること
本セミナーのまとめとして、WWFジャパンは、企業の具体的な取り組みとして、以下の点が重要だと考えます。
- 自社ビジネスと水課題の繋がりを捉え、目標や活動に落とし込む
- 国内外の企業による水の先進的な取り組み事例から学ぶ
- 水の基盤となる「生物多様性」を切り分けて考えるのではなく、水と生物多様性を捉えた現場活動(水源となる森林や湿地の保全、流域課題への対応など)を検討する
- 流域のステークホルダーとコミュニケーションをとり、地域ごとに異なる課題を把握することから開始する
TNFDやCDPなど情報開示の枠組みが整備されていくなかで、「情報開示のための対応」をしなければいけないというプレッシャーを感じている企業もあるかもしれません。
一方で、今回のセミナーで登壇企業から紹介された取り組みは、自社にとって重要な課題を解決するために、地域のステークホルダーとともに課題に正面から向き合っていった結果、今求められている枠組みに応えられていると思われます。
地域で取り組みを深めていくと、自然と、自然環境を守ることが自社の課題解消のために必要なのだということがわかります。
取り組むべき課題を見定め、取り組み、その結果を開示していくというのが、本質的な流れであり、サステナビリティを目指す企業には、一歩ずつ歩みを進めていただきたいとWWFジャパンは考えます。
WWFジャパンは、今後も企業のウォーター・スチュワードシップを推進し、ネイチャーポジティブな社会への移行に向けた対話と協働を続けていきます。
ウォーター・スチュワードシップや水の取り組み全般について、ご質問・ご関心をお持ちの企業関係者の方は、下記までお問い合わせください。
WWFジャパン淡水グループ:water@wwf.or.jp
関連リンク:
国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』(Global Water Bankruptcy Living Beyond Our Hydrological Means in the Post-Crisis Era)



