ワシントン条約決議10.10「ゾウの標本の取引」の 適切な履行に関する要望書


環境大臣  原田 義昭 殿
経済産業大臣  世耕 弘成 殿
外務大臣  河野 太郎 殿
(公財)世界自然保護基金ジャパン 会長 末吉 竹二郎

 

現在、危機的状況が続くアフリカゾウの密猟および象牙の違法取引撲滅に向けて様々な取り組みが実施されています。野生生物の国際取引を規制するワシントン条約においても、前回締約国会議(CoP17, 2016)でゾウの標本の取引に関する決議10.10が改正され、「密猟」もしくは「違法取引」に寄与する国内市場に対し、緊急な措置をもって閉鎖を求める勧告がされました。国内に市場を有し、過去に二度、ワシントン条約のもと、「ワンオフ・セール(一回限りの取引)」として象牙の合法取引の利益を享受した日本は、同決議を含むワシントン条約の合意事項の履行に早急かつ真摯に取り組む責任を負っています。

日本政府は、日本の国内象牙市場はアフリカゾウの密猟や象牙の違法取引との繋がりはないと評価 し、上記決議の勧告する市場には該当しないとの立場を示しています。しかしながら、根拠とされている2016年ETISの報告 では、日本が、アフリカから違法に流出する象牙の主要な行き先となっている証拠はないとするものの、日本から中国への象牙の違法輸出について言及し、日本の状況に懸念を示しています。

また、国内の状況については、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICが2017年および2018年に実施した調査 によると、オンライン市場を含む国内の様々な市場で、特に中国に向けた違法輸出につながる外国人客への象牙製品の販売が確認されており、実際に2011年から2016年の間には2t以上もの象牙が日本を出所として中国で押収されています。

こうした証拠は、日本の国内市場が現在、国際的な「違法取引」の一端を担い、決議の勧告する「市場閉鎖」の対象であることを示していることから、WWFジャパンは2018年1月、決議10.10(CoP17改正)に照らし、以下の対策を日本政府に提言しました。

  • I. 緊急な措置をもって象牙の違法輸出を阻止すること
  • II. 厳格に管理された狭い例外を除く国内取引を停止すること

日本政府はこれまでに、取り締まりの強化、および「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の改正法の施行による事業者の管理強化を実施したほか、全形象牙の登録審査方法の厳格化を2019年7月より実施する方針を明らかにしています。また、2017年から2018年にかけて、ジンバブエ、ウガンダ、モザンビークでの密猟対策に関するプロジェクトを支援し、ワシントンン条約事務局から感謝の意が示されています。
こうした対応は、持続可能な利用による保全への貢献を理念に据えた日本政府のワシントン条約への積極的な取り組みの一環として評価すべきものです。しかし一方で、条約決議が履行を求める内容は、「密猟」もしくは「違法取引」に寄与する国内市場については、緊急に、狭い例外を除いた市場閉鎖へ向けて包括的に法律や規制、執行を整備すべきというものです。
また、第70回常設委員会に提出された決議10.10の履行状況に関する各国の報告 において、日本政府は、国内取引の規制内容が、象牙の国内市場を有する主要国と「同等レベルである」との見解を示していますが、現在、象牙の違法取引撲滅に向けて取り組む多くの国が、ワシントン条約のプロセスの下、あるいは独自に大幅な国内規制強化に着手し、主要国の多くは狭い例外を除き取引を停止するアプローチをとっています。とりわけ、最大の需要を抱える中国が、限定的なアンティークのオークション取引を除き取引を全面禁止したほか、日本と同様に市場が残るEUにおいても、決議の勧告を重く受け止め、域内市場が「密猟」または「違法取引」に寄与しないことを確実するために、追加規制が必要かどうかの検討 を公に実施しています。
2019年に開催予定の第18回締約国会議で審議される議題の中においては、アフリカ8カ国(およびシリア)が、主要消費国のうち国内市場を維持している日本の規制の不備について名指しで指摘をし、密猟と違法取引に歯止めをかけるためにはすべての国内市場の閉鎖を勧告すべきとの提案 を提出しています。その他、第70回常設委員会からの決議10.10の改正案に、象牙の国内取引を停止した国の隣国においても相応な措置がとられるよう取り組み強化を促す条項を追加することが提案 されていることなどからも、ゾウの保全に向けて、引き続き決議10.10の着実な実施は締約国の優先課題となることが期待されます。

以上のことから、日本がワシントン条約の締約国として、またワンオフ・セールの輸入国としての責務を果たすためにも、WWFジャパンは、日本政府に対して今一度、決議10.10の履行の観点から以下のとおり緊急な政策の見直しを要望いたします。

1. 日本の国内市場が、密猟または違法取引に寄与する市場に該当するかについて、客観的かつ透明なプロセスのもと、多様なステークホルダーの参加を確保し、再評価すること

2. 日本の国内市場が、密猟または違法取引に寄与していないことを担保するための規制が十分に備わっているかを、関係する主要国の最新の法令との比較を踏まえて検証すること

特にワシントン条約第18回締約国会議においては、

3. 上記の検証の実施を出発点にした中長期的な行動計画の策定または政策の見直しの意思を示すこと

お問い合わせ先

C&M室プレス担当 Email: press@wwf.or.jp

1. CITES(2019). Implementation of Provisions Relating to Domestic Ivory Markets Contained in Resolution Conf.10.10 (Rev. CoP17). SC70 Doc.49.1 A2.
https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/70/E-SC70-49-01-A2.pdf.
2. CITES(2016). Report on the Elephant Trade Information System (ETIS). CoP17 Doc.57.6(Rev.1).
https://cites.org/sites/default/files/eng/cop/17/WorkingDocs/E-CoP17-57-06-R1.pdf.
3. TRAFFIC(2017). Ivory Towers:日本の象牙取引と国内市場の評価.
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20171220_wildlife01.pdf.
TRAFFIC(2017). Slow Progress:日本の象牙市場の再評価(2018年).
/activities/data/20180927_wildlife01.pdf.
4. CITES(2019). Implementation of Provisions Relating to Domestic Ivory Markets Contained in Resolution Conf.10.10 (Rev. CoP17). SC70 Doc.49.1 A2.
https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/70/E-SC70-49-01-A2.pdf.
5. European Commission(2019). CITES Ivory Stakeholders Meeting, 2019.01.28
https://webcast.ec.europa.eu/cites-ivory-stakeholders-meeting.
6. CITES(2019). Implementing Aspects of Resolution Conf.10.10 (Rev. CoP17) on the Closure of Domestic Ivory Markets. CoP18 Doc. 69.5.
https://cites.org/sites/default/files/eng/cop/18/doc/E-CoP18-069-05.pdf.
7. CITES(2019). Domestic Markets for Frequently Illegally Traded Specimens. CoP18 Doc. 31.
https://cites.org/sites/default/files/eng/cop/18/doc/E-CoP18-031.pdf.

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