日本の気候変動影響の将来予測を国が公表
2026/03/10
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- 2026年2月16日、国は、日本における気候変動の影響をとりまとめた「第3次気候変動影響評価報告書」を公表しました。深刻化する気候変動による自然環境の変化はもちろん、我々の生活や健康、さらには農林水産業などの一次産業から各種産業に至るまでの経済面で、どのような影響が既に生じ、そして将来に予測されるのかを示しています。本稿では、およそ5年に1度改定される最新の報告書の内容について紹介します。
第3次気候変動影響評価報告書とは
5年毎に改定される気候変動影響の最新の科学的知見
年々深刻化する気候変動問題。その変化はこれまで体感することのなかった高温現象や、短時間の豪雨などの気象変化に留まらず、いまや土砂災害、熱中症などの健康被害、さらにはサプライチェーンを麻痺させるなど経済活動にも及んでいます。
こうした影響が世界中で顕著になるなか、日本に焦点をあてて影響を分析した評価を国が実施しています。最新の研究論文などの科学的知見をもとに、およそ5年毎に公表されるもので「気候変動影響評価報告書」と呼ばれます。
気候変動適応法にもとづき実施されるこの評価は、2018年、2020年に公表されています。そして2026年2月16日、その最新の「第3次気候変動影響評価報告書」(以下、報告書)が公表されました。
主要7分野にわたる影響評価
報告書は、「農林水産業分野」、「自然生態系分野」、「産業・経済活動分野」など主要7分野に分類され、さらに各分野をより詳細な項目に分けて評価をしています。細分化された項目は、全部で80項目におよびます。

報告書の分野と分野別の引用文献数
また、これら主要7分野にくわえ、分野間を超えて発生する複合的な影響についても言及をしています。幅広い分野にわたる報告書の内容はじつに全612ページに及びます。
本稿ではその全てを紹介することはできないため、ここでは特に“将来の影響”について、定量的に示されており、かつ特に大きいと予測されているものを中心に、ピックアップして紹介をします(※ なお、本稿では紹介していないその他の影響についても、決して影響が小さいわけではないことに留意)
日本をとりまく気候の変化
日本では、すでに過去100年間当たり1.4℃のペースで気温上昇をしており、世界平均より高いペースで上昇をしています。真夏日や猛暑日などが統計上増加(逆に冬日は減少)しているだけでなく、気温以外の変化として、年最大日降水量(1年で最も雨の降った日の降水量)や極端に強い雨の頻度なども増加しています。

こうした日常的に感じる気候の変化は、今後我々の社会が適切な対策を講じられるかで大きく変わることが示されています。例えば、十分な気候変動対策を講じず、今世紀末には4℃程度の気温上昇になる場合(産業革命以降の上昇幅)と、一程度の対策を講じ2℃程度に留める場合とでは、増加する猛暑日や熱帯夜の日数に数倍の差が生じ得ます。
第3次気候変動影響評価報告書の影響に関する表を集約したもの。2℃、4℃上昇シナリオとは産業革命前からの今世紀末時点での気温上昇幅を指す。現在、当時からすでに約1℃上昇しているため、実際には今より1℃ or 3℃高くなるイメージ。なお、上記表の日数や倍率変化は、これらのシナリオにおける現在(1980~1999年の平均)から今世紀末(2076~2095年の平均)の増減数(率)であることに注意
将来予測としては、ほかにも、海水温の上昇とそれにともなう水蒸気量の増加が影響することで熱帯低気圧(台風)の強度が高まる点、平均海面水温が世界平均にも増して増加する点、などが指摘されています。
例えば台風については、年最大風速の中央値が下がることで、建物の年平均被害率は下がる一方で、100年に1度や、50年に1度の高風速の稀頻度の台風発生率が上がるため、こうした際の被害発生率が高くなると予測されています(また、その他では海面上昇や、酸性化、貧酸素化なども世界平均と同程度に進行することが示されている)。

出典: 第3次気候変動影響評価報告書
そして、このような陸・海の気象や状態変化は、そこで生息する動植物への影響はもちろん、こうした自然環境からの恵み(生態系サービス)を享受する人間の社会・経済活動にも広範囲にわたり影響を及ぼすことが予測されています。
食料生産・自然・社会経済への将来影響
食料生産(農林水産分野)への影響
我々の食を支える農林水産分野では、水稲、野菜、水産物など、様々な生産品への影響が予測されています。その中でも注目すべき点の1つは、水稲(米)への影響です。
[1: 米への影響]
日本人の主食であり、2024年に端を発したコメ価格の高騰により、その自給率にも注目が集まっている米ですが、気候変動によりすでにコメの品質が落ちる白未熟粒(※白濁化)が増加傾向にあります。

もし気候変動対策が進まず、今世紀末には4℃程度の気温上昇(すでに約1℃上昇した今からは約3℃上昇)のペースで進んだ場合、高温耐性の品種に移行せず現行品種のまま生育を続けると、生産量が今世紀末には約20%減少することが予測されています。これは最新の推計であり、前回の第2次影響評価で紹介された予測と大きく異なります(前回評価では、今世紀末には収量増加予測でした)。

出典: 第3次気候変動影響評価報告書
[2: 畜産関連への影響]
米のほかに、もう1つ注目されるのは畜産への影響です。すでに牛・豚・鶏のいずれも夏季高温による生産性・繁殖率等の低下が確認されていますが、特に泌乳牛(乳牛)への影響が大きく、将来の気温上昇が比較的緩やかであっても(※1)、2030年代以降には本州全域で大幅な乳量低下が予測されています。
(※1)SSP2-4.5シナリオによる予測。産業革命以降の今世紀末の気温上昇が約2~3℃程度。現在からは約1~2℃程度上昇するケースを想定したもの。

なお、こうした畜産の主要飼料であるトウモロコシですが、こちらも気候対策が進まず(気温上昇が4℃程度)、適応対策が取られない場合には2050年以降から世界的に顕著な収量減少になると予測されており、上記の夏季高温による生産性の低下にくわえ、畜産業にも影響を与える恐れがあります。
[3: 水産物への影響]
そしてもう1つ、身近な食への影響として懸念されるのが水産物です。食卓において最も身近な、マグロ、サケ、ブリなどの回遊魚については、海水温上昇による分布域の北上が確認されており、スルメイカなど魚種によっては日本海周辺ですでに資源量が大きく減少しています。
こうした魚種の変化は、従来の使用漁具が利用できず、漁獲が難しくなるだけでなく、水産加工業にも影響を及ぼしており、その地域で採れていた魚種に合わせ構築されていた製造施設を変更する必要性にも迫られています。

将来予測としては、世界的に、現在にくらべ今世紀末には2割ほど資源量が減ると予測されており(※2)、世界的に商業利用されているマグロ類・カジキ類の7種に対する予測では、漁業影響も加味した上で、2050年までに資源量が平均36%、体のサイズが15%程度減少する予測が示されています(※3)。
(※2) RCP8.5シナリオ(産業革命前に比べ約4℃程度の気温上昇時の上昇ペース)において、現在(2000年前後)との比較によるもの
(※3) RCP2.6と8.5のレンジ(産業革命以降の気温上昇で約2~4℃が今世紀末に見込まれるシナリオ)において推計した研究。ただし純粋な気候影響だけでなく漁業影響も関係していることに留意
他にも、身近なホタテやカキについて、現在と同様のままの養殖環境(=水深)では、将来的にへい死や感染症を高める恐れが指摘されています(例:青森県陸奥湾でのホタテ養殖: 4℃上昇で今世紀末には稚貝の80%以上がへい死する可能性など)。また、ワカメ・ノリ・コンブと言った、日本食に欠かせない海産物も、地域毎で生育量の減少が示されています。
自然環境への影響
国土に広がる自然環境は、多様な生き物の住処であることはもちろん、レジャー等を通じて我々を楽しませてくれたり、生活に必要な食料・原料を供給してくれたりする源泉でもあります。しかし、こうした自然もまた気候変動の影響には脆弱であり、その様相に大きな変化が生じつつあります。
[1: 陸域生態系の変化]
以前より、特に気温変化への脆弱性が高いと言われているのが、高山・亜高山帯です。日本では登山などレジャーでも親しみの深い環境ですが、すでにこうした高山帯を彩る植物群落で、開花の時期が早期化・短縮化。花粉媒介する昆虫などと“活動時期のズレ“が生じています。

高山植物に限らず、植物の開花時期と媒介昆虫の活動時期のズレは、植物の生存にとって大きな影響をもたらし得る
こうした高山帯の植生は、気温上昇が進んだ場合(※4)、全国的に減少し、今世紀末には現在の10~15%にまで減少、あるいは消失する地域もあると予測されており、必然、生息する動物への影響も大きなものとされています(例: 絶滅危惧種のライチョウの分布域は3~4℃の上昇で現在の0.4%にまで減少)。
(※4) RCP8.5の場合
もちろん、こうした変化は高山帯に限定されません。より標高の低い場所の植生でも懸念されています。特に顕著なのが、冷温帯林に代表されるブナです。将来予測では、ブナの生育に適した分布域は、もし気温上昇が1.5~2℃程度であれば、今世紀末でも現在の約98%が残存するものの、3~4℃の上昇になる場合、約22%にまで大幅減少し、本州太平洋側~西日本では、ほぼ消失するとみられています。
さらに、我々の生活圏により近い里地・里山に目を移すと、今度は逆に“増加”にかかわる問題が見えてきます。植生で言えば、特に懸念されるのが、竹林の増加です。

一見綺麗に見える竹林は、成長速度が速く、放置竹林化すると大きく山が荒れることに。西日本では既に問題化している。
現在は九州・西日本に多く分布するモウソウチク・マダケが、東日本にも範囲を広げます。気温上昇が4℃に及ぶ場合、現在の東日本に占める生育適地の面積(約35%)が最大で約80%に達し、北海道南端まで及ぶ可能性が示唆されています。また動物についてはより変化が速く、例えば二ホンジカでは、比較的気温上昇が緩やかでも、現在は国土の約7割程度の生息分布域が2050年頃には9割近くに拡大するとされ、さらなる食害が懸念されます(※5)。
(※5) RCP2.6シナリオにおける(産業革命前からの気温上昇が今世紀末で約2℃程度)、二ホンジカの生息分布確率が50%を超える地域の割合
[2: 淡水・沿岸生態系の変化]
人目に付く陸域に比べると、見えづらいのが水域の生態系への影響です。しかし、河川・湖沼・湿原・海など、いずれのフィールドにおいても、変化はすでに表れています。
例えば河川については、河川水温の上昇による生物への影響だけでなく、洪水の増加がアユを流下させたり、一部の河川で底生生物を押し流したりする影響が生じているとみられています。

河川も気候変動により流量変化や濁度が変わるなど影響を受ける。身近な清流の種(鮎など)も今と同じようには見られなくなる恐れも
また、渓流釣りなどで対象になるアメマスや本州イワナなどは、現在より平均気温が3℃上昇すると、分布適域が現在の7割に減少すると予測されています。さらに、清流の指標ともいわれるカジカについては、3~4℃の気温上昇で、今世紀中頃~末にかけて、中部・関東周辺の生息地がほぼ消失するとみられています。
海域については、やはりサンゴへの影響が大きく予想されています。すでに海水温上昇の影響で白化現象がみられていますが、今世紀末の気温上昇が4℃程度となる場合、熱帯・亜熱帯性の造礁サンゴの生息適域は日本近海から消失することが予測されています。

また、サンゴに限らず海藻類(藻場)への影響も大きなものとなります。食卓にも上るアカモクやカジメについては、その分布域が縮小し、特に4℃程度の気温上昇になる場合、今世紀末にはアカモクは東シナ海や本州中部沿岸から消失する可能性が予測されています。またコンブの主要産地である北日本沿岸域では、主要コンブ11種についても、同様の気温上昇で今世紀末には1980年代の0~25%にまで分布域が落ちると研究で示唆されています。

社会・経済への影響
最後に紹介するのは、社会・経済面への影響になります。先に紹介した自然環境の変化や、これら変化を受ける農林水産業への影響は、それらを加工・販売・サービス提供等する経済活動にも関わってきます。何より、気候変化そのものが人々の健康に直接的な影響をもたらすほか、生活を支える基礎インフラを揺るがすことが想定されます。
[1: 健康被害]
気候変動による気温上昇が人々に与える直接的な影響の1つが、暑熱の影響です。現在すでに熱中症の搬送者数は増加傾向にありますが、今世紀末に4℃の気温上昇するペースで気候変動が悪化すれば、今世紀の中頃には、熱中症搬送者数が、現在の約4.5倍程度になると予測がされています。

第3次気候変動影響評価報告書の健康被害に関する図を日本語に修正
その他にもデング熱などの感染も、媒介する熱帯性の蚊(ヒトスジシマカ)の分布域拡大により増加することや、メンタルヘルスへの影響も予測されています。
[2: 災害・経済への影響]
気候変動が極端な降雨現象などをもたらすことにより、インフラ等にもダメージを与える災害を誘発することも懸念材料の1つです。
例えば、都市部などで懸念されるような内水氾濫については、全国の水害被害額の約3~4割を占め、すでに1993~2018年までの26年間で計2兆円弱が発生しており、こうした内水氾濫は、極端な大雨の発生頻度の増加につれ、将来的には増加が予想されています。

同じように、洪水などの外水氾濫は、上記同様の期間において、約3.3兆円の被害が発生しており、こうした全国の被害額は増加する見込みが示されています。予測額には幅があり、1.5℃~2℃上昇時で1兆~数兆円/年、3~4℃上昇時で数兆円/年となると示されています。
また、こうした洪水などの直接的な影響に留まらず、これらが引き起こす二次的な経済への影響もすでに観測されています。例えば、台風による水害や強風による停電や断水、さらには物流網の寸断によるサプライチェーンへの影響があげられます。

第3次気候変動影響評価報告書の図から抜粋したもの。令和元年に被害をもたらした東日本台風が、仮に工業化前の気候で到来した場合(左図)と4℃上昇した場合(右図)の違いをシミュレーションしたもの。暖色が濃いほど河川水害のリスク指標であるピーク流量(最大流量)が大きい
将来影響の推計も示されており、例えば現行の環境政策を続ける場合には、洪水被害では、GDPを約0.2%押し下げる可能性が示されています。また、沿岸部にはサプライチェーン上重要な施設等が集積していますが、そうした場所が海面上昇で受ける影響額は、気温上昇が2℃程度のペースであっても、2050年には、計約140兆円に及ぶ可能性が示されています。
日本の気候変動対策(政策)に関心を
上記で紹介した「第3次気候変動影響評価報告書」で示された影響は、全体のごく一部に過ぎません。また、今後さらに研究が進められることで、これらの影響がいまの想定以上に、深刻であると示されることになるかもしれません。
これらは、今後、日本や世界が気候変動対策をおろそかにした場合に、来るであろう未来予想図でもあります。

出典: IPCC 第6次評価報告書 政策決定者向けの統合報告書(環境省他による和訳)。将来の気温上昇が特に深刻化した後の世界と向き合うことになるのは、現在の若年層であり、世代間の不公平性が存在する
しかし、その未来予想図はまだ変えることが可能です。将来世代が向き合う問題、と切り離すのではなく、いまの生活の利便性を得る代償としてこの状況を作り出してきた大人たちが責任を持って変えていかなければなりません。なにより、気候変動が進めば、その利便性を支える社会環境でさえ、大きく損なわれることになります。
日本は、世界190か国以上のなかでも第5位の排出国(CO2)でありながらも、残念ながらまだその削減目標は決して十分ではありません。高い目標を掲げることはもちろん、足元で省エネの推進や再エネの導入拡大など足元の対策を進めていく必要があります。
そのためにもWWFジャパンは、引き続き、政府や企業に対して、責任ある対策を講じるよう、活動を進めてまいります。皆さんも、ぜひ、気候変動問題へ関心を寄せ、WWFの活動を見守って頂くようお願いいたします。



