水産業界におけるブルーファイナンスに関するオンラインセミナー開催
2026/07/16
- この記事のポイント
- 2026年6月19日、WWFジャパン海洋水産グループでは、オンラインで水産業におけるブルーファイナンスに関するセミナーを開催しました。セミナーでは金融機関による水産業界への投融資方針やエンゲージメントの事例を紹介し、また水産企業によるブルーファイナンスの事例を紹介しました。今後、水産サプライチェーン全体の協働のもと、取り組まなければいけない取り組みについて、ブルーファイナンスの果たす重要な役割について理解を深めました。
2026年6月19日、WWFジャパン海洋水産グループでは、オンラインで水産業におけるブルーファイナンスに関するセミナーを開催しました。セミナーでは金融機関や水産企業によるサステナブルなブルーファイナンスの事例を紹介しました。サステナブルなブルーファイナンスとは、海洋環境の持続可能性に最大限寄与しながらビジネスの持続性も保つファイナンスの取組全般を指します。
▶WWFのブルーファイナンス関連活動について知りたい方はこちら:
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/5320.html
背景
最初にWWFジャパン海洋水産グループ長の前川から水産業の課題背景の説明がありました。
水産業は、天然資源に大きく依存する食料生産システムであり、農業や畜産とは異なる特有の課題を抱えています。水産資源は海中に存在し直接的な観測が難しいため、資源量の把握や操業実態の可視化が困難であることや、漁業は洋上で行われるため、違法・無報告・無規制(IUU)漁業や労働問題を含むリスクの把握・管理が遅れがちであることを紹介しました。
さらに、サプライチェーンは長く複雑で不透明であり、トレーサビリティの確立が遅れています。日本の場合、扱う魚種の多様性や調達先の変動性も高く、持続可能な調達の実現を難しくしています。
環境・社会課題としては、
● 水産資源の減少(良好な状態は約25%程度)
● IUU漁業の拡大
● 強制労働や児童労働などの人権問題
などが挙げられ、水産業は自然資本と人権の両面で重要なリスク領域となっています。
解決に向けたアプローチ
水産サプライチェーンのサステナビリティ向上には、次のような複数の施策を組み合わせる必要があります。
- 制度・管理の強化:資源管理の強化や規制の整備による過剰漁獲や違法漁業の抑制
- 認証制度の活用:MSCやASC等の第三者認証を活用した持続可能な水産物の可視化。ただし、取得コストが高く、普及にはサプライチェーン全体の協力が必要
- トレーサビリティの確立:国際標準(GDSTなど)へ対応した漁船・養殖場レベルまで遡れるトレーサビリティの構築
- 企業の調達方針の整備:企業によるリスク評価に基づく調達方針の策定および、サプライヤーに対する改善の働きかけ

WWF海洋水産グループ長 前川による背景説明
ブルーファイナンスについて解説
次にWWFジャパン・海洋水産グループの武田からブルーファイナンスについて解説しました。
前出のような課題解決を加速する鍵として近年注目が集まっているのがサステナブルなブルーファイナンスです。持続可能な海洋関連活動を支援する投融資を指し、水産業の構造転換を促す重要な手段として注目されています。
サステナブルなブルーファイナンスにおいて金融機関の主な役割は以下の通りです:
● 水産セクターポリシーの策定(投融資基準の明確化)
● サステナブルな金融商品の提供
● 投資先企業へのエンゲージメント
実際に、国内外の金融機関では、IUU漁業や破壊的漁法への投融資禁止、認証取得企業への優遇といったポリシー導入が進んでいます。
さらに、水産関連投融資に占めるセクターポリシー導入銀行の割合は増加しており、金融の影響力は拡大しています。また、トレーサビリティ向上への投資は、売上の1%程度で利益を60%向上する可能性*も示されており、ビジネス機会としての側面も強いことを紹介しました。

WWF海洋水産グループ武田によるサステナブルなブルーファイナンス関連の取組紹介
株式会社ニッスイの取組
株式会社ニッスイ・サステナビリティ推進部の西昭彦氏は、「自然関連課題への取り組み―情報開示を起点としたサステナブルファイナンスへの接続―」と題し、同社のサステナビリティ経営と情報開示の実践、さらにそのファイナンスへの波及について紹介しました。
株式会社ニッスイは長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」のもと、人と地球にやさしい食を提供する企業を目指し、4つのマテリアリティを軸に企業価値向上を図っています。全社横断のサステナビリティ委員会が経営を主導し、「環境価値・社会価値・人財価値」の3つの創出価値をKPIとして設定、具体的な目標管理を行っています。
情報開示を起点とした取り組みとして、昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット15を意識し、事業活動が自然に与える影響や依存度の可視化と開示を推進するプロセスが紹介されました。2023年にはTNFDレポートを公表する中で、ステークホルダーとの対話を強化しました。投資家説明会の実施により透明性を高めた結果、金融機関との対話が深化し、ネイチャー・インパクトファイナンスの実現にもつながったといいます。さらに、評価や提言を次回開示へ反映する循環を構築しました。
最新のTNFDレポートでは養殖事業を重点領域とし、LEAPアプローチに基づく分析で重要地域を特定しています。経営戦略と自然関連情報開示を連動させることで、養殖やファインケミカル分野の成長、特に南米・国内でのサーモン養殖拡大を実現したそうです。加えて、2026年には初めてブルー・ネイチャーボンドを発行し、持続可能な養殖事業への資金循環を加速させています。

株式会社ニッスイの西氏による当社ブルーファイナンス関連の取組紹介
総括
最後に全体のまとめとして以下のポイントで締めくくられました。
- 直接漁獲を行う漁業・養殖企業のみならず、水産業は日本の経済の根幹の一部を成し、サプライチェーン全体を脅かしている海洋環境リスクはそれらの企業へ投融資している金融機関への複合リスクとなっています。
- 水産企業による情報開示および財務インパクトの明示、金融機関による水産セクターポリシー・ファイナンスツール・エンゲージメントが水産サプライチェーンにおけるリスク低減、ひいてはサステナビリティ向上の加速につながることが期待されています。
- 水産サプライチェーンとしてサステナブルなブルーファイナンスを理解し、業界全体を俯瞰しどこにどのようなサステナブルファイナンスの機会があり、また、投融資を慎重に判断する事項をふまえ何を改善すべきなのか把握することにより、水産サプライチェーンや金融機関も含むマルチステークホルダーにとって中長期的な機会創出につながります。
各種ステークホルダーの協力のもと、サステナブルなブルーファイナンスを水産業界として実践していくことは海洋環境の未来に投資することだと再認識しました。
窓口:
WWF海洋水産グループ
fish@wwf.or.jp



