「Above Board: 銀行の水産セクターポリシーの評価2024」和訳版発行

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WWFは2022年から、世界の銀行40行(うち邦銀は9行)が水産業に関してどのような方針を持ち、どれだけ透明性を確保しているかを毎年調査しています。今回公開した2024年版レポートでは、19行(約48%)が、2023年に比べ何らかの改善を示しました。一方で、34の評価指標に対する達成度には依然ばらつきが見られ、先進的な銀行と大きな進捗が見られない銀行との差がさらに広がっている様子が見られました。銀行が水産セクターに対する方針とリスク管理をさらに強化すれば、金融業界全体の方向性をより持続可能な成果へと大きく転換する力を持っています。今回初の試みとして、WWFジャパン独自で邦銀9行の分析も行ったところ、着実な成長がみられるものの、銀行間の得点差が開いている様子も見られました。
目次

「Above Board: 銀行の水産セクターポリシーの評価2024」とは

気候変動、海洋資源の枯渇、海洋汚染——これらの課題が深刻化する中、サステナブルなブルーファイナンスが脚光を浴びています。これは、海洋資源と生態系を持続可能に活用するブルーエコノミーの実現を支える金融活動であり、投融資などを通じて、海に関わる多様な産業の未来を支援するものです。

水産業、洋上風力発電、海運業、観光業など、対象となる分野は広範囲にわたり、ブルーエコノミーに関わる企業にとって、環境・社会面での責任ある行動が資金調達の鍵となりつつあります。日本の水産業は流通量の多さや歴史的な観点等から世界の海洋保全にとって重要な役割を持っています。WWFジャパンでは水産業・金融機関の皆様とともに海洋の健全性を取り戻す取り組みを続けています。

WWFは2022年から、世界の金融機関のサステナブルなブルーファイナンスの実践状況を可視化するため、各行が水産セクターにどのような方針を持ち、どれだけ透明性を確保しているかを毎年調査しています。そして2025年10月、2024年版の和訳レポート「Above Board: 銀行の水産セクターポリシーの評価2024」を発行しました。

対象は40の銀行で、うち邦銀は9行となっています。

2024年版の最新レポートでは、2023年との比較を通じて進捗状況を明らかにし、金融機関が今後取り組むべき課題や改善策を提言。セクター方針やデューディリジェンス、サステナブルファイナンス商品など、銀行が活用できるツールの実効性も分析しています。

「Above Board: 銀行の水産セクターポリシーの評価2024」和訳版



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銀行による水産セクター支援の進展と課題

2024年の評価では、銀行が水産セクター(水産業)における自然損失、気候変動、人権問題に関連するビジネスリスクに対して、一定の対応を進めていることが明らかになりました。特に、サステナブルファイナンスの枠組みを活用した支援が広がりつつあり、持続可能な水産業への移行に向けて、前向きな動きが見られました。しかしながら、全体としては依然として課題が残されています。

前向きな進展

今回の調査では、銀行が水産業における自然損失、気候変動、人権問題に関連するビジネスリスクの管理を継続的に進めていることが分かりました。

  • 改善を示した銀行数:評価対象のうち19行(48%)が、前年比の評価を改善。このうち、11行(28%)が軽度の改善を示し、8行(20%)が中程度の改善を示した。
  • 顧客への期待の明確化:5行(13%)が、水産業の顧客への期待に関連した改善を行なった。
  • 新たな情報開示と商品開発:6行(15%)が、持続可能な水産物を支援する水産物関連の適格性基準やブルーラベル商品について、新規または最新の情報を開示した。

地域別では、前年比での方針の進展はどの地域でも見られました。サステナブルファイナンスの枠組みや水産会社に関連するブルーラベル商品の強化に関する進展は、欧州の銀行が引き続きリードしているものの、アジアの銀行にも顕著な進展が見られました。

図:地域ごとの銀行による得点(2022-2024)
© WWF

図:地域ごとの銀行による得点(2022-2024)*箱ひげ図の「ひげ」の長さが長いほど最高点と最低点の差が大きいことを示す)

今回初の試みとして、邦銀9行に関して経年変化を分析したところ、2022年から2023年の変化に比べ、2023年から2024年は大幅な得点の伸びがあったことが分かりました。ただし、2024年には銀行間の得点差がさらに開き、邦銀の最高得点でも欧州の平均には届きませんでした。

図:邦銀による得点(2022-2024)
© WWF

図:邦銀による得点(2022-2024)

高まる水産セクター投融資方針の重要性

評価対象となった銀行のうち8 行が、水産業関連のセクターポリシーを2022 以降に更新または新たに発表しました。これらの銀行による企業向け融資、リボルビングクレジット、債券および株式発行の引受業務を分析した結果、2019 年から2025 年の間に、シーフード・スチュワードシップ・インデックス企業29 社に対して、約270 億米ドルの融資がコミットされていたことが判明しました。これは、わかっているだけでもこれらの企業に対する全融資額の約20%を占めています。

依然残る課題点も

今回の調査では、海洋リスクへの認識は進むも、ブルーエコノミーへの対応は依然限定的であることも明らかになりました。

  • 評価対象となった銀行の80%以上(33行)が、気候変動や自然・生物多様性の損失に関連するリスクを公に認識しており、前年の73%(29行)から着実に増加。環境リスクへの理解が金融業界全体で深まっていることを示す。
  • 一方で、こうしたリスクを海洋や水産業などのブルーエコノミーに具体的に結びつけている銀行は20行と全体の半数程度に留まった。
  • さらに、水産セクターに特化した投融資方針を持つ銀行は全体の33%にあたる13行(前年は12行)で、そのうち方針を公表しているのは28%にあたる11行(前年は10行)。

今後にむけたWWFの提言

銀行は、企業が自然資本を守り、回復するための活動に資金を投じるよう促すことで、環境に配慮した社会への移行を後押しできる重要な立場にあります。今回の報告書では、多くの銀行がこの分野で前進していることが示されていますが、依然課題が多くあることも分かりました。本調査においてWWFは2022年、2023年と同様に、銀行が以下を実施することが可能であり、また、実施すべきと提言しています。

  1. 海洋の健全性の重要性を認識する。
  2. 顧客への期待を、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)の持続可能なブルーエコノミー金融イニシアティブのベストプラクティス指針・推奨事項に準拠させた水産セクターポリシーを策定する。
  3. 水産関連の顧客ポートフォリオにおける自然損失、気候変動、人権問題に関連するビジネスリスクの潜在的なエクスポージャーを定期的に評価し、顧客に対する積極的なエンゲージメントを通じてこうした問題の改善を支援する。
  4. 既存のグリーンファイナンスの枠組みを活用してターゲットを絞ったブルーファイナンス商品を開発し、より持続可能な水産とネイチャーポジティブなブルーエコノミーへの移行を支援する。
  5. 金融規制当局や政策立案者と積極的に関わり、資本の流れと持続可能なブルーエコノミーの整合性をサポートする環境の実現を提唱する。
  6. UNEP FIのブルーエコノミー金融イニシアティブに参画し、持続可能なブルーエコノミーの実現に向けた金融の未来の形成を支援するコミュニティの一員になる。

WWFは今後も、本評価に参加した各銀行と対話を重ねながら、より持続可能な水産業への移行を支援していきます。銀行が貸し手としての責任、そして金融の未来を形づくるリーダーとしての立場を活かし、海洋の健全性と経済の安定を両立させる取り組みが、さらに広がっていくことを期待しています。

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