与那国島の生物多様性保全プロジェクト始動
2026/09/03
- この記事のポイント
- 沖縄県の与那国島は、日本最西端に位置し、固有種を含む多種多様な野生生物を育む豊かな自然が残されている地域です。しかし近年、開発や耕作放棄地の拡大により生息地は減少し、自然と共生する暮らしや文化の継承も課題となっています。WWFは2026年8月、与那国島の皆さんや生物の専門家と連携して、水田再生や保護区設置を目指すプロジェクトを開始しました。
固有種と絶滅危惧種の宝庫、与那国島
沖縄県の与那国島は、沖縄島から約509km、石垣島から約127kmの距離に位置する、日本最西端の国境の島です。

与那国町役場HPより https://www.town.yonaguni.okinawa.jp/
与那国島は、黒潮の入口にあたる豊かな海に囲まれ、琉球列島を形作った地殻変動の痕跡を示す地質が、独特の景観と豊かな水源を生み出しています。
その陸域には、鳥類や水生生物など固有の希少な野生生物が数多く生息しており、国際的にも重要な自然環境となっています。

与那国島にある国の名勝ティンダバナ(ティンダハナタ)。標高85mのサンゴの隆起及び浸食によって形成された崖で、琉球石灰岩層と八重山層群の間から豊かな地下水が湧出し、希少な淡水生物の生息地となっている。
これまでに与那国島で確認された鳥類は425種類以上にのぼります。2025年に実施された1年間の調査では248種類の鳥類が記録され、また2017年から2026年の10年間における冬季調査では160種類の鳥類が記録されています。(与那国島の自然と共に生きる会 松尾亮氏らによる調査報告)
その中には、ヨナグニカラスバト(絶滅危惧ⅠA類(CR)(沖縄県)、絶滅危惧ⅠB類(EN)(国)、国指定天然記念物、国内希少野生動植物種)、オオクイナ(絶滅危惧IB類(EN)沖縄県・国)、アカヒゲ(国指定天然記念物、国内希少野生動植物種、絶滅危惧Ⅱ類(VU)(国))、キンバト(下記)など絶滅のおそれの高い種も含まれています。

与那国島で撮影されたキンバト。絶滅危惧ⅠB類(EN)(沖縄県)、国指定天然記念物、国内希少野生動植物種。
また与那国島の陸水域には、淡水魚のヒョウモンドジョウや絶滅のおそれのある水生昆虫や貝類など、希少水生生物の生息が確認されています。

与那国島で生息が確認されたヒョウモンドジョウ。沖縄県指定希少野生動植物種、絶滅危惧IA類(沖縄県;ドジョウとして)

与那国島の固有種の水生昆虫ヨナグニダルマガムシ。準絶滅危惧(NT)(環境省)。

与那国島の固有種の巻貝ヨナグニカタヤマガイ。絶滅危惧ⅠA類(CR)(環境省)、絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)(沖縄県)

与那国島の固有種の巻貝ティンダハナタクリイロカワザンショウ。絶滅危惧ⅠA類 (CR)(国)、絶滅危惧Ⅰ類 (CR+EN)(沖縄県)
近年急速に失われた与那国島の豊かな水辺
しかし、この生物多様性が非常に豊かな与那国島の陸水域は、1960年以降、急速に失われてきました。
その主な原因は、開発による土地改変と、水田が耕作されなくなったことによる陸地化の進行です。
1960年代の与那国島の風景。豊かな湧水を活用し、水牛を使った稲作が島内各地で行われていた。当時の水田やため池などの水辺は、今は失われている。

環境省が「生物多様性の観点から重要度の高い湿地(重要湿地)」として選定した、与那国島の樽舞湿原。これを掘削する新港湾建設計画が浮上、その影響が懸念されている。
与那国島プロジェクトの開始~湿地の保全と再生を目指す
このような与那国島の状況を受け、WWFジャパンは、2025年9月、与那国島の自然と共に生きる会と共催で、「SDGsで考える~与那国島の価値と未来」を開催しました。
(参考)SDGs採択から10年~石垣島・与那国島セミナー開催報告(動画あり)(2026/06/23)
その後、与那国島の皆さんや関係先の方々と協議を重ねた結果、WWFジャパンは、2026年8月、危機に瀕する世界的に貴重な与那国島の生物多様性をまもるため、与那国島の自然と共に生きる会の皆さんと生物の専門家の方々と共に、以下の3つの活動を協働して実施するプロジェクトを開始しました。
活動1:耕作放棄地を水田に再生し、湿地生態系を回復する
活動2:絶滅危惧種の重要な生息地への保護区の設置を目指す
活動3:島の文化や伝統を支える生物多様性の価値を普及する
活動1では、島内で急速に拡大している耕作されなくなった水田跡地を、環境に配慮した水田へ再生する取り組みを進めます。
また生物多様性の再生指標として、水生生物の専門家の協力により、水生昆虫の回復種数をモニタリングする予定です。

与那国島で水田再生を目指す耕作放棄地2か所。
活動2では、与那国島の固有種や絶滅危惧種が集中して生息するエリアや、環境省「生物多様性の観点から重要度の高い湿地(重要湿地)」など、保全上重要な地区を対象に、鳥類や水生生物の専門家の協力のもと、生息調査を実施します。その調査結果を踏まえて、法令等に基づく保護区の設置を目指します。
活動3では、与那国島の生物多様性の価値について、それが支える地域の伝統的な祭りや食文化などを通じて、島内外の方々へ普及する活動も計画しています。
2030年の豊かな与那国島を目指して
SDGs(国連の持続可能な開発目標)と昆明モントリオール生物多様性枠組が目指すネイチャーポジティブ(自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させる)の各達成年となる2030年まで、残り4年となりました。
今回開始する与那国島プロジェクトは、世界的に最も減少が著しい淡水生態系を保全することにより、ネイチャーポジティブとSDGs(水資源、陸域・海域の自然資源の保全に関するNo. 6, 14, 15 Goals)の達成に貢献することが期待されます。
特に日本国内で急速に失われている淡水生態系である、水田を含む湿地の保全と回復という、全国的な環境課題へのチャレンジを、プロジェクトメンバーと協力して、進めていきます。
▼プロジェクト概要
| プロジェクト名 | 与那国島の生物多様性保全プロジェクト |
| フィールド | 与那国島(沖縄県与那国町) |
| 期間 | 2026年8月~2030年6月 |
| 実施メンバー | ・WWFジャパン(担当:野生生物グループ 小田倫子) ・与那国島の自然と共に生きる会 ・与那国町農業委員会 ・中島淳氏(水生生物担当、九州大学総合研究博物館協力研究員) ・松尾亮氏(鳥類担当、与那国島の自然と共に生きる会) |



