「インド・すり身漁業プロジェクト」が始動
2026/09/04
- この記事のポイント
- かまぼこやちくわ、魚肉ソーセージなどの原料となる「すり身」。この日本の魚食文化を支える水産加工品の原料の調達先として、インドの重要性が高まっています。一方、原料魚となるイトヨリダイやタチウオの漁業では、その持続可能性の確保が課題となっています。そこでWWFジャパンとWWFインドは、現地のすり身加工会社、現地からすり身を調達する株式会社ニッスイなどと共に、漁業改善プロジェクトを開始。日本の魚食文化にとって重要なすり身の持続可能性の確保に向けて取り組みます。
豊かな生態系と漁業を育むアラビア海
インド西海岸沖に広がるアラビア海は、モンスーン(季節風)による湧昇流の影響によってプランクトンが豊富に生産され、多様な海洋生物と重要な漁業資源を支える豊かな海域です。
アオウミガメ、タイマイ、アカウミガメ、ヒメウミガメなどのウミガメ類や、マッコウクジラ、ハシナガイルカ、バンドウイルカなどの海棲哺乳類をはじめ、さまざまな生きものが生息しています。
また、アラビア海は豊かな漁場でもあります。なかでもすり身の原料となるイトヨリダイ、タチウオ、エソ、ヒメジといった魚は、サメ類や大型魚類などの食物として海洋生態系の中でも重要な役割を担っているとともに、水産資源として沿岸地域の人々の暮らしも支えています。

アオウミガメ。アラビア海は、ウミガメ類や海棲哺乳類など、多様な海洋生物の生息地となっています。
すり身は、魚の身をすりつぶして加工したもので、かまぼこ、ちくわ、さつま揚げ、はんぺん、魚肉ソーセージなどの練り製品の原料となります。
日本では、良質なたんぱく源であるだけでなく、各地の郷土料理や正月などの年中行事に欠かせない食材としても食文化に根付いています。
日本で消費されるすり身製品の多くはスケトウダラを原料としていますが、そのほかイトヨリダイなどさまざまな魚も使われています。インドは、こうした魚の供給国として重要な国のひとつであり、日本の消費を支えています。
そのため、インドですり身原料となる魚の漁業の持続可能性を確保することは、日本の魚食文化を未来につないでいくことにもつながります。

2022年の当該年すり身・魚肉供給量。インドは全体の13%を占め、日本のすり身製品の消費にとって重要な国のひとつです。「水産物パワーデータブック 2023年版」をもとに作成。
すり身原料魚の漁業が抱える課題
インドでのすり身原料となる魚の漁業は、地域経済や沿岸地域の人々の暮らしを支える重要な産業ですが、持続可能性の観点から対応が求められる課題を抱えています。
原料として利用される、イトヨリダイ、タチウオ、エソ、ヒメジなどについては、資源状態を把握するためのデータや評価が必ずしも十分ではありません。
また、対象魚種の幼魚の漁獲や非対象魚種の混獲が発生しており、一部は廃棄される場合があります。こうした問題は、対象魚種の資源状態だけでなく、海洋生態系や生物多様性にも影響を及ぼすおそれがあります。
漁業管理の面では、州ごとに規制が導入されているものの、州を越えた協調的な管理の強化が求められます。
さらに、漁獲サイズ規制や禁漁期の改善、漁業による生息環境への影響の把握や、国際市場から求められる持続可能性やトレーサビリティへの対応も課題となっています。

インドの漁港で水揚げされたイトヨリダイ

インドの漁港で水揚げされたエソ
「インド・すり身漁業改善プロジェクト(FIP)」が目指すもの
こうした課題の解決に向けて、WWFジャパンとWWFインドは、日本とインドの関係者と共に、漁業改善プロジェクト(FIP: Fishery Improvement Project)の実施に向けた準備に着手。
当初、現地のすり身加工会社は、イトヨリダイを対象としてインド西海岸の2州でのプロジェクトの実施を計画していました。
そこに、現地からすり身を調達する株式会社ニッスイからの持続可能なすり身調達に向けた取り組みも加わり、対象となる魚種と州が拡大。
イトヨリダイのほか、タチウオ、エソ、ヒメジを対象として、インド西海岸沿岸域のグジャラート州、マハラシュトラ州、カルナータカ州、ゴア州、ケララ州での漁業改善プロジェクトを開始することになりました。
プロジェクトの開始にあたっては、現地側でMSC(海洋管理協議会)漁業認証規格にもとづき予備審査を行ない、持続可能性の観点から、現時点での課題を洗い出しました。
持続可能な水産物の証であるMSC漁業認証規格は、以下の3つの原則で構成されています。
1)資源の持続可能性
2)漁業が生態系に与える影響
3)漁業の管理システム
本プロジェクトでは、これらの原則に沿って、対象魚種の資源評価や漁業管理に加え、混獲や廃棄の削減、生息環境への影響の把握と低減、管理体制の強化、トレーサビリティの改善などに段階的に取り組んでいきます。
2031年6月までにMSC漁業認証規格が求める水準まで漁業を改善し、持続可能なすり身原料魚の漁業の実現を目指していきます。

すり身の原料魚を漁獲する漁船
持続可能な漁業に向けた調達企業と消費者の役割
持続可能な漁業への転換を進めるためには、現地の関係者だけでなく、水産物を調達・販売する企業の関与が欠かせません。
日本は世界有数のすり身製品の消費国であり、インドのすり身原料魚の漁業とも深く結びついています。
こうした中、本プロジェクトには株式会社ニッスイが参画しています。
インド産すり身を取り扱う企業がプロジェクトに関わり、サプライチェーンの立場から改善活動を後押しすることは、持続可能な漁業への転換を進めるうえで重要な役割を果たします。
また、持続可能な漁業の実現にはニッスイだけでなく、インドからすり身や原料魚を調達する他の日本企業の関与も重要です。
より多くの企業が関わり、責任ある調達方針の策定やサプライヤーとの対話を通じて改善を後押しすることで、プロジェクトの効果はさらに高まります。
さらに、日本の消費者も重要な役割を担っています。持続可能な漁業によって漁獲された水産物や練り製品を選びたいという消費者の声は、企業による責任ある調達や漁業改善への支援を後押しします。
日本の調達企業、そして消費者がそれぞれの立場から行動し、ともに改善を支えることが、持続可能な漁業と豊かな海を未来につなぐ力となります。



