【SBI-7報告】KM-GBF世界的な進捗の遅れ~COP17へ向け政治的リーダーシップの強化を
2026/08/19
- この記事のポイント
- ナイロビで開催された生物多様性条約の補助機関会合では、今年10月にアルメニアで開催されるCOP17に向け「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」のグローバルレビューの準備交渉が行われました。KM-GBF実施の世界的な遅れが明らかになる中、実施補助機関第7回会合(SBI-7)では、目標や行動の強化に向けた決定案が議論されましたが、その結果は、COPでの野心的な合意の土台としては物足りない内容でした。一方、交渉の外でも様々な取り組みの芽が膨らんでおり、COP17に向けて政治的リーダーシップが極めて重要な局面となっています。日本への示唆も含めて紹介します。
KM-GBF、初のグローバルレビューに向けた交渉
2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」をミッションに掲げた昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)の採択から4年余りが経過し、2026年10月にアルメニア・エレバンで開催されるCOP17では、初の「グローバルレビュー」が実施されます。
グローバルレビューは、KM-GBFの23のターゲットに対する世界全体の集団的進捗(collective progress)を評価し、その結果を今後の行動強化に活用するプロセスです。

2030年までに締約国が達成すべきこととして、23のターゲットが掲げられています(WWFジャパン作成)。
7月27日から8月12日にかけてケニアのナイロビで開催された生物多様性条約(CBD)の科学技術助言補助機関第28回会合(SBSTTA-28)と実施補助機関第7回会合(SBI-7)では、COP17で実施されるグローバルレビューに向けた決定案の交渉が行われました。
前半に開催されたSBSTTA-28では、KM-GBFの進捗状況をとりまとめた「グローバルレポート」の評価結果を決定案に反映するための議論が行われました。交渉では、解釈や立場の違いがある中でも、特に進捗の遅れが顕著なターゲットへの言及を含め、実施強化に向けた現状認識が反映されるなど、一定の成果が見られました。
【参考記事】【SBSTTA-28報告】KM-GBFの中間評価「グローバルレポート」と交渉の論点を解説
そして、後半のSBI-7では、 KM-GBF の実施を加速させるために各国や関係主体が取り組むべき追加的な「行動」に関する決定案が交渉の中心議題となりました。
KM-GBF実施加速のための「エレバン・パスウェイ」
今回の補助機関会合で交渉されたグローバルレビューの決定案(下書き)の文書では、グローバルレポートの評価結果を受けたKM-GBFの実施加速のための行動を「エレバン・パスウェイ」と題して整理しています。
このエレバン・パスウェイのもとで示される行動が、どれだけ具体的、実効的かつ野心的で、進捗の遅れにつながっているギャップや課題、障壁の優先度を踏まえたものとなるか。また、グローバルレビュー後の実施を各国の国内行動に委ねるだけでなく、集団的・協調的な取り組みを通じて、行動の加速やスケールアップ、資金動員につなげる要素を多く盛り込めるかが、交渉の焦点でした。
結果として、SBI-7では、各国の優先事項やキャパシティ、交渉スタンスの違いなどから、合意に至らない文言が数多く残り、決定案の多くがCOP17での交渉に委ねられることとなりました。

グローバルレビューのメカニズムは、集団的な進捗を評価するプロセスであり、各国の取り組みを評価したり、特定の追加行動を義務付けたりするものではありません。
また、このプロセスは、支援的(facilitative)、非介入的(non-intrusive)かつ非懲罰的(non-punitive)な性格のものとして位置づけられており、各国の主権や政策の裁量を尊重し、特に、途上国に過度の負担を課さないことが原則とされています。
このため、目標の強化や追加的な行動に関する合意には、各国の政治的意思が不可欠です。同時に、資金、能力構築、技術移転などの実施手段をどのように確保するかが、合意形成の重要な論点となります。
SBI-7では、まさにこうした点が交渉上の課題となり、多くの合意がCOP17に持ち越されることとなりました。
一方で、会場ではCOP17のホスト国のアルメニアによるイニシアティブや首脳サミット等の開催計画なども発表され、グローバルレビューに向けて政治的気運がどこまで高められるかが注目されます。
また、9月7から9日には、グローバルレビューに関する「昆明対話」が予定されています。COP17、そしてその先の行動強化に向けて、各国がどこまで共通認識と協調姿勢を築けるかが焦点となります。

グローバルレビューと日本への示唆
KM-GBFの2030年目標達成に向けた行動強化は、COPを通じたグローバルレビューの公式なプロセスだけで実現されるものではありません。
むしろ、COP決定の外で進んでいる、様々な国際的イニシアティブや、国の政策、全社会的アプローチ(Whole-of-Society Approach)を通じた各国や地域での取り組みこそが、ネイチャーポジティブの実現に向けた行動の推進力となっています。
グローバルレビューは、そうした各種の取り組みを国際的な目標や方向性にアンカーし、あらゆるレベルで加速させる役割を担うと言えるでしょう。

今回の補助機関会合でも、COP17を見据えて様々な国際機関やNGO、イニシアティブによるイベントや対話が実施された。写真は、ターゲット18(生物多様性に有害な補助金の見直し)に関するイベント。
グローバルレビューを機に、日本ではどのような分野で取り組みの強化が求められるでしょうか。
日本では、KM-GBFの採択後、生物多様性国家戦略(NBSAP)が策定され、特に「ネイチャーポジティブ経済」や「30by30」の分野などで、民間セクターを巻き込んだ取り組みが進んでいます。
一方、グローバルレビューに向けて日本が提出した第7回国別報告書では、NBSAPの多くのターゲットで進捗が不十分であることが報告されており、グローバルレビューの結果を踏まえた国内政策や実施のさらなる強化が必要と考えられます。
とりわけ主要経済国である日本において重点的な対応が求められるのは、グローバルレポートでも特に進捗の遅れが示された、生物多様性の損失の要因となっている経済・財政システムの改革や、生物多様性への負の影響が大きなセクターの変革です。
KM-GBFのターゲット14(生物多様性の主流化)、ターゲット15(ビジネスの影響評価・開示)、ターゲット16(持続可能な消費)、ターゲット18(有害補助金の特定・見直し)、ターゲット19(資金の動員)などが該当します。
WWFジャパンでは、こうした視点から日本の国家戦略の強化を求めています。
【参考資料】
一方で、これらは、環境行政のみで実現できるものではありません。省庁間の連携・協力はもとより、経済・財政政策を含む政府全体での対応や民間セクターの変革を促す政策が必要であり、その実現には何よりも政治的リーダーシップが不可欠です。
WWFでは、グローバルレビューを契機とした取り組みの前進に向け、国際的なイニシアティブの推進や働きかけを続けるとともに、国内の政策提言を通じてKM-GBFの目標達成を後押ししていきます。




