© Cayetano Espinosa / WWF-Chile

南米チリ・パタゴニア地域の海洋保全 現場から制度づくりへ広がる成果(~2026年6月)

この記事のポイント
WWFジャパンは、皆さまのご支援のもと、2014年から南米チリ南部パタゴニア地域で海洋保全活動を進めてきました。希少種チリイルカの保全、海洋保護区の管理強化、サーモン(サケ)養殖業の持続可能性の向上など、10年以上にわたる取り組みは着実な成果を生み出しています。そして今、その成果は現場での活動にとどまらず、チリの海を守るための制度や政策づくりへとつながりつつあります。2026年6月までの進捗と成果、今後の展望についてご報告します。
目次

日本の消費ともつながる、チリ・パタゴニアの海

豊かな生物多様性を育む「命の海」

日本から見て地球の裏側に位置する南米チリは、距離は遠く離れていますが、日本の食と深く結びついています。

特に日本でも人気のシーフードであるサーモン(サケ)は、日本で消費されるその多くがチリから輸入されています。

その生産地である南部のパタゴニア地域は、世界でも有数の生物多様性の豊かな海域です。

この地域の大きな特徴の一つが、氷河の侵食によって形成されたフィヨルド。入り組んだ海岸線と大小の島々が連なる景観は、パタゴニアを象徴する自然環境であり、多くの生物にとって重要な生息地や繁殖の場所となっています。

ここには、マゼランペンギンやハイイロミズナギドリなどの海鳥、シロナガスクジラやチリイルカ、オタリア、ミナミウミカワウソなどの海棲哺乳類が生息しています。

また、冷水性サンゴの群集やさまざまな魚類、無脊椎動物も確認されており、多様な生きものが支え合いながら豊かな生態系がかたちづくられています。

ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)。夏になるとチリの海へやってきて小魚などを大量に捕食し、子育てに必要な体力をここで蓄えています。
© Shutterstock / Tomas Kotouc / WWF

ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)。夏になるとチリの海へやってきて小魚などを大量に捕食し、子育てに必要な体力をここで蓄えています。

マゼランペンギン(Spheniscus magellanicus)。体長70センチメートル程で、胸と首のあたりに二本の黒い帯があることが特徴です。豊かな海の恵みを糧に、チリを含む南米大陸南部の沿岸で繁殖しています。
© Cayetano Espinosa / WWF-Chile

マゼランペンギン(Spheniscus magellanicus)。体長70センチメートル程で、胸と首のあたりに二本の黒い帯があることが特徴です。豊かな海の恵みを糧に、チリを含む南米大陸南部の沿岸で繁殖しています。

アシカの一種オタリア(Otaria byronia)。オスは大きさが2.1~2.6メートルで体重が300~350kg、メスは大きさが1.5~2.0メートルで体重が170kg程にまで成長します。
© WWF-Chile

アシカの一種オタリア(Otaria byronia)。オスは大きさが2.1~2.6メートルで体重が300~350kg、メスは大きさが1.5~2.0メートルで体重が170kg程にまで成長します。

ハイイロミズナギドリ(Ardenna grisea)。外洋性の海鳥で、世界の海に広く分布していますが、繁殖地は限られており、チリ南部はその重要な場所のひとつとなっています。
© WWF-Chile

ハイイロミズナギドリ(Ardenna grisea)。外洋性の海鳥で、世界の海に広く分布していますが、繁殖地は限られており、チリ南部はその重要な場所のひとつとなっています。

こうした生物多様性を支えているのが、南極から北上するフンボルト海流(ペルー海流)と、深い海から栄養豊富な海水が湧き上がる湧昇流(ゆうしょうりゅう)です。

これらによって大量の植物プランクトンが育ち、それを餌とする動物プランクトンや魚類、さらにそれらを捕食する海鳥や海棲哺乳類へとつながる食物連鎖が形成されています。

特にアンチョベータ(Engraulis ringens)などの小型浮魚(こがたうきうお)類は、この海に欠かせない存在。クジラやイルカ、海鳥など多くの生きものの食物として、豊かな海洋生態系を支える重要な役割を果たしています。

アンチョベータの群れ。ペルーカタクチイワシとも呼ばれ、南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、体長10cm程度の小型の魚です。
© WWF / JURGEN FREUND

アンチョベータの群れ。ペルーカタクチイワシとも呼ばれ、南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、体長10cm程度の小型の魚です。

サーモン養殖業と海洋保全の課題

この豊かなパタゴニア地域の海は、多くの海洋生物だけでなく、人々の暮らしや産業も支えています。

フィヨルド地形により形成された比較的穏やかな海域は、サーモン養殖に適しており、沿岸域には数多くの養殖場が設置されています。

現在、チリはノルウェーに次ぐ世界第2位のサーモン生産国となっています。

チリのサーモン養殖場。タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)やギンザケが養殖されています。チリには天然のサケは生息していないため、これらが養殖場から周辺の海域に逃げ出すと、外来生物問題を引き起こすことにもつながります。
© WWF-Chile

チリのサーモン養殖場。タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)やギンザケが養殖されています。チリには天然のサケは生息していないため、これらが養殖場から周辺の海域に逃げ出すと、外来生物問題を引き起こすことにもつながります。

養殖場の生けす内を泳ぐサーモン
© WWF-Chile

養殖場の生けす内を泳ぐサーモン

サーモン養殖の拡大は、地域経済や雇用に大きく貢献している一方、水質の汚染や、養殖魚の食害による野生生物と人の軋轢(あつれき)、施設から逃げたサーモンが外来種となり及ぼす生態系への影響、企業と地域や先住民コミュニティとの摩擦など、環境面、社会面でさまざまな問題にもかかわっていることが指摘されています。

また、サーモン養殖では、アンチョベータなどの小型浮魚類が餌の原料として利用されています。そのため、こうした餌魚を対象とした漁業による資源量や海洋生態系への影響についても懸念されています。

そして、これらは決してチリだけの問題ではありません。

日本で消費されるサケ・マス類の多くは海外から輸入されたものですが、中でもチリは最大の供給国となっています。

日本に輸入されるサケ・マス類のおよそ6割がチリ産であり、日常的に食べられているサーモンの多くが、このパタゴニア地域の海で養殖されているのです。

豊かな恵みを受けている日本も、この海の未来に対する責任を共有しています。

日本のサケ・マス類の供給と輸入の内訳(2022年)。2022年の供給量333,010トンのうち74%が輸入で、そのうち59.5%がチリ産です。出典:「水産物パワーデータブック2023年版」をもとに作成

日本のサケ・マス類の供給と輸入の内訳(2022年)。2022年の供給量333,010トンのうち74%が輸入で、そのうち59.5%がチリ産です。出典:「水産物パワーデータブック2023年版」をもとに作成

こうした問題を解決するため、WWFジャパンはWWFチリと協力し、2014年から共同でプロジェクトを開始。

日本の食を支えるチリ・パタゴニア地域の豊かな海を未来へ引き継ぐため、生産地と消費地の双方から持続可能な海の実現に向けて、以下の3つの活動を推進してきました。

  1. 野生生物の生態調査と保全
  2. 海洋保護区の管理の強化
  3. 自然環境や地域社会に配慮したサーモン養殖業への転換

こうした取り組みの実現には、野生生物の保全と人々の暮らしや産業との調和が欠かせません。

そしてそのためには、生産地であるチリだけでなく、消費地である日本の企業や消費者の行動も重要です。

そのため、WWFジャパンは日本のサポーターのご支援のもと、現地での保全活動への支援と、日本での責任あるサーモンの調達・消費の促進を通じて、この海と、そこにすむ生きものたちを守る取り組みを行なってきました。

1. 野生生物の生態調査と保全

チリイルカを守るために、その生態を解き明かす

チリ沿岸にのみ生息する固有種チリイルカは、この地域の豊かな海洋生態系を象徴する存在です。

しかし、生態に関する情報は長らく限られており、どこにどれくらい生息しているのか、どのような環境を好むのかさえ十分には分かっていませんでした。

チリイルカ(Cephalorhynchus eutropia)。別名ハラジロイルカともいいます。丸みを帯びた背びれが特徴で、体長は1.7メートル程です。
© Sonja Heinrich / WWF-Chile

チリイルカ(Cephalorhynchus eutropia)。別名ハラジロイルカともいいます。丸みを帯びた背びれが特徴で、体長は1.7メートル程です。

そのためWWFは、2016年から、野生生物の調査団体ヤクパチャと協力し、チロエ島とその周辺海域で本格的な調査を開始しました。

調査チームは海上からチリイルカの背びれを撮影して個体識別を行ない、複数地域での推定個体数の把握を実施。

また、生息地の環境条件についても詳しく調査した結果、チリイルカが波の影響を受けにくい入り江や湾の内部で、海岸に近い比較的浅い海域を好んで利用していることなどを明らかにしました。

調査を行なうヤクパチャのスタッフ。イルカの背びれは人間の指紋と同じように個体によって模様が異なっているため、個体数を推定するために背びれを両側からカメラで撮影し記録します。
© Sonja Heinrich / WWF-Chile

調査を行なうヤクパチャのスタッフ。イルカの背びれは人間の指紋と同じように個体によって模様が異なっているため、個体数を推定するために背びれを両側からカメラで撮影し記録します。

チロエ島とその周辺地域における地図と各重要地域でのチリイルカの推定個体数。赤色の部分が特に重要な生息域、橙色の部分が調査を通じて推定された重要な生息域。上から、カルブコ(Calbuco)、ケンチ(Quemchi)、カストロおよびダルアウェ(Castro y Dalcahue)、ケイレン(Queilen)、ケジョン(Quellón)、イニオ(Inío)。カストロおよびダルアウェとケジョンの推定個体数については、過去にヤクパチャが調査したもの。
© WWF-Chile

チロエ島とその周辺地域における地図と各重要地域でのチリイルカの推定個体数。赤色の部分が特に重要な生息域、橙色の部分が調査を通じて推定された重要な生息域。上から、カルブコ(Calbuco)、ケンチ(Quemchi)、カストロおよびダルアウェ(Castro y Dalcahue)、ケイレン(Queilen)、ケジョン(Quellón)、イニオ(Inío)。カストロおよびダルアウェとケジョンの推定個体数については、過去にヤクパチャが調査したもの。

こうした調査の結果、チリイルカにとって重要な生息地が明らかになり、効果的な保全対策の検討につながる情報が蓄積されました。

一方で、調査からはチリイルカの生息域と、人間活動の盛んな海域の重なりも特定されました。

また、沿岸漁業で使用される漁網による混獲や、サーモン養殖場に設置されたネットへの絡まりなど、チリイルカの生存を脅かす要因も確認されています。

チリイルカは、豊かな沿岸生態系の健全性を示す指標種でもあります。そのためこの種を守ることは、チリイルカだけでなく、パタゴニア地域の豊かな海洋生態系全体を守ることにもつながるのです。

チリイルカの科学的知見を保全へつなげる

WWFは科学的な調査を進める一方で、保全に向けた合意形成にも力を入れてきました。

政府機関、研究者、地域コミュニティ、漁業者、サーモン養殖企業など、多様な関係者とのワークショップや対話を重ね、保護の必要性を繰り返し伝えながら、それぞれの立場から見た課題や解決策について議論を続けてきました。

その大きな成果が、現在チリ政府によって策定が進められている、チリイルカの保全計画です。

WWFチリは、同国の環境省をはじめとした政府機関、研究者やNGOとともに、2022年からこの計画策定に向けたプロセスを主導。

2024年末には正式な策定手続きが開始され、その後、チリイルカの重要生息地に選定された地域で住民参加型ワークショップを実施。

さらに計画案のパブリックコメントも行なうなど、幅広い関係者の意見を取り入れながら、その内容を反映した保全計画の策定に貢献してきました。

計画には、生息地保全や脅威の軽減、モニタリングの強化など、具体的な行動が盛り込まれており、チリイルカの保全を長期的に進めていくための基盤となっています。

さらに、チリイルカの特徴や生態を学べる教育教材を作成し、チリの学校で活用できるかたちで公開したほか、チリ教育省との対話や普及啓発活動も推進。

保全計画の確立のみならず、地元地域で将来にわたってチリイルカを守るための社会的な基盤づくりも進めています。

学校教員を対象としたチリイルカに関する普及啓発・研修活動
© WWF-Chile

学校教員を対象としたチリイルカに関する普及啓発・研修活動

保全計画は2026年6月現在、チリ政府による最終審査段階にあり、承認されればチリイルカ保全に関する初の包括的な計画となる見込みです。

2016年の調査開始から約10年。WWFサポーターの皆さまのご支援によって積み重ねてきた科学的知見と関係者との協働が、いま国家レベルの保全政策として実を結ぼうとしています。

一方で、本当の挑戦は承認後に始まります。保全計画を地域ごとに実行し、その効果を長期的に検証しながら改善していくためには、継続的な調査やモニタリング、地域との協働が不可欠です。

これまで積み上げてきた成果を具体的な保全活動へとつなげ、パタゴニア地域の豊かな海洋生態系を未来へ引き継ぐため、今後も継続的な支援と取り組みが求められています。

2. 海洋保護区の管理の強化

設置だけでは終わらない保護区づくり

海洋保全を進めるうえで、生物多様性にとって重要な海域を保護区として指定することは欠かせない手段の一つです。

しかし、それだけで自然が守られるわけではありません。実効性のある管理が行なわれて初めて、生物多様性の保全と回復につながります。

チリではすでに排他的経済水域の40%以上が海洋保護区に指定されており、2030年までに陸域および内陸水域、海域および沿岸域の30%を適切に保全する国際目標「30by30」の面積目標を上回っています。

その一方で、管理体制や人材の不足などが課題となってきました。

そこでWWFチリは2015年から、南部パタゴニア地域にある「ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区」を対象に、管理強化のための取り組みを進めてきました。

この保護区は、地域コミュニティによる漁業や、サーモン養殖が行なわれていた地域で、保全と地域の暮らしの両立が重要なテーマとなっていました。

しかし当初は、地域コミュニティ、行政、企業の間で十分な対話が行なわれておらず、保護区の管理方針を共有することも容易ではありませんでした。

そこでWWFは長年にわたって関係構築と対話の場づくりを進め、地域コミュニティ、漁業者、サーモン養殖企業、行政機関が協力して管理を進める体制づくりを支援。

その結果、2020年には管理計画が正式に承認され、チリで初となる多様な関係者による協働型の海洋保護区の管理モデルが実現したのです。

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区周辺の地域コミュニティ「ラウル・マリン・バルマセーダ(Raúl Marín Balmaceda)」の方々と管理計画の策定に関わった関係者
© WWF-Chile

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区周辺の地域コミュニティ「ラウル・マリン・バルマセーダ(Raúl Marín Balmaceda)」の方々と管理計画の策定に関わった関係者

そして現在、この取り組みは新たな段階へ進んでいます。

保護区の管理計画は、地域コミュニティや漁業者、養殖企業、行政機関との協議を重ねながら改定に向けた作業が進められ、関係者による合意形成が完了。

この改定版の管理計画には、日本からの支援によって発展してきた地域コミュニティ主体のモニタリング体制が盛り込まれています。

地域コミュニティによるモニタリング活動
© WWF-Chile

地域コミュニティによるモニタリング活動

地域の人々が自ら海の状況を観察し、その情報を保護区の管理に活用する仕組みは、保全活動への地域コミュニティの参加を促し、管理の実効性向上にもつながることが期待されます。

現在はチリ政府の生物多様性・保護区庁(SBAP)による最終レビューの段階にあり、承認されれば改定版の管理計画が正式に運用される見込みです。

現場での成果をチリ全体へ広げる

こうした取り組みを通じた成果のひとつとして、WWFチリとチリ政府の間で、現在、協力協定の締結に向けた準備が進められています。

この協力協定は、生物多様性・保護区庁(SBAP)との包括的な協力関係の構築を目的としたもので、海洋保護区管理の基準や手法の普及、地域や先住民コミュニティが参加するモニタリングの推進、チリイルカ保全計画への協力、保全のための財政メカニズムの検討などが、主要な協力分野として位置づけられています。

これは、特定の海域に限られた個別の活動の話ではなく、これまでパタゴニア地域で蓄積してきた、WWFの海洋保全活動の経験や知見を、チリ全体に広げていくための重要な枠組みです。

さらにWWFチリは、SBAPなどと協力して、保護区だけでは守りきれない重要海域を保全するために、海洋保護区以外で生物多様性保全に貢献する地域を認定するOECM(Other Effective Area-based Conservation Measures)の制度づくりにも取り組んでいます。

漁業者が主体的に管理する漁場などを対象に、候補地の検討を進めるほか、こうした取り組みで得られた知見を共有するため、南米各国の政府機関との協力も進めています。

今後は、ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区で構築した優良管理モデルをチリ各地へ広げること、そして海洋保護区とOECMを組み合わせながら、より実効性の高い海洋保全を実現していくことが課題となります。

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区。この場所でつくられた協働型の管理モデルは、チリ各地への展開が進められています。
© WWF-Chile

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区。この場所でつくられた協働型の管理モデルは、チリ各地への展開が進められています。

そのためには、行政との連携だけでなく、地域コミュニティとの関係構築や人材育成など、地道で長期的な取り組みが欠かせません。

海域を実際に保全するためには、海洋保護区を指定し、拡大するだけでなく、それを地域のコミュニティと共に適切に管理・運営していくことが何よりも重要であり、これからの大きな挑戦となります。

3. 自然環境や地域社会に配慮したサーモン(サケ)養殖業への転換

チリのサーモン養殖業の課題と改善の取り組み

サーモン養殖業は、チリの地域経済を支える重要な産業であり、多くの雇用も生み出しています。

その一方で、餌の食べ残しや排泄物による水質汚染、養殖場での海棲哺乳類の致死事故、さらには抗生物質の多量の使用による薬剤耐性菌の発生への懸念など、対処すべき問題も抱えています。

また、サーモンは、本来チリには生息していない魚種。そのため、養殖場から逸出したサーモンが、パタゴニア地域の豊かな海洋生態系をかく乱するリスクも懸念されています。

さらに、養殖企業と先住民族や地域コミュニティとの間で、海域の利用などをめぐる対立が起きている場所もあり、環境面だけでなく、社会面からの改善も求められてきました。

WWFはこうした課題に対し、国際的な責任ある養殖認証であるASC(水産養殖管理協議会)認証の取得を推進してきました。

その結果、2014年にチリで初のASC認証養殖場が誕生し、それ以降も認証取得が拡大。

2022年にはASC認証養殖場による生産量がチリ全体のサーモン生産量の約30%を占めるまでになり、サーモン養殖の持続可能性向上に向けた取り組みが着実に広がってきました。

ASC認証ロゴを付けて日本で販売されているチリ産サーモン。持続可能性に配慮した調達や消費の選択は、生産地であるチリ・パタゴニア地域の海の保全と、サーモン養殖の持続可能性向上を後押しします。
© WWF-Japan

ASC認証ロゴを付けて日本で販売されているチリ産サーモン。持続可能性に配慮した調達や消費の選択は、生産地であるチリ・パタゴニア地域の海の保全と、サーモン養殖の持続可能性向上を後押しします。

しかし近年は、ASC認証の取得を通じて養殖場単位での改善を進めるだけでは対応しきれない課題も出てきています。

同じ湾や沿岸域に複数の養殖場が集中している場合、その水域全体としての累積的な環境影響を評価し、管理していく必要があるためです。

また、生物多様性の保全と、地域社会による海の利用をどう調和させるかも、大きな課題となっています。

こうした課題に対応するためには、養殖場単位の改善だけでなく、海域全体を視野に入れた管理や計画の実現が求められています。

持続可能な海の利用を実現するために

WWFチリでは、現在、サーモン養殖業をはじめ、漁業、保全、地域利用など多様な海の利用の調和を図るため、海洋空間計画(Marine Spatial Planning)の推進にも力を入れています。

海洋空間計画とは、海をどのように利用し保全するかを、関係者で話し合いながら定めていく取り組みです。

チリではその一環として、沿岸域のゾーニング(目的や管理方針に応じて海域を区分すること)を通じて、生態系への影響を最小化しながら海域利用を計画的に進める仕組みづくりが進められています。

WWFチリは、パタゴニア地域で得られた知見を活用し、海洋空間計画を進めるための制度や手法の検討にも参加しています。

また、近年の重要な政策課題であるサーモン養殖場の移転制度についても、政策提言を行なってきました。

チリ・パタゴニア地域のアイセン州で行なわれた、海洋空間計画の評価・モニタリング手法を検討する関係者会合
© WWF-Chile

チリ・パタゴニア地域のアイセン州で行なわれた、海洋空間計画の評価・モニタリング手法を検討する関係者会合

サーモン養殖業の改善は、単に生産方法を変えることだけではありません。海洋生態系全体の健全性と、地域社会の持続可能な発展を両立させることが求められています。

そして、その実現には生産国であるチリだけでなく、主要な消費国である日本の企業や消費者の役割も欠かせません。

責任ある調達を進める企業が増えることで、生産現場での改善が促されます。

また、消費者が持続可能性に配慮したサーモンを選び、そのような商品を求める声を販売店舗に届けることも、大きな後押しになります。

生産地と消費地の双方が行動してこそ、チリの豊かな海の保全と持続可能性に配慮したサーモン生産の両立が実現できるのです。

積み重ねてきた成果を、次のステージへ

2014年に開始した、南米チリ・パタゴニア地域の海洋保全プロジェクト。

10年以上にわたる継続的な取り組みにより、チリイルカの推定個体数や重要な生息域の特定、保全計画の策定、海洋保護区の優良管理モデルの構築、そしてサーモン養殖の持続可能性向上に向けた取り組みの拡大など、多くの成果が生まれました。

これまでの活動によって、チリ南部パタゴニア地域の海洋保全は確実に前進しています。

そして今、これらの成果は現場での活動にとどまらず、チリの海洋保全政策や管理制度づくりにもつながりつつあります。

チリイルカ保全計画の正式承認と実施、海洋保護区の管理基準の制度化、海洋空間計画の推進など、これまで積み上げてきた成果を社会の仕組みとして定着させるとともに、チリ全体へ広げていくことが今後の大きな課題です。

そのためには、長年かけて築いてきた地域コミュニティ、行政機関、研究者、サーモン養殖業をはじめとした産業関係者などとの協力関係をもとに、活動を継続していくことが欠かせません。

海の保全は短期間で成果が出るものではなく、継続的な調査、対話、そして現場での活動があって初めて実現できるものです。

サポーターの皆さまからのご支援によって、WWFはこの10年以上にわたって活動を継続することができ、チリのパタゴニア地域の豊かな海の保全を着実に進めることができました。

これからは、現場での取り組みを継続しながら、そこで得られた成果や経験をチリ全体の制度や政策の変化へとつなげていく段階に入ります。

チリイルカをはじめとする野生生物たちが暮らす豊かな海を未来へ受け継いでいくために。

引き続き、皆さまのご理解とご支援を、お願いいたします。

チリ・パタゴニア地域の海を泳ぐチリイルカ。こうした豊かな海を未来へ受け継ぐため、取り組みを続けていきます。
© Cayetano Espinosa / WWF-Chile

チリ・パタゴニア地域の海を泳ぐチリイルカ。こうした豊かな海を未来へ受け継ぐため、取り組みを続けていきます。

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