【SBSTTA-28報告】KM-GBFの中間評価「グローバルレポート」と交渉の論点を解説
2026/08/10
- この記事のポイント
- ケニアのナイロビで開催されている生物多様性条約の補助機関会合において、2026年10月の締約国会議(CBD-COP17)で実施される「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」のグローバルレビューに向けた交渉が本格化しています。前半に開催された科学技術助言補助機関第28回会合(SBSTTA-28)では、生物多様性を保全する世界の約束であるKM-GBF全体の進捗を評価した「グローバルレポート」の扱いが大きな焦点となりました。グローバルレポートは何を示しているのか、締約国はその結果をどう受け止めているのか、そして後半の実施補助機関第7回会合(SBI-7)にどのような示唆を与えるのか。現地で交渉を追うWWFスタッフが解説します。
KM-GBFのレビューメカニズムと初のグローバルレビュー
2030年までに世界の生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を目標に掲げた昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)の採択から4年余りが経過しました。
そして、2026年10月にアルメニア・エレバンで開催される生物多様性条約の締約国会議(CBD-COP17)では、初の「グローバルレビュー」が実施されます。
グローバルレビューは、KM-GBFの23のターゲットに対する世界全体の集団的進捗(collective progress)を評価し、その結果を今後の行動強化に活用するプロセスです。
この仕組みは、前身の国際目標だった「愛知目標」が、十分に達成されなかった反省を踏まえ、締約国全体の計画策定・実施状況をCBD-COPで定期的に点検・評価するために導入されました。
気候変動枠組条約において「パリ協定」の達成に向けた進捗を評価する「グローバルストックテイク」と似た仕組みであり、KM-GBF実施の中核メカニズムであるPMRR(Planning, Monitoring, Reporting and Review:計画・モニタリング・報告・レビューの仕組み)の重要な構成要素です。

KM-GBFのレビューメカニズム(COP15決定(Decision 15/6)およびCOP16決定(Decision16/32) をもとにWWFジャパン作成)
このPMRRの節目となるのが、KM-GBF実施の中間評価にあたる「グローバルレビュー」で、今回が初の実施となります。
その基礎として、各締約国が提出する生物多様性国家戦略(NBSAP)や第7回国別報告書などに基づき、23のターゲットの進捗状況を評価した「グローバルレポート」が作成されました。
2026年7月27日からケニアのナイロビで開催されている、科学技術助言補助機関第28回会合(SBSTTA-28)と実施補助機関第7回会合(SBI-7)では、COP17で実施されるグローバルレビューの決定案(下書き)が取りまとめられています。
【参考記事】生物多様性条約COP17に向けた重要交渉が始動、補助機関会合(SBSTTA-28・SBI-7)開幕へ
前半のSBSTTA-28では、グローバルレポートの評価結果を決定案に盛り込むための交渉が行なわれました。
一方、後半のSBI-7では、その結果を踏まえてどのような追加的な行動をとるのかについての交渉が始まっています。
ここでは、グローバルレポートが示す主な知見と、それをめぐるSBSTTA-28での主な交渉論点を紹介します。
グローバルレポートのキーメッセージと各ターゲットの進捗
グローバルレポートの主要な情報源は、第7回国別報告書です。各国には、国別目標に対する進捗状況に加え、KM-GBFの23のターゲットに関する共通指標の報告が求められました。
もっとも、グローバルレポートの作成期限までに国別報告書を提出したのは129か国にとどまり、各ターゲットの進捗を測る必須指標についても情報が不足している項目が多くありました。
こうした制約はあるものの、グローバルレポートは現時点における世界全体の進捗を示す最も包括的な分析となっています。
グローバルレポートでは、以下のとおり、ひとつの総括メッセージと6つのキーメッセージが提示されています。
関連リンク:生物多様性条約 議題3追加文書1(改訂版)/グローバルレポート案(外部サイトへ)
総括メッセージ(Overarching Message)
KM-GBFは、かつてない規模で世界的な関与を生み出し、23のすべてのターゲットにわたって行動やイノベーション、協働、学習を促してきた。しかし、世界全体の取り組みがより速いペースで進まなければ、2030年ターゲットおよびミッションの達成は困難とみられる。生物多様性の状態そのものの変化を検知するにはまだ十分な時間が経過していないものの、現在の進捗の遅れは、長期的なリスクとなり得る。なぜなら、2030年ターゲットとミッションの達成は、2050年ビジョンの実現に向けた基盤だからである。
キーメッセージ1:対象範囲と網羅性*
KM-GBFは強い政治的意思とコミットメントを獲得している。しかし、各国が設定した国別目標を総体としてみても、KM-GBFのグローバルターゲットとの間には、対象範囲や目標水準にギャップが存在する。政治的意思とコミットメントの一層の強化は、こうしたギャップの縮小につながる可能性がある。
キーメッセージ2:行動と実施
すべてのターゲットで実施は進められているものの、いずれかのグローバルターゲットについて、「達成に向けて順調に進捗している」と報告した締約国は半数に満たない。こうしたギャップは、各国の事情に応じつつ、生物多様性損失の根本要因への対応を中心に、優先順位を明確にした戦略的かつ迅速な行動を進めることで改善が期待される。
キーメッセージ3:実施手段
KM-GBF採択以降、国内外の公的資金、生物多様性に有益なインセンティブ、能力構築、技術移転、技術・科学協力の分野では一定の進展がみられる。一方で、民間資金の動員・把握や、生物多様性に有害な補助金を含むインセンティブの削減は遅れている。また、十分かつ適時な実施手段へのアクセスが、多くの締約国でKM-GBF全体の実施における障壁として報告されている。
キーメッセージ4:全政府的アプローチ
多くの締約国が環境ガバナンスの強化、生物多様性とその多様な価値の主流化の推進、政策の一貫性向上に向けた取組を報告している一方で、進捗は不均一で十分とはいえない。KM-GBFのターゲットは、経済開発計画をはじめ、食料システム、保健、インフラ、貿易、財政・金融政策など幅広い分野に関わる。そのため、KM-GBFの実施に当たっては、生物多様性の視点を政府全体の政策に統合し主流化することが、政策間のトレードオフや重複を抑え、国内資源のより効果的な配分につながることが示されている。
キーメッセージ5:全社会的アプローチ
KM-GBFの達成には、国の政府以外の多様な主体の参画が不可欠である。全社会的アプローチは、実施を強化するうえで効果的かつ包摂的で、効率的な手段となり得る。しかし、様々な主体の生物多様性への影響と依存関係、先住民族と地域社会、女性、若者などの参加や権利、資源ニーズ、さらにはこれらの主体が果たしている、あるいは果たし得る貢献は、十分に認識・評価・支援されておらず、計画、モニタリング及び報告にも一貫して反映されていない。
キーメッセージ6:データと知識
締約国は、伝統的知識を含むモニタリングや知識管理システムの強化に相当な努力を重ねてきた。しかし、データの入手・共有、指標の整備と運用、インフラ、技術的能力などには依然として大きな課題があり、意思決定に必要なデータ、情報、知識の不足につながっている。
*キーメッセージ1のヘッドラインについて、グローバルレポート案ではPolitical will and ambition(政治的意思と野心)とされていたが、SBSTTA-28の交渉を経てScope and coverage(対象範囲と網羅性)へ修正(CBD/SBSTTA/28/L.7) 総括メッセージが示すように、KM-GBFの採択以降、世界規模で2030年目標に向けた実践が進められてきました。
しかし、23のいずれのターゲットにおいても、達成に向けて順調に進んでいるとは言えない状況が明らかになっています。
グローバルレポートは、進捗の遅れを二つのギャップとして整理しています。
一つ目が、各国が掲げた現状の達成目標の内容と対象範囲では、KM-GBFの達成には不十分である、という「目標設定のギャップ」(キーメッセージ1)。
二つ目が、2030年目標に向けた生物多様性保全の取り組みが全体として遅れているという「実施のギャップ」(キーメッセージ2)です。
レポートでは、ターゲットごとに異なる進捗も示しています。特に、生物多様性損失の間接的な要因になっている社会・経済システムに関わるターゲットでの遅れが目立っています。

KM-GBFの各ターゲットに向けた集団的進捗(collective progress)のスコアカードにおける総合評価スコア(グローバルレポート案改定版(CBD/SBSTTA/28/2/Add.1/Rev.1)をもとにWWFジャパン作成)。総合評価スコアは、国内目標への進捗に関する締約国の自己評価(国内目標による各ターゲットのカバー状況を考慮)と、指標に基づく進捗評価をそれぞれ50%ずつ反映して算出されている。グローバルレポートの最終版はCOP17の前に公開される。
さらに、進捗を妨げる要因(barriers)として、資金、能力構築、技術・科学協力、技術へのアクセスと移転、知識共有といった実施手段の不足や提供の遅れ(キーメッセージ3)、政府内やセクター間の政策の整合性・連携の不足(キーメッセージ4)、権利保有者や生物多様性に大きな影響を与える主体を含むステークホルダーの参加の不足(キーメッセージ5)、データや知識の不足(キーメッセージ6)が指摘されています。
こうした障壁は、能力格差や技術的・財政的な制約を生み、特に途上国の実施を困難にしていると分析されています。
グローバルレビュー:SBSTTA-28交渉の論点とSBI-7への期待
SBSTTA-28では、COP17におけるグローバルレビューに関する決定案(議題3)のうち、グローバルレポートの評価結果をどのように捉えるかで、締約国の立場の違いが明らかになりました。
関連リンク:生物多様性条約のサイト(外部サイトへ)
議題3:CBD/SBSTTA/28/2/Rev.1
グローバルレポートのキーメッセージは、KM-GBFの実施状況や進捗の遅れ、実施上の課題を正面から受け止め、次の具体的な行動を検討するうえで重要な基盤となるものです。
しかし、一部の締約国は、これらのキーメッセージをグローバルレビューの決定案にそのまま引用することに慎重な姿勢を示しました。
この背景には、グローバルレポート自体が締約国間で交渉された文書ではないことに加え、その分析や解釈に対する異論がありました。
とりわけ途上国からは、資金、能力構築、技術移転・技術協力などの実施手段が不足していたために、国別報告書が提出できなかった国があり、その結果、途上国の実施状況がグローバルレポートに十分に反映されていないとの指摘がありました。
また、キーメッセージ1の「政治的コミットメントと野心」に関しては、不足しているのは政治的コミットメントではなく、実施手段であるとの主張が、途上国を中心に繰り返されました。

SBSTTA-28プレナリー(本会議)閉会の様子。
厳しい交渉の結果、キーメッセージ本文の引用は決定案から削除されましたが、各キーメッセージのタイトルは維持され(※キーメッセージ1は「対象範囲と網羅性」へ変更)、それに紐づくグローバルレポートの具体的な分析結果が決定案に多く盛り込まれました。
とりわけ、進捗の遅れや実施ギャップに関して具体的なターゲットへの言及を求める声が多くの締約国から上がり、最終的に合意に至ったことは、グローバルレビューを通じて実践的な取り組みの強化を進めようという前向きな姿勢が共有されていることを示す成果と言えます。
SBSTTA-28で採択された決定案は、続くSBI-7で交渉が始まったグローバルレビューの「行動」に関するCOP17決定案の土台となります。
SBI-7では、資金動員を含むより政治的な論点が交渉の中心となりますが、ここではKM-GBFの目標達成、すなわち世界の生物多様性の保全と回復の実現に向けて、どれだけ具体的かつ共通の行動の道筋に合意できるかが焦点となります。
WWFは現地で引き続き各締約国への働きかけを行ないながら、交渉の行方を追っていきます。



