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インタビュー連載 ~環境保全のヒトビト~ 魚を食べられる海の未来を守る

この記事のポイント
森や海の自然を守る。トラやゾウなどの絶滅しそうな野生動物を保護する。気候変動(地球温暖化)をくい止める… 言葉では見たり聞いたりすることがあっても、実際それに携わる人たちが何を考え、どのように動いているのか?は、なかなかイメージするのが難しいかもしれません。 この連載企画では、WWFジャパンのスタッフへのインタビューを通じて、何を感じ、悩み、何を大切にしながら、どのような活動に取り組んでいるのかを紹介します。 日本を、世界を舞台に環境保全に奔走するヒトビトの姿と、現場の活動の本当の姿に、ぜひ目を向けていただければと思います。

第6回は、WWFジャパン自然保護室海洋水産グループの植松周平。年々深刻化する海の環境問題を解決するための、持続可能な漁業の課題や実現に向けた取り組み、長年の環境保全への想い、未来のために変化を恐れないことについて聞きました。

スタッフ紹介

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WWFジャパン
自然保護室 海洋水産グループ
植松 周平


農学博士。東京大学大学院農学生命科学研究科において水域保全学に関する博士号を取得。その後、経営コンサルティング会社を経て、国際水産資源研究所(現 水産研究・教育機構)に入所。太平洋クロマグロの資源研究を行なう。2013年よりWWFジャパンに入局。マグロ、カツオ、サンマの国際水産資源の保全やIUU(違法・無報告・無規制)漁業対策に加え、業務改善等の社内コンサルタント業務にも従事。 趣味はもっぱら釣りやスキー。

シーフードの危機

――海洋の保全は、現代の環境問題の重要なテーマの一つですね。油やプラスチックによる汚染、沿岸域の開発、魚の乱獲、そしてIUU(違法、無報告、無規制)漁業など、課題も非常に多くあります。その中で今、植松さんはどのような活動に取り組んでいるのですか?

水産資源を持続可能にしつつ生態系を守っていくための、持続可能な漁業を推進するためのプロジェクトに携わっています。背景から説明すると、世界中で増え続ける人口を支えるために食料が必要ですが、魚をはじめとしたシーフードは、とても消費量が増えています。一方で、天然の水産資源は足りなくなってきていて、このまま水産資源を獲り続けると枯渇する状況になってきています。

――私たちの暮らしにもかかわる深刻な問題ですが、解決するためには何が必要なのでしょう?

はい、それは「持続可能な漁業」を確立することです。簡単に言えば、魚や貝などを獲り尽くさずに、自然の持つ生産力に配慮しながら漁業を続けていく、ということですね。

――魚は、日本人にとってなじみ深い食材ですが、日本の水産資源の消費はやはり多いのでしょうか?

そうですね、1991年までは日本が世界最大の漁業国でした。ただ、近年は魚がおいしくて良質なたんぱく質であり、しかも魚種によっては非常に安いということで、先進国だけでなく発展途上国でも多く食べられるようになってきました。例えば、マグロは日本人にとっては寿司や刺身のイメージがありますが、世界的にはツナ缶としてたくさん食べられている。そうした理由から非常に需要が高まっていて、それによって魚自体も減ってきてしまっています。

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持続可能な漁業を妨げる要因とは

――状況は深刻ですね。でも、魚は人が生きていく上で必要とするタンパク源ですから、簡単な解決は難しそうです。その中で、持続可能な漁業を推進するためにはどういった対策が必要なのでしょうか。

持続可能な漁業のためには、科学者が資源量を計算して利用(漁獲)可能な量の基準を作り、その基準を世界の国々が守ることが重要です。しかし、そうしたルールを無視して勝手に魚を獲ったり、獲り過ぎたり、獲ってはいけない魚を獲ることが、さまざまな海域で起きています。それがIUU( Illegal, Unreported and Unregulated)漁業、つまり「違法・無報告・無規制」 漁業です。私は、WWFの活動の中で、IUU漁業がなくなるような社会的な仕組みを作り、企業や消費者に対して、違法な水産物を区別して買わないように働きかけをしています。

――なるほど、獲る量、食べる量もそうですが、その「獲り方」にも大きな問題があるわけですね。IUU漁業が横行するようになった原因はなんですか?

魚の需要が国際的に高まっていることに加えて、世界的な人口増加にともない、食材として自国でも売れる、つまり魚をとればとるだけ売れるという状況になってきました。魚がたくさん獲れる漁場は、先進国周辺だけでなく途上国周辺にもあります。特に途上国周辺では、漁業がしっかり管理されていない国もたくさんあり、それもIUU漁業につながっている理由のひとつです。

また、日本のようなシーフードの消費大国側が「安くて上質な魚」を過度に求めることも、IUU漁業を助長させる原因となっています。回転寿司やたこやきチェーンを筆頭に、日本では質の良いシーフードが海外に比べて安く販売されています。それは消費者(マーケット)に「安くて美味しい魚が食べたい!」というニーズがあるからです。しかし、水産資源が減っている中、しかも質の良い魚を安く供給しつづけるのは、正規の漁業からすると現実的にかなり厳しい面があります。
一方、IUU漁業は安い魚を提供し、消費側(マーケット)のニーズを満たすことができますが、それらは違法で魚をとることや、人権侵害にあたる奴隷労働によって成り立っています。IUU漁業を根絶するためには、水産資源に対する消費国側の意識を変え、IUU漁業のニーズそのものをなくしていくことが重要です。

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持続可能な漁業のためにはトレーサビリティの担保が必須ですが、魚の流通経路は複雑です。漁業者や仲卸業者、物流業者や市場関係者など、流通過程にさまざまな人が関わっています。日本も含めて、多くの国ではそれらの取引が電子化されていないので、生産地や生産者を容易に辿ることができません。

IUU漁業をなくすためのはたらきかけ

――なかなか複雑な課題があると思いますが、植松さんはIUU漁業の課題に対してどういった活動をしているのですか?

まずは、国際的な取り組みとして、各国の政府に対し、しっかりした漁業管理を求める働きかけですね。ほとんどの魚は、海を広く回遊しています。そのため世界には、太平洋や大西洋などの海域ごとに、地域漁業を管理する国際機関があり、さまざまな国が話し合いながら管理していますが、そこでしっかりとした水産資源の管理を行なうよう働きかけ、ルールや目標を設定することが重要です。
次に、日本政府に対しては、IUU漁業による魚が日本に入ってこないよう輸入規制をかける法律の制定を求めています。EUやアメリカは既に実施しているので、類似の法律を作ってください、という働きかけですね。
さらに、企業に対しては、自分たちが取り扱う水産物に対して、トレーサビリティの担保、つまり「いつ、どこで、誰が、何を、どういう風に獲っているのか」が分かるようにしてください、という対話を行なっています。
もちろん、この問題の解決には、消費者の力も必要です。IUU漁業でとれた水産物は、海の自然を脅かすリスクがある。消費者がそうした水産物を自身の判断で買わない選択ができるように、情報の提供や働きかけもしています。

――さまざまなステークホルダーに幅広い働きかけをしているんですね。法律を変える働きかけというのは、具体的にどういったことをするんですか?

2022年12月に施行される「水産流通適正化法」の成立に、WWFとして関わってきました。これはIUU漁業による水産物の輸入や、国内での流通を防ぐために重要な法律で、具体的には、EUやアメリカの先行事例の知見を集めて、行政に働きかけたり、実際にウェビナーを開いて、海外の担当者と日本の担当者が意見交換する場を設けたりしています。また、一般の消費者にもこの問題をもっと知って頂き、解決を求める声を国に届けるために、オンラインで署名もよびかけています。

【署名】奴隷労働や乱獲された魚を私たちは食べている!?日本の市場からIUU漁業をなくすために、あなたの力を貸してください!

一方で、IUU漁業を撲滅するのも大事ですが、日本の水産業を成長させていきたい、という強い希望も持っています。私は大学からずっと水産に携わってきましたが、日本の水産業がどんどん衰退しているのがすごく悔しい。それを変えていきたい、という想いがあります。ですから、水産庁の職員とも一緒に、日本の水産業において、この法律が水産業の復興にどう役立つのか、という視点も入れながら、中身を一緒に考えているところです。

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漁業では、イルカや海鳥、ウミガメなどが誤って網にかかる「混獲」も生態系に影響を及ぼしているため、こうした問題にも対応が必要です。

「環境保全」は人と自然を両立して守ること

――植松さんが水産に携わるようになったきっかけやルーツはどこにあるのでしょうか。

もともと魚が好きでした。地元が静岡なんですが、子どもの時に田んぼで魚をとったり、釣りしたりするのが好きだったんです。高校生の時に田んぼが開発されて、昔遊んでいた場所がなくなったことが、とてもショックでした。また、高校時代はボート部で、練習の時に川でボートをこぐのですが、水がすごく汚くて…。生きものもどんどん減っている水環境を改善したい想いがありました。
一方で、私の父親は建設会社に勤めていて、ある意味、自然を改変していく側なんですね。田んぼがコンクリートで埋められるのは嫌だけど、父親が建設業に携わることで、高校生の自分が生活できている状態にジレンマを感じていました。人と自然が共生できるスマートな方法を知りたくて、水分野の環境保全について、大学で博士課程まで研究をつづけました。

――大学に入るときから環境保全に携わりたいと思っていたのですね。博士課程であれば、研究でも環境分野に携われると思いますが、なぜNGOを選んだのですか?

研究自体も好きですが、研究をした上で世の中を変えたい、という想いはずっとありました。当時、水域保全学という研究室に所属していたのですが、そこで先生にこのようなことを言われたのです。
「保護は生きものだけを守ればいいけど、保全は生きものを守りながら人間の生活も守ること。つまり自然と人間の関係がWinWinでないと、それは保全とは言えない。研究だけしていたら、保全は難しいよ。」
人間の経済活動も学んだ上で取り組んでいかないと、本当の環境保全は難しいんだ!と、ハッとさせられましたね。博士課程修了後は、経営コンサルタントとして人間の経済活動分野に携わった後、マグロの研究に携わる研究所に移りました。ちょうど太平洋クロマグロがかなり減ってきた時期だったので、マグロがどのくらいいるのか、今後どういう資源になるのか、というシミュレーションの研究をしていました。
それを基に、どうすればマグロを持続可能な形で利用できるのか、たくさんの提案を作ったのですが、国際会議ではなかなかその案が通らない。国際会議では、参加する各国がどうしても自国の国益を優先してしまうため、地球全体の見地からの提案は後回しにされてしまうからです。そのときにWWFのスタッフ募集がありました。WWFのことは大学時代から知っていたので、国境に捉われない立場から、科学者の意見を通していける世の中にしたいと思って、WWFにきました。

――実際にWWFにきてみてどうですか。

正直とても大変ですね、この仕事は。一般企業の仕事は、やった分だけ成果が「売り上げ」という目に見える形でわかる。一方、環境保全の仕事はやってもやってもなかなか成果は見えてきません。自分たちだけで変えられないことも多いので、さまざまな人たちを巻き込んで、それぞれのステークホルダーの心情を理解しつつ、環境保全を進めたい想いとバランスをとりながら進めていかないといけません。一筋縄ではいかないことが多いです。

――海洋以外のプロジェクトにも通じる、核心をつく話ですね。うまくいかない、成果が見えない。でもその中で、関わるステークホルダーの方たちと一緒に試行錯誤を繰り返すことが、環境保全活動の難しさであり面白さですね。

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――大変ななかでも印象に残っていることはありますか?

マグロ担当として前職の研究所に入ったときに、持続可能なマグロ資源の対策として、漁獲量に対して子供のマグロの漁獲量を半分にすべき、という提案をしていました。当時はその提案が通らなかったのですが、WWFに転職してから、さまざまなステークホルダーに掛け合って、説得しながら進めた結果、その提案が通ったのは嬉しかったですね。
また、近年、他のNGOや組織と一緒にIUU漁業に対する活動をおこなうプラットフォーム「IUU漁業フォーラム」を立ち上げ、共通の行動計画をたてて活動しているのですが、意見の異なる団体同士、うまく連携しながら、 WWF単独ではできなかった政策の実現など、新しい成果を出しています。

未来志向で一緒に変えていく

――活動が実を結ぶのはとてもうれしいことですよね。このあと、目指している未来像はありますか?

世界の海の保全につながる持続可能な漁業を日本が広め、けん引する存在になる。それに伴い、日本の漁業も復活している、そんな未来を目指しています。
日本は元々、水産資源にすごく恵まれた国で、近海には世界3大漁業場のひとつもあります。漁業の管理手法も昔から確立され、漁師さんの技術もあります。現在の漁業は必ずしも勢いがあるとはいえませんが、今ある課題を乗り越えていけば、必ず成長産業にできると確信しているので、そこを変えていきたいです。

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――最後に読者に伝えたいことはありますか。

今は大変でも変化を恐れず行動すれば、きっといい日本、そしていい地球になる未来は確実に待っていると信じています。そのためには変えていかないといけないこともたくさんある。この記事を読んでくれた方にも、例えば署名に参加するなど、できることがあります。持続可能な未来のために、たくさんの人と一緒に変化を起こして、希望をつないでいきたいと思います。

署名リンク
【署名】奴隷労働や乱獲された魚を私たちは食べている!?日本の市場からIUU漁業をなくすために、あなたの力を貸してください!
※署名完了後に寄付を促すページがでますが、寄付の可否に関わらず署名はできます。

【動画】その魚ヤバいやつかも!?エグすぎる方法で獲られた魚が普通にスーパーで売られてる件について

自然保護活動を支えるヒトになりませんか?

WWFジャパンでは環境問題に取り組むさまざまなスタッフの頑張りを支えてくれる、「サポーター」を募集しています。ご関心をお持ちいただけた方は、ぜひこちらの資料をご覧になってみてください。

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