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インタビュー連載 ~環境保全のヒトビト~ お金の流れを変えて自然を守る。

この記事のポイント
森や海の自然を守る。トラやゾウなどの絶滅しそうな野生動物を保護する。気候変動(地球温暖化)をくい止める… 言葉では見たり聞いたりすることがあっても、実際それに携わる人たちが何を考え、どのように動いているのか?は、なかなかイメージするのが難しいかもしれません。 この連載企画では、WWFジャパンのスタッフへのインタビューを通じて、何を感じ、悩み、何を大切にしながら、どのような活動に取り組んでいるのかを紹介します。 日本を、世界を舞台に環境保全に奔走するヒトビトの姿と、現場の活動の本当の姿に、ぜひ目を向けていただければと思います。

第5回は、WWFジャパン自然保護室金融グループの橋本務太(はしもと むたい)のインタビュー。金融と環境のつながりや、長年のフィールド活動への情熱、今後の抱負について聞きました。

スタッフ紹介

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WWFジャパン
自然保護室 金融グループ長
橋本 務太(はしもと むたい)


国際基督教大学卒業後、英国ノッティンガム大学で環境マネジメント修士課程修了。環境コンサルタント勤務等を経て、2004年にWWFジャパン入局。森林担当として、企業の森林資源調達における森林生態系・社会配慮の普及、海外森林プロジェクトの設計・管理、新規アクティビティ立ち上げなどを担当。2021年7月より金融グループ長。
好きなものはスペインとフラメンコ。

金融と環境のつながり

――橋本さんが所属する金融グループは2021年にできた新設のグループですが、どういう経緯で設立したのですか?

WWFは環境保全活動の一環として、企業に対して環境に配慮したビジネスへの変容を促す働きかけを行なっています。
ただ、当然ですが企業はWWFが働きかけたからといって必ずしも動くわけではありません。そこで取引先や消費者など、企業にとってのステークホルダーに代弁してもらうよう働きかけることがあるのですが、そのステークホルダーのなかでも、金融機関の影響力は大きいのではないかという認識がありました。
企業にとって、金融機関は資金を融通してくれる先。ここに「環境に配慮した事業をお願いします」と言われたら、企業も考えざるを得ない。
そんな金融機関に対して、WWFとして働きかけていくための窓口が必要だ、ということで、自然保護活動を横断的に支えるグループとして金融グループが設立されました。

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――具体的には金融グループはどのような活動をしているのですか?

金融グループの活動は大きく3つあります。メインの仕事は、環境保全活動を行っているWWFのチームと金融機関のあいだの架け橋となり、環境保全活動をサポートすることです。
その他として、自然関連情報開示タスクフォース(TNFD)を推進していくこと、および国内外のフィールドプロジェクトに対して、金融を通じて環境保全活動を後押ししていく活動があります。

――なるほど、主には環境保全活動をサポートしていく活動なのですね。金融グループの活動がはじまって1年くらいですが(2022年9月現在)、金融機関と対話するなかで何か気づいたことはありますか?

金融機関は意外とNGOの持つ情報に関心があるな、というのが率直な感想ですね。

――それはどういった理由から?

2つあると思います。まず、金融機関がWWFに求めている情報は当然環境に関することですが、そのなかでも特に現場の情報、もうひとつは企業の環境への取り組みや関連した制度などに関する情報ですね。
WWFはこれまで、企業に対して、環境に配慮したビジネスを促す働きかけをしてきたり、各種のイニシアティブや認証制度の立ち上げに関与してきた数十年という長い歴史があります。
一方、金融機関はこれまで、企業の環境取り組みを評価して投融資することを本格的にはしてこなかった。
それが近年、金融機関は環境への影響を考慮して投融資を行なうよう求める政策や世論の動きが、急速に広がってきました。分野としても、気候変動に限らず、自然関連の幅広い分野に対しても取り組みが求められるようになってきた。そこで、企業の環境取り組みに関する知見があるNGOに対して、関心が高まってきているのだと思います。

――金融機関もNGOとの対話を前向きに捉えているというわけですね。

実際、一部の金融機関は環境への取り組みに関してかなり詳しくなっていますね。気候変動分野での先行事例や、先ほど少し話したTNFD(自然関連情報開示タスクフォース)の影響もあるかもしれませんが、今後は必ず環境への取り組みについて幅広く関わることになると金融機関は認識していて、すごく準備していることを感じます。

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金融機関や事業会社を対象としたセミナーで講演

自然とビジネスの関わりを可視化する

――TNFDについて詳しく教えてください。

正式名称は自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)といいます。これは企業と自然環境の関わり、リスクや機会等について情報開示を促す枠組みです。各企業がビジネスと自然との関わりを一定のフォーマットで情報開示することで、その取り組みを投資家や金融機関が比較できることが期待されます。
実は炭素関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、つまり企業の脱炭素、気候変動関連の情報を開示するための枠組みは既に存在していて、日本の大手企業(東証プライム上場企業)はそれらを実質的には開示することが求められています。
こうした枠組みが炭素だけでなく、自然に対してもあれば、より情報開示が進んで、金融機関が企業の自然環境への関わり方を比較できる。自然にとってより良いビジネスに投資し、自然に悪影響のあるビジネスには投資を減らしていくような流れができれば、世の中のお金の流れは変わるだろう、という大きな計画です。

――画期的な試みではある一方、自然環境は数値で表せない部分も多く、一概に指標を作るといってもかなり難しい気がします。

そうですね、とても難しい取り組みです。ただ、TNFDは現在設計途中の段階ですが、企業のビジネスと自然との関わりについて、自社事業との関連で重要な場所や、自然環境への影響が大きいものから開示するなど、開示する情報の取捨選択を自ら考えさせるような設計になっています。
各社ごとに開示すべきと考える情報は違ってくるかもしれませんが、企業自身が悩みながら事業を見直すプロセスとしてTNFDは機能し得ると思います。そのためにはどのような枠組みを設計すべきなのか、2023年9月に予定されているTNFDVer.1.0の公開まで、まだまだ議論の余地があります。

――なるほど、どのような枠組みになるのか、今後に注目ですね。他にも、フィールドプロジェクトに金融面から後押ししていくとのことですが、具体的にはどういったことですか。

現在は、森林グループと共同でWWFインドネシアへの支援を開始しました。森林伐採の原因となる、パーム油や天然ゴムの事業に融資しているインドネシア現地の銀行に対して、持続可能な産品を支援する融資方針に変容させることで、森林破壊を止めるプロジェクトを支援しています。
例えば、パーム油の業界に融資する際には、持続可能なパーム油の国際認証であるRSPO認証を活用する、などです。
当然、日本の金融機関に対しても森林減少に繋がらない投融資を求めていますが、パーム油や天然ゴムなどの生産現場はインドネシアやマレーシア、メコン地域などの海外にあるので、現地の金融機関と日本の金融機関の双方に働きかけていくことが重要です。
今後はWWFジャパンのフィールドプロジェクトにも、金融の観点から活動をサポートしていく取り組みを考えていく予定です。

© Matthieu Paley

パーム油の原料であるアブラヤシの実がついた果房。パーム油は食品から洗剤に至るまで幅広く利用される世界で一番使用される植物油。東南アジアでは、パーム油の農園のために森林伐採の被害が深刻化している。

企業と森林保全の現場をつないだ15年

――橋本さんは、WWFへはどういった経緯で入局しましたか?

WWFへ入局したのは18年前の2004年ですね。
WWFに入る前はコンサルタント会社とNGOで働いていて、それぞれ企業のCSR報告に関連することや木質バイオマスエネルギーのことをやっていたのですが、当時、募集があったWWFの森林グループの仕事は、その両方の経験が活きそうなこともあって、面白そうだと思い応募しました。2004年に森林グループに入って15年以上は森林保全の仕事をやりました。

――15年はかなり長いですが、続けられた理由はなんだったのでしょう?

森の現場が無条件に好きでしたね。ただ変わっているかもしれないけど、自然林の保護区のような場所よりも林業をやっている森が好き(笑)。林業のサステナビリティを求めている、つまりビジネスの収益と環境保全の両立というチャレンジをしている現場や、そこにいる人たちと話す事が面白かったんだと思います。
加えて、私の仕事は、国内外の森の現場でのチャレンジを日本の企業に伝えて、企業の木材や紙の調達方針を変えることだったのですが、それもやりがいがありました。
企業の担当の方は具体的な話に関心を示されることが多いので、「現場にこういう問題があるから変えてほしい」と伝えると、意外と動いてくれる方たちがいました。
これまで多くの企業が公開する調達方針の策定に関わってきましたが、相手の担当者と一緒に、大企業の調達方針を作ったり変えていく体験は、自分が何かを変えるきっかけを作れている実感もあって、私はすごく好きだったんだと思います。
幸いというか、企業に対して何度も諦めずに話に行くことは、自分の性格的にあまり苦もなくできたので。最初は企業側も「またその話?!」と戸惑っていましたが、話しているうちに「それは大事なことだから、うちでもなんとかやってみましょう」と言ってくれるようなことも。そういうことが嬉しかったんでしょうね。

©WWFJapan

インドネシアのFSC認証林の調査にて

自分の持ち場を守るためにベストを尽くす

――18年間在籍してきた橋本さんからみて、WWFのいいところはどんなところですか?

個人的には環境保全の現場をもっている団体だというところですね。サポーターさんやWWF内の様々な部署に支えられているからこそですが、国内外の現場の仕事があるということは、一番の良さじゃないかなと思います。もちろん世界の全ての現場について知っているわけではないですが、相当多くの、重要な現場について生の情報をもっている。

© WWF Indonesia-Zulfahmi

インドネシア テッソニロの自然林と伐採地が隣接している様子

私自身、森林グループに所属していたときは、インドネシアのスマトラ島にある国立公園の森林保全はすごく情熱をかけて担当しました。私が関わり始めたときには、すでに森は伐採されて全体の4割くらいしか残っていませんでした。そこに通って、あの手この手でチームの人たちを励ましながらずっと手を尽くしてきたけど、いよいよ森林破壊が進み、深刻な状況になってきました。
そこで、インドネシア当局の許可も得た上で森林破壊の境界線上にパトロールを巡回させて、見張り小屋を建てたんです。リスクも承知の上で、植林を担当してくれていた仲間がそこに住んでくれたのですが、その場所はちょうど伐採されたところと森がまだ残っているところの境界にあって、その境界線を守る意味で建てました。その時点で一旦、森林伐採が止まった。その小屋を建てるには相当な困難がありましたが、建ったのを見たときには、やっとスタートに立ったというか、とても感動しましたね。
「一か所だけ森林破壊を止めても意味がない、根本的なルールから変えないと」という人もいますが、現場の森林破壊はそんな簡単には止まらない。
だから、少なくとも自分たちが責任を持った場所があるならば、なにはさておき守る。それが大前提で、その上でルールや仕組みのことにも働きかけるのが重要だと強く思っています。自分たちの持ち場を守るために、とにかくベストを尽くさなきゃ、というつもりで関わっていました。

©WWFJapan

森林破壊阻止のためにたてた見張り小屋

お金の流れを変えて、環境保全活動を前進させる

――これまでは森林の現場の環境保全に情熱を注いできた橋本さんですが、一転、フィールドの仕事ではない金融グループで活動するにあたり、自身としてはどういう想いでしたか?

森林グループの時に金融機関とのやり取りも多少あったので、具体的な対話の進め方が想像できたということもあります。
幸いにもこれまでたくさんの現場を見てきました。現地の肌感覚や課題感をもって金融機関と対話ができるので、森林グループでの経験は今の活動に活かされていると思いますね。
一方で企業に行動変容を求める活動が、本当に難しくて簡単じゃないということを体験してきた点も、すごく役に立っています。そう思うと貴重な経験をさせてもらって、今のポジションにたどりついたのかな。

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――今までの経験を活かせる準備が整ったのかもしれませんね。これからやってみたいことは? 

お金の流れを、より環境保全にとってポジティブな流れに変えていきたいです。
現在、金融機関に対して働きかけていることはどちらかというと、「環境に悪いことにお金を出さないでください」というメッセージが強い。
例えば、新規の石炭火力発電にお金をださないでください、とか。では何に融資したらいいの?と聞かれたときに「環境に悪影響のないもの」みたいな禅問答の返答みたいになってしまうことは良くない。悪いものに融資しないだけでなく、良いものに積極的に融資してください、というメッセージも出していきたいです。
例えば、良い例として適切な再生可能エネルギーなどがありますが、それ以外にもたくさんある。現場のフィールドプロジェクトに関わることで、より具体的に融資してほしいものを増やしていきたいです。
最終的には、お金の流れを、環境に悪影響のあるものを減少させるだけでなく、環境に良い影響があるものに集まってくる流れに変えていくことを目指していきたいです。

自然保護活動を支えるヒトになりませんか?

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