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南米ペルー アンチョベータ漁業での混獲管理の改善

この記事のポイント
世界最大の漁獲量をほこる南米ペルーのアンチョベータ。主に魚粉や魚油に加工され、養殖・畜産用の飼料の原料等として日本にも輸出されています。しかしペルーのアンチョベータ漁業では、漁獲対象外の野生生物を捕獲してしまう「混獲」が発生しており、持続可能性を考えるうえで対処すべき重要な課題となっています。WWFでは、漁業を行なう企業と共に、モニタリングや研修などを通じて混獲管理の改善に取り組んでいます。
目次

南米ペルーのアンチョベータ漁業

カタクチイワシ科の一種で、ペルーカタクチイワシとも呼ばれるアンチョベータは、世界で最も漁獲されている魚です。

アンチョベータ漁業は世界の天然漁業で最も規模が大きく、2020年に世界の海で漁獲された天然の魚類(Finfish)6,673万トンのうち、実に7%にあたる約490万トンをアンチョベータが占めています。その9割近くはペルーで漁獲されており、ペルー沖が世界最大のアンチョベータの産地となっています(※1)。

アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)の群れ。カタクチイワシ科の魚の一種で、南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、体長10cm程度の小型の魚です。
© Santiago Cabral/Silverback/Netflix

アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)の群れ。カタクチイワシ科の魚の一種で、南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、体長10cm程度の小型の魚です。

ペルーで漁獲されたアンチョベータは、主に粉末状の魚粉(フィッシュミール)に加工され、養殖・畜産用飼料や農業用肥料の原料として使われます。

また、加工の過程で分離された油分は魚油として、養殖用飼料の添加物やマーガリンの原料として使われるほか、近年ではサプリメントとしても注目を浴びています。

日本は魚粉や魚油の多くを海外から輸入していますが、魚粉輸入量の25%、魚油輸入量の50%近くをペルーが占め、最大の輸入相手国となっています。

ペルー産の魚粉や魚油の大部分はアンチョベータ由来であると考えられるため、缶詰や瓶詰などで直接食べることは多くないかもしれませんが、アンチョベータは日本人の食や健康を支える大事な魚の一つです。

2022年の日本の魚粉輸入量(魚の粉、ミール及びペレット)。財務省貿易統計をもとに作成。

2022年の日本の魚粉輸入量(魚の粉、ミール及びペレット)。財務省貿易統計をもとに作成。

2022年の日本の魚油輸入量(魚の油脂及びその分別物(肝油を除く))。財務省貿易統計をもとに作成。

2022年の日本の魚油輸入量(魚の油脂及びその分別物(肝油を除く))。財務省貿易統計をもとに作成。

※1: Food and Agricultural Organizaion (FAO). The State of World Fisheries and Aquaculture 2022.

アンチョベータ漁業における課題

日本にとっても重要なペルー産のアンチョベータは、2020年には440万トンの漁獲がありましたが、2023年は試験操業での未成魚の割合が多く、漁業管理に大きな影響が出ています。

これはエルニーニョ現象による海面水温の上昇などが原因と考えられており、こうした影響の予測が難しい気象現象に対応していくためにも漁業の持続可能性が重要となっています。

ペルーのアンチョベータ漁業では、漁期の解禁や禁漁の判断のほか、漁獲可能量の設定など、政府による資源管理が行なわれています。

実際に2023年は、通常年に2回設けられている漁期のうち第1漁期が、試験操業の結果にもとづき資源保護のために禁漁となりました。

漁業管理の強化は必要とされる一方、アンチョベータ漁業では、漁獲対象となるアンチョベータ以外の魚や野生生物を捕獲してしまう「混獲」が発生しており、その対処が課題となっています。

混獲は、野生生物の個体数の減少だけでなく、長期的には海洋生態系のバランスを崩しアンチョベータ資源にも影響を及ぼすことが懸念されるため、適切に管理を行なうことがアンチョベータ漁業の持続可能性にとって不可欠です。

WWFと企業の協働による混獲管理の改善

混獲のモニタリング

ペルーのアンチョベータ漁船では、魚群探知機を用いてアンチョベータを選択的に漁獲するなど、混獲を避けるための配慮がなされています。

しかし、漁を行なう際にアンチョベータを餌とするような野生生物が集まってくるため、混獲を完全に回避するのは難しいのが現状です。

そこでWWFペルーでは、持続可能なアンチョベータ漁業を目指し、アンチョベータ漁業を行なう企業と共に、混獲管理の改善に取り組んでいます。

アンチョベータ漁船
© WWF Japan

アンチョベータ漁船

管理を行なううえで重要となるのが、混獲の状況について把握することです。

そのためWWFペルーとアンチョベータ漁業を行なう企業は、2018年から漁船でのモニタリングを進めてきました。

これまでのモニタリングでは、海鳥の混獲が最も多く、次いでウミガメ類、エイ類、サメ類、イルカなどの海棲哺乳類を記録。

中でも、ペルーペリカンやグアナイウといった海鳥、絶滅危惧種にも指定されているアオウミガメなどが多く混獲されていることが分かりました。

ペルーペリカンとその上空を飛ぶズアオカモメ
© Yawar Films / WWF Perú

ペルーペリカンとその上空を飛ぶズアオカモメ

また、こうした実際の漁業現場でのモニタリングの結果を参考に、WWFペルーと漁業や野生生物の保全に関わる組織や団体が協力し、混獲された野生生物の適切な取り扱いに関するガイドブックを作成。

海鳥、ウミガメ、イルカ、サメを対象として、混獲が発生した際に、野生生物を安全に扱うための道具、適切な扱い方、扱う際の安全上の注意事項、また安全に海に帰す方法などをまとめました。

混獲された野生生物の適切な取り扱いに関するガイドブック
© WWF Perú

混獲された野生生物の適切な取り扱いに関するガイドブック

混獲された野生生物の適切な取り扱い

混獲の影響を抑えるためには、実際に対処する乗組員が適切な取り扱い方法を理解し、実践できることが欠かせません。

これは、野生生物の生存だけでなく、乗組員自身の安全を守るためにも重要です。

海鳥の羽や嘴が当たったり、エイの棘が刺さったりする例や、鋭い歯を持ったオタリア(南米に生息するアシカの一種)など大型の海洋哺乳類と接触し、怪我につながってしまうことがあるからです。

そのためWWFペルーと企業の協働のもと、ガイドブックも活用し、乗組員が知識や技能を習得できるような研修を行なっており、実際の漁業現場でもその内容が活かされています。

エイをすくい網で捕まえる乗組員。主に海鳥やエイなどが混獲された際に安全に捕獲し海に帰すためにすくい網が用いられます。
© SIMAR, Programa de sostenibilidad de CFG-Copeinca

エイをすくい網で捕まえる乗組員。主に海鳥やエイなどが混獲された際に安全に捕獲し海に帰すためにすくい網が用いられます。

ウミガメを板に乗せて海に帰す乗組員。ウミガメが板を使って滑り降りることで安全に海に帰れるようにしています。
© P. Diamante

ウミガメを板に乗せて海に帰す乗組員。ウミガメが板を使って滑り降りることで安全に海に帰れるようにしています。

乗組員の安全を確保するための防護盾。オタリアなどの大型の海洋哺乳類が混獲された際に接触し怪我につながることを防ぐために用いられます。
© WWF Japan

乗組員の安全を確保するための防護盾。オタリアなどの大型の海洋哺乳類が混獲された際に接触し怪我につながることを防ぐために用いられます。

日本企業に求められる責任

実際の漁業現場で行なわれているこうした混獲管理の改善の取り組みは、ペルーのアンチョベータ漁業の持続可能性や、ペルーの豊かな海洋生態系の保全にとって不可欠です。

これらの取り組みをより一層強化し拡大させていくためには、漁業を行なう企業や乗組員だけでなく、サプライチェーン全体での協力や支援が必要となります。

日本が輸入する魚粉や魚油の多くはペルー産のアンチョベータ由来です。

そのため、これらの調達や販売に関わる日本企業はもちろん、養殖業者のような魚粉・魚油からつくられた製品のユーザーも、混獲管理の改善を含む持続可能なアンチョベータ漁業に向けた対話と、それに必要な協力や支援を積極的に行なうことが求められています。

また近年は、養殖魚のような最終製品を取り扱う小売企業も、飼料原料の持続可能性を担保することが重要であるとの指摘も高まりつつあります。

ペルーでの持続可能なアンチョベータ漁業、ひいては人間の食の持続可能性や健康に向けて、サプライチェーンの関係者が一体となって取り組んでいくことが求められます。

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